4-9.妹はお姫様
私に家族が増えた日、マイホームの拡張作業をすることにしました。
同居人が増えるなんて夢にも思っていなかったので、必要最低限の部屋数しかなかったんですよね。ぶっちゃけ、豪邸だって作ろうと思えば作れたわけなんですけど、いくら掃除が必要ないからって、使いもしない部屋なんて作ったってしょうがないですし。シンプルイズベスト。快適な部屋が必要な分だけあれば十分なんですよ。
まあ、マイホーム作成早々に魔人形という同居人が増えたわけなんですけど、きぃちゃんは私と寝食を共にしているため、部屋数については全然問題なかったんです。
しかし、さすがに三人も増えるとなると明らかに部屋が足りないわけなんですよ。現状、個人の部屋として使えるのは私の部屋と、お客さん用の部屋(アニエが泊まる時のために作ったんだけど、アニエが泊まりに来ても私の部屋に入り浸り、私のベッドで一緒に寝ているため、結局使ってない)の二部屋のみ。さすがにお客さん用の部屋一室に三人押し込むってわけにもいかないので、部屋の増設をすることに。こういう時、自宅が迷宮で良かったって思いますよね。なんてったって、ちょっと迷宮核をいじってやるだけで増設が完了しちゃうんですから。そもそも、こんな簡単に増設できてしまうというのに、一部屋に三人も押し込むなんて選択肢はありませんよね。
というわけでマイホームの拡張作業をしていると、お兄ちゃんが興味深そうに質問してきました。
「ねえユノちゃん、それなにやってるの?」
そういえば、まだお兄ちゃんたちにマイホームが迷宮だということを伝えていませんでしたね。せっかくなので、自分の住むことになる部屋の希望なんかも聞いておきましょうか。
「部屋を増設してるんだよ。お兄ちゃんたちはこういう部屋がいいとか、希望はない?」
「お、お兄ちゃん?」
なにやらお兄ちゃんは、私のお兄ちゃんという呼び方に戸惑っている様子。増設という言葉はスルーされたようです。確かに、今までずっとイツキさんと呼んでいたのにいきなりお兄ちゃんと呼ばれれば戸惑ってしまうのかもしれないけど、もうお兄ちゃんは私のお兄ちゃんなのでお兄ちゃんと呼んでも問題はないはずだ。……いや、もしかして違う呼び方が良かったとかかな?
「お兄ちゃんは嫌?ならばお兄様?兄くん?あにぃ?兄君さま?おにいたま?」
「いやいやいや、なんでそのネタ知ってるの。かなり昔のやつだよねそれ。いや、いきなりだったからちょっと驚いただけで、好きに呼んでくれたらいいよ」
「じゃぁお姉ちゃ――」
「却下」
まだ言い終わってないのに……。まあ、気を取り直して話を進めよう。
「じゃぁお兄ちゃんで。で、お兄ちゃん、今、お兄ちゃんたちの部屋を作ってるんだけど、希望はある?」
「うん……うん?部屋を作ってる?」
「この家ね、実は迷宮なの。だから部屋の増設、作り直し、内装の変更、なんでもござれなのだ!」
お兄ちゃんたちは驚きすぎて言葉も出ないようだ。ふふん、私の家をそんじょそこらの普通の家だと思ってもらっては困るのだよ。ドヤァ。……空に浮いている家を普通の家とは言わないと、どこからかツッコミが入ったような気がするけど気にしない。
驚きから復活したお兄ちゃんはしばらく考え事をしていたようだけど、どうやら考えがまとまったのか、私に話しかけてくる。
「ねえ、ユノちゃん。もしかしてさ、異次元迷宮イグドラジルって……」
「おおっ、さすがお兄ちゃんお目が高い。あの迷宮も私が創ったんだよ」
そこに気付くとは、さすが私のお兄ちゃんだね。まあ、世界一のお兄ちゃんなんだから、そのくらいは当然か。
そして、あまりにも私があっさりと答えたもんだから少しびっくりしていたみたいだけど、すぐに気を取り直したようだ。
「あー、うん、なんか色々と納得した」
なにを納得したのかはよくわからなかったけど、お兄ちゃんが納得したのならばなによりだ。しかし、そろそろ話を戻そう。このままじゃ部屋の増設作業が終わらない。
「ところで話を戻すけど、お兄ちゃんたちは部屋の希望、ある?」
「ああ、そう言えばそんな話だったよね。ごめんごめん。うーん……僕は特にないかな。普通な感じでいいよ」
「私も特に希望はありません」
「はいはいはいはいはい!ラエルな、ラエルはあるぞ」
お兄ちゃんとお姉ちゃんが希望はないと意見をだしたところで、ラエルちゃんが元気よく手を上げながら声を上げる。いや、そんなに思いっきり主張しなくても、ちゃんと全員の希望は聞くよ?
「ラエルはな、強くてかっこいい感じがいいぞ」
「うーん、強くてかっこいいか、もっと細かい希望はある?」
「そこはユノにおまかせするぞ。ラエルは強くてかっこよくて、そして強ければ満足なのよ」
私におまかせですか。そして強いを二回言ったね。そんなに強いのがいいのかな?
