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第百五十四話 秘密の計画




 ヴィンがレオの臣下となったことで、俺はいろいろと余裕ができた。

 ヴィンは軍師となって早々に、今回の騒動を裏で操っていたのは自分だったという噂を流した。

 レオに軍師がついたという情報と、その軍師がレオの弱点を埋められるという情報。その二つをそれで伝えたのだ。

 今まで俺が担っていたレオの評判調整という部分をヴィンが引き受けてくれた。

 俺の場合は、自分を下げることでレオの評判を上げていたが、ヴィンならそういう手間をかけなくてもいい。適任といえるだろう。

 そして俺はそれでできた余裕を使って、冒険者ギルドについて探りを入れていた。

 まぁ探りを入れたのはセバスなんだが。

 その中で掴んだ情報で気になる人物が帝都にいることを知ったため、俺はシルバーとしてその人物の下に転移していた。


「おお!? いきなり現れるな……びっくりするだろ?」


 その人物は優雅に紅茶を飲んでいたところで、俺が転移で現れても紅茶をこぼすようなこともせず、自然と近くの剣に手を伸ばしていた。

 しかし、俺だと気づくと呆れたようにため息を吐いた。

 ため息を吐きたいのはこっちのほうだ。


「いきなり現れて欲しくないなら、俺に秘密でコソコソと動くのはやめることだ」

「さすがに耳が早いな。帝国と共同で秘密裏に動いていたはずなんだが?」

「帝都は俺の庭なのでな」


 俺がそう言うと部屋にいた人物、冒険者ギルド本部の副ギルド長のクライド・シャウアー。

 黒髪に青い瞳を持つナイスミドル。ギルドの上層部の一員であり、もともとはS級冒険者でもあった猛者だ。

 そんな大物が秘密裏に帝都に入っているというだけでただ事じゃないし、その情報がシルバーに来ないというのもただ事じゃない。


「さて……話してもらおうか?」

「どうせだいたい掴んでるんだろ? そうじゃなきゃ俺の場所に来るわけがない」

「それでも話せ」


 俺の追求にクライドは肩をすくめると飲んでいた紅茶を飲み干し、そのまま立ち上がる。

 そして部屋の隅へと向かう。

 そこには大陸の地図が飾られていた。


「皇帝の即位二十五周年が近づいているのは知っているな?」

「ああ、諸外国から来賓を招待するというのも知っている」

「それなら話は早い。諸外国から来賓が来るということは、その安全なルートを確保する必要があるということだ」


 そう言ってクライドは持っていた鞘に入った剣で帝国の国境をぐるりとなぞる。

 大陸中央に存在する帝国の国境は広い。

 もちろんそこには帝国軍が存在し、強固な防衛線を敷いているわけだが、彼らはあくまで対人が専門だ。モンスターは専門外といえる。


「帝国と協力して帝国国境付近のモンスターを討伐するつもりか?」

「冒険者ギルドは中立の組織だ。一国の行事のために優先的に動くことはない……だが、帝国の全面バックアップでモンスターを討伐できるという環境が魅力的なのも事実だ」

「それで秘密裏に動いていたのか?」

「それもある。だがそれだけじゃない。お前さんが介入した帝国東部の事件を覚えているか?」

「もちろんだ。吸血鬼の兄弟が暴れた事件だな」

「そうだ。問題なのはあいつらが使ったハーメルンという笛だ。これは極秘事項だが、あれは冒険者ギルドの本部が預かった」

「さすがに帝国には預けてられないか」


 モンスターを呼ぶ魔笛。

 それを利用したのは吸血鬼の兄弟だが、その兄弟と帝国の皇子は繋がっていた。まっとうな神経を持つ人間ならそんな凶悪な代物を帝国には預けておけないだろう。

 正しい判断だ。


「そのハーメルンを文献で調査していて発覚したことだが……ハーメルンはモンスターを呼び寄せるだけでなく、活性化させる効果があることもわかった」

「活性化?」

「休眠状態のモンスターも呼び覚ますってことだ。そして休眠状態のモンスターは外部の変化に敏感だ。東部周辺の強力な休眠モンスターが起きたことで、帝国周辺の休眠モンスターがどんどん活動期に移行し始めている」

「そんな情報はもらってないが?」


 モンスターというのは効率的な生き物ではない。

 竜を筆頭にその巨大な体を維持するために、休眠という方法をとるモンスターは少なくはない。そしてそういうモンスターはだいたい強力なモンスターだ。

 その休眠モンスターが動き出しているというのに、帝国唯一のSS級冒険者である俺に情報が入っていないのはおかしな話だ。


「意図的に帝国の冒険者には伏せている」

「……その意図は?」

「そう怖い声を出すな。SS級冒険者ばかりが活躍するのを気に食わん者は多いんだ。帝国の冒険者の質はそこまで高くない。ランクが高いモンスターが出現したとなれば、まず間違いなくお前さんが動く。それを避けたいということだ」

