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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X2章 異次元迷宮イグドラジル
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x2-14.迷宮探索初日

「何だアレは!?」


 僕がそう口にした瞬間、その黒い空間から何かが飛び出してきた。


「おおっ、ナイスタイミング。イツキさん、これがランダムエンカウントだよ。迷宮内をウロウロしていると、こうやって魔物が現れるのよ」


 ユノちゃんが嬉しそうな顔で説明してくれる。

 なるほど、魔物か……。今僕達の目の前にはネズミのような魔物が一体、臨戦態勢で僕達を見上げている。体長一メートルくらいはあるだろうか、かなり大きい。

 ふと、この魔物が現れた空間がどうなったのか気になったので再度視線を向けてみると、黒い空間は初めから無かったかのように、元通りになっていた。……凄いな、これが迷宮か。


「おー、弱いぞ―」


 そんなことを僕が考えていたら、いつの間にかラエルが魔物に魔法を放っていたようだ。流石は一層に出現する魔物ということだろうか、ラエルが様子見程度で放った威力の低い魔法であっさりと倒されていた。そしてその魔物の死体は少しすると地面に溶けるかのように吸い込まれていき、後にはネズミの尻尾のようなものだけが残されていた。……凄いな、これが迷宮か。


「迷宮の中ではね、魔物を倒すとこうやって迷宮に還元されるんだよ。だから素材の剥ぎ取りなんかは出来ないんだよね。でもその代わり、運が良ければこうやって何かしらドロップするから、冒険者はそれを集めてお金に替えるってワケ。ちなみにメリットとしては剥ぎ取りをする手間がかからない、デメリットとしては素材の入手が運頼りになる、ってところかな」


 僕が今見た光景に圧倒されていると、ユノちゃんの説明が入る。

 しかしこれは……何と言うかゲームの世界にでも入りこんだような感じだ。魔物が現れる時に見た、空間にひびが入り割れる現象なんて、モロにRPGなんかで魔物とエンカウントしたときの演出そのものだし、魔物を倒すとドロップアイテムを手に入れられるというのも正にゲームそのものだ。一体何なのだろうかこの迷宮は。


「よーし、この調子でサクサク進むよー。一層なんて戦ったってしょうがない魔物しか出てこないからねー」

「おー、サクサク進むぞ―。魔物なんて全部ラエルがやっつけてやるぞ―」


 ユノちゃんとラエルがはしゃぎながらそう言う。うん、この二人本当に仲がいいよね。やっぱり年が近いからだろうか?まさか本当に残念な子同士通じ合うものがあるなんて言わないよね……。


 その後もユノちゃんに案内してもらいつつ、現れた魔物を倒しながら先へと進んだ。流石に一階層ということもあり、何の問題もなくドンドン進むことが出来たが、迷宮内が広いこともあり、いつの間にか日が沈みかけていた。と言うか、迷宮内でもやっぱり日が昇ったり沈んだりするんだね。




「よし、じゃあ今日はここまでにしましょうか」


 日が完全に落ちきる少し前に、ユノちゃんがそう言う。僕としてもそろそろ野営の準備をしなくてはならないなと思っていたため、特に反論はない。


「魔物が弱すぎてつまらなかったぞ―」

「そうですね。魔物は全てラエルちゃんが倒してしまいましたし、私の出番がありませんでした」

「あれ?お姉ちゃんも戦いたかったのか?」

「いえ、気にしないでいいですよ」


 ノーティの言う通り、今日の迷宮探索はユノちゃんの後について歩いているだけだったので、僕とノーティは特に何もしていない。何と言うか……見敵必殺とでも言うのだろうか、魔物が現れる予兆、空間にひびが入った瞬間にラエルが魔法行使の準備を始め、魔物が出現した瞬間にラエルの魔法が魔物を貫く。あまりにも手際が良すぎて、戦闘態勢すら取らせてもらえずに狩られた魔物に対して憐れみすら覚えたほどだ。

 そして魔物を倒したことにより出現したドロップアイテムは、ラエルとユノちゃんの二人が喜々として拾っていた。うん、何と言うか、この二人は迷宮探索を本当に楽しんでるよね。まあ、ただ歩いているだけではあったけど、この迷宮でしか体験できないような不思議な色々に触れることが出来たことで、僕も楽しんでいると言えば楽しんでいるけど、流石にあの二人ほどじゃないな。


「そう言えば私確認してなかったけど、イツキさんは野営用の道具ってどんなの持ってるの?」


 ある程度の広さのある開けた場所で野営の準備を始めようとしたところで、ユノちゃんから質問を受ける。

 あー、そう言えばそういう話って全くしなかったよなぁ。本来なら出発する前に色々と話し合っておくべきだったんだろうけど、ユノちゃんは一刻も早く出発したがっていたからなぁ。


「僕達が普段使っているのは、快温小型テント、遮断結界石、簡易トイレくらいかな」


 因みに、三つとも魔道具だったりする。

 快温小型テントとは、ある程度の温度管理機能のある小型のテントであり、その名の通り、ある程度の暑さ寒さくらいならテント内の温度を快適に保ってくれる。とは言っても限度はあり、せいぜいがプラスマイナス五度くらいまでだ。しかし、これがあるのとないのとでは野営の快適さに雲泥の差がでる。たかが五度とは言えど、馬鹿には出来ないのだ。


