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第十一話 解決策

「サトル君?」

 ミッキーに呼びかけられ、悟は先を行く同僚の元へと走った。ミッキーたちに追いついて振り返ると、マントの人物は悟を見たままだった。

「ジェホシュ……」

 思わず、彼の名を口にする。

「知り合いなの?」

 ネココが意外そうな顔を見せる。

「たぶん、アイツは元同僚。同じ所有者の元で働いていた男だ」

「それじゃ、あんたも何たら軍?」

「俺は革命軍に参加したことはない。アイツに何度も誘われたけど断っている」

「何度も……って、よっぽど戦力として欲しかったんだね」

「どうかな……。単にしつこいだけだろう。アイツの誘いが嫌で、他のところへのトレードを希望した同僚もいたよ」

「へぇ~……」

 トレードを希望していた同僚のことが不意に甦る。ちょっと暗い感じの男で、ジェホシュの勧誘をハッキリ断れなくて悩んでいた。確か、名前はノエ。何人もいるチェストミールのユニットの中でも、目立たない方だったこともあって、悟も話したのは数えるほどしかない。

 彼はトレード先で元気にしているんだろうかと、元同僚のことを気にかけていると突然『空間転移』によって場所が変わった。いきなり、森の中へと移動していた。

「ちょっと部長、使う前に一言言ってよ! ビックリするじゃない」

 黙って使われたことでネココが怒鳴る。

「ビックリした? それは悪かったね。そろそろ、この移動にも慣れてきただろうから、声掛けも要らないかと思ってさ。じゃ、改めて行くよ」

 『空間転移』を繰り返して、あっという間に島を抜け出る。海岸から山へと向かい、来た道を瞬間移動で帰っていく。

「今日のは、なかなかよく写せました。昨日よりもクッキリ、ハッキリです。この精進こそエリートたる証。素晴らしい」

 移動の最中、『形態投影』した紙を眺め、コブは自画自賛した。

「どれどれ? ん~……私には違いがわかんないなぁ~」

 紙を覗き込んでモアが目を細める。

「あとで見比べてみればわかりますよ、モア殿。一目瞭然ですから、はい」

 『形態投影』で写したものに差があるなんて話を悟は聴いたことが無かったし、コブが持ってる紙を見ても違いがわからなかった。それよりも、この証拠を集めてどうするのかが気になる。

「この証拠を集めて、最終的にはどうするんですか?」

「勿論、多くの人に伝えて、事実を知ってもらうのさ」

「新聞か何かに載せるんですか? それとも裁判的な何かで?」

「この国には裁判と呼べる程ものはないよ。あったとしても、国相手に勝てると思うのかい? 今、もう一人の出資者が準備してるのは別の方法だよ」

 喋りながらも『空間転移』は繰り返される。

「サトル君は、何を持ってして社畜病の問題を解決したとみるかな?」

「それは、罰するべき人物を罰した時に……」

「罰するべき人物とは、社畜病発症マニュアルでの対処を命じた労働大臣かい? それとも、そのマニュアルを使い続けてる役人かい?」

「どちらも」

「残念ながら前者は他界してるし、後者の中にも他界してる人が大勢いる。存命の者を罰したとしても、社畜病患者を取り巻く環境は変わらない。病気への理解が乏しい人は、前に君が思っていたように“怠けているだけ”という認識を変えないだろう。そもそも、悪い奴を倒せば全てが丸く収まってハッピーエンドなんてことは、早々あるもんじゃない」

 ミッキーは『空間転移』をやめ、移動に巻き込まれた小動物を遠くへと追いやった。

「出資者が考えている解決ポイントは、社畜病患者を取り巻く環境の改善と病気からの回復。そして、新たな患者を出さないこと。誰かを罰することは優先順位としては下になる」

