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第十八話 思い出の存在

 浮遊島から『空間転移』を繰り返し、スコウレリアの街に着く。悟にとっては見慣れた緑の世界、苔だらけの風景だった。

「家は……スコウレリア第三事務所から近いね」

 地図を取り出してミッキーが言う。

「それなら、俺が案内しますよ。地図を貸してもらえますか?」

「じゃ、頼むよ。この辺は君の方が詳しいだろうからね」

 ミッキーから地図を受け取り、悟は何度となく通った道を歩いた。それはスコウレリアのガチャ神殿から第三事務所へと続く道で、彼がいた第一事務所も近くにある。

 見慣れた第一事務所を過ぎ、第三事務所のところで曲がって、人気のない場所へと入っていく。見かける建物の数が減り、代わりに何かの鳴き声をよく聞くようになった。それは鳥の鳴き声のようでもあり、虫の鳴き声のようでもある。

「ホントに、こっちであってんの?」

 後ろをついてくるネココが、あまりの人気のなさに不安を口にする。

「大丈夫、ほら」

 進行方向に小さな家が一軒だけ見えてくる。白い壁が苔に覆われた小さな家だ。悟たちは家へと近づき、玄関を前に止まる。中からは賑やかな話し声が聴こえてくる。

 ミッキーがコンコンと木製のドアをノックすると、ドアがゆっくりと開いて一人の少女が顔を出した。

 歳は悟と同じくらいで髪は栗色、簡素な布の服に白いケープを羽織っている。

「初めまして、私はスターリングシルバーという会社に勤めるミッキーという者です。今日は社畜病の治療の件で伺わせて頂きました」

「社畜病の……?」

「はい。先日、オルトドンティウム地域長にして第一院議員のディオニシオ氏らの働きで、“社畜病患者の為の医療施設”ができたのは、ご存じかと思いますが……」

「みんな、知ってる?」

 彼女は知らない情報を聴くと、振り返って確認を取った。

 家の中には目つきの悪い妖精、ワニ顔のリザードマン、手足のある魚、大きなカエル、太った天使、ウサ耳の少女がいたが、その誰もが首を横に振っている。

「あの、新聞は取られてないのでしょうか……」

「うん。うちには、そんな余裕はないから」

 明るく貧乏アピールされ、ミッキーは一瞬だけ固まったが、気を取り直して持っていた新聞を取りだした。

「これが、そのニュースが載ってる新聞なんですが……」

 その新聞の見出しを見るや否や、少女は食い入るようにして記事に目を通した。

「……病気が治るの?」

「残念ながら、治療方法を模索している段階です。ですが、私がいた世界にも同じ病がありましたので、そこで取られていた処法は、ここでも活かされるものと信じております」

「そうなんだ」

 少女の表情は一気に華やいだ。

「それで、ですね……」

「中に入って。私はチガヤ……えっと、ミッキーさんだっけ?」

「はい、ミッキーです。それでは、失礼します」

 ミッキーから順に、スターリングシルバーの面々はチガヤの家へと入っていった。

 大きなテーブルを囲むようにして座り、事の経緯をミッキーが説明し始める。チガヤは真っ直ぐな瞳をミッキーに向けたまま、うんうんと何度も頷いて聴いていた。

「……ということで、ご両親を医療施設に迎え入れる運びとなったわけです。この施設は無償ですので、お金の心配は要りません」

「難しいことはわからないけど、パパとママも家でこうしてるよりは、いいのかなって思う」

「それでしたら……」

 入院患者第一号に……とミッキーが言いかけたところで、目つきの悪い妖精がチガヤの肩に座って言ってきた。

「いきなり来て、“親を連れて行きたい”ってのは、どうなんだろうな」

「まぁ、そうなりますよね。こちらとしては、すぐに了承をというわけではありません。いろいろとご不明な点や、懸念されていることもあると思いますので、その辺が解消されて、ご納得頂けるようでしたらという話になります」

 営業スマイルを見せるミッキーに、目つきの悪い妖精も黙る。

「ねぇ、サーヤ。この人たち、悪い人じゃないと思うんだ。私ね、この人たちに賭けてみたい」

「チガヤ……」

 自分の肩の上に乗る妖精サーヤにチガヤが囁く。チガヤを取り囲むユニットたちは、心配そうな目で彼女を見ていた。

「みんなも、そんな心配そうな顔をしないで。きっと、大丈夫だから……あっ、そうだ!」

 何か閃いたのか、チガヤは手をポンッと叩いた。

「さっき、これまでのことを説明してくれたけど、そこで出てきた『脳内映写』を使ってくれれば、ミッキーさんたちが頑張ってきた姿が見られるんじゃないかな? そしたら、みんなも……」

