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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
4章 私の妹がこんなに可愛い
83/116

4-14.かっこいいポーズ(主観)

「こーんにーちはー」


 私は扉を開け放ち、大きな声で挨拶をする。中にいた人たちの注目が私に集まるけど、気にせず言葉を続ける。


「幼い少女を誘拐しようなんてフザケたことを考えるクズ共に、報いを受けさせるために来ました―。心当たりのある者に告げる。逃げられるなんて思うなよ?貴様たちに引導を渡しに行くまでの短い時間、震えて待ってろ」


 のんきとも思えるような声で目的を告げた後、声色を変え、殺気を込めて全員を威嚇する。関係ない人からすれば災難だろうけど、騒がれたり余計な行動を取られたりすると面倒なので、ここは我慢してもらうしかないね。危害は加えないから安心してくれたまへ。


 大半の人たちは畏怖のこもった目で私を見てくるけど、何人かはなんというか、少し嬉しそうな表情をしている。え?マゾ?って違うか。これはあれだね、思いがけず有名人に出会ってしまったとか、そういう類の気持ちなんだろうか。なんせ今の私は断罪者バージョン。変身済みの格好でこの店へとやって来たのだから。


 自分で言うのもなんですけど『仮面の断罪者』っていえば、庶民や真っ当に生きている人たちの間では結構な人気があるのですよ。なんてったって、わずか一年程度という短い期間の中で、結構な数の害虫どもを駆除してきたという実績があるわけですし。ある意味災害ともいうべき理不尽を振りかざすクズどもに対して、泣き寝入りするしかない人々の代わりに無念を晴らしてくれる存在なんて、そりゃぁ人気出ますよね。逆にクズどもなんかからは『仮面の魔王』なんて呼ばれたりもしていますけど。まあ、クズになんて思われようがかまいませんけどね。しかし、そんなに私のことを魔王に仕立て上げたいというのならば、いっその事なってやろうかしら?


 ちなみに変身している理由については、この方が面倒が少ないからです。

 正直言って、今さら変身なんてしなくても権力やらなんやらをはねのけて、好き勝手出来るだけの力はあるんですけど、それは私個人に限ったことなんですよね。冒険者のユノとして暴れてしまえば、場合によっては満月堂に迷惑をかけてしまうかもしれません。私が満月堂で働いている以上、なにかしらの影響は与えてしまうでしょうし。まあ、もしそうなったとしても私が全力で守りますけどね。やろうとすれば満月堂のみんなを私が囲うなんてことも余裕でできますし。

 ただ、それをしてしまえば、みんなに不自由はさせなくとも、今まで通りなんていうわけにはいかなくなってしまいます。それは私としても、満月堂のみんなとしても本意ではありません。


 そこで登場するのが『仮面の断罪者』です。

 すでにこの格好が『悪人を断罪する正義の味方』として市井に認識されているので、色々と都合がいいんですよね。面倒も少なくなりますし。

 私が『仮面の断罪者』であることを知っているのは極わずか(私の家族と満月堂のみんな、それと一応貴族のアンネさんくらい)なので、断罪者バージョンで暴れても満月堂との繋がりを勘ぐられることもありませんし、そしてなにより『断罪者が現れた=そこに悪がある』という図式が自動的に成り立ってくれるので、私が『断罪者』として襲撃することにより、襲撃された側が被害者としてではなく、犯罪者として捜査の手が入ることになるというメリットもあるんです。そんなメリットなんてなくても、結局最終的には犯罪者として扱われることになるんだろうからどうでもいいじゃん?なんて意見もあるかもしれませんが、この国では金と権力で無罪を勝ち取るなんて事例がざらにあるので、意外と重要なメリットなんですよね。さすがに大勢の人間から罪人として認識されていれば、言い逃れするのは難しいですし。


 まあ、たかが飲食店のオーナー程度では完全な無罪を勝ち取ることは無理でしょうけど、それでも罪が軽くなる可能性はあります。それを潰す意味でも『仮面の断罪者』という存在は便利なんですよね。

 どうせ死ぬ(殺す)んだから罪が重かろうが軽かろうが変わんなくね?なんて意見は黙殺しますのであしからず。




 さて、それじゃぁそろそろお仕事を始めるとしましょうか。サクッと殺ってサクッと帰りましょう。

 ぶっちゃけて言うと、きぃちゃんが害虫を全てマーキングしてくれてるので、非常に楽なんですよね。私がすることは、ただそのマーキングされた人物へと向かい、退治するというだけの簡単なお仕事なのです。


 というわけでやってきました一番偉いっぽい人の部屋の前。え?ここにたどり着くまでの過程?いや、なにも面白いことなんてなかったので全編カットです。ただひたすら作業的に害虫駆除している描写なんてされても困るでしょ?というわけでいきなりクライマックスです。いや、クライマックスって言うほどのことでもないですけどね。


 部屋の中の反応は二人。きぃちゃんのマーキングから二人とも害虫であることを確認。すかさず扉をバーン!!部屋へと進入。そしてかっこいいポーズ!シャキーン!


