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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X3章 まおうが あらわれた! コマンド?
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x3-4.『しつもんする』

 そこは美しい庭園でした。

 色とりどりの花が咲き乱れ、そうでありながらも乱雑にはなっておらず、それはもう見事に調和の取れた空間としか言いようのない、素晴らしい場所です。ここは一体どこなのでしょうか?


「うわぁー、なにココ?すっごい。なんかすっごい」


 そんな声で、あまりの美しさに呆けていた頭が再稼働し、周りの状況を確認する程度の余裕が生まれました。どうやらあの場に召喚されていた者達全員と、私の計七人がこの場にいるようです。


「ふっふーん、わかるかね?わかるかね?この素晴らしさが」

「もっちろんだよ!ここってアレでしょ?アレ。空中庭園ってヤツ!ゲーマーで空中庭園って言葉にときめかないやつなんているわけがない!」

「ほぅほぅ、お主、なかなか話がわかるではないか」

「いえいえ、お代官様には敵いませんよ」


 魔王の少女と、勇者の内の髪の長い方の女性がそのようなことを話しています。いえ、あの儀式魔法にて魔王が召喚されてしまったという事実がある以上、他の者達も勇者であると断定すべきではないのかもしれませんが。


「よしっ、きぃちゃんお茶お願い。とりあえず家の中で話をしよう。ここは私の家だから、遠慮なく上がってくれたまへ」

「はいはい。それでは皆さん、こちらへどうぞ」


 そう言って、ずっと少女の近くへと控えていた女性が、庭園の中心あたりにあるログハウスのような家へと案内してくれます。


「さぁ行こう、すぐ行こう。ほらほら、勇者達もお姫様も」


 それに続いて少女も家の方へと歩いていきます。しかし、勇者ではないのかもしれないと思ったそばから、彼ら彼女らが勇者であると思い知ってしまいました。でも、なぜ勇者と魔王が仲良くしているのでしょうか?いえ、確かにあの魔王でしたら敵対する気も起きないのでしょうけれど。


「ほらっ、お姫様も早く早く」


 少女のその言葉で、私だけが一人取り残されていることに気づき、慌てて皆の後に続きました。






「じゃあとりあえず、初めましての人がいるから自己紹介からかな?」


 家の中へと案内され、お茶を用意しに行った女性以外の全員がリビングルームの椅子へと座ってから、少女がそう言いました。


「まず私ね!最近魔王になりました、ユノでっす」

「では次に私が。この子の保護者をしております。きぃちゃんとお呼びください」

「いや、だから誰もそう呼ぶ人いないって……」

「……では、メイとお呼びください」


 魔王である少女、ユノさんが自己紹介をしている間にお茶を配っていた女性が続けて自己紹介をしますが、ユノさんから指摘を受けて渋々と別の名前を口にします。確かに、妙齢の女性をちゃん付けで呼ぶのにはなかなかに抵抗がありますので、ユノさんの指摘はもっともではあるのですが、どういった理由できぃちゃんという呼び名からメイという呼び名が出てきたのでしょうか?


「はいはいはい、じゃあ次アタシ!一応勇者で、望です!」

「勇者、小夜子」

「え?これわざわざ勇者とか言うの?……えーと、勇者の近重だ」

「……同じく勇者で、社です」


 そして次々と勇者達が自己紹介をします。後は私だけですね。


「グラディエル国にて、一応王女という立場におりました、ルミナと申します」


 これで全員の自己紹介が終わりました。しかし、魔王にその保護者、勇者に一国の王女と、肩書だけ見ればなかなかに混沌とした顔ぶれですね。


「自己紹介も終わったし、今後の話をしようか」

「あー、その前に一ついいですか?」


 ユノさんが話を次に進めたところで、コノエさんが申し訳なさそうな表情で口を挟みました。


「うん?なに?」

「とりあえず謝罪を。あの場では雰囲気に飲まれて、俺達何もできなかった。申し訳ない」


 そう言ってコノエさんが頭を下げると、他の勇者たちもユノさんに向かって頭を下げました。


「あぁ、なんだそんなこと。私ああいうのになれてるから別にいいのに」

「いや、そう言われてもな……いくら俺達よりも全然強いからって、年下の女の子に全て任せきりにしてしまったってのは、本当に情けない限りだ」

「本当にごめんね、アタシもなんかあそこの空気がピリピリしてて、何も言えなかったよ」

「私も、役立たず」

「俺もだ。あそこで発言する勇気もなくて、何が勇者だってんだよな……」


 ユノさんは本当に何でもないことのように言いますが、勇者達は口々に謝罪を述べます。しかし、そんなことを言ってしまえば、私の責がこの場にいる者の中では一番大きいでしょう。なにせ、強制的に呼び出した加害者の一人なのですから。