 チガヤの提案を受けて、ミッキーが悟に目で合図する。ミッキーの親指は自分を指していた。

「それじゃ、『脳内映写』を使いたいと思います」

 そう言って悟は『脳内映写』の準備に入った。

 目を閉じて耳を澄まし、ミッキーの息遣いを感じる。次第に呼吸が合っていき、目を開けると、悟を中心に光の輪が広がっていた。ミッキーの頭上には霧が発生し、そこに薄らと何かが見え始める。

 映し出されたのはイネスの夫、ナサリオに『脳内映写』を使った時のものだった。

「あっ、ナサリオさんだ……」

 映し出された男性の顔にチガヤが驚く。そんな彼女を見てサーヤが問う。

「この人、知り合い?」

「うん、パパの友達なんだ。昔ね、同じ会に所属してたの」

 ナサリオもガチャの廃止を求める会に所属していた。ラストメンバーとなったチガヤの両親の知り合いだとしても不思議はない。むしろ、彼女の両親の知り合いの多くは、社畜病に苦しんでいる可能性が高いとさえ云える。

「治療法がわかれば、ナサリオさんたちも……」

 チガヤの視線の先には『脳内映写』で映された他の患者の姿があった。ミッキーの記憶を元に映し出されていく映像は次々に変わり、その中には彼の同僚と思しき布団を被った男性の姿もあった。

「もう、いいよ」

 元同僚の姿に顔をひきつらせたミッキーを見たからか、チガヤは悟に能力の停止を促した。悟が使用を止めるとミッキーの頭上にあった霧が消える。

「ほら、いろいろ調べて頑張ってたんだよ。だから、ね?」

 そう言うチガヤを見て、彼女のユニットたちも納得したような顔を見せる。それを見てニコッと笑ったチガヤは悟の方を向いた。

「こっちだけ見せてもらうのも不公平だよね。私にも使って、その能力」

「何も、そんなこと頼まなくてもさぁ……」

 サーヤは呆れ顔だったが、チガヤは真剣そのものなので、悟は再び『脳内映写』の準備に入った。

「それじゃ……」

 とだけ言い、目を閉じて耳を澄まし、チガヤの息遣いを感じる。次第に呼吸が合っていき、目を開けると、悟を中心に光の輪が広がっていた。チガヤの頭上には霧が発生し、そこに薄らと何かが見え始める。

 映し出されたのは一人の少年の姿だった。ジャージ姿で黒髪という出で立ちは、悟が元いた世界の住人を彷彿とさせる。

「イブキだ」

 イブキと呼ばれた少年の姿に、チガヤをはじめ、彼女を囲むユニットたちが笑顔を見せる。彼女たちにとって彼は、笑顔をもたらす存在なのかもしれない。ただ、ウサ耳の少女だけは胸に手を当て、何かを堪えるように映像の中の彼を見ていた。

 彼がいる場所には見覚えがあった。階段状の観客席、丸いバトルフィールド、そこはミッキーと初めて会った場所、あのユニット交換会が行われた会場だ。

 会場内には酸の雨が降り注ぎ、人々が逃げ惑っていた。その雨を降らせているユニットは全身が何かに覆われ、パッと見では黒い銅像のような状態となっている。悟は『万物拒絶』という能力のことを思い出した。

 『万物拒絶』は能力を無効化する体表コーティングだが、コーティングされるのは体の前半分。前面だけ鉄壁ガードの能力で、元同僚のノエが使えるスキルだった。その全身版が今見ているものだとしたら、これは進化によって強化された『万物拒絶』ということになる。であれば、あの日トレードされたノエが事件の犯人、もしくは素材として消えた側である可能性が高い。悟の胸中は複雑だった。

「これは、進化したユニットが暴走した事件……」

 ミッキーは映像の内容に少し身を乗り出していた。

 映像はイブキが他のユニットたちから“力を借りている場面”に移り変わっていた。ふと、悟は元いた世界でバイトしていたスキー場のことを思い出し、あのときの仕事仲間は力を貸してくれなかったと、今さらのように振り返る。

