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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
4章 私の妹がこんなに可愛い
84/116

4-15x.???視点(だがすぐに正体がわかる)

「ふぅ……まさかこんな結果になるとは思いませんでしたね」


 私は軽く息を吐き、思わず心の中にある言葉を口にしていた。未だ身体の震えは治まらず、激しい動悸が心を落ち着かせてくれない。

 アレから逃げる際には余裕を見せつつ退却したが、正直ってアレと相対した時は生きた心地がしなかった。

 私達の今後の活動のためにも、最強の冒険者と名高い『殲滅のユノ』の実力を測るためにあの無能をけしかけてはみたが、まさか『殲滅』と『断罪者』が同一人物だったとは……。

 有名とは言え、たかが冒険者の小娘だと高をくくっていましたが、あれほどの化物とは思わなかった。いえ、あんな容姿の少女が、あんな化物だなんて誰が思えるのでしょうか。


「あらあら?随分とお早いお帰りで。計画は上手くいっているのかしら?」


 背後からかけられた言葉に、思わず身体がビクリと反応してしまう。今の私には不意の女性の声は毒だ。こうやって拠点に戻ってきたにも関わらず、未だあの化物と対峙し続けているような、そんな嫌な緊張感が私の元を去ってくれない。安全な場所へと逃げ帰ってきたはずなのに、それでもまだ安心できないと私の心が訴えるほど、アレから受けた恐怖は凄まじかった。

 だからと言って、有りもしない恐怖にいつまでも縛られているわけにもいかず、正体不明の悪寒を振り払い、後ろから投げかけられた聞き慣れた声に返事をするために振り返った。


「ナルファーリムですか。計画は失敗……いえ、ある意味成功といっていいのでしょうか?詳しくは後程皆と一緒の時に報告しますが、想像以上に不味い相手でした。アレには手を出すべきではないとわかったことが、今回の何よりの収穫でしょうか」

「マニドがそこまで言う程の相手だったの?私にはそこまで危険な相手には見えなかったんだけど」

「ええ、危険も危険。手を出したら火傷なんかじゃ済みませんね。組織ごと大火事になる未来しか見えません」


 ナルファーリムの言葉に、私は目を瞑って首を横に振りながら答える。

 閉じた瞼の裏に映るはあの少女の姿。未だ恐怖は拭えず、生きた心地のしなかったあの場での記憶がありありと思い出される。


 ――――ゴトンッ――――


 私があの場面を思い出しながら思案にふけりそうになったところで、不意に音がした。何かが床に落ちたような音だ。何かと思い目を開いてみれば、今私と会話していたはずのナルファーリムと、目が合った。


「なっ……」


 何が起こったんだと口に出そうとしたが、言葉にならなかった。床に落ちたもの。それはナルファーリムの頭部だった。そう、ナルファーリムの頭が身体から切り離され、床に転がっていたのだ。

 私が驚愕と恐怖に飲み込まれそうになっていると、不意に背後から、聞き覚えのある少女の声がした。


だいせいかーーーーい(大正解)。あなたたちは私の大切な大切な大切な大切な大切なアニエに手を出してしまったため、組織ごと潰されることが決定しましたー。正解したアナタ、えーと、マニドさんだっけ?マニドさんには、組織が壊滅するさまをノーカットで見学する権利があたえられまーす。わー、パチパチパチパチー」


 後ろを振り向くと、先程遭遇し、逃げてきたはずの少女が笑顔で手を叩いていた。その姿を見た瞬間、幾らか治まってきていたはずの恐怖が蘇る。


「逃げられると思った?残念っ、きぃちゃんからは誰であろうと逃げることはできませんっ。逃げた気になってたんだろうけど、実際は逃がされただけなんですよー。道案内ご苦労ご苦労」

「なっ、な……」

「な?」

「何故、貴女、が、此処、に……?」


 恐怖に身がすくみ、うまく声が出せない。何故だ?何故、彼女が此処にいる?拠点の情報も、此処へと辿り着けるような情報も、残してきてはいないはずだ。どうやって、此処に辿り着いた?道案内?そんなことをした覚えは、私にはない。

 しかし、不味い。非常に不味い。この化物が、既に私達の拠点へと侵入済みだという事実が大変に不味い。彼我の実力の差は明白。彼女があの『断罪者』だということを知ってしまった今では、立ち向かうなど愚策も愚策。実際に既に一人、おそらくは自分が殺されたなんてことを理解する間もなく、命を刈り取られている。

 かと言って、既に私達の拠点へと立ち入りを許してしまった今、どうにかやり過ごすということも不可能に近い。どうすればいい?どうすればこの場を切り抜けられる?


「なぜって?そんなのアナタの魔力をたどって追ってきたに決まってるじゃないですかー。きぃちゃんくらいにもなると、アナタの使用した転移の魔道具に使用された魔力の痕跡から、転移先を特定するなんてことは簡単にできちゃうわけなんですよ。まあ、きぃちゃんならそんなことしなくてもここを探し当てることくらいできるんですけど、どうせなら楽な手段を選ぶのは当然ですよね」


 まさかそんな方法でこの場所が特定されたと?そんな馬鹿な話があってたまるか!