「なっ、何だ貴様らは!!」


 部屋の中にいた丸っとした小物臭のする男が叫ぶ。私のかっこいいポーズはスルーされたようだ。さらにきぃちゃんから、くだらないことしてないで真面目にやりなさいと怒られた。しょんぼり。

 と言うか本当になんなんでしょうね?この害虫どもの肥満率って。今まで何度も害虫駆除を続けてきたわけですが、その中での偉い立場にあるゴミたちがほぼ肥満体っていうのはどういうことなんでしょうかね。あれですか?以前きぃちゃんが言っていたように、私腹を肥やしていたら体も肥えたってわけですか?いやいや、限度ってものがあるでしょう?


「…………」


 そして丸い男の隣にはひょろっとした長身の男。笑顔を貼り付けたような表情で、無言でこちらの様子を伺っている。なんとなくそのたたずまいや態度から、他の害虫どもとはなにかが違うような雰囲気がある。あ、きぃちゃんが毛色が違うって言ってたのはコイツのことかな?


「きっ、貴様は……魔王!?」

「まさかまさか、こんな大物が釣れるとは」

「なんで魔王なんかがここへ来るんだ!!」


 丸い男がしゃべる度に叫んでいてうるさい。そして長身の男はつぶやくように言葉を口にする。なんか体型といい話し方といい、対象的な二人だね。


「なんでと言われても、あなたたちを殺しに来たに決まってるじゃない」

「何故だ!私は何も悪いことなどしてないぞ!!」


 私が丸い男の叫びに応えてあげると、丸い男はさらに叫び返してきた。ずっと叫んでいて疲れないのかな?

 しかし、悪いことをなにもしていないって?まさかそんなわけあるはずないでしょう?


「なぜ?なぜだって?そんなこと、私の大事なものに手を出したからに決まっているじゃないか。一応私もターゲットだったらしいし、見覚えあるでしょ?」

「なっ……き、貴様は満月堂の……クソッ!あいつら失敗した上に証拠を残してきやがったのか!!」


 私が変身を解き元の姿に戻ると、丸い男は私に見覚えがあったようで、すぐに満月堂の件だということを理解したようだ。私がここへとたどり着いたことから、誘拐の実行犯たちが失敗したあげく証拠まで残してきたのかと憤慨しているようなんだけど、残念ながら証拠は残ってなかったんですよね。ただ単に、きぃちゃんがすごすぎただけなのです。きぃちゃんにかかれば完全犯罪だって余裕で看破しますからね。「謎は全て解けた」どころか「謎なんて最初からなかった」ってなレベルで。さすがきぃちゃん。さすきぃ。いや、語呂悪いなこれ。


「オイッ!お前!早くあれをなんとかしろ!!」

「いやいや、無茶言わないでくださいよ。私は頭脳労働派なんです。勝てるわけがないでしょう?」

「なっ!貴様っ!!貴様の言う通りにしたらこうなったんだろうがっ!!責任を取れっ!」

「私は貴方に案を出しただけで、実行しろなんて一言も言ってませんよ?人のせいにしないでもらえますかね?」

「き、貴様ーーーーーーっ!!」


 私が脳内できぃちゃんを褒め称えていたら、二人が口論をしていた。と思ったら丸い男が長身の男へと掴みかかった。


「グフッ」


 しかし、長身の男はひらりと身をかわした。丸い男は勢い余って床へと倒れ込む。


「やれやれ、これだから無能の相手は嫌なんですよ。」


 心底呆れたような表情で丸い男を一瞥した後、笑顔を貼り付けてこちらへと向き直る。


「まさかかの有名な『殲滅』のユノさんが『仮面の断罪者』だとは思いませんでした。なかなか良い土産話をありがとうございます」

「あら?冥土の土産かしら?」

「いえいえ、残念ながら私はここで死ぬつもりはありませんので。拠点に戻り次第、自慢させていただくことにしますよ」

「逃がすとでも?」

「貴女に逃がすつもりはないのでしょうが、これでも私、逃げることには定評がありますので」


 長身の男はひょうひょうとした態度で私と会話をする。どうやら私から逃げ切れる自信があるようだ。まあ、どれほどの自信があろうと、逃がすつもりはありませんけどね。


「さて、あまり長居をすると怖い人に殺されてしまいそうですので、私はそろそろお暇させていただくとします。あ、その男は好きにしていただいてかまいませんので。無能な男ではありましたが、最後の最後で役に立ってくれました。それでは、これにて失礼いたします」


 そう言うと長身の男は光りに包まれ、次の瞬間、長身の男のいた場所にはなにも残っていなかった。

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