「環境の改善なんて、一番難しいんじゃ……」

「そうかもしれないね。でも、誰かがやらなければいけない。そう考えての我が社さ」

 再び、『空間転移』が繰り返される。

「前に進化禁止法のことを話したのを覚えてるかい?」

「進化禁止法が否決されて、その反対派の主力がどうのとかいう……」

「そう。その反対派の主力に明日、会うことになっているから」

「何故?」

「出資者の一人、ヒューゴ氏が選んだのが政治による解決だからだよ。進化禁止法を否決させたオルトドンティウム地域長のディオニシオは、例の進化したユニットが暴走した事件を受けて、否決すべきではなかったと非難にさらされている。このままでは地域長の座も危うい。その彼の対抗馬は、祖先に例の労働大臣がいるカーステンだ。彼の親族の多くは労働省に勤務している」

 自分の野望でも語るように、ミッキーの喋りは熱を帯びていった。この手の話が好きなのかもしれない。

「わかるかい? ディオニシオにとって私たちが集めた証拠は、ライバルのカーステンを追いやる格好の材料になるんだ。地域長の座に居座りたい彼を利用すれば、多くの人に事実を伝える結果となる」

「何も、その人を使わなくても、自分たちで……」

「ユニットが主張したところで、マ国の人の心には届かないよ。ユニットには参政権もないしね。まぁ、そんなものを認めたら、たちまち主導権を奪われて、マ国の人間が行き場を失うだろうから、当たり前というべきか」

 進化や強化で“いなくなる”ユニットの言葉の重みなど、その程度のものなんだと悟は冷静に考えて思った。

「それに、もしユニットが主張したのだとしたら、消しにかかるだろうね」

「殺されるってことですか?」

「ああ、もしくは素材にされるかだ。都合の悪い存在には社畜病という対処法を取ってきた連中だよ? 相手がマ国の人間でなければ、もっと容赦はしないだろう。マ国の人間であっても、消された例もあるがね」

「そんなことが……」

「あったさ。社畜病の命名者であるテレンバッハ氏は、記録上は酔っぱらって転落死となっているけど、氏には飲酒の習慣は無かったそうだよ。実際には、誰かに突き落とされたんだろうね」

「どうして、その人が狙われなければいけないんです?」

「社畜病の発症原因を調べていた彼は、長時間労働が原因のひとつではないかと言いだした。それが病名の由来なんだけど、彼が亡くなったのは、その主張をしてからすぐだった。おそらく、これ以上踏み込まれたら厄介だと判断したんだろうね。でも、彼の働き過ぎれば罹るという主張は生き続けた。残念なのは、マ国の人間は罹るがユニットは罹らないとされ、よりガチャを推進する結果となってしまったことだね」

 彼の主張がガチャ推進派にとって都合がいいように書き換えられた。そんな風に思えてならない。

「明日、会うことになっているディオニシオ氏は、その社会的な地位からいって簡単には消されない、というか消しにくい人物だ。所有しているユニットの数、そのセキュリティからいっても、間違っても狙いやすい対象ではない。だから、彼に託すところもある」

「でも、万が一ってことも」

「その万が一の為に、彼はスカラビーを持っている」

 ミッキーは上着の裏生地を見せた。そこには黒い虫が張り付いる。忘れもしない、悟とトレードされたコガネムシもどきだ。

「その虫は……」

「君とトレードされたものと同じ種類だよ。彼らは周囲に膜の結界を張るアビリティ『被膜結界』と、対象者に自分が抱くイメージを送るスキル『精神感応』を持っている。膜は物理攻撃や炎などに対して一定の強度を誇る優れものだし、彼らの殺意に対する反応は尋常じゃないからね。危ない奴が近づけば『精神感応』で教えてくれる。この“虫の知らせ”には、私も助けられたことがあるんだ」

 そこまでの能力があるなら、この虫と等価とみられたことも、恥ずべきことではない気がする。むしろ、虫の方が役立ちそうでもある。

「私がこれを持っているのは、もしもの時に備えてだ。例えば、ディオニシオ氏が世間に社畜病の正体を公表した後、誰が調べたのか辿ってきた場合なんかにね。サトル君の能力と今回の証拠の関係性から、公表後に疑いの目が向けられるのは早いだろう。なんでね、その前に活動拠点を移すことになると思うよ」

「はい」

 何度か『空間転移』を繰り返し、オルトドンティウムの街近くに降り立つ。そこで会社に戻るコブと別れ、悟たちは闘技場へと向かった。

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