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上 月明かりのペガサス

 とある王国の、人里離れた深い森の中に、魔法使いの学校がありました。ここには国じゅうから魔法の力を持った子どもが集まっています。国の法律で、魔法の力を持つ子どもは三年の間、この学校で修行する決まりになっているのです。


 この学校の生徒に、ルナリアという女の子がいました。

 ルナリアは光の魔法が得意でした。暗い部屋を明るくしたり、物を光らせたり、闇夜に星を流すこともできました。

 けれども、他の魔法はぜんぜん使えません。他の生徒のように空を飛んだり、変身したりできませんし、人の病気を治すことも、占いもできません。攻撃の魔法は特に苦手で、先生がカエルを傷つけたときには、泣きだし、教室から逃げてしまいました。



 そんなルナリアは、ある日、男の子に声をかけられました。

「おまえ、この前の試験も0点だったんだろ」

 男の子はそう言って、大笑いしました。すると、男の子の後ろから、ぞろぞろと生徒がやってきて、

「あなた、ほんとうに魔法使いなの」

「どこかから迷い込んだ普通の女の子だろ」

「この能なし」

「悔しかったら魔法使ってみろ」

 と次々と悪口を浴びせてきました。


「じゃあ、私の魔法を見せてあげる」

 ルナリアは生徒たちにそう言い返して、杖を取り出しました。

 その様子を見ていた女の子が、「ルナリアが魔法を使うんだって」と、おもしろおかしく叫びました。

「ほんと?」

「ルナリアのことだ。きっと失敗するに違いない」

「見ものだ、見ものだ!」

 生徒たちの声は学校全体に広がり、ついに、学校中の生徒が集まりました。


 ルナリアはみんなが見つめる中、杖を一振りしました。すると何もない場所から、白銀の光を放つペガサスが現れました。

 翼をはためかせ、光の粉を振りまく姿はとてもきれいです。けれども、白馬の光はとても弱く、校舎に射し込む日差しのせいでほとんど見えません。

 ルナリアのまわりからどっと笑い声があがりました。


「なに、あの魔法」

「あんな弱っちい光でなにができるの」

「ルナリアはほんと能なしね」


 ルナリアはとても腹が立ちました。そこで杖をもう一振りして光のペガサスに生徒を襲わせました。でも、ほとんど透明なペガサスは、ちっとも迫力がありません。おまけに、光のペガサスは生徒に当たってもすり抜けるだけ、痛くもかゆくもありません。生徒たちはおおいに嘲り笑いました。

 生徒の一人がルナリアに杖を向けました。すると、ルナリアはたちまちネズミへと姿を変えられてしまいました。さらに魔法によって身体は宙に浮かび、グルグルと回されたものですから気分が悪くてしかたありません。

 でも、光の魔法しか使えないルナリアは、自分にかけられた魔法を解けません。それを見た生徒はただ笑うばかりで、誰も助けてはくれませんでした。


「君たち、やめなさい!」

 先生の声が聞こえました。生徒の騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたのです。さんざんルナリアを笑いものにしていた生徒らは、散り散りに去っていきました。先生に魔法を解いてもらって、ようやくルナリアは元の姿に戻りました。



 けれどもそのあとも、ルナリアは他の生徒からからかわれ続けました。どんなに勉強しても、光の魔法しか使えなかったからです。

「またネズミに変えてやろうか」

「いや、こんどはカエルなんかどう?」

「いやいや、いっそムカデにしてしまえ」

 意地悪な生徒たちはそう言いながら、ルナリアに杖を向けてきます。身を守る手段を持たないルナリアは、泣きながら、学校裏にある森の奥深くへと逃げ込みました。どんなに意地悪な生徒らも森の中までは追ってきません。

 でも、それには理由がありました。学校裏の森には恐ろしい獣がたくさん棲んでいて、人を食べてしまうのです。あまりの恐ろしさに先生すらめったに入りません。先生から「森には入らないように」と注意されていましたが、ルナリアはすっかり忘れていました。