 確かに魔力には質というものがあって、個人の持つ魔力にも微細な質の違いがあり、全く同じ質の魔力を持つ個人はいないのではないか、という話を聞いたことはある。

 また、その魔力の質の違いを利用して、個人を特定することができるのではないかという理論があるということも知っている。実際、住民証や各ギルドで発行されているギルドカード、犯罪者を特定するための魔道具等の元となった古代遺物(アーティファクト)や、鑑定の魔道具のオリジナルである古代遺物なんかも、その理論を基に造られたのではないかという意見も出ているという。

 だがしかし、だがしかしだ、本当に微細な違いしかない魔力の質を、たかが人間ごときが把握できるはずもないし、仮にできたとして、それを基に広範囲を探知し、挙句探し当てるなんてことができるはずもない。そんなことができるとしたら、化物だけ……だ……。


 ――――――――――ああ……そうだ……目の前にいるのはその化物じゃないか……。


 この少女の言う『きぃちゃん』とやらがどういった存在なのかは知らないが、本当にそんな芸当が可能であるというのならば、それはやはりこの少女と同類(化物)であるということだ。それは厄介な存在が少なくとももう一人はいるという、私にとって絶望しかもたらさない事実である。しかもそのもう一人の化物の能力は、少なく見積もっても、追跡能力に長けているということは間違いない。どこへ逃げたとしても簡単に場所を特定されるなど、悪夢以外の何物でもないではないか。


「そういえば、ここに転移の魔道具の対になる座標指定の魔道具があるんだっけ?さすがは自分たちで『闇ギルド』なんて名乗ってるだけはあるよね。よくもまぁそんな国宝級の魔道具を手に入れられたもんだ。やっぱりこういうものは、どうしても闇ルートで流れちゃうものなんだろうかねぇ?まあ、今後またどこかで悪用されるのも嫌だし、壊しちゃおうか」


 少女は軽い調子でそんなことを呟き、言葉が終わるのと同時に、私のすぐ近くにあったはずの座標指定の魔道具が跡形もなく消え去っていた。そしてまさかと思い、自分の懐へと手を入れてみると、そこにあったはずの転移の魔道具までもがなくなっていた。あの一瞬で二つの魔道具を破壊したというのか?何かをしたのかすらわからなかった。


「さぁーて、それじゃぁ本日のメインイベント、闇ギルド壊滅ツアーはっじまっる(始まる)よー。お一人様ごあんなーい(案内)


 そんなのんきともいえる言葉で、私達の闇ギルドが、終わりを迎え始めた。

 少女が行動に移ってからは、正に阿鼻叫喚の地獄絵図とも言うべきだろうか。そこに一切の慈悲はなく、至極事務的に仲間達は殺されていった。私達がそんなに悪いことをしたのだろうか?思わずそんなことを考えてしまう程に、現場は凄惨であった。

 悪いことをしたのかどうかで言えば、もちろんした。そもそも私達は闇ギルドの一員だ。殺し、恐喝、暴行、誘拐、略奪、等々今までしてきたことを挙げれば枚挙に暇がない。組織の影響力を大きくするために色々な仕事を請け負ってきたし、遂行してきた。仕事では罪もない人たちのことを手にかけてきたことだって少なくない。これは因果応報とでも言うのだろうか。とは言っても、さすがにこの仕打はないだろうと、今までの自分たちの行いを棚に上げて思ってしまう。

 逃げ惑う者達もいたが、どういうわけか拠点であるこの建物から脱出することは叶わず、泣き叫び、命乞いをし、色々なものを垂れ流しながら絶命していく様を何人も見ることになった。そう、私には見ていることしかできなかったのだ。おそらくは何らかの魔法によって私の身体の自由は奪われ、自由に動かすことができるのは眼球のみ。瞼さえ自由にできないために目を瞑ることもできず、ただただ、ひたすらに、仲間達の死をこの目に焼き付けることしかできなかったのだ。これは一体どんな拷問なのであろうか。あの少女は化物どころか、悪魔でもあったのだ。むしろ魔王ですらある。あぁそうか、確かにあれは魔王である。この国の貴族連中も上手いことを言ったものだ。あの魔王の前には、等しく絶望と死がもたらされるのだ。私達のボスであるギルドマスターですら、手も足も出せず、最期にはみっともなく命乞いをしながら死んでいった。まさか、ギルドマスターがあれほど情けない男だったとは思いもしなかった。あの程度の男に今まで仕えてきたのかと思うと、悔しさが込み上げてくる。

 ここできっと、私の心は折れたのだろう。

 仲間達が無残に殺されていく様を見せられ、我慢ができなくなった。もうやめてくれと何度も叫びたくなった。いっそ私を先に殺してくれと思いもした。しかし私の口は依然として私の自由に動いてくれない。もがきたくても、私の身体は自由に動いてくれない。頭を掻きむしりたくなる衝動に駆られても、自分の腕は私の思うように動いてはくれない。発狂したくてもできない苦しみに耐え続け、そして遂には私が最後の一人となった。


 これでやっと、死ねる。


 そんなことを思ってしまっても無理はないだろう。先程まで散々に、この世の地獄を見せつけられていたのだから。

 そして少女は私に最期の言葉を投げかける。


「あぁそうそう、アナタが捨て駒にしていたあのまん丸の男の人だけど、アナタへの恨み言を散々わめき散らしていたから、死後の世界なんてものがもしあるのなら、気をつけたほうがいいかもね」


 正直言うと、組織も使命も失い、そしてこれから命すら失うであろう私としては、どうでも良い話であった。

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