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第百二十八話 アロイス

今日から第五部開始です。お待たせして申し訳ありません。またよろしくお願いしますm(__)m




 クリューガー公爵との戦いから一か月が経った。南部には父上が派遣した軍と代官たちが入って、どうにか落ち着きを取り戻し始めていた。

 そして落ち着きを取り戻したため、次の問題が浮上した。

 帝都の正門。

 そこをくぐったのは馬に乗った灰色の一団。そこに俺はグラウの姿で近寄る。


「そのまま歩け」

「はい……お久しぶりです。グラウ」

「久しぶりだな、アロイス」


 灰色の一団はアロイスたちだった。

 人質だった母親が領地に戻ってきたため、父上に謝罪へ来たというわけだ。お忍び風なのはアロイスの身の安全を守るためだ。

 アロイスはゴードンとクリューガー。二つの巨大勢力の思惑を砕いた。そうじゃなくても一万の帝国軍を僅か一千で退けた少年領主として注目を集めている。狙われる理由はいくらでもある。


「君の母上は元気だったか?」

「はい、おかげさまで」

「俺は何もしていない。君の母上を助けたのはレオナルト皇子たちだ」

「無事に会えたのはグラウのおかげです」


 そう言ってアロイスはフードの下で人好きのする笑みを浮かべる。そんなアロイスに苦笑しつつ、俺は本題に入った。とはいえ、すぐに済むことだが。


「アロイス。君の立場は微妙だ。処罰はされないが、政治利用されかねない」

「はい……ですが覚悟の上です。領地と南部を守れました。これ以上望めば罰があたります」


 そう言ったアロイスの目は覚悟に満ちていた。ここに来るまでに覚悟を固めてきたか。処罰はないといっても、確実ではない。死刑を言い渡されるかもしれない。その覚悟までしてきたなら、どのようなことが起きても動じないだろう。

 大したもんだ。同じ年齢の時、俺は自分が死ぬ覚悟ができたかどうか。

 いや、今だってできないな。そういう意味ではアロイスは俺なんかよりよほど立派だ。だからこそ、助ける価値がある。


「そんな君に一つプレゼントを用意した」

「プレゼント?」

「すべては君次第だ。君が君らしくあればきっと良い方に転ぶだろう」

「なるほど……では心の赴くままに過ごすことにします」

「そうしろ」


 それだけ伝えると俺はその場を後にする。

 すでに周りには多くの者がアロイスを監視していた。護衛を担当する近衛騎士もいれば、アロイスの隙を伺う暗殺者もいる。彼らの一部が俺の後をつけてくるが、路地裏に入って即座に転移で撒く。

 転移したのは大通りに面した宿屋の部屋。そこにはセバスが待っていた。


「お帰りなさいませ」

「ああ。どうだ? 標的は?」

「予定通りの行動です」


 そう言って俺は窓から外を見る。

 大通りには多くの馬車や馬が走っている。その横に止まっている質素だがしっかりとした作りの馬車があった。


「相変わらず宰相は目立つのが嫌いだな」

「あの方の性分なのでしょう」


 あれに乗るのは宰相のフランツだ。フランツは愛妻家として知られており、仕事が忙しくなると妻にお詫びの品をプレゼントすることで知られている。今は従者にそれを買わせにいっているところだ。自分で行くと目立つからな。

 そんなフランツに俺は心の中で謝罪しつつ、指を軽く鳴らす。それによってフランツの馬車を引く馬が暴れだした。

 そして繋がれた紐が千切れ、馬車は暴走を始める。


「申し訳ない、宰相……」

「仕方ありません。宰相をアロイス殿の味方にするにはこれが一番です」

「わかっているが、気の毒でな。自分でやっておいてなんだが」


 暴走する馬車に取り残されるというのは心臓に悪いことこの上ないだろう。まぁ意図的な暴走であり、周りに被害がないように結界で馬の行き先は調整している。この一件で怪我人は出ない。中にいるフランツが馬車嫌いになるかもしれないが、まぁ大丈夫だろう。

