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戦う為のズル休み

 その日の夜、千日はGTC本社から直に帰宅した・・・のは確かなのだが、手配されたヘリがどの様な進路で家に向かえば、20分程度で到着するのか、という些細な疑問が残った。


 家族には社から既に連絡が届いていたらしく、帰宅時に母親からは


「純粋に人助けなんて偉いわねぇ」


 と、解釈に困る評価をされた位だった。父親は顧問をしている某校の空手部、その合宿の為に数日は家を空けているので特にいざこざも無く、勉強を始めとしてありふれた日常を済ませ、そして寝た。


「変わんねえモンは、そうそう変わんねえモンだな」




GTC-グッドトゥモローカンパニー-

第3話

『戦う為のズル休み』




 中高生はどうして、こうもテンションが高いのか。恐らく会話の内容は流行物やら眉唾同然の武勇伝やら信憑性不明の噂話やらの「些細な日常会話」なのだろうが、それをやたらと声を張り上げ奇妙な例えを使い同じ言い回しを繰り返す、まるでそれは――


「っと! 大方考えてる事、顔に出てるわよ! 言わなくても解る位に」


 全ての幼馴染がそうとは考えない。だが少なくとも翠海利紗というこの少女は、現代日本に希少種の「お節介な幼馴染」だ。


「背中、若干痛えんだけど・・・」


「鼓舞よ鼓舞! 晴れた朝位、良い顔しなさいっ!」


 晴れたら笑え、なんて決まりが何所にある・・・と言い返したかったが、反応は苦笑いに止めておいた。彼女と面と向かうと、及び腰な反応になるのは悪い癖だ、直さなければ―――と千日は考えている。


*


 休み時間こそ喧嘩が絶えないが、特に特筆する事も無いという位、千日の授業態度は悪くは無い。教師の話も基本的には耳に入れているし重要事項はノートに取る。授業自体は退屈だがこれ見よがしに寝る事も無ければ教師に野次を飛ばす事も無い・・・・のだが。


「トイレ」


 そう一声上げて教室を出る彼の姿を、物珍しそうに眺める者は、恐らく多かったであろう。


*


『どうだい我が社のSBは? 右腕程度大きさから携帯電話程度の大きさに圧縮可能、オマケに座標想像及び感覚のみで着信、脳内言語だけで連絡が可能っていう正に』


「自社自慢は良いけどよ、早よ用件言え! 2時間位しか余裕無えからな!」


『じゃあ簡潔に言うよ。我が社の包囲から抜け出したバケモノがそっち方面に向かってる、君にはそれを食い止めて欲しい、余力が有れば叩きのめしても構わない』


 本当に簡潔かつ現実離れした用件だが、昨日怪しげな機械の拳で怪物を殴り飛ばした昨日があるのだ、特撮番組レベルの出来事が起こっても冷静でいられるだろう。


「で、そいつは今何処にいるんだよ!?」


 通話がてら、窓から学校を抜け出す。正直怪物とやり合う非日常より、戻ってから罰を課せられる日常の方が心配だ。


『対象の動機からして学校に向かう可能性が高いんだ。彼は元教師らしくてね、経歴特定はまだだけどある種の危険思想を持って事を起こしたらしい』


「オイちょっと待て、バケモンが元教師? 随分突飛な話だな」


『君が昨日やっつけた怪物だってヤクザの集まりだったろう? 理由は後で説明するけど、そういう事・・・・っと、もうすぐ接触する、一応気は引き締めて』



 既に周辺住民の誘導、若しくは避難は完了している様だ、指定されたそこには人一人居らず、当然の事ながら人為的な物音も無いのでとても静かだ。


『来たみたいだね』


 千日の右手に握られたディスク状のそれが分解、拡大し、右腕を覆う武器として収まる。


 重い、という感覚は前よりは薄い。それは慣れだろうか。それともタトルの説明通り、自分の中にこれを動かせるだけの「意志」が存在しているのだろうか。


 だが、考えるより今は―――


「さっさと済ませるぞ、とりあえず単位は落としたく無ぇから!」



 怪物は突然、それも少し予想外の方向から現れた。


「頭上とかっ・・・潰す気かよ!?」


『正面から律儀に向かってくる奴ばかりだと思った? まぁそういう知恵位は残ってるって事だろうね』


 一見バラバラに見える人を模した身体の部位を、一筋の光線のような何かが、まるでプラモデルのランナーの如く固定している。


「おわっと⁉ で、こいつはどうやって倒すんだ⁉」


『少しは自分で考えて。マニュアルで判る位なら人心なんて複雑じゃないんだから』


 怪物は紐の様に手足を伸ばし、千日に襲い掛かる。その動きは殴打といった直接的な攻撃よりも、対象を捕縛する事を目的としているかのようだ。


「見た感じ身体の筋は掴めねえ、だったら正面から力比べか、単純だけど!」


 その戦い方は、口で言うなら簡単だ。それを本人も解らない訳ではない。この怪物への対抗手段であるステップブレイカーの強化部位はあくまで右腕、それ以外はケンカが強いだけの一般的な高校生の身体でしかない。


