x2-17.アムリタは幸せになるべきだと思う
僕達が迷宮に足を踏み入れてから四ヶ月程の時が過ぎた。
迷宮探索はユノちゃんのおかげでとても順調だ。
十層に居たFGも特に何の問題もなく倒し、十一層へと到達した時にはとても感動したのを覚えている。
話に聞いてはいたけれど、やはり自分の目で見てみるとその光景には圧倒される。階段を登りきった僕達を迎えてくれた一面の紅葉に、思わず見入ってしまった程だ。
話は少し変わるんだけど、この階層、何となく今までの階層よりも涼しく感じたのでユノちゃんに聞いてみたら、どうやら迷宮内はそれぞれの層ごとに気候が設定されているらしい。一層の気温が外と大して変わらず、多少温かいくらいだったから、普通に迷宮内も外と気温が変わらないものだと思っていたんだけど違うみたいだ。迷宮内ってもう本当に別世界なんだね。
そして十一層以降の探索も好調だった。出現する魔物も層を進むごとにドンドン強くなってはいたけれど、僕達のほうがまだまだレベルが高いため、ノーティとラエルが競い合うかのようにサクサクと狩っていた。
FEはさすがに一人で戦うには少し厳しい強さではあったけど、三人でかかれば余裕を持って倒せた。
そしてFGはさすがに強かった。とは言っても、それでも僕達の方がレベルが高いため、三人でかかれば多少苦戦したという程度ですんだけどね。
そして僕達は現在、二十四層を探索中だったりする。
まさかわずか四ヶ月という短い期間でここまでこれるとは思っていなかった。案内をしてくれたユノちゃん様様だ。
しかも、こんなにも早いペースで迷宮を進んでいるというのに、実は週に一回のペースで迷宮を出て一日程度の休養を取っている。それでいてこの到達階層だというのだから、正に驚愕の探索速度だ。本当にユノちゃんがいてくれてよかったと、心から思う。
正直言えば、休養日を取らずにひたすら迷宮探索を続けていけばもっと早く先に進めるのではないかと思わないでもなかったわけだけど、やはり人間というものはちゃんと休みを取らないと効率が落ちるもので、何だかんだで僕達にはこのペースがちょうど良かったのかもしれない。
それに、ずっと野営を続けていると、少しずつ疲労が溜まっていくのを感じることがあるしね。野営用の布団と宿屋のベッドとでは、やはり疲れの取れ方が違うよ。
こんな風にこまめに迷宮の外へ出て休めるというのも、迷宮の各層に転移装置があるおかげだ。転移装置で自分の到達した階層へと自由に移動できるというのは本当にありがたい。転移装置様様だ。これがあるというのも、この迷宮に冒険者が殺到している理由の一つでもあるんだろうなぁ。
さて、二十層を突破した僕達を待っていたのは、小雨の降る草原だった。ユノちゃん曰く、この小雨はずっと振り続けるらしく、止むことはないそうだ。強い雨でなかったのは幸いだけど、地味にキツイよねこれ。いくら小雨だと言っても、長時間雨にあたり続ければ体力も体温も奪われていってしまう。視界だって悪くなるし、周囲の音も拾いにくくなる。挙句、今回のフィールドは草原だ。今までのように迷路のような道を進むというわけではなく、広大な草原全体が探索可能な道だとも言える。
今までと比べると明らかに厳しい環境な上、探索範囲も広大になった。これ、急に難易度上がり過ぎじゃないですかね?
数少ない救いは、比較的気温が温かいということと、草原の所々に巨大なオブジェがそびえ立っており、それを目印にすることで迷うことなく探索することが出来るということだろうか。
更に言うと、僕達にはユノちゃんという心強い道案内がいるわけで、次の階層への最短距離を真っ直ぐ突っ切るという、今までの迷路状の道を進んでいた時にはできなかったショートカットができてしまうのだ。おかげで、一層進むのに二日程度という超速進行となっている。二日と言えば第一層を踏破した時もそのくらいだっただろうと思うかもしれないけれど、流石にここまでくれば今までのように魔物を発見次第即殺というわけにはいかなくなってくる。魔物が現れれば、倒すまでにはそれなりの時間が掛かるし、目的がレベル上げなのだから、魔物から逃げて進むなんていうこともするわけがない。その上で一層進むのに二日という日数しかかかっていない、ということを理解した上で驚愕して欲しい。
とまあ、そんな現状なわけなんだけど、ここで訂正と補足を。ここまで何の問題もなく来れたとさっきは言ったけれど、実は途中でものすごくヤバイのがいた。それは二十二層にあった大きな木のオブジェの下。体長三メートル程度しかなかったので恐らく子供かと思われる黒竜が、心ここにあらずといった感じで佇んでいた。
あれがこの層のFEだろうか。竜という姿形に少し尻込みをしそうにもなったけれど、今までの層にいたFE達も強者ではあったが倒せないわけではなかったため、問題ないだろうと判断し挑もうとしたところでユノちゃんから待ったをかけられた。
「アレには絶対手を出しちゃ駄目だよ。今のイツキさんたちじゃ絶対に勝てないからね」
言われて黒竜を鑑定してみる。……うん、確かに絶対に勝てないね。レベルが150だったよ。ただのFEかと思わせておいて殺る気満々な魔物がこんな所にいるとか、どんな罠ですかね……。今ここにはレベル300オーバーのユノちゃんがいるからまだ平静でいられるけど、僕達しかいなかったら、なんてことは考えたくもない。
「ちなみに、アレはこっちから手を出さなければ攻撃してこないし、逃げれば追ってこないしで、実は致死性はそれほど高くないんだよ。戦ったらもちろん強いんだけどね」
そんなこと言われても、それを知らないであの黒竜と対峙してしまったら絶望しかないと思うんだけど……。
しかし、何でまたこんな所にこんな凶悪な強さの魔物がいるのだろうか?二十層を突破してからの難易度の上がり具合からいって、ここからがこの迷宮の本気なのだろうか。
「雨の草原。大きな木の下に竜使いの少女と黒竜。絵になるよねぇ。ここに竜使いの少女がいないのが残念だ……。とても残念だ……」
ユノちゃんがワケのわからないことを呟いていた。何か意味でもあるのだろうか?
「ねぇ、ユノちゃん、竜使いの少女って何?」
「うぇっ!?聞こえちゃった?」
「うん、聞こえちゃった」
「あー、いやー、なんというかですね、ゲームの話です、はい」
は?ゲーム?え?それが何かこの状況に関係あるのだろうか?
「いや、ただね、この状況に似たシーンのあるゲームがあるんですよ。だからといってなにかがあるわけじゃないんだけど、そのゲームのシーンを妄想して悦に入っていただけです……」
「と言うことは、何か意味があって口にしたわけじゃないと?」
「はい……」
ユノちゃんは独り言が聞かれた上に説明まで求められ、少し恥ずかしそうにしている。しかし、照れてる美少女というものは反則級に可愛いな。ロリコンの気持ちが少しわかったような気がしないでもない。いや、もちろん僕はロリコンじゃないけどね。
と言うことで、黒竜というヤバイのと、照れたユノちゃんというヤバイのがいたというお話。
黒竜と遭遇した後は特にこれといった問題もなく、探索もレベル上げも順調に進んでいる。ユノちゃんは三十層あたりがレベル上げにちょうどいいだろうと言っていたけれど、この辺りに出現する魔物にも少しずつ苦戦するようにもなってきたし、そろそろ本格的にレベル上げに入った方がいいのだろうか?もうすぐ二十五層へと続く階段にも辿り着くだろうし、一度みんなと相談してみようかな。