 獣の鳴き声が聞こえてきます。前からも、後ろからも、右からも、左からも聞こえてきます。どうやら獣たちに囲まれてしまったようです。逃げ場のないルナリアは、獣たちが去るまで待つしかありません。

 けれども、鳴き声は止みません。じっとしている間に時間はすぎていき、ついに夜をむかえてしまいました。


 森の中には月明かりすら届きません。あたり一面真っ暗です。なにも見えない中、「グルルルル」といううなり声が聞こえてきます。そのうなり声に混じって人間の言葉も聞こえてきました。


「人のにおいがするぞ、うまそうだ」

「どんなやつだ」

「女の子だ」

「魔女の子か」

「ひとりぼっちの魔女の子だ」

「魔女の子なら悪い子だ。さぁ、とっとと食っちまおう」

「助けがこないうちに食っちまおう」


 低い声のやりとりは、とても人間のものとは思えません。声はどんどん大きくなっています。もう怖くて怖くてたまりません。ルナリアは杖を一振りして光の球を作りました。

 光の球は決して太陽のような明るさではなく、まるで小さなお月さまのようです。そっと宙に浮かべると、銀色の淡い光がルナリアのまわりに広がりました。そして、闇夜の中から、影のように真っ黒な狼が七頭、姿を現しました。


 狼は暗闇が大好きで、夜がくると群れで獲物を襲います。ルナリアはすっかり、狼の群れに囲まれてしまいました。

 狼たちがよだれを垂らし、鋭い歯をむき出しにして、ギラギラ輝く目でルナリアをにらんでいます。この森の狼たちはとても大きく、大人の背丈ほどあります。生半可な攻撃では一頭も倒せませんし、そもそも、ルナリアは攻撃の魔法を使えません。もう、逃げ場はないのです。

 とうとうルナリアは泣いてしまいました。


「おやおや、嬢ちゃん、迷子かな?」

「夜の森になんの用?」

「そんなに泣いてどうしたの?」

「さては戦えないのだな」

「まだ魔法を使えないのだな」

「ならばとっとと食っちまおう」

「嫌なら魔法をかけてみろ」


 狼たちが憎たらしい声でばかにするものですから、ルナリアの顔は真っ赤になりました。

「じゃあ、私の魔法を見せてあげる」

 ルナリアは杖を大きく振りました。


 杖の先からまぶしい光がたくさん飛び出しました。星のように小さな光は、一点に集まって、どんどん大きくなっていきます。光のかたまりはだんだん姿を変えていき、ついには、狼の何倍も大きな光のペガサスになりました。

 ペガサスの大きさは、学校で出したものと比べ物にならないほど大きいです。でも、その光は決して強くはありません。真昼なら太陽の光にかき消されていたでしょう。

 でも、燃えさかる炎より明るい輝きは、暗闇を晴らすには十分でした。


「まぶしいよ」

「なにも見えないよ」

「目が痛いよ」

 狼たちが口々に叫びます。暗闇が大好きな狼は光がとても苦手なのです。小さなお月さまのような光なら平気でも、ペガサスの放つ光には耐えられません。


 ルナリアは杖を振って光のペガサスを走らせました。大きなペガサスは翼を震わせながら、狼に向かって突進していきます。目がくらんでいる狼たちは、暴れるペガサスを見て、甲高い鳴き声をあげながら、慌てふためきました。

 でも、狼が慌てていたのはほんのわずかな間だけでした。


「落ち着け、これは幻だ」

「まぶしいだけの光のかたまり」

「ぶつかっても痛くない」

「痛くないから怖くない」

「この魔女は戦えない」

「さぁ、仕返しに食っちまおう」

「俺たちに歯向かった罰として」


 どうやら、狼たちにペガサスの正体を気づかれてしまったようです。ペガサスの光に顔をしかめながら、鋭い歯をむき出しにしてルナリアに近づいてきます。もう目くらましは使えません。ルナリアはどうすれば狼たちを追い払えるか考えました。