 そして遮断結界石。これは四方に置くことで、石の置かれた内側の気配や匂い等をある程度遮断してくれるというものだ。これを使用することにより、野営中の魔物の襲撃等をかなりの精度で防ぐことが出来るので、野営をする際にはほぼ必須の魔道具だったりする。

 因みに、石に囲まれた範囲が広くなれば広くなるほど効果は薄くなってしまう。安全を取るのであれば、出来るだけ狭い範囲を囲むように使用するべきだというのが、この魔道具の悩ましいところだ。あまりにも狭く設置すれば窮屈な思いをすることになるし、それを嫌って広く設置してみれば魔物からの襲撃の可能性が上がってしまう。必要最低限の範囲を見極めて設置すればいいわけなんだけど、言うのは簡単だが実際にやってみるとこれがなかなか難しい。僕も色々と試してみた結果、小型のテントを使用し、それを囲むように石を設置するという結論に達した。僕達は三人のパーティなので、スペース的には小型のテントで十分だったのだ。ただ、相手が女の子ということでもっと大きなテントも検討してはいたんだけど、ノーティもラエルも気にしていないようだったので僕も気にしないことにした。まあ、相手があの二人なら間違いが起こることもないと思ったしね。


 最後、簡易トイレについて。消臭効果のある四枚の板(内一枚はドア付き)と、亜空間接続装置(収納の魔道具(アイテムボックス)を応用した、接地面の空間に穴を開け、亜空間へとつなげるための装置)のセットだ。

 四枚の板をそれぞれ繋いで立てるだけで簡易的な個室が完成し、その中に亜空間接続装置を設置するだけという、お手軽にして非常に有用なアイテムである。四枚の板はそれなりの大きさではあるけど、サイズ可変の魔道具が取り付けられているため、持ち運びに易しい仕様だったりもする。

 因みにこのサイズ可変の魔道具だけど、単純なものにしか使えないようで、少し複雑になった程度で一切の効果が発揮されなくなるらしく、使い途もあまりないみたいで、お値段もかなり安いのだそうだ。とは言っても、亜空間接続装置には容量が非常に少ないとはいえ、収納の魔道具を応用した専用の魔道具が使用されており、収納の魔道具ほどではないにしろそれなりのお値段はする。そんな高価な魔道具ではあるけれど、女性のいるパーティでは必須と言っても良いほど求められており、収納の魔道具よりも簡易トイレの魔道具を優先させるということも多々あるという話だ。当然僕達のパーティでもこちらを優先させた。流石に女の子にその辺でしろなんていうのは可哀想だしね。


 とまあ、僕達が野営の際に使っている魔道具を伝えると、ユノちゃんは何故かもじもじとしながらこちらの様子を伺っている。……また何か変なことでも言われるのだろうか。


「あのー、イツキさん?」

「……何でしょうか」

「えーとですね、私もそちらのテントへお邪魔してもいいかなー、なんて……」


 ああ、そういうことか。確かにそれは言いにくいよな。もじもじしながら言うのをためらっていた理由がわかった。

 しかし何で僕達のテントへ?まさかユノちゃん……。


「もしかして野営の準備何もしてないとか言わないよね?」

「いや、そういうわけじゃないんだよ。……実は私、テントって使ったことなくてさ、せっかくのチャンスだし、この際だから普通の冒険者っぽいことをしてみたいなー、なんて思っちゃったわけなんですよ」


 テントを使ったことがないって……。今までどんな風に野営をしていたのかが非常に気になるんですけど……。この迷宮を50層まで進んだことがあるわけだから、まさか野営をしたことがないなんていうことはないだろうし。


「ねぇ、ユノちゃん。今まで野営の時どうしてたの?」

「あー、それは聞かないでもらえると助かるかなー。きぃちゃんから絶対に話しちゃ駄目って言われていることがいくつかあってさ、これもそれに関わることなんだよね……」


 うーん、それなら仕方ないか。メイさんが駄目っていうのであれば、それは余程ヤバイことなんだろうしね。無理やり聞き出したことでメイさんに消される、なんていう突飛な妄想もありえないと言い切ることが出来ないほど、あの人からは得体の知れない何かを感じることができた。気にはなるけど、聞かないほうが利口だろう。


 まあその話は置いといて、テントの話だ。僕達のテントは小型ではあるけど、三人入ってもまだ幾らかの余裕はある。ユノちゃんのような小さな子が一人増えたところで問題はないだろう。ノーティとラエルも特に反対するつもりはないようだ。


「別にかまわないけど、変なことしないでよ」

「失礼だなイツキさんは。私だってやって良いことと悪いことの区別くらいついてるよ」

「……それさ、暗に度を越さないレベルで変なことするって言ってない?」

「……」


 何黙ってるのさ。何か言ってよ。やる気満々じゃないか。もうヤダこの子。




 その後もユノちゃんに振り回されつつもみんなで雑談をし、食事も取り、後は寝るだけだというところでユノちゃんに声をかけられた。


「イツキさんイツキさん」

「何?ユノちゃん」

「みんなで女子トークしましょう!」

「……僕、女子じゃないんだけど」

「気にしない気にしない」


 とてもくだらないことだった。返事をしてしまった僕に間抜けと言ってやりたい。無視すればよかった……。


「今夜は寝かせないぞ」


 ……いや、ちゃんと寝ようよ。

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