セキレイ、夏の女王と共に熊退治をする
その日は風がありませんでした。セキレイと夏の女王は慎重に歩き、周囲に注意を払いました。そして、占いで出た場所の近くに来ると、蜂蜜の甕を物陰に隠し、2人も大きな岩に隠れました。
(とても大きな熊……。怖いけれど、倒さなくちゃいけない)
セキレイは、夏の女王からもらったナイフを握り締め、緊張しながらも熊が来るのを待ちました。すると、どこからともなく大きな灰色の熊が現れました。顔に傷のある、大きな雄の熊でした。大熊は、蜂蜜の入った甕を見つけると、頭を突っ込んで夢中で食べていました。それだけ飢えていたのです。
「今だ!」
夏の女王は、斧を振りかぶり、熊の首を切り落とそうとしました。が、熊は甕から頭を抜き、振り下ろされた斧を受け止めました。
夏の女王は、ばっ、と離れ、再び斧を振るいます。熊は爪で斧を受け止めたり、受け流したりしています。
「ちくしょう、なんて強い奴なんだ」
夏の女王は歯噛みしました。
セキレイは熊が怖くて足が震え、動けません。夏の女王は斧を振るって熊と戦います。が、熊は夏の女王を涼しい顔でなぎ払おうとするのです。
夏の女王は斧に夏の力を込め、真夏の太陽の暑さとまぶしさを纏った一撃を放ちました。熊はそれを受けましたが、後一歩のところで踏みとどまります。そして、爪を一閃してついには夏の女王を振り払ってしまいます。
「うわあっ!」
夏の女王はどうにか受身を取りました。しかし、熊との戦いで疲れてしまい、ひざを突いてしまいます。セキレイは、怖くて震えているだけの自分が情けなくなりました。傷だらけになりながらも、夏の女王は戦っているのに……、と。
(怖いけれど、春の女王様を、夏の女王様を、たすけなくちゃ! オイラがやらないといけないんだ!)
セキレイは、勇気を振り絞ってナイフを投げました。すると、太陽の光がナイフに当たり、熊は目がくらんでしまいました。ナイフは弾かれることなく、熊の目に刺さりました。
「今だ!」
セキレイの叫びに気がついた夏の女王は、落とした斧を拾うと、渾身の一撃を熊に与えました。熊は、どどんっ、と鈍い音を立てて地面に倒れました。
男は、夏の女王とセキレイが熊を倒してきた事に大いに驚きました。そして、大きな声をあげて泣きました。ようやく大切な人の敵が取れた嬉しさと、傷だらけになって戦った夏の女王、そして、彼女と共に戦ったセキレイへの申し訳ない気持ちが綯い交ぜになった涙でした。
男は、約束どおり春の女王を解き放ってくれました。
「俺は、妻が好きだといっていた冬の中に埋もれたかった。だから、冬の女王を搭に閉じ込め、春の女王を捕らえていた。四季をとめるという恐れ多いことをした俺は、罰せられなければならない」
男の言葉に、夏の女王は言いました。
「大切な人を失った悲しみはわかる。けれども、だからと言って自然を壊すことは許されないんだ」
夏の女王は男に縄をかけようとしました。が、春の女王がそれを止めました。
「この人の悲しみはわかるのです。大切な人を失い、苦しくて、悲しくて、どうしようもなかったのです。どうか、縄をかけずにつれていってくれませんか?」
夏の女王は仕方なく頷きました。セキレイは夏の女王と、春の女王、男と共に城へ行きました。