4-6.「自由なやつだ」とか言ってる人も結構自由だったりするよね
必死の猛アピールが効いたのか、はたまた買収(鑑定の魔道具という名の賄賂)が功を奏したのかはわからないけど、私はイツキさんたちのパーティ「アマテラス」へと一時的に加入することとなりました。つ・ま・り、迷宮探索の仲間、ゲットだぜ!ひゃっほーい。
一応さ、迷宮創り終わってからさ、自分で創った迷宮に一人で挑んでみたわけなんですよ。最初は楽しかったよ、最初は。なんてったって『異世界に行ったらやりたいこと』の上位に入りますからね、迷宮探索。でもさ、自分で創った迷宮なわけだからさ、ワクワク感がないのですよ、ワクワク感が。だってさ、どんな魔物が出てくるのかだとか、次のエリアはどんななのかだとか、どうやって攻略すればいいのかだとか、全部知ってるわけですしね。あげく、たった一人での迷宮探索。虚しい。とても虚しい。耐えられず、半分くらい攻略した時点で帰還しました。まあ、完全に攻略する意味もないですしね。
しかし、そんな私にも迷宮探索の仲間が!おまけとしてのパーティ参加ですがそんなことは些細なこと。ゲームでいうところのゲストキャラ扱いですが、それでも仲間は仲間。コンゴトモヨロシク。いや、今後があるかどうかはまだわかりませんけどね。
と、に、か、く、これで一人寂しく迷宮攻略をしなくても良いわけですよ。虚しく思いつつも黙々と迷宮を進む必要はなくなったわけですよ。これからは仲間と一緒に楽しく迷宮を探索する、リア充冒険者へと華麗なジョブチェンジを果たすわけなのですよ。あまりの嬉しさに喜びが隠しきれません。いっそ開き直って全身で喜びを表現していたら、なぜかきぃちゃんに叩かれた。解せぬ。
ああ、そうそう、そんなに一人が嫌ならきぃちゃんと一緒に行けばいいじゃん?と思っている方もいるかとは思いますが、そんな君たちには『考えが甘い』という言葉を贈らせていただこう。
なぜかって?皆さんもよくご存じかとは思いますが、きぃちゃんってなんでもできるんですよ。言わば万能ってやつなんですよね。むしろ全能と言っても良いかもしれない。そんなきぃちゃんが一緒にいるとね、私、なんっにもすることがないんですよ。敵が出てくれば私が動くよりも先に始末してしまうし、迷宮のことは当然きぃちゃんも完全に把握しているわけで、道案内も完璧。正直言って、一人で攻略しているときよりも虚しく感じるくらいなのです。
きぃちゃんも私の修行に関しては厳しくもなるのですが、迷宮探索は私の趣味のようなもの。私の修行になるような要素がこの迷宮探索には全くないのです。なんせ私の修行になるようなレベルで迷宮を創ってしまうと、この世界の人たちにはどうあがいても攻略できなくなってしまいますからね。もともと迷宮をこの世界の冒険者たちに探索してもらおうと思っていたため、そんなことは絶対にできません。なので、この迷宮では私の修行にはなりませんし、するつもりもないのです。そうなるときぃちゃんは私が快適に迷宮探索ができるように、あれこれ世話を焼いてくれるのです。それこそ全力で。今回ばかりはその心遣い、いらなかったな……。
つまり、きぃちゃんと一緒にいると、私はただきぃちゃんの後ろをついて歩くだけなのです。うん、これどう考えたって楽しいわけないよね。
と言うわけで、きぃちゃん以外で私と迷宮探索に行ってくれる貴重な仲間を手に入れたわけなのです。え?他にも迷宮探索に一緒に行ってくれる冒険者はたくさんいるだろうって?そんなのきぃちゃんに言ってくださいよ。適当な冒険者とパーティを組んで迷宮探索に行こうかな、なんて考えていたらきぃちゃんから却下されましたからね。却下された理由もきぃちゃんから説明されたので一応は納得しましたけど(私を手ごめにしようとしている等、本当かどうかも怪しい理由ばかりでしたが)きぃちゃんはちょっと私に対して過保護すぎると思います。