 そして、一ついい案が思いつきました。


「あなたたち、『魔法をかけてみろ』って言ったね」

 ルナリアは狼に杖を向けて言いました。


「そうだとも。俺たちを倒せる魔法が使えればの話だが」

 狼の一頭がそう言うと、狼たちは全員で笑いだしました。たしかにルナリアには狼を倒せる魔法は使えません。

 でも、ルナリアには狼と戦える自信がありました。

「じゃあ、お望みどおり、魔法をかけてあげるね。早く逃げないと、ぜったい後悔するわよ」

 狼たちが飛びかかってきます。ルナリアは杖を一振りしました。


 すると狼たちの身体がたちまち光りはじめました。

 一頭は淡いピンク色。一頭はバラのような赤い色。もう一頭は真っ白です。他の三頭は白黒で、それぞれシマウマ柄や、ホルスタインのような牛柄や、パンダ柄になりました。そして残る一頭は虹のような七色です。

 狼たちは、自分たちの身体の色が変わってしまったのを見て、わめきだしました。


「変な色になっちゃったよ」

「かっこわるいよ」

「はずかしいよ」

「これでは俺たち暮らせない」

「食べようとして悪かった」

「どうか魔法を解いてくれ」

「もう食べたりしないから」


 真っ黒な毛が自慢だった狼たちにとって、色が変わってしまったことは一大事でした。

 ルナリアはひたすら魔法を解くようお願いされました。けれども、狼たちにかけた魔法を解く気にはなれませんでした。


 ふと、ルナリアの背中から物音がしました。おそるおそる振り向くと、七頭の狼より一回りも二回りも大きい、黒い狼が立っていたのです。ルナリアは思わずギュッと身を縮めました。狼たちに立ち向かい、魔法を使うのに精一杯でしたから、背中から近づいてくる大きな狼に気づかなかったのです。


 狼の一頭が「母ちゃんだ!」と叫びました。どうやらこの狼は七頭の母親のようです。

 七頭の狼たちは急に態度を変えました。


「助けて」

「魔女に変な魔法をかけられた」

「おかげでこんな変な色」

「魔法を解いてってお願いしてるのに」

「なかなか魔法を解いてくれないんだ」

「その魔女をなんとかして」

「はやく、はやく」


 七頭の子どもは甘えた声で母親にうったえます。さも自分が悪くないかのようです。

 それを聞いた狼の母親は、

「あんたたちがむやみに襲うから、この子は魔法をかけたんでしょ! あたしはちゃんと見てたんだ。嘘をつくな!」と七頭を叱りつけました。


「だって、魔法使いは怖いから……」

「悪い魔法を使うから……」

 七頭が言い訳するものですから、狼の母親はさらに叱りました。


 ルナリアは学校の生徒たちを思い浮かべました。みんなルナリアと違って、相手を攻撃したり、別の動物に変身させたり、操ったりできるのです。魔法でいじめられ、森へ逃げ込んだルナリアには、狼たちの言うことがなんとなくわかりました。


「魔女のお嬢ちゃん、ごめんね。どうか子どもたちの魔法を解いてちょうだい」

 狼の母親が優しい声で言いました。狼の子どもは七頭そろって頭を下げ、すっかりと反省していました。

 ルナリアは七頭に向かって杖を一振りしました。すると、狼の身体から光が消えて、元の黒い姿に戻りました。魔法が解けた狼の子どもは「元に戻ったぞ」と大声ではしゃぎながら、森の奥へと帰っていきました。


「お嬢ちゃんも帰りなさい。道がわからないだろう、あたしが送ってあげるから」

 狼の母親が道案内をかってくれました。ルナリアは、暗い道を照らすように、小さな月のような光の球をそっと浮かべました。

 そして、狼の母親に連れられて、学校へと歩きだしました。



 帰り道で、狼の母親に森へ入った理由を聞かれました。ルナリアは学校でのできごとを全部話しました。光の魔法しか使えないこと、あまりの出来の悪さにいじめられて、ネズミに変えられてしまったこと。そして、いじめてくる生徒から逃げるため、森へかけこんだことも。


