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第十九話 ガチャの功罪

 “社畜病患者の為の医療施設”は、ディオニシオ特別病院という名前で、首都オルトドンティウムにオープンすることになった。病院名は社畜病の解決に尽力した功績を称えての命名と、その一報を伝える新聞には掲載されている。

 また、その新聞には長年にわたって労働省の依頼を受け、社畜病発症の為に動いていた会社“ホ地区防犯組合”の組織解体が執り行われたとあった。社畜病を発症させていた実行部隊のひとつが壊滅したことを受け、他の委託先は隠蔽工作に入るだろうというのがミッキーの見解だった。


 自分の名が冠された病院のオープン日、ディオニシオは病院の前に新聞記者を集め、彼らに向けたセレモニーを行った。メディアを通してのアピール目的だったが、社畜病患者がいる家の者や見物客も病院前に集まり、思わぬ渋滞となっていた。

 セレモニーが始まると、ディオニシオが地域長選出会で演説する大きな画像が披露され、病院をオープンするまでの経緯が、彼のユニットによって読み上げられた。

 次に、ディオニシオが台の上に乗って挨拶をし、オープンできる喜びを語った後、彼の銅像のお披露目となった。銅像は病気の回復を願い、彼が祈っている姿となっている。この銅像の発表は演奏付きだった。

 その後、ディオニシオがチガヤの両親を病室へと案内し、二人の手を取って微笑む場面が演出された。その光景は記者が連れてきたユニットによって『形態投影』されている。国によって社畜病にさせられてきた“ガチャの廃止を求める会”と、国が和解したように見せる狙いがあった。

 ここでセレモニーは終わり、記者たちは帰っていった。病室に残ったのはチガヤ、ベッドに横になる彼女の両親、スターリングシルバーの面々、ディオニシオと彼のユニットとなる。

「こんなの聴いてない……。これじゃ、まるで……」

 セレモニーのことなど聴いていなかったチガヤは、思いもよらぬ扱いに憤りを感じていた。特に、記者を前にしての両親の扱われ方が不満だったが、何がどう不満なのかはうまく言葉にできないでいた。それでも、親を政治的に利用され、見世物にされたという認識はあった。

「おや? 彼らから話はいっているものとばかり……。これは失礼。どうも、手違いがあったようだ。どうか、これで機嫌を直してほしい」

 憤るチガヤの手にガチャチケットを握らせると、それで謝罪は済んだとばかりにディオニシオは部屋から出て行った。彼のユニットも後に続く。

「何なのアイツ、一発ぶん殴ってやる!」

 ディオニシオの態度にキレたネココをモアと悟で取り押さえる。その間に、ミッキーはチガヤに頭を下げていた。

「本当に申し訳ない。彼が、こんなセレモニーを用意してるのは、私たちも……」

「ううん、ミッキーさんたちが謝ることじゃないよ。あの人が勝手にやったって、わかるから……」

 無理に笑顔を作ってチガヤは言う。

 実際、悟たちにもセレモニーの話は聴かされていなかった。彼女の両親を連れて行く日時を指定され、その通りにしたらこのようなことになったのだ。

 重苦しい雰囲気の中に、医療スタッフとしての勤務が決まったユニットたちが入ってくる。全員、白衣を身に着けているが、これはミッキーの提案によるものだ。汚れが目立つ色にすることで、逆に汚れを見過ごせない、衛生的な環境を保とうという意図がある。

 医療スタッフには、猫顔の亜人種、小人の男性、黒い翼としっぽを持つ女性がいた。

「初めまして、今日からお二人のお世話をすることになりましたレネーです」

 猫顔の亜人種レネーが名乗り出る。

「同じくダーンだ」

「私はフェナよ」

 小人ダーン、黒い翼のフェナと続く。

「彼女たちは、気持ちの落ち込みを緩和させたり、体の免疫力を高める能力を有しています。それを使えば一時的にではありますが、症状が少し収まりますので、繰り返し使用することで、徐々に“本来の自分”を取り戻せるのではないかと考えています」

 ミッキーの説明が終わると、チガヤはスタッフにペコリと頭を下げた。

「宜しくお願いします」

 ユニットであるスタッフに頭を下げるチガヤを見て、悟は彼女が他のマ国の住人とは違うように感じられた。“ユニットは所有するもの”という一般的な考え方とは違い、もっと温かみのある関係性を築こうとしている気がした。