 バイトの先輩は自分の個人的な意見を言うだけで、迷惑客の処理は自分の仕事じゃない顔をしていた。他のスタッフも似たような感じで、今思えば当事者意識が欠けていた気がする。それがイブキに力を貸すユニットたちには感じられない。それが羨ましかった。

 悟が感傷に浸っている間に、映像は猛スピードで場内を駆け巡っているイブキの姿に移り変わっていた。場内を一周したイブキが暴走ユニットの前までやって来ると、ウサ耳の少女が駆けつけて……というところで、霧の前に白い布がぶら下げられて見えなくなる。隠したのはウサ耳の少女だった。

「そこは隠しますよねぇ~」

 大きなカエルが頷く。

「仕方ないのだ」

 太った天使も同調する。

 少しして、ウサ耳の少女が布を外すと、黒い銅像のようだったユニットが能力の使用をやめ、元の姿を現したところだった。そのユニットは悟の知らない男で、彼はイブキに触れられたことでフラついたように見えた。

 映像はそこで切り替わり、チガヤたちが浮遊島にいるものが映し出される。彼女たちの傍にはケイモの姿があった。

 悟はもういいだろうと判断し、ここで『脳内映写』の使用をやめた。チガヤの頭上にあった霧は消え、それぞれが雑談を始める。チガヤのユニットたちは、イブキの姿に思い出話をしているようだった。

「あの、ひとつ訊いてもよろしいでしょうか? 進化したユニットは何故、自ら能力の使用をやめたのでしょう?」

 ミッキーが軽く手を挙げて訊くと、チガヤがユニットたちと目を合わせた後に、ワニ顔の手を引いた。

「ワニック、答えてあげて」

「仕方ない。では、お耳を拝借……」

 耳打ちされたミッキーは愕然とし、苦笑しながら頭を抱えた。

「部長、私にも教えて~」

「いやぁ~、モア君。聴いてもピンと来ないかもしれないよ、これは……」

「勿体ぶらずにぃ~」

「後で話すよ……。常々、戦いというものは、見方を変えれば滑稽な行為だと思ってたけど、もはや彼にかかればギャグそのものだ」

 内容を知りたいモアをよそに、ミッキーは一人で何度も頷く。悟も気になっていたが、後で話すというので、それまでの楽しみに取っておくことにする。

 一方、コブはウサ耳の少女に話しかけていた。その触手のような手には『形態投影』で紙に映したイブキの画像が握られている。

「よろしければ、どうぞ。ずっと、彼だけをご覧になられていましたので、形に残した方が良いのかと思いまして、僕のスキルを行使したわけです、はい」

「ありがとう……」

 イブキの画像を受け取ったウサ耳少女は、感謝を口にしながらも涼しげな表情を変えなかった。

「礼には及びません。エリートですから、このくらいは当然です」

 得意げに言うコブの手には、まだイブキの画像が残っていた。

「コブ、その手にあるのは何?」

「これは失敗作ですよ、ネココ殿」

「ちょっと見せて」

 ネココが紙を取って見る。映されているのはイブキで、ウサ耳少女に渡したものと大差がなかった。どの辺が失敗なのか、ネココと悟には理解できない。

「あたしには同じに見えるんだけど」

「ネココ殿も、いつぞやのモア殿のようなことを……。サトル殿なら、違いがわかりますよね?」

 コブに紙を渡されるが、やはり写りの違いなどわかりはしなかった。

「俺にもわからない。ところで、これ、貰ってもいい?」

「ええ、失敗作ですから構いませんよ」

「じゃ、貰っておくよ」

 悟はイブキの画像をまじまじと見た。映像ではなく静止画で確認すると、気になっていたことが確信へと変わる。おそらくイブキも、自分と同じ国から来たのだと。

「そういや、あんたってイブキと似てるよな」

 目の前を飛んでいたサーヤが話しかけてくる。

「たぶん、同じ世界から来たんじゃないかな。それも、同じ国から……。彼は、どんな奴だった?」

「イブキか? まぁ、変な奴だったよ」

「変?」

 周りにいたユニットたちも、“そうそう”と同意している。自分と同じ世界から来た人間が、異世界で変人扱いされているのは少し複雑だった。


 そんな雑談が十数分ほど続いたが、両親を入院させることに同意を得たので、その日が来たら迎えに来るということで、この日は会社に戻ることになった。

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