「私、ほんとは学校へ戻りたくないの」

 ルナリアはボソリとつぶやきました。

 どんなに勉強しても光の魔法しか使えませんし、おまけにいじめられるものですから、学校にいる意味はなかったのです。


「お嬢ちゃんなら大丈夫よ」

 そう言って狼の母親は優しく笑いかけました。

「どうして? 私、魔法ぜんぜんできないのに。魔法でいじめられても仕返しできないし、人の魔法は解くことすらできないの」

 ルナリアは狼の母親が言ったことを、受け止められずにいました。そんなルナリアの背中を、狼の母親が鼻で軽くつつきました。

「いえ、お嬢ちゃんは強い子よ。いじめっ子すら入らないこの森に飛び込んだのだから」

 そう言う狼の母親に、ルナリアは「私は逃げただけ。ほんとは森に入っちゃいけないの」と言い返しました。


「お嬢ちゃんは、どうしてこの森に入ってはいけないか、聞いたことある?」

 狼の母親にそう聞かれたルナリアは、「恐ろしい獣がたくさん棲んでいて、人を食べてしまうから」と答えました。

「じゃあ、どうして森の動物たちが恐くなるか、わかる?」

 ルナリアは首を横に振りました。


 すると、狼の母親が足をたたんでしゃがみ込みました。ルナリアが浮かべた光の球が、狼の背中を照らしました。

 狼の背中一面に、ひどいやけどの痕がありました。狼の背があまりに高かったから、見えなかったのです。自慢の黒い毛は焼けてしまい、肌が丸見えになっていました。


「学校の魔法使いにやられた痕よ。目に見えない傷はもっとある」

 そう言われても、ルナリアには痛々しい傷を消せません。淡い月明かりのような光に、癒しの力はないのです。

 ルナリアは歯を食いしばりながら、涙を流しました。ただただ、腹立たしくてしかたありませんでした。

 魔法でいじめられていた自分と、狼の母親の姿が重なります。そして、自分の無力さを嘆きました。


「きっと普通の人にはない力を持っているから、うぬぼれているのでしょう。絶対に勝てると過信しているのでしょう。この傷をつけた魔法使いは、みな食い殺してやった。そうすることでしか、あたしたちは身を守れないの」

 狼の母親は静かに淡々と語りかけます。ルナリアはその言葉に、身をギュッと縮めました。優しい口調で話している狼の母親が、人を食い殺した張本人だったからです。

 ルナリアの反応はすぐ見透かされました。


「怖がらなくていい。だってお嬢ちゃんはあたしたちの痛みを知っている、とっても優しい魔女だから」

「じゃあ、絶対食べたりしない?」

 ルナリアが聞きました。


「ええ、食べない。約束する」


 狼の母親が立ち上がりました。ルナリアは光の球を引き寄せながら、静かに退きます。

 すると、狼は言いました。

 

「どうか、もう一度見せておくれ、月明かりのように淡い光のペガサスを」


 狼の母親がルナリアを見つめています。学校へ向かう歩みを止めてずっと待っています。暗い森の中、一人で帰ることはできません。ルナリアは狼の望みに応えるように、杖を一振りしました。


 すると、たくさんの流星とともに、月のように柔らかい光を放つペガサスが飛び出しました。

 ペガサスは地面を蹴り、木々の間を縫って飛び立っていきます。ペガサスからは星粒のような光があふれでて、その光の粒がパラパラと落ちてきます。まるで光の雪が降っているようです。雪は森の地面を光らせて、森の暗闇はほんのり晴れていきました。

 けれども、決して真昼の太陽のように明るくはありません。森は夜のままでした。

 

 ルナリアの魔法に狼の母親は目をキラキラと輝かせています。すっかりほころんだその顔に、ルナリアの緊張は一気にほぐれました。すると、光のペガサスはスッと消えてしまいました。どんなに杖を振っても、もう光は作れません。


