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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X3章 まおうが あらわれた! コマンド?
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x3-1.『よびだす』

 ああ……なんということでしょう……成功してしまいました……。


 室内に溢れる光の中に人影を見出した時、そんなことを思ってしまいました。そして続けてこう思います。


 失敗すればどれほど良かったことか。


 ちらりと玉座を見やれば、王が機嫌良さげに座っていました。それはそうでしょう。このろくでもない計画が、今成功しようとしているのだから……。






 それは一月(ひとつき)前のある日のこと、王の下へ多くの臣下が集められました。そこにはなぜか、王城の一室に幽閉されているはずの私の姿もあります。本来であれば、このような場に私のような存在を呼び出すなどありえないことのため、どうしたのだろうかと疑問に思いもしましたが、王の発せられた一言により、私は状況を理解しました。


「勇者召喚を執り行う。皆の者、準備をせよ」


 ああ、遂に私を使用する目的ができたのだなと。


「ルミナよ、やっと貴様が役に立つ時が来た。心得ておるな?」

「もちろんでございます、陛下」


 正直言えばやりたくない。しかし、私には拒否権がありません。だって私は、このために今まで生かされてきたのだから。




 勇者召喚とは、我が国に古代より伝わる儀式魔法です。この魔法は、異世界より勇者の称号を持つ者を強制的に召喚し、儀式魔法の統括行使者に対し隷属させるという、悪魔の所業とも言うべき魔法。そんな魔法を、この国の王は実行することを決めました。

 もちろん、そう簡単に実行できるような魔法ではありません。儀式には希少な触媒を多量に使用しますし、術者もたくさん必要です。そして何より、膨大な魔力が必要となるのです。それはもう、優秀な魔術師が百人いても足りないくらいの膨大な魔力が。

 私の役目は、この儀式魔法に必要な膨大な魔力の一端を担うこと。これが、この王家に忌み子として生まれてしまった私、ルミナ・エテ・グラディエルが、今まで生かされてきた理由なのです。


 私には、生まれつき強大な魔力が備わっておりました。強大な魔力を持つ者に、稀に左右の目の色が違う、いわゆるオッドアイを持って生まれ落ちる者がいます。私は、左目が翠、右目が碧のオッドアイを持って生まれてしまいました。

 この国ではオッドアイは忌み子の象徴。王家に生まれた私とて、例外ではありません。王家から忌み子が生まれるなどもってのほか。私は殺され、生まれなかったことにされてもおかしくはなかったのですが、私の魔力が今後何かに利用できるかもしれないという王の言葉より、私は生まれた直後から幽閉され生かされることが決定したのです。


 なぜオッドアイが忌み子なのか。それは至極単純な理由で、我ら人族と敵対している種族である魔族に、オッドアイを持つ者が多いからなのです。魔族には強大な魔力を持って生まれる者が多いらしく、必然、オッドアイを持つ者も多くなります。

 そしてオッドアイを持つ魔族は、魔力が高いがゆえに要職を担う場合が多く、昔は『オッドアイは魔族の象徴』とまで言われておりました。人族にオッドアイが生まれれば、魔族の生まれ変わりだと言われ迫害される程に。

 今ではオッドアイが生まれる理由も、魔力が高いからではないのかという説が一般的になってきてはおりますが、忌み子という昔から続いた因習を払拭できるまでは至っておりません。長年をかけて刷り込まれた悪感情は、そう簡単には覆すことはできないようです。




 王が勇者召喚の執行を決めてから一月が経った本日、遂に全ての準備が整い、儀式が開始されました。

 もちろん統括執行者は王が務め、儀式の補助に術者が約二十人。そこへ更に、儀式に必要な魔力を補うために集められた者達が、私を含め約百五十人(優秀な魔術師ほどの魔力をもった者はそれほど多くはいないので、数で補うことになります)という人数が、今回の儀式魔法へ参加いたしました。


 儀式は滞りなく進み、つい今しがた、哀れな犠牲者が四人……いえ、見間違えでしょうか、六人の犠牲者が召喚されてきました。私と同年代くらいの男女が二人ずつに、幼い少女が一人、大人の女性が一人の、計六人。皆まだ若く、人生はまだまだこれからだというのに、このようなことへ巻き込んでしまい本当に申し訳なく思います。

 召喚された時点で王へと隷属させられることが決定しており、おそらく強制的に魔族との戦争へと駆り出される事となるでしょう。拒否する権利も自由もなく、ただひたすらに命令を遂行し、戦争に投入されるだけの存在。それが我が国に勇者として召喚された者の末路となるのです。


 そんな残酷な行為に加担してしまったという事実が、私の心を重くします。

 仮に、私がいなかったとしても、結果は変わらなかったでしょう。私が補う分の魔力を、更に人数を集めて補えば良いだけの話です。そう思えれば、私の心も幾らかは軽くなるのでしょうか。しかし、私があの儀式魔法へ参加したことは事実。紛れもない加害者なのです。いてもいなくても変わらないような存在なのだから『私は悪くない』などと思えるほど、私の頭は単純ではないのです。とは言え、あの哀れな犠牲者達に私ができることなどなにもありません。せいぜいが心の中で『申し訳ない』と謝るくらいのことしかできないのです。しょせん私は忌み子で、必要な時以外は幽閉されて生涯を閉じるだけの存在なのですから。




「よくぞ来た、勇者達よ」


 召喚の光が完全に収まってから、王より召喚されし犠牲者達に声がかけられる。


「余はグラディエル国の王、ガドラム・アド・グラディエルである。召喚されし勇者達を、我が国は歓迎しよう」


 王は朗らかに言葉を紡ぐ。どうやら非常に機嫌が良い様です。それは当然なのでしょう。勇者という非常に強力な手駒が、六人も手に入ったのですから。


「其方等には、余の手足となり、この国のために働くという栄誉を与えてやろう。光栄に思うが良い」


 なんと傲慢な物言いでしょうか。この言葉に、勇者達は一様に顔をしかめています。無理矢理別世界へと召喚され、挙句、国のために働けと上から命令されるのです。不快感を覚えるのは当然といえるでしょう。

 ……いえ、一人だけ楽しそうに笑顔でいる子がいますね。幼いがゆえに状況が理解できていないのでしょうか?


 その少女が、王に向けて言葉を発します。まずい、とは思ったけれど、私には何をしてあげることもできません。王族とは言え、忌み子である私にはこの場で発言する権利も、行動する権利もないのですから。

 今の少女達は、王に隷属させられている状態。王の機嫌を損ねれば、どうなるかなんてわかりません。私にできることは、少女の言葉が王の機嫌を損ねないことを祈るのみ。しかし、少女の発した言葉を聞いた瞬間、その祈りはどこへも届くことなく、雲散霧消してしまうのだろうと思わずにはいられませんでした。


「ねぇねぇ、元の世界へ帰るための手段はあるの?」


 せめて……せめて、言葉遣いくらいは、わきまえて欲しかったです……。

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