表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

セカンド・バディ

「逃げたぁ!? 何だそりゃ」

「まぁ落ち着きたまえ、大事なのはそこじゃない」

「こっちはサボってまで戦ったんだぜ、何なんだそっちの管理体制は」

 彼にはごまかしや言い訳は通用しない。そう悟ったタトルは溜息交じりにモニターを出した。

「寿限無、説明を頼む」

「畏まりました。一昨日鶴時試験員がSBを用いて鎮圧に成功、隔離状態にあった対象Oが本日午前2時に脱走行動を実行し3時に本社を脱走。以後は未確定地点に到達するべく移動しているものと思われます」

「ますます分かんねえ・・・未確定なのに何で場所が予想できるんだよ」

「そこの詳細を知ってるのは僕らだけだからだよ。君達の持ってるタウンマップには廃工場と描かれてあるだろうけど」

 千日の記憶が正しければ、そこは確か立ち入り禁止区域だった筈である。普通に通学していれば横切る事すら無い場所だが、心霊スポットやら噂話やらで、近隣住民の間では良くも悪くも名所と化している。

「今回の君の仕事はそこへの実力行使。もう対象0もこの時間じゃそこに逃げ込んでるだろうからソイツの確保と兼任する事になるだろうね、よろしく」

 溜息を吐きながら社長室を後にする千日。それを見送るタトルは、

「あっ、思い出した! 君には協調性を養う為に今回は相棒と仕事にあたってもらう。多少訳ありで乱暴者だけど良い奴なんで、仲良くしてね~♪」


GTC-グッドトゥモローカンパニー-

第4話

『セカンド・バディ』


「徒歩で行くのかよ・・・!? てっきり車で殴り込みかと」

「あぁ!? 聞いてなかったのかオメーは! オレらは取り締まる為に行くんだ、殴って解決させるヤクザなんかじゃねぇ、第一車で行ったら潜入前に怪しまれるだろうが!」

 この男が、擦切転技係長か。確かに口調は荒い。顔どころかスーツから覗く手足にも傷が目立つ。

「それとな、敬語使うのにも慣れろ! 社長は容認してるみてぇだが、社会ってのはめんどくせーのが普通だ! そのめんどくせーのを積んでいかなきゃあデッカくはなれねぇぞ!」

 少し訂正。荒いどころか暑苦しい。

「・・・っても、別に出世目的でここで働いてる訳じゃ無いっす」

「そりゃあそーだろーな。成り上がりたかったら別の社に行ってるぜ・・・っと、着いたな」


「廃工場というか普通の建物じゃねーか、しかも駄菓子屋。いつの間に建ってたのかよ」

「感心なんかすんじゃねーよ、セルフレジである点からまず疑え」

「? あぁ成程・・・ってか上がり込んで良いモンなんすか?」

 上がり込む事すら気が引ける程・・・普通過ぎる屋内。

「なーるほど、こりゃあ新興中の新興だ。隠れ蓑にはしてるらしいがバレバレだっつの、公共機関ナメんなよ」

「地下室? 何でこんな隠し方・・」

「そりゃあ隠したいからに決まってるだろうよ、行くぜ。まごまごしてる必要は無ぇ」

*

 階段を約5分降り、灯りはあれど暗めの通路を約10分進んだ先に、それはあった。

「へいへいそういう連中ですか。あるある過ぎて呆れるぜ」

「平然としてるのかあんた・・・何だよこれはっ」


 荘厳な音楽と、読経の様な詠唱が広間に響き渡る。壁に描かれているのは西洋風の宗教画、だが設置され、祀られているているのは明らかに仏像。

「一応教えとくか、新入り候補。この手の集まり・・カルト教団とでも言っとくか。連中が信仰心を深める事で超常の力を起こす源、『終気』が生まれる。ここはどーも教団としてはチンケな類だな。パチモンの宗教画や偶像があんのは信仰心をイメージしやすいからだ・・・って聞いてるか?」

「聞いてますよ・・・んな事より、何でアンタがこんな所にいんだよ・・・!」

 見慣れた男の顔が、満ち足りたかの様な笑顔に歪んでいる。その身体は各部位が造りを無視した方向に曲がり、顔と同様に快楽にも似た感覚で痙攣している。

「おっと無闇に飛び出すんじゃねーぞ。今オレらが部屋に入ってるのに信者共に感づかれてねーのは、連中がその意識を儀式に全振りしてるからだ、弱小教団のあるあるってヤツ」

