4-3.きぃちゃんは紛れもなく最強だった(確信)
魔人形のきぃちゃんと一緒に生活をするようになって、私の生活は色々と快適になった。
きぃちゃんに起こされることから私の一日は始まり、きぃちゃんの作ったご飯を食べ、きぃちゃんの選んだ服に着替える。それからきぃちゃんと共にお仕事に行ったり、訓練をしたり。お昼はきぃちゃんと一緒に満月堂で、アニエを愛でながら食べる。そしてまたきぃちゃんとお出かけし、家に帰ったらきぃちゃんとお風呂に入って、きぃちゃんの作ったご飯を食べ、きぃちゃんと一緒に布団へ入るという日々。
ええ、そうです。これが私の毎日なのです。決して、そう、決して、ほぼ毎日家でゴロゴロとゲームばっかりやっていたら、きぃちゃんからしばらくの間ゲーム禁止令が出されたためしょうがなく外出しているというわけではないのです。
これはそう、アレだ、既定路線ってやつです。たまたま、そう、たまたまちょっと前までゲームに熱中していただけであって、もともとちゃんと外に出る気はあったのですよ。だって私は引きこもりというわけではないのですから、ずっと家に引きこもっているだなんてあるわけがないじゃないですかーやだなーもー。
そう、これはつまり、不幸な勘違いというやつなのですよ。きぃちゃんには私が家でゲームをしながらゴロゴロしているようにしか見えなかったのかもしれないけど、そう見えて実は、私はちゃんと今後の計画を立てていたわけなのですよ。決して自堕落に過ごしていたというわけではないのです。
え?それをきぃちゃんに説明したのかって?いやだなー、こんな言い訳をきぃちゃんに話したりなんかしたらゲーム禁止期間が伸びるじゃないですかーやだー。
と、まあそんなどうでもいい話は置いといて、私ときぃちゃんはどこへ行くにも、何をするにもずっと一緒の仲良しこよしなのです。
そう、今の私は、おはようからおやすみまできぃちゃんに見守られているのです。監視とも言う。
いや、きぃちゃんの本体はあくまでも指輪の方であり、魔人形の方はきぃちゃんが操っているだけの存在だ。その本体である指輪は当然私の指(どうでもいい情報かもしれないけど、左手の小指がきぃちゃんの定位置)に常時おさまっているわけであり、魔人形があろうがなかろうが、きぃちゃんは常に私を見守っているわけなのです。当然、今までもずっときぃちゃんに見守られてきていたわけなのです。でもさ、やっぱり身体があるのとないのとでは、気持ち的にかなり違うよね。今までもずっときぃちゃんと一緒にいたという気持ちに嘘はないけど、やっぱり今みたいに身体があると、より強くそう思う。きぃちゃんのお説教も、目の前に身体があると迫力が段違いだしね。
いや、お説教の話はどうでもいいんだよ。私がなにを言いたいのかというとつまり、肉体を得たきぃちゃんパネェってことです。ただでさえ最強のきぃちゃんが、身体を手に入れたことでさらに最強になってしまった。
なぜそんなことを言い出したのかというと、実は魔人形のきぃちゃんと模擬戦をしたことがあるのですよ。
魔人形とは本来迷宮のトラップであり、戦闘能力はさほどでもない存在だ。対する私は、当時レベル250オーバーの高性能ボディ。さすがのきぃちゃんでもこの戦力差はどうにもならない……と思うでしょ?圧勝でしたよ……きぃちゃんの。なにアレ意味がわからないんですけど。戦闘能力ほぼ皆無なトラップ相手に、レベル250オーバーの私が手も足も出ないとか、ワケガワカラナイヨ。
まず、きぃちゃんは魔人形を起点に魔法を撃ってくるわけなんだけど、実は魔法戦って身体能力はあまり関係ないんですよね。魔力と術式と技術がモノを言うわけなのですよ。いやまあ、厳密に言えば魔法を使った実戦には、回避行動や位置取りといった行動もある程度必要となるわけで、身体能力も不要というわけではないのですが、きぃちゃんが相手では『身体能力?なにそれ美味しいの?』ってくらいに用をなさない。
だってさ、私の魔法は『回避行動?そんなの必要ありません』とばかりに全て迎撃されたりレジストされたりするというのに、きぃちゃんの放つ魔法は全て私に命中。どこに居ても命中。どこに隠れても命中。百発百中ってなもんよ。ナニコレ無理ゲーじゃない?
私だってさ、数多くの(きぃちゃんから課せられる鬼畜な)訓練や(魔大陸の超高レベルの)強敵との戦闘経験を経て、自分の強さには結構自信があったわけなんですよ。なんせレベルが250超えちゃってますからね。術式構築の知識や正確さ、その術式を無駄なく素早く組み立てるための魔法技術なんかは、きぃちゃんに散々言われつつもかなりの努力をし、身につけてきたと自負していたわけですよ。
それが蓋を開けてみればこのザマ。私の自信は粉々に砕け散りました。粉砕骨折なわけですよ。え?意味がわからない?考えるんじゃない、感じるんだ!