 暴走する馬車はどんどん加速していく。馬が興奮しており、コントロールする従者もいないからだ。フランツに止める術はない。

 何があっても魔法で防げるが、それをする必要はない。


「あの年で大したものですな」


 セバスがそう褒め言葉を口にする。その視線の先では馬に乗ったアロイスがフランツの馬車と並走していた。


「どう助けるつもりだと思う?」

「確実なのは宰相だけを救出することでしょうな。後ろについてきている騎士たちと協力すれば難しくはないでしょう。ですが」

「暴走した馬が周りの人を怪我させるかもしれないな」

「はい。一番は馬を落ち着かせることです。ですが、ただでさえ興奮状態の馬にほかの馬で近づくのは危険です。最悪、自分の馬も興奮して振り落とされかねません」

「まぁ危険は危険だが……帝国軍一万を相手に剣を握った奴だ。それくらいの決断は軽くやるだろうさ」


 シルバーの助力があったことは事実だ。それに背を押されたことは間違いないだろう。それでもアロイスは十倍の兵力に向かって剣を向けることを選んだ。逃げることはせず、領主として自分の領民を守ること。そして帝国貴族としてすべての民を守ることを決めた。

 わずか十二歳の子供がそう決めたのだ。


「あいつはきっとレオが皇帝になったとき、よい臣下になる」

「帝国は広大ですからな。皇帝一人では治められません。信用できる貴族が必要となります」


 そのとおりと俺は頷く。南部は巨大な貴族を失った。きっとその領地は再分配されるだろう。しかし、南部には中心となる貴族がいなくなったことは間違いない。

 だがアロイスはそんな南部の中心となれる逸材だ。それだけの功績も残した。まだまだ学ばなきゃいけないことも多いだろうが、それでも将来が楽しみな奴ではある。

 見ればアロイスは馬を落ち着かせることを選んだようだ。必死に並走しながら馬車を引く馬を落ち着かせようとしている。

 そしてしばらくすると、フランツの馬車をひく馬はゆっくりと足を止めた。

 動物は恐れを抱く者には敏感だ。ちゃんと落ち着いたということは、アロイスも落ち着いていたということだろう。


「これでアロイスは安心だな。宰相は情に流される人物じゃないが、先を見れる人だ。アロイスの将来に期待できるとなれば、父上が処罰しようとしても止めてくれるだろう」

「皇帝陛下が処罰することはないでしょう」

「それもそうだけどな。この状況でアロイスを処罰すれば、南部はまた混乱する。ぶっちゃけた話をすれば、宰相と接点を持たせたのは別の狙いがある」

「どのような狙いですか?」

「アロイスの将来に期待を抱けば、きっと宰相はアロイスを皇帝の手元に置こうとする。つまり城に留めて学ばせようとする。そうなればレオと接点もできるだろうし、アロイスも色々と学べる。良いこと尽くめだ」

「アロイス殿が皇帝に気に入られたとみて、寄ってくる貴族も増える。それを取り込めるという打算も付け加えるべきでは?」

「そんな悪いことを考えるなんて、性格の悪い奴だな? お前は」

「性格が悪くないと執事は務まりませんので。それはそうと、その程度の悪だくみも思いつけないとなるとこれから小言を増やさなければいけませんな」

「……」


 俺は無言でセバスを睨む。だがセバスはどこ吹く風だ。

 まったく、こいつは主人を立てるということを知らないのか。


「俺が悪いこと思いつくのはお前の影響だな。そうに違いない」

「光栄ですな」


 誇らしげに応じたセバスを再度睨み、効果がないため諦める。

 セバスに挑むだけ無駄だ。


「行くぞ。用事は済んだ。最近は父上のせいで注目されておいそれと動けないからな」

「双黒の皇子とはよく言ったものですな。こう言っておけばあなたの格が上がる。良い手を打ちましたな。皇帝陛下は」

「いい迷惑だ」


 そんな会話をしながら俺たちは宿屋を後にする。アロイスが来たということは南部が落ち着いた証拠。南部が落ち着くまでは後処理に追われていたが、これからはまた忙しくなる。



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― 新着の感想 ―
>シルバーの助力があったことは事実だ。 アロイスと絡んだのはグラウとしてなので、「グラウの助力」または「俺の助力」の方が適切かなと思いました
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