「じゃあどうしろって」

「落ち着きな。その顔見る限り、あの儀式の依り代になってんのは知り合いだろ? 尚の事落ち着け、オレ達はGTCだ、こいつらを殺しに来たんじゃねえ」


「ツ・・ル・・トキ・・・何ヲ、シテルノデス・・・!?」

「大山・・先生!?」

「気づかれたか!」

 人としての身体を失いつつある大山は、肥大化した眼で千日を見つめる。その眼から感じ取れた感情は――――悦び。

「またアンタはそんな顔をすんのか・・・オモチャみたいにっ」

「何か訳ありみてーだな」

「・・・念力実験、とか言っててな。トラブル起こした生徒を折檻してたんだよ昔っから。俺も何回か食らってな、やってる途中は楽しそうだった」

「笑顔で体罰とかクズじゃねーか。教師なんてよく続けられたモンだ」

 そういう発言をする大人もいるのか。教師の価値観は一般的に絶対正義、間違っていても表向きはそれが普通だとは思っていた、のだが。

「クズト言マシタネ!? ソンナ大人トツルムナド不良ノヤル事デス!!」

 大山の身体は更なる異形へと形を変える。腕は6本に増え下半身よりも大きくなり、悦びに歪んだ顔は特に眼が特徴的になる。

「止めるぞ、覚悟は出来てるか」

「うすっ。・・悪いんだけど先生、ヘーコラするだけの時期は終わったんだ、アンタも足洗えよ、こんな暗いとこからっ!!」

 大山はもはや不可解な怒りの声を上げ、千日と転技目掛けて飛び掛かる。

「よっと、理性がほぼ消えたか、むしろやりやすいぜ! かわしたか、新入り!」

「何とかっ! SBが無かったら危なかったかもだけどっ」

「とりあえずこっちも実力行使だ。オメーも経験してると思うが、こいつら終気を纏った『亡徒』を収めるには、GTCの武品LDが必要不可欠! こいつらには一応リミッターが付いてるから殺傷する事は基本的に無い、安心しな」

 この人意外に説明してくれるじゃないか、真面目か。

「さってお仕事だ、今更ビビッて逃げんなよ!」

「ここまできてそれは無いっす!」

 大山に先立って部屋にいる信者達が詠唱を止め、襲い掛かってくる。彼等は人の姿を保っているものの、顔は獣の様な異形へと変貌している。

「前座は戦闘員ってか、分かりやすいぜ」

 転技は懐から円盤状の物体を取り出す。中央のスイッチめいた部分を押すと、

「何すかそれ、USB?」

「オレのLD、そんでもってこれはまだ鞘だ」

 転技の鞘と称するそれには数字の振られた7つの穴がある。

「さてぶった斬りますかっ」

 千日にもUSBと突っ込まれた物体を、「2」と記された穴に装填、そして引き抜く。


「デカっ・・・」

「セブンスラッシャー、このLDの品名だ。あとは見ての、お楽しみだッ!!」

 転技の手に握られる形で現れた、彼の身の丈をも超えた大剣。転技はそれを振るい、襲い掛かる亡徒達を斬り飛ばす。

「さてと。今からそこの大山って亡徒は『遊手』と呼ばせてもらう、憶えろよ! 報告書にも書くんだから」

「必要なんすかそれ!?」

「ご本人のプライバシーにも配慮してんだよ。それより来るぜ」

 遊手の戦法は長く伸びた6本の腕で身体を支え、跳躍し、攻撃を仕掛ける。

「実に単純っ。つーワケで新入り、お前はトドメ係だ。あのウザったい腕はオレが何とかする」

「・・了解。斬れるんすね、あの腕」

「言ったろ、こいつの品名は」

 再び狙いを定め、仕留めるべく飛び掛かる。転技は涼しい顔で、剣の柄を「5」と記された穴に装填、その形を変える。

「セブンスラッシャー、名前の通りだろ? 七種の剣ってワケだ」

 間合いに入った時、遊手の6つの腕は全て切断された。転技の剣は剣と思えない程に、まるで大蛇の様に長く伸び、しなやかに曲がり動いている。

「後はオメーの仕事だ、ぶちのめせ!!」

「っし!!」

 攻撃の意思、その為の構えが、自動的にSBを活性化させる。

(もっかいアンタを殴る事になるな、とんだ問題児だ。だけど生徒の立場でも、物申してえ事はある)