てかさ、よくよく考えてみればさ、模擬戦こそきぃちゃんが魔人形を手に入れてから初めてやったわけなんだけどさ、それ以前からもきぃちゃんに魔法で勝ったことなんてなかったことを、惨敗した後で思い出したよ。
そういやきぃちゃんは昔から私の魔法にあっさりと介入したりしてきたけど、私がきぃちゃんの魔法に介入できたことなんて一度たりともなかったじゃないか。それどころか、私にはなにをどうしているのかすらわからないような魔法を使っていたことすらある。うん、そりゃ勝てんわ。最初から私に勝ち目などなかった!
よろしい、ならば魔法抜きで勝負だ。せっかくきぃちゃんも肉体を手に入れたわけだし、ここはやはり物理攻撃のみで勝負しようじゃないか。魔法もある意味物理だろうとかいう理屈は聞き入れませんのでよろしくどうぞ。
さて、この明らかに私に有利な条件。そこまでして勝ちたいのかと呆れていらっしゃる方もいるかと思われますが、私の答えは『勝ちたい』です。正直言って、なんとしてでも勝ちたい。一回くらいはさ、きぃちゃんに勝ってみたいよ。今まで一度もきぃちゃんに勝てたことなんてなかったし、今後もきぃちゃんに勝つなんてことは想像すらできない。勝てたからといってなにがあるわけでもないんだけどさ、チャンスがあるならば一回くらいは勝ってみたいじゃない?
ということで、早速魔法抜きでの模擬戦を開始。結果は言わなくてもわかるよね?私の負けだよコンチクショウ!
なんなのよアレは?魔人形って戦闘能力はほとんどないはずだよね?魔法なしでも私が手も足も出ないとか意味がわからない。これでも私レベル250オーバーなんですけど?自信なくすわ―。
きぃちゃん曰く、大量の魔力をまとわせて無理矢理身体能力を向上させているのだそうだ。そんなのありですか……。私の膨大な魔力があればこそできる芸当だと説明はされたけど、そんなのなんのなぐさめにもなりませんよ。その上、きぃちゃんはあらゆる武術にも精通しているため、私なんかよりも遥かに武器の扱いが上手い。最初から私に勝てる見込みなどなかった!
とまあ、模擬戦は惨敗しまくって少しヘコみはしたけど、私がきぃちゃんに勝てないなんてことはすでにわかりきっていたことなので、すぐに復活。せっかくなので、そのまま何度もきぃちゃんとの模擬戦を続けることにした。どうやっても勝てない相手に試行錯誤しながら戦うのが楽しくて、夢中で戦い続けてしまったのだ。
だってさ、全力を出して戦えるなんてさ、それだけですっごい楽しいじゃない?今までの訓練なんかでは、格上の魔物と戦うときだってきぃちゃんに魔法使用禁止だとか言われていたわけで、完全な全力で戦えることなんてさっぱりなかった。それなのに、私の全ての力を振り絞っても全く届かない相手が目の前にいるなんて、ワクワクしてしょうがない。しかも『敗北=死』ではない状況で戦えるなんて恵まれすぎているとすら思う。負けると死んでしまうような戦いでは、どうしても安全マージンを取らなくてはならないため、完全燃焼できないことが多いのだ。
そうして満足するまで戦った後、きぃちゃんに促されて自分のステータスを確認してみると、レベルが三つも上がっていた。かなり格上の魔物を倒したとしてもせいぜい五つもレベルが上がれば良い方なことを考えると、かなり優秀なレベル上げではなかろうか。なんといってもきぃちゃんと戦うのは楽しいし、死の危険のない安全な(ズタボロにされないとは言ってない)訓練なのだ。格上の魔物と戦うのが楽しくないとは言わないけど、やっぱり全力を出しても手の届かない相手と戦うのはとても楽しい。試行錯誤しながら挑み、成果が出るとたまらなく嬉しいのだ。ということで、私の今後のレベルアップのためにも、きぃちゃんとの模擬戦を訓練に取り入れることになった。
思わぬところできぃちゃんが肉体を得た恩恵があったわけだけど、実はもう一つとんでもない恩恵があった。
それはなにかというと、きぃちゃんの作るご飯がものすごく美味しいということだ。正直言って、満月堂で食べるご飯よりも美味しい。なんていうんだろうか、超一流の技術を使って作った家庭料理って感じ?とても優しい味でいくら食べても食べ飽きることがなく、栄養もちゃんと考えられていて、ものすっごく美味しい料理だ。うん、私美味しいしか言ってないね。語いが少なくて申し訳ない。
ちなみに、それでも私は満月堂には毎日通っている。なんせあそこはアニエとの憩いの場だからね。それに、きぃちゃんの料理のほうが美味しいと言っても、それはきぃちゃんの料理が美味しすぎるだけであって、満月堂の料理も十分に美味しい。と言うか、きぃちゃんと比べられたら全ての料理人がかわいそうだ。
そんなこんなで、満月堂へ通ったり、訓練をしたりと、きぃちゃんと共に過ごす日々をしばらく堪能していたある日、遂にあの、私の運命を決定づけたと言っても過言ではない事件が起こってしまったのだ。




