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第十五話 投票の在り方

「ところで、ヒューゴさんの方は、例の事件の影響はどうです?」

 話がまとまったところで、ディオニシオは別の話題を切り出した。

「ユニット交換会ですか? 進化ユニットの暴走では、迷惑をかける結果になって申し訳ない」

「いえ、悪いのは進化を禁止された場所で、それを破った輩でしょう。その点で言えば、私たちは二人とも被害者であって、加害者ではない」

「そう言って頂けると有り難い。あの一件は自分個人にとって痛手とはいえ、それでグラつくような会社じゃないんでね」

「それは凄い、流石と言うべきか……。それに比べ、ブラウリオがやっているオルトドンティウム大市場は、進化用ユニットに比重を置き過ぎてダメです。進化が禁止されたら即破綻ですからな」

「事業では何を選択するか、何に集中するかが肝。しかし、リスク分散を怠れば、ひとつがダメになったら全てが終わる。別の選択肢を用意すべきでしょう」

 ディオニシオは頷きながら、『脳内映写』の画像を手にした。

「先ほど、説明された『脳内映写』というアビリティですが、この能力は彼が?」

「ええ、彼の能力です。お見せしましょうか?」

 ミッキーが提案すると、ディオニシオは怪訝そうに悟を見た。

「私の裸が映し出されても困るのだが……」

 そう言って、ディオニシオは新聞をテーブルの上に置き、闘技場ニュースの箇所を指さした。そこには“記憶の中にある裸を映像化 革新的なポルノ能力”という見出しがある。

「いや、昨日はたまたま……。これは周囲にいる誰かの記憶を映像化する能力でして、必ず裸の映像が出るわけではなくてですね……」

「それは、先ほど説明頂いたのでわかっていますが、裸が出ないと言い切れますか?」

「出ないとは言えませんが……」

 ミッキーのフォローも、裸NGのディオニシオには届かなかった。それをみかねて、ヒューゴが悟の肩を叩く。

「記憶を映像化する対象者は選べないのか?」

「集中すれば可能です」

「じゃ、俺様でやってみろ」

「はい」

 思わぬ提案を受けて、悟は『脳内映写』の準備に入った。

 目を閉じて耳を澄まし、ヒューゴの息遣いを感じる。次第に呼吸が合っていき、目を開けると、悟を中心に光の輪が広がっていた。ヒューゴの頭上には霧が発生し、そこに薄らと何かが見え始める。

 映し出されたのは、幼き日のヒューゴと思しき少年とケイモだった。二人は何かを言い合っていたが、そのうちヒューゴはその場から立ち去ってしまう。

「これは、子供の頃のヒューゴさんですか?」

「まぁ、そうなりますかね」

 自分の昔を見たヒューゴは苦笑した。

「どうして、この記憶が?」

「感情に結び付いた記憶ほど、呼び起こしやすい傾向にありますので、きっと印象に残ってる場面なんでしょう」

 ディオニシオの問いにミッキーが答えたところで、悟はアビリティの使用をやめ、ヒューゴの頭上にあった霧は消滅した。

「この『脳内映写』に関しては、今後もバトルで認知度を上げていく予定ですので、次の地域長選出会の辺りには“霧の中の画像”というだけで、その意味を多くの人がわかってくれるはずです」

「そう願いますよ」

 ミッキーを見てディオニシオが強く頷く。少しの沈黙ののち、もう話はないと判断したのか、ヒューゴはスッと立ち上がった。

「それでは、今日はこの辺で」

「今後とも、どうか宜しく」

 ディオニシオも立ち上がり、白い歯を見せた。


 ディオニシオ邸を出た後、別の用事があるヒューゴと別れ、ミッキーと悟は会社へと向かっていた。

「さて、明日からのバトルも頼むよサトル君。次の地域長選出会までには、『脳内映写』をマイナー能力から卒業させないと」

「その地域長選出会って、選挙みたいなものですか?」

「ん~……選挙と言えば選挙だが、私たちがいた世界のものとは似て非なるものかな。この国の政治はね、中央と地方に分けられるんだ。地方の代表者の選抜方法は地区で違っていて、血筋による継承、候補者への投票などがある。この投票が選挙に近いけど、有権者が1人1票を投じるわけじゃないんだ」