 しっかりと見据える。今から収めようとする相手を。

 そして、

「大の大人がガキなんかでっ!」

 前に進み、跳ぶ。

「遊んでんじゃねえぞおおおおおっ!!」


 直に拳に貫かれた遊手の身体は、砂の様に崩れ落ちて消滅し、やがてそこには白目を向いて倒れている大山の姿があった。

*

「教祖様はバレバレの隠し部屋で震えてたぜ。今警察に突き出した。逮捕の流れらしいからこの教団も終わりだな」

 前もってGTCからの通報を受けた警察によって、この無名の教団の強制捜査が行われている。亡徒となった信者達にも重傷を負った者は無く、GTCにとっては比較的穏やかに済む仕事の部類だったようだ。

「トップの癖に情けない奴っすね」

「上に立つ感覚を味わっちゃうとそうなるもんさ、特にこんな容易だとね。二人共お疲れさん」

「――――!!?」

 転技は現場に現れたタトルを前に、口荒い態度を突然変化させる。

「たっ、大将!! わざわざこんなショボイ現場にご苦労様ですっ!!」

「そこはお疲れ様だ、覚えろ」

「まぁ良いじゃないか寿限無。ところでどうだい、もう日も暮れて来たし夕食でも」

「ナンパかよ。俺は金持って無えから別に、」

「あざっす!!! ほら鶴時、お前も!!」

*

「何処かと思えばファミレスか・・」

「良いじゃないか。それなりに美味しくてそれなりに安い。てか君も食べてるし」

 代金は出す、と平然とした顔で言われたのだ、善人では無いと自覚しているし断る理由は無い。とはいえ隣で有に二人分は食べている者は流石に横着しているのではないか。

「ところで千日、君はステーキにポテトサラダか。でもってライス付き」

「何だよ、好みなんだ。悪いか」

「いや、ストレートだが良いね。肉が好きなのは良い事さ、生きる意思が明確にある現れだよ」

 そんな事を言われたのは初めて、では無いが久しぶり、の様な気がする。

「無気力人間だと思ったかい? 食事態度ってのは案外嘘吐かないんだよ、人の傾向って奴をね」

「・・無意識、か。・・・それはさておきよ、コイツはどうにかならんのか」

「そうだね。擦切、後3分で食べ終わって。解散だよ」

「うすっ!!」

*

「君の腕っぷしなら杞憂だと思うけど、帰り道気をつけて。もう9時回ってるから、一応高校生なんだし」

「ああ。でも何つーか、こういう仕事もあんだな」

 酒こそ飲まなかったがひたすらに食い、代金を社長に払わせて帰って行く転技を見送る。酔っ払って無いにも関わらずその後ろ姿は満足気だ。

「どうだい彼は。悪くなければ少しの間、君と組んでもらうつもりだけど」

「うるせえけど悪い人じゃあ無かったよ。文句言うつもりは無え、仕事なんだし」

「そこ、一丁前に仕事とか言わない。まだ学生だよ?」

 学生、何とも窮屈で、抜け出したい言葉だ。

「擦切さんもどっかからスカウトしたのか?」

「拾ったんだよ、行き場が無かった所を。これ以上は本人の許可が要るから、教えらんないけど」

 訳ありという事なのだろう。そこに興味を持って詮索する程幼くは無い。

「明日も教えられるモンは教えろよ」

「何だい今更」

「悪い隠し事は無しって話だ。今回の仕事、正直俺は甘く見てた。知ってる人があんなバケモノになるなんて事が、ぶっちゃけて言えばシャレにならねえと思った。守りたい人がいるかどうかは自覚が無え、でも俺に出来て必要とされるならこの仕事は続ける」

 こんなに喋る人間だっただろうか。胸が熱くなるのを感じる。

「だから教えろ、俺に働いて欲しいなら。お前が向き合ってる物を、GTCって所が目指してる物を」



「良いよ。君も燃えられるじゃないか、世界の為に」

 タトルは笑みを浮かべた。まるで友達が出来たかのような、少年の様な無邪気な笑みだった。



to be continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