『そこらの大人より強いんだろ? SBに選ばれたんだ、要は気持ち次第さ。あ、ちなみにSBってのは略称だよ、それの』


「気が散るっ、少し黙ってろ!!」


 組み手同然に塞がれた右手は、闇雲に振り回してもどうにもならない。別の部位からの攻撃をかわす為の対処だが、それも気休めだ。


「ったく、何で顔ばかり狙うんだよ⁉ 片手だけでも丸判りな手癖だぜ・・・・手癖⁉」


 一瞬、「まさか」という考えが頭をよぎる。


「オイ、こいつに何か機能はねえのか⁉ 殴るだけじゃなくて」


『試験的に入れたのは幾つかあるよ。スティールバンカーが内蔵されてる筈だ、武装選択は考えるだけでいい』


 タトルの説明通り、


 武器


 そう考えただけでSBは形を変える。


「グオオオッ!⁉」


「エゲツなっ・・・! タイミングは良いけど」


 タトルの言う名の通り、SBから突き出した鋼鉄の杭が、怪物の手を貫き、組み手状態の戦況を終わらせる。


「今度はこっちの番だ!」


『弱点が判ったのかい?』


「俺の記憶が正しけりゃあな!」


 怪物は指で印めいた物を結ぶ、反撃するなら今だ。


 千日は右腕を勢い良く地面に殴りつける、無論それは無策の行動ではない。


 SBの推力、更に地面を殴った反動で身体は8mは高く跳び上がる。それはSBに内蔵されているブースターの推力だけでは飛べない高さだ。


「大袈裟すぎんだよ、その動き!!」


 垂直落下して間合いを詰める。顔を狙う怪物の手の動きはリーチが大きく、SBを用いた落下速度、それを身に受けた千日を捕らえるには至らなかった。


「授業は終わりだぜ、大山先生っ!!」


 千日の拳はそのまま怪物の顔を正面から貫き、それが決定打となったか、怪物は糸の切れた人形の如く沈黙する。やがてその身体は砂のように崩れ落ち、そこには中年程の男性が替わりのように横たわっていた。


*


「今日もお疲れ様。授業には間に合ったかな?」


「集中力は半減したけどな」


「何か言いたげだね。とりあえず亡獣化したあの男は無事だよ。小学時代の君の教師の一人、だったとはねー、新興宗教に属してたらしいんだが何で教師やってたんだか」


 回想、そんな繊細な方向に頭を巡らす事は、柄ではないと思っていたのだが・・・小学生時代、千日の主観だが最も印象が濃かった教師、それが大山という名の男性教師だった。


 一言で言えば彼は厳格な教師だった。別に罵倒を大声で浴びせる訳でも、スパルタ染みたルールを課した訳では無かったのだが、彼がいる場に広がる、どこか人を恐れさせる雰囲気、オーラとも呼べる物を発する、どこか奇妙な形で畏怖されていた存在だった。


「何というか普通な話だね~。ただ単純に怖い教師がいたってだけの事じゃないか」


「そりゃそうだ、日常的にエスパーなんかがいてたまるか。自分ではそう言ってたけど脅し文句だろーしな」




「・・・って、いきなり何だよその目は。おかしな事言ったか?」


「自称超能力者。そういう情報は遠慮せずに教えて? うちらはそういう馬鹿らしく胡散臭いのと対峙してるんだから」


 遊んでる訳じゃない。タトルの少し軽蔑したような目線はそう訴えている、感じがした。


「ま、小学校時代の話だからね。言われなきゃ忘れてるのも無理ないよ。深く責めるつもりも無い」


 千日はハッキリと自分を恥じた。怪物を見て戦った時から、あの年表を見てそれを受け入れた時から俺は既に非日常の世界にいるのだ。今更全てを忘れた事にして平穏染みた日常に戻るなど、器用じゃない俺の性分じゃ出来る訳が無い。




 その恥と同時に、言い表せないもう一つの感覚が身体を巡るのを感じた。


「・・・その顔、命の取り合いをしたってのに。スイッチ入っちゃった?」


「うっせぇ、俺はただ、」



「ちょっと千日ぁ! 今度はどこに突っ込んだのよ、子供巻き込んで! 不良退治も年下に及んだら事案よ、事案!」


「・・あのなぁ利紗、別にこ」


「助かったよアニキィ! マジ殺されそうだったんだよぉカツアゲ連中に! 僕が通報したからこんなに丸く収まったけど、アイツら刃物持ってたんだ・・・だからおねーさん、今回は大目に見て?」


 何てワザとらしい、控えめに言って同年代なら間違いなく一発くれていただろう。


「そっかぁ、まあうちの生徒じゃないし、そんだけヤバい連中だったらしょうがないよね!」


 そしてこんな低レベルの芝居を見抜けない、学級委員で大丈夫なのだろうか。


「じゃあ帰りましょ! ・・・っと、そこの君は・・」


「タトルって言います♪」


「うんっ、タトル君の家は」


「あーっと、少しばかり遠い所らしいぜ。お巡りさんが送ってくれるんだろ?」


*


「お迎えに上がりました。良いのですか、状況処理は」


「彼女の事かい? 悪い娘じゃあ無さそうだし、下手に記憶を弄ろうものなら彼の鉄拳が飛びそうだしね。細かな判断が英断、なんて事は無いよ」


 陽が沈みゆく夕暮れの中、口喧嘩のレベルにすら満たない口論をする少年と少女。


 二人の背中を見送るかのように見つめるタトルは、吹き出すように苦笑しながら、寿限無の車に乗り、帰路へとついた。


「学校、友達、青春・・・か。味わえなくて辛いね、救世主とやらは」


「後悔しているのですか?」


「違うよ、感謝しているのさ。僕等が払う代償がちっぽけなモノで、それでも沢山のちっぽけなモノを守れる力がある。・・・らしくないね。さ、今夜は何食べようか、なるべくなら高い所が良いよね、こういう日には」






to be continued

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