「冒険者ギルド本部の派閥争いか……くだらんな」

「そう言ってくれるな。一人が突出して活躍するのを避けるのは組織として当然だ。ここでお前さんがすべてを討伐してしまったら、シルバーのためにSSS級冒険者なんてもんを設置する羽目になるかもしれない」

「興味はない」

「知っているさ。そう説明もした。だが、冒険者ギルドの上層部ではシルバーが力をつけすぎて管理できなくなるのを嫌がる者も増えた。ただでさえ、SS級冒険者は問題児ばかりだからな。比較的おとなしいお前さんまで扱いづらくなったら困るというのは理解できる」


 クライドはそう言うと可笑しそうに笑う。

 こっちはまったく笑えんが。

 ほかの問題児のせいで俺まで問題児の枠で括られるのは心外だし、手柄を立てれば増長すると思われているのも腹立たしい。

 なにより。


「冒険者は民を守るためにある。俺を使って早期解決するのがギルドのあるべき姿ではないか?」

「まったくだ。耳が痛いよ。まぁ手を打ってないわけじゃない。お前さんに頼らないかわりに複数のS級冒険者および、そのS級冒険者が所属するパーティーが帝国に入っている。冒険者ギルドの上層部は新たなSS級冒険者が現れてくれるのを期待しているのさ」

「それで討伐できるなら構わないが、あんたから見て討伐できそうなのか?」

「難しいだろうな。だから帝国の力を借りる。幸い、帝国には勇爵家がいるからな」

「あの女勇者を使うということか……まぁ実力的に問題はないだろうが、彼女が出るほどのモンスターがいるのか?」

「確実なのは一体。今はとある方法で活動を制限しているが……それを施した人物によれば長くは持たんそうだ」


 クライドはそういうと歩いて椅子まで戻り、新たに紅茶を淹れ始める。

 もう話は終わりといわんばかりの態度だ。


「俺を加えることはできないのか?」

「できるならやってる。お前に依頼が行くことはない。そういう条件で帝国と冒険者ギルドは協力しているからな」

「そうか……じゃあ最後の質問だ。聖剣を使う勇者が必要なほどのモンスター。それを制限できるような人物とは誰のことだ?」


 エルナが必要となるモンスターということは単純にS級以上のモンスターだ。

 その動きを制限するというのは非常に難しい。俺でも結界で封じるとなれば相当な労力を持っていかれるし、一日持つかどうかくらいだろう。

 そんな俺の疑問にクライドはしばし悩む。

 言うべきか迷っているんだろう。


「言わないなら勝手に調べるが?」

「わかったわかった。勝手に動くのはやめろ。お前が勝手をすれば俺が怒られる」


 そう言ってクライドは紅茶を一口飲んだあと、盛大にため息を吐く。

 そして意外な国の名を口にした。


「極東にある半島国家。小国でありながら結界に守られ、皇国すら手出しできぬ黒の国。人と獣人が暮らす平和の国・ミヅホ仙国。聞いたことあるか?」

「もちろんだ。この国にいる者なら知っている者は多いだろうな」

「それもそうか。第六妃はその国の出身だからな。じゃあその国には帝国でいう勇爵家のような存在がいることも知っているな?」

「ああ……仙国という名の由来。国を守る強力な結界を生み出し、守り続ける護国の仙家。滅多にその家系は男子が生まれず、生まれるのは姫ばかり。ゆえに家を継ぐのも女ばかり。だから彼女たちは〝仙姫〟と呼ばれて崇められている」

「そうだ。その仙姫に帝国と冒険者ギルドで共同して、協力を仰いだ。向こうとしても帝国が混乱すれば、皇国が全力で領土を狙ってくるかもしれないからな。快く応じてくれたよ」

「つまり……この国には勇者と仙姫がいるということか?」

「そういうことだな」


 なんてこともないようにクライドは告げるが、帝国の者からすれば頭痛ものだ。

 勇者と仙姫は比べられる。

 最強の矛である勇者と最強の盾である仙姫。

 贅沢な矛盾に民は話を咲かせる。

 問題なのはそういう話に敏感で負けず嫌いなやつが現在、聖剣を持っているという点だ。

 問題を起こさないでくれればいいが……。

 そんなことを思いつつ、俺はその場を後にするのだった。

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― 新着の感想 ―
またあの女かよ
[気になる点] レオから派遣されてきたウッツっていつの間にかフェードアウトしてしまいましたが、アルに対する評価は変わったんだろうか。
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