「私にも謝罪させてください。我が国の都合に皆様を巻き込んでしまいました。本当に申し訳ございません」


 そう言って頭を下げますが、ユノさんが明るい声でそれを否定します。


「あー、いいよいいよ。だってお姫様は無理矢理参加させられてたんでしょ?だってオッドアイだもんね」

「え?なんでオッドアイだと無理矢理参加なの?」


 ノゾミさんがユノさんの言葉に反応し、質問をします。私としましても、まさか目のことを言われるとは思わなかったため、ノゾミさんの質問に対する回答には大いに興味があります。


「んーとね、あの国ではオッドアイを持って生まれてきた子供は、忌み子って蔑まれる対象なんだよ」

「ええー、ナニソレ?なんでオッドアイだと忌み子なの?カッコイイじゃん」

「敵対する魔族にオッドアイが多いから、オッドアイの子が生まれると、魔族の生まれ変わりだとか言われてるんだって。馬鹿らしいよね」

「えー、もったいなーい。こっちの国だったら、みんなの憧れの的なのにねー」

「本当にねー」


 ユノさんとノゾミさんがオッドアイについて話をしています。ユノさんはこの目のことについてご存じだったのですね。別の世界から来たはずのユノさんがどうして知っていたのかはわかりませんが、それを知っていてなお、蔑みの目を向けられないということは存外に嬉しいものです。

 しかし、ノゾミさんの国では憧れの対象ですか……。こんな目で生まれてこなければと、ずっと思って生きてきたため、憧れと言われても全く想像がつきません。そんな国に生まれていれば、私も幸せな生活を送れたのでしょうか?


「ルミナちゃんもいじめられたりしたのかな?あ、でも王族なんだしそんなことはないのかな?」


 ノゾミさんのそんな言葉から始まり、それに答えては次々と質問をされ、つい身の上話などをしてしまいました。こんなこと、わざわざ人様に話すことではないというのに、どうして話してしまったのでしょうか?私も王城から離れることができて、思いの外浮かれているのかもしれません。会話が終わった頃には、ノゾミさんはなんとも形容し難い、複雑な表情をしていましたが。


「うわぁ、その年までずっと幽閉とか……あの王様、ほんっと(本当)サイッテー(最低)。ただ、ルミナちゃんを生かしていたのだけはグッジョブだね」


 私もそこについてだけは感謝しております。本当にそこだけではありますが。


「もしかしてユノさんは、それでルミナちゃんを連れてきたのかな?」

「あー、まあそこまでわかってたわけじゃないんだけどね。あの場でみんなが私たちを値踏みするような目で見てたところ、お姫様だけは申し訳なさそうな顔してたからね」


 どうやら召喚された勇者達を我が国の者達が観察していたように、ユノさんも我が国の者達を観察していたようです。私は一体どのような顔をしていたのでしょうか?見られていたと言われると、どうにも意識してしまい、なんとも恥ずかしい気分にさせられます。


「それで、この場にいるのがものすごく不本意だったんだろうなって思ったんだよ。あそこにいた人たちの中で唯一まともな感性をしてるっぽかったし、鑑定してみたらお姫様だったし、せっかくだから連れてきてみた」

「いや、お姫様だったしって……」

「だって、せっかく魔王になったんだからお姫様さらってみたいじゃん」

「いや、さらってみたいじゃんて言われても……」

「この子に常識を求めても無駄なので、そういうものと納得してください」

「あ、はい」


 ユノさんの言葉に勇者達が少し呆れたような様子で返事をしていましたが、ユノさんの保護者であるメイさんが会話に参加し、話が一旦途切れました。何気にメイさんの被保護者に対する意見が辛辣です。さっきまでユノさんと会話していたノゾミさんも、うなずくことしかできなくなっています。


「いやいやいや、なに言ってんのさきぃちゃん?私が常識ないみたいに言わないでよ」

「そう言っているのですが?まさか、自分が常識人だなどど言うつもりはありませんよね?」

「きぃちゃんひどい」

「納得出来ないというのならば例を挙げてみましょうか?アナタが散々やらかした常識外れな様々な出来事を。せっかくですので、ここにいる皆さんに判断していただこうではありませんか」

「あ、はい、ごめんなさい」

「うわ、保護者(つよ)っ」


 ユノさんとメイさんが言い合っていましたが、メイさんの勝利に終わったようです。保護者と言えど、魔王を説き伏せる存在というのもなかなかに恐ろしいものがありますね……。

 そしてノゾミさんの呟きには、他の勇者達もうなずいておりました。私も心の中でこっそりと同意しましたが。


「じゃあ、今後の話をしようか」


 ユノさんがあからさまに話を変えましたが、それを指摘するものはこの場におらず、皆温かい目でユノさんを眺めていました。

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