「えっ?」

 1人1票じゃない投票と言われ、自分の知っている選挙を想像していた悟は少し混乱した。

「まずね、オルトドンティウム地域長の場合、この地区で働く役人から選ばれるんだ。彼らの中には様々な部署を渡り歩いて、いずれは人の上に立つべく行政を学ぶ異動組と、同じ部署で働き続ける固定組に分けられる。この異動組の中から、相応しいと思われる人が何人か選ばれ、選出会で演説をした後に投票となる」

「誰にでも立候補のチャンスがあるわけじゃないんですね」

「そうなんだよ。そのことをヒューゴさんに話したら、“前にいた世界の投票システムを話せ”とせがまれてね、一から話したら鼻で笑われよ」

「どうして?」

「誰もが立候補できて、知名度があるだけで選ばれている実情を話したら、“それじゃ、行政の素人が選ばれる可能性もあるじゃないか。欠陥だらけのシステムだ、見直した方がいい”とね。その素人が当選した後に“これから勉強します”と言っていた話をしたときなんか、もう呆れて声も出ない感じだったよ」

 言われてみれば、見直したくもなる制度だ。これが民主主義のスタンダードと思っていた節があるが、より優れた選出方法を模索すべきではないかとさえ思える。

「1人1票というのも理解し難いようだったよ。この国ではね、平均年齢が50歳くらいなんだけど、14歳で投票権を得た後は年々持ち票が増えていって、30代半ばで1人15票にまでなる。そのあとは歳を取るごとに持ち票が減っていくんだ。これはね、老い先短い者では先々のことを考えずに、目先の数年だけで判断してしまっても、投じた票の責任を感じることなく亡くなる可能性が高い。一方で、若いときは経験不足から判断を誤りがちだという考えから、こうなっているそうだよ」

「考え方としては、至極真っ当な気がしますね」

「まぁね。で、先の持ち票が基本票なんだけど、これに所得票というのが足されるんだ。所得が多い者は少ない者より多くの税を払っている。街に貢献している分だけ、発言権を与えるべきだという発想だよ。ディオニシオ氏が言っていた“所得が多い者をどう取り込むのかが鍵”というのは、これがあるからなんだ」

 何となく聴いていたヒューゴとディオニシオの会話が、少しずつわかってきたような気がする。

「私たちはユニットだから免税されてるし、参政権もないけど、ユニットが稼いだ分は所有者から徴収されているんだ。会社に属している場合は、報酬分から前もって引いていて、それを会社側で納めているケースが多い。こういった税が道の整備や闘技場の運営に使われているんだ。一方で、中央の政治はガチャや土地の貸与税などを収入源としている。この国の場合、土地の個人所有は無くてね、すべて国から個人に貸しているという形なんだ」

「その中央の政治を行う人は、どうやって選ばれるんですか?」

「二通りある。中央の政治を行う場、それが中央議会なんだけど、ここには第一院と第二院がある。第二院の議員は、建国に貢献した家系の者が代々なっている世襲制だ。そういうこともあって、昔は貴族院や元老院なんて呼ばれていたそうだよ。労働省などの各省庁の役人も、彼らでなければ応募資格が無い。まぁ、実際の作業は何処かの会社に委託してるんだけどね。それに対して、第一院は各地方の地域長で構成されている。つまり、地域長に選出されれば、中央の政治にも参加できるので、ディオニシオの肩書は第一院議員、オルトドンティウム地域長の2つとなる」

「両方に出るって、大変じゃないですか?」

「何事もやり方次第さ。中央をメインに活動して、地方は副地域長に任せてる地域長もいる。ディオニシオの場合は、自分の利益に関係する方を優先するタイプだよ」

 行動原理がわかり易いが、最悪のタイプにも思えた。

「まぁ、なんだ……。その地域長選出会でディオニシオに勝ってもらわないと、我が社としては次のステップに進めないってわけだ」

 うんうんと頷きながらミッキーは悟の前を歩いていく。悟はディオニシオの為にではなく、病気の人の為に彼を勝たせようと思いながら、先を行く彼の後を追いかけた。

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