まあ、おまかせされたわけですし、私なりの解釈で強くてかっこいい部屋を作りましょうか。
「じゃあ、ちゃちゃっと作っちゃうから、ちょっと待っててね」
そう言って早速作業に取り掛かる。まあ、お兄ちゃんとお姉ちゃんの部屋は作るのに一分もかからないかな。問題はラエルちゃんの部屋だ。どうしたものか……。
悩むこと数分、結局はきぃちゃんにアドバイスを求め、部屋のイメージがなんとなく固まってきた。後はこれを形にするだけだね。ここまでくればもう完成したようなものだ。ということで、迷宮核にラエルちゃんの部屋の設定をどんどん入力していく。
入力し始めてからわずか五分程度で部屋が完成。うん、やっぱり楽だね。迷宮核様様だ。そしてせっかく完成したわけだし、早速みんなを部屋に案内しようか。
「みんなー、部屋できたよー」
「え?もう?」
あまりの速さに驚いているようだ。
んっふっふー、これが迷宮核の力ってやつですよ。ドヤァ。私の家をそんじょそこらの普通の家だと(以下略)
「とりあえず家の中を案内するから、みんなついてきてね」
そう言って、自慢のマイホームを案内する。まずは共有のスペース等だね。玄関、リビングは案内済みなので、キッチン、お風呂、トイレを案内し、その後訓練室へ。
この訓練室が、実は私の家の目玉ともいえる部屋だったりする。なんと、この部屋では好きな魔物と自由に戦うことができるのだ。
私の家は迷宮なわけなので、当然魔物を出現させることができる。なので、訓練室内に戦いたい魔物を出現させて、それと戦って経験を積むなんてこともできるのだ。もちろん戦闘をするわけなので、部屋内は広い。迷宮の機能である空間拡張が使用されているため、明らかに家の外観よりも広いけどツッコミは不要だ。こういうことができるのも迷宮ならではだね。ついでに、天井、床、壁がものすごく頑丈。どのくらい頑丈かというと、私が全力で魔法を撃ったとしてもなんともないくらいには頑丈。迷宮マジパネェ。まあ、壊そうと思えば壊す方法はあるんだけど、あえてそれをする意味がないので、実質壊れないと言っても過言ではないと思う。
ただ残念なことに、ファンタジーなんかでよくみかける、結界内では傷を負うことはないとかいう闘技場用の便利結界や、シミュレーションゲームなんかでよくある、死んでも大丈夫なトレーニングモードみたいな、それっぽい安全装置はついていない。魔物に殺されればそのまま死ぬし、傷を負えばそのまま傷は残る。それでも、自分の戦いたい魔物と好きなだけ戦い放題なのは、レベルを上げるにはかなり優秀な環境なんだけどね。
しかし、なにかの間違いでうっかり死んでしまっても困るので、訓練室を利用する場合はきぃちゃんの同伴が必須だと伝えた。まあ、そもそもの話、魔物を選んで呼び出すためには管理者権限が必要なわけなので、私かきぃちゃんのどちらかは必要になる。で、その場にきぃちゃんがいれば、死にそうになったとしてもきぃちゃんがなんとかしてくれるので、実質死の危険はないということになる(死にそうにならないとは言ってない)。
そんなことをお兄ちゃんたちに説明していたら、なぜか魔人形が増えた。疑問に思いきぃちゃんに確認してみれば、どうやらこの魔人形は訓練室に常駐してくれるそうだ。普段きぃちゃんが操っている魔人形はほぼ私と一緒にいるので、お兄ちゃんたちが好きな時に訓練室を使えるように、もう一体魔人形を操るのだそうだ。魔人形が二体に増えても大丈夫なのかときぃちゃんに聞いてみれば、問題ないとのこと。百体でも千体でも余裕で操れるらしい。さすがきぃちゃん、やっぱりきぃちゃんは最強だね。一体相手でもボロ負けしているというのに、複数のきぃちゃん軍団を前にしたら絶望するしかない。ちなみに、二体目の魔人形の容姿もやっぱり私だった。私なんだけど、なんかちっちゃくないですかね?多分六歳くらいの時の私?いくら小さい私が好きだって言っても、限度があるんじゃないですかね?やりたい放題だなきぃちゃん。
まあ、そんなこんなで共有スペースの案内が終わり、ようやく個人部屋を案内することに。まずはお兄ちゃんの部屋だ。まあ、これは普通だね。普通のログハウスの、普通の部屋ですね。うん、部屋なんてもんは普通でいいんですよ。豪華だったり、キラキラしてたりしても落ち着かないでしょ?普通が一番なんですよ。ちなみに私の部屋も、使っていない客用の部屋も、次に案内する予定のお姉ちゃんの部屋も同じような感じです。というか、外観がログハウス風だったら、普通は内装はこうなりますよね。サクッとお姉ちゃんの部屋も案内して、問題はお次のラエルちゃんの部屋だ。
「お?おお?おおおおお?」
ラエルちゃんの部屋の前まで来て、扉を開けた瞬間のラエルちゃんの反応がこれだった。驚いたのかどうかは知らないけど「お」しか言ってないよね。