そんなわけで、イツキさんたちは私にとって救世主と言っても過言ではないのです。きぃちゃんに却下されず、かつ私と一緒に迷宮探索に行ってくれる人はイツキさんたちが初めてなのです。ありがたや、ありがたやー。
しかも私のこのパーティでの役割は引率者ポジション。身近で迷宮初挑戦の冒険者の生の反応が見られるのです。おいしい。とてもおいしい。
今日初めて出会った人たちではありますけど、ここまで私に都合よく話が進むとなると運命を感じずにはいられません。
そう『初めて会った人たち』なんですよね。
さて、皆様の中には疑問をお持ちになった方もいるかもしれません。よく知らない人と一緒に行動するのは苦痛なんじゃなかったのではないのかと。
いやぁ、正直言うとこの時は迷宮探索の仲間ができたことでテンション上がりまくって、そこまで思い至らなかったんですよね。ただ、イツキさんたちとはほんの数時間話をしただけでしたけど、なんとなくうまくやっていけそうな感じはありました。勘ですけどね。まあ、どうしても反りが合わなければ、さっさと義務を果たして縁を切ってしまえばいいわけですし。最悪、数ヶ月我慢すればいいだけの話なのです。
そして迷宮にて数ヶ月間生活を共にした結果、三人ともとても良い人たちだということがわかりました。
イツキさんとノーティさんはとても優しくて、一緒にいると不思議と安心できるし、ラエルちゃんは私相手に遠慮せず付き合ってくれるので、一緒にいるととても楽しい。そしてなにより、一緒にいても苦痛に感じないのです。私の勘も捨てたもんじゃないね。(ほぼ勢いだろう?という意見は聞きませんのであしからず)
いや、これって実は結構すごいことだったりするんですよ。他人に心を許さないことで(私の中で)有名な私が、いともあっさりとなついてしまったんですから。私がきぃちゃん以外の人に甘えるなんて前代未聞ですよ。なんせ私、きぃちゃん以外の親しい人なんていらないと、本気で思っていた時期もあったくらいですからね。
まあ、心を許すという意味ではアニエもそうですけど、アニエの場合は甘えたい方じゃなくて甘やかしたい方なので、イツキさんたちへの気持ちとはちょっと違うんですよね。どちらも大好きだということには違いありませんけど。
というわけで、これだけ相性の良い人たちにはもう出会えないかもしれないし、この迷宮探索が終わったらお願いしてみようかなんて思ってみたりもしています。
実は私、昔からお兄ちゃんが欲しかったんですよね。正確には、お兄ちゃんやお姉ちゃんのように甘えられる人が、ですけど。
きぃちゃんにも散々甘えさせてもらいはしましたけど、つい最近まできぃちゃんは身体をもたなかったため、ぬくもりだけは与えてもらうことができませんでした。今はもう身体を手に入れたため、一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たりとスキンシップもたくさんとってますけど、なんかもう、色々と今さら過ぎて『甘えさせてくれるお姉ちゃん』って感じじゃないんですよね。あのお説教さえなければなぁ……。いや、自分が悪いのは分かってはいるんですけどね。
ともあれ、迷宮探索後の楽しみができた。後はイツキさんが了承してくれるかどうかが問題だけど、なんとなく、イツキさんなら私のお兄ちゃんになってくれるような気がする。私が「お兄ちゃんになって」と言ったらイツキさんはどんな顔をするだろうか。ああ「お姉ちゃんになって」と言ってみるのも面白いかもしれない。今から楽しみすぎる!
余談ですけど、鑑定の魔道具(腕輪型)をイツキさん達に渡した時に「ここで装備していくかい?」と言ったら、なぜか可哀想な子を見るような目を向けられた。いいじゃん、一回言ってみたかったんだよ。
そしてラエルちゃんは私の言葉よりも速く魔道具を腕に装着し、早速私のことを鑑定していた。かなり自由だよねこの子……。




