4-2.きぃちゃんが私を好きすぎてつれーわー まじつれーわー
結論から言うと、目の前にいた私のような物体はきぃちゃんだった。いや、きぃちゃんが操っていたという方が正確かな。
曰く、迷宮のトラップの一つである『魔人形』というものだそうだ。
私はトラップにはあまり興味がなかったので、設置できる種類や性能なんかもよく見ていなかったために存在自体を知らなかったんだけど、どうやらこの魔人形というものは、ちょっと特殊なタイプのトラップのようだった。
きぃちゃんからどういうものなのかを聞いてみたところ、迷宮から魔力の供給を受け、特定の範囲内に外敵が侵入してきた際に、特定の行動を取るというものだそうだ。尚、取らせる行動の規模や複雑さ等によって必要な魔力の供給量が変わるらしいんだけど、そんなことは些細な問題である。そもそもな話、きぃちゃんの技術によって作られ、私の膨大な魔力をもとに起動した迷宮核は、ちょっとやそっとでは枯渇しないほど潤沢な魔力を保有しているのだ。魔人形が多少魔力を馬鹿喰いしたところでなんの問題もない。
そんなことよりも、私が驚愕したのはその使用方法だった。
きぃちゃんから受けた説明だけではどういった使い方があるのか想像がつかなかったため、具体的な使用例なんかを聞いてみたわけなんだけど、これがまたエグいというかなんというか……。
・使用例1:幼い子供に擬態した魔人形が侵入者へと向かって必死に逃げ込み、それを魔物に擬態した魔人形が追いかけ、侵入者が子供を助けようとする目の前で惨殺。
・使用例2:侵入者の内の一人に擬態し近づき、他の仲間の悪口を言いまくり疑心暗鬼にさせる。
・使用例3:冒険者風の姿に擬態し、侵入者に対して仲間を助けて欲しいと必死に懇願し、他のトラップや魔物部屋等に誘導する。
・使用例4:惨殺された死体に擬態し、侵入者が特定の距離まで近づいたらゆっくりと起き上がり、近づいていく。
・使用例5:『使用例4』を大量に用意し、物量で恐怖をあおる。
この魔人形というトラップを世に生み出した人ってさ、絶対に性格悪いよね。他にもたくさん使用例はあったみたいなんだけど、私はここでギブアップした。きぃちゃんが言うには、まだまだこんなものじゃないらしい。……もう一度言うけどさ、このトラップを世に生み出した人ってさ、ものすっごい性格悪いよね。
効かない人には全然効かないんだろうけど、人によってはトラウマものだよね。確実に心をえぐってくるよね。私『使用例2』でアニエに擬態でもされたものなら、心がポッキリと折れる自身があるよ。
しかし、どうしてきぃちゃんがそんなものを用意したのだろうか?疑問に思って確認してみると、どうやら魔人形はあらかじめ行動を設定しておくだけでなく、設置者が任意で行動を操作することが出来るらしい。
さらには、設置者からの魔力供給を受けることにより、迷宮の外でも活動が出来るのだという。当然、魔人形が設置者から離れれば離れるほど必要な魔力は跳ね上がるし、操作の難度も高くなる。だけど、設置者はきぃちゃんだ。そんなことはなんの問題にもならない。
きぃちゃんは私と契約した唯一無二の相棒であり、言わば私ときぃちゃんは一心同体。きぃちゃんは私の膨大な魔力を自由に使うことができるので魔力の心配はないし、いくら遠く離れて操作が難しくなったとして、きぃちゃんがそういった技術面で失敗なんてするわけがない。つまり、きぃちゃんにとってそんな制限なんてあってないようなものなのだ。
それでもやっぱりわからない。確かにきぃちゃんにとって魔人形を操作することはなんの苦にもならないのだろうけど、それを必要とする理由はなんだろうか。自分のアバター的なものが欲しかったとか?いや、でもなぁ、言っちゃなんだけど、そんなものなくたってきぃちゃんなんでも出来るしなぁ。
結局考えたってわからないし、本人に聞いてみると「これで今までよりもナハブの世話を焼くことができます」なんて答えが返ってきた……。私の世話を焼くために体を欲したというわけですかそうですか。てかさ、今までも思ってたけどさ、きぃちゃん私のこと好きすぎじゃないですかね?いや、私も負けないくらいきぃちゃんのことすきだけどさ。