 そんな彼女が医療スタッフと会話し始めたところで、握っていたガチャチケットが手からこぼれ落ちた。悟はチケットを拾って、チガヤに渡そうとする。

「落ちましたよ」

「あ、ありがとう……」

 受け取ろうとしたチガヤの手は、途中で止まってしまった。

「もしかして、要らない?」

「うん……」

「ディオニシオから貰ったものだから?」

「それもあるけど……。私、もうガチャは回したくないんだ」

 チケットを受け取ろうとしたチガヤの手は、元の位置に戻ってしまった。

「どうして……って、訊いていいですか?」

「……うん。あのね、この前、うちに来た時に見たイブキっているでしょ? イブキはね、自分で元の世界に帰ることを選んだんだ」

 チガヤは俯くと、服の裾を握って話し続けた。

「ガチャってね、“何かに入った状態で、今いる世界を離れたい”って思った人だけ出るって聴かされたから、その世界を抜け出したい人の手助けにもなるかもって、回してきたんだけど……。イブキは帰っちゃった。それって、元の世界に帰りたい人も、出ちゃうかもしれないってことだよね? こっちの世界より、元の世界がいいってこともあるって話だよね? 私は来たくない人を呼んじゃったんだよね……」

「それは……」

 “そうだ”としか言えない気もしたが、そう言ってはいけない気もしていた。それを認めてしまっては、“手助けにもなるかも”と思って回し、実際に助かったユニットの気持ちを裏切るように思えた。

「少なくとも、俺はマ国に来てよかったと思います」

 悟は自分で言って、自分で驚いていた。“マ国に来てよかった”と、今まで思ったつもりはなかったが、自然と口から出てしまっていた。だからといって嘘ではない。

 あることを思い立ち、悟は『脳内映写』の準備に入った。

 対象が自分なら呼吸を合わせる必要はない。念じれば『脳内映写』は発動する。しかし、悟には映したい場面があった。その場面を頭に思い浮かべ、祈るようにして『脳内映写』を発動させる。

 気づけば、悟の頭上には霧が発生し、そこに薄らと何かが見え始める。

 映し出されたのは、ドラム缶の中に叩き込まれた悟の姿だった。スキー場で暴行を受けた後なので、ケガをしている姿に室内は静まり返った。

「これは俺がガチャで出される直前の映像です。もし、ガチャで出ていなかったら、どうなっていたか……」

 当時のことを思い出して悟は苦笑した。同時に、映したい場面を出せて、少しだけホッとする。これをチガヤに見てもらいたかったのは、彼女のユニットにも自分と似たような状態から、ガチャによって召喚されたユニットがいるのではないか。それで救われたユニットがいるのではないか。だから、ガチャで誰かを召喚した自分を責めないで欲しいと伝えたかったからだ。

「ガチャで……救われた……?」

「そうなりますね。何ていうか、その……。今いる世界を抜け出したい人の手助けになることだってあるし、こっちに来て帰りたいって思う奴だっている。それは向こうにいても、こっちでも同じことなんだと思う。今の場所にいたい、ここから離れたい、そんな気持ちを抱えて、みんな暮らしてる……。だから、誰かが帰ることを選んだとしても、あなたは何も間違っちゃいない」

 悟は心のままに言葉を重ねていった。途中から、自分でも何を言ってるのか、わからなくなってきたが、それでも伝えたい気持ちだけで突っ走った。

 結果、チガヤは瞳を潤ませ、差し出したガチャチケットを受け取った。

「ありがとう……」

 礼を言われると照れ臭くなる。そう言えば、能力が発動したままだったと、慌てて映像を消しにかかる。映像はガチャから出て、チェストミールと会う場面に切り替わっていた。

「そのチケットで、危機から脱する奴が、いるかもしれないから……」

「うん。スコウレリアに戻ったら、回してみるね」

 チガヤは笑顔を見せて頷いた。その視線がガチャチケットに向かうと、「あっ」という小さな声が漏れる。

「変人限定って書いてる」

 ガチャチケットをよく見てみると、変人限定ガチャ専用と書いてあった。ガチャを回して出てくるのが変人では、さっき言った言葉も形無しだなと悟は天を仰いだ。思わず、二人の間で笑いが起こる。

 突然、ミッキーの方からブーンという音が鳴りだす。何事かと皆の注目がミッキーに集まると、彼は上着の裏地に張り付いた虫を見せた。

 殺意に対して反応するスカラビーが、羽根を広げて羽ばたこうとしていた。それをミッキーが押さえ込み、内ポケットの中へと入れる。

「部長、その虫って……」

「危険を知らせるスカラビーだよ、モア君。どうやら、誰かに殺意を持った者が近づいているらしい。スカラビーはね、自分が抱くイメージを送るスキル『精神感応』を持っているんだけど、さっき送られて来たのは3つの人型だった」

 つまり、相手は3人ということになる。

 悟たちは警戒しながら、窓の外に目をやった。3人というヒントを手掛かりに、病院の周りを見ていると、ちょうど3人の男たちが歩いてきているところだった。一人は短めの金髪で顔に傷がある男。もう一人は、いわゆるリザードマン。残る一人は茶髪のロン毛で、特徴的な垂れ目をしている。

 その垂れ目の男に、悟は見覚えがあった。忘れもしない、バイトしていたスキー場に来た迷惑客だ。奴も同じ世界に飛ばされ、同じ時間に同じ場所にいるという天文学的な確率に、悟は熱い感情が込み上げるのを抑えられなかった。

「こんなことがあるから“運命”なんて言葉ができてしまうんだ」

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