「きっと疲れているのね。さぁ、早く帰って寝ましょう。森で寝るわけにはいかないから」

 狼の母親がそう言って、またルナリアの前を歩き始めました。



 しばらく歩くと、森を抜けました。消灯時間が過ぎた学校はもう真っ暗です。

「さぁ、早く帰って寝なさい」

 狼の母親は、ルナリアの背を鼻で軽くつつきました。

 でも、ルナリアはなかなか校舎に戻りません。


「どうしよう。朝が来たら、また魔法を失敗して、いじめられちゃうの」

 おびえるルナリアに狼の母親が言いました。

「大丈夫、お嬢ちゃんは優しくて強い子、普通の魔法使いとは大違い」

「ほんと?」

「ええ、使う魔法を見ればわかるのよ。普通の生徒とは違う。きっと立派な魔女になるって信じてる。だから、自信を持って」

 ルナリアはまた鼻でつつかれました。そして、ひとり校舎へと歩きだしました。


「また森へくるといい。大丈夫、もう襲ったりしないから」

 ルナリアの後ろから狼の母親の声がしました。振り返ると、狼の姿は消えていました。


 次の日の夕方、ルナリアはまた森に入りました。魔法で小さな光の球を作り、暗い森の奥へ進むと、あの七頭の狼が出迎えてくれました。もう、ルナリアを襲うことはありません。狼たちは母親が攻撃された瞬間を見ていて、魔法使いはみな悪者だと思っていたこと。そして、母親をまねてルナリアを襲ったことを、正直に話してくれました。


 狼たちに連れられて暗い森の奥深くに進むと、泉が見えてきました。泉には森の獣たちがたくさん集まっていました。

「かわいらしい魔女の子だ」

「とってもきれいな魔法を使うのよ」

「さっそく見せてくださいな」

「闇夜に輝く光のショーを」

 どうやら狼の母親からうわさが流れていたようです。

 ルナリアは獣たちの願いに応えて、泉に向かい杖を一振りしました。


 夜の闇に包まれて真っ黒だった泉は、ルナリアの放つ光で青白く輝きだしました。そして、泉の中から、星が飛び出しました。それはまるで噴水のようです。光の粒は天高く舞い上がり、星一つない森の空を星空へと変えました。それでも満月ほどの明るさですから、闇夜に動く森の獣たちにとっても、まぶしくはありません。

 気づけば、ルナリアの周りの獣たちは、さらに増えていました。どうやら、仲間を呼び寄せたようです。中には狼よりも大きくて、恐ろしい獣もいましたが、ルナリアに襲いかかることはありませんでした。


 それから、ルナリアは毎日のように森へ通いました。泉だけでなく、きのこや森の木々にカラフルな光を灯しました。

 獣たちの中には、自分を光らせるようにお願いしてくるものもいました。

「これから彼女へ告白するんだ」

「俺たちは闇の中で恋をする」

「でも、目立たなきゃいけない。夜の中じゃ目立たない」

「狼にかけた魔法を俺たちにもかけてくれ」と。


 どれも決して強い光ではありません。夜は夜のままなのです。

 ルナリアは真っ黒な闇夜のキャンバスを、傷つけはしませんでした。



 毎日のように森へ通うルナリアを見た生徒たちは、


「森へ入ってみようぜ」

「大丈夫、能なしルナリアが平気なんだ」

「きっと怖い獣なんかいやしない」

「いても魔法でなんとかなる」


 そう言って、次々と森へ入っていきました。

 でも、そんな生徒はみな大けがをして帰ってきました。


 そのことが学校中に知れ渡ると、ルナリアをいじめる生徒は誰もいなくなりました。

 けれども、ルナリアは森へ通い続けました。闇夜の森で光を放つことで、光の魔法はどんどんうまくなりました。「森へ入らないように」と言っていた先生たちも、ルナリアだけは森に入ることを許しました。


 そしてルナリアは、三年の学校生活を終えて、卒業の日を迎えました。

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