さて、これで一つ疑問は解消した。きぃちゃんが魔人形なんてものを持ち出してまで私の世話を焼きたかったと言う驚愕の事実が発覚したわけだけど、私もきぃちゃんと同じ立場だったら多分同じことしてると思うのでそれはいい。
しかし、なんでその魔人形が私と同じ姿をしているのですかね?それでいて声がきぃちゃんなんだから違和感がすごい。
「どうせ操作するのならば見ていて楽しいものを操作したいじゃないですか。これから常に操作するのですから、好きでもないものを操作したところで面白くありません。ならば、世界で一番可愛らしいナハブの姿をとらせることは必然ではないですか」
そんなことを「なにを当然のことを」とでも言いたげな表情で説明された。あー、うん、言いたいことはなんとなく分かる。私もゲームやってる時、好きなキャラを操作している時が一番楽しいしね。
しかしだからといって、私が許容できるかどうかは別問題だ。私と全く同じ姿形の存在が身近にいるというのはなんか嫌だし、ましてやそれにお世話をされるというのも抵抗がある。なんとかならないかときぃちゃんに聞いてみると、意外なことにあっさりと私の言葉を聞き入れてくれた。
「それでは、ナハブが成長した姿を予想し、その姿をとってみましょうか」
うん、あっさりと聞き入れてはくれたけど、未練たらたらだよね。でも、私としても今の私と同じ姿じゃなければまだ許容はできるし、成長した姿というものにも興味はある。とりあえずやってみて、ときぃちゃんに言ってみれば、すぐさま目の前の魔人形がぐにぐにと変形する。いや、そこは光ったりして変形する姿を隠すところじゃない?私の顔した物体がぐにぐにとうごめいている様を見せつけられる私の気持ちも考えて欲しい。ものすごく気持ち悪い。
そんなことを考えているうちにも変形が完了。そこには大人っぽく成長した私の姿で、先程の魔人形が佇んでいた……なんてことはなかった。
え?マジで?これが私の成長した姿?
いやいやいや、そんなことはない。ないはず。なければいいなぁ……。
とにかく私は、これを私が成長した姿だと認めることは出来ない。断じて認めることは出来ないのだ。
ということで、私はきぃちゃんにリテイクを要求する。
まず、身長。確かに伸びてる。確かに今よりは身長伸びてるんだけど、ちょっと伸び幅少なくないですかね?見た感じ変身した私と同じくらい?ということは、今よりもプラス十センチくらい?いやいやそんな訳はない。私の成長期はまだ終わってないはず。さらにプラス十センチの成長を要求する。そのくらいの身長がなければ、私の将来像であるクールな女としての威厳が激減してしまうではないか。
次に顔。確かに今よりも大人っぽくはなってる。なってるような気はするんだけど、これって誤差の範囲じゃない?正直見比べてみないとわからないレベルだと思うのですがどうでしょうか?これまたあまり童顔すぎると、クールな女に成長する予定の私としては、遺憾の意を表明せざるを得ない。身長に合わせて顔も大人っぽく成長させるよう要求する。
そして何よりも許せないのが胸だ。成長してない。全っっっ然、成長してない。おかしくない?ねぇこれおかしくない?なんで私身長だとかはかろうじて成長してるのに、胸が全く成長してないの?きぃちゃんの『私の成長像』に悪意を感じる。散々きぃちゃんは今の私の姿が好きだと言っていたわけだし、きぃちゃんの希望が過分に入りすぎているのではないだろうか。さすがにこれには私もおこですよ。激おこですよ。相手がきぃちゃんでも、こればっかりは許容できない。やり直しを要求する。具体的にはFカップの私を要求する。え?盛りすぎだって。ならば最低でDだ。それ以下は許容できない。
そんな内容のことをきぃちゃんに熱く語ったら、あからさまに呆れられた。そして今の姿が最強なんだと説得された。しかし私にも譲れないものはある。きぃちゃんが相手でも、一歩も引くことは出来ない。
結局、きぃちゃんは呆れながらも私の望む姿をとってくれた。なんか本来の目的から思いっきり脱線したような気がしないでもないけど気にしない。『私の理想の将来像』を見ることが出来て、私は満足だ。
こうして、私の姉のような姿の世話焼きさんが出来上がったのだった。




