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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X2章 異次元迷宮イグドラジル
61/116

x2-11.非常に残念な美少女

「これは……壮観だな……」

「見事ですね……」

「おおー、でっけぇー」

「ふっふーん、そうでしょそうでしょ」


 洞窟を抜け、目の前にそびえ立つ大樹を見上げた僕達が各々の感想をこぼすと、ユノちゃんが満足げにうなずく。……何でユノちゃんが自慢気な顔してるんだろうか?ただの第一発見者ですよねあなた。いや、最高階層到達者でもあるだろうけど、ユノちゃんが自分が褒められたかのように喜んでいる意味がわからない。

 きっとこの場にメイさんがいてくれたらユノちゃんに的確なツッコミを入れてくれたんだろうけど、僕には無理だ。あの子の思考回路が特殊過ぎて、考えていることがさっぱりわからない。

 やっぱり、メイさんにも一緒に来て欲しかったよなぁ。






 ユノちゃんが休みの許可を取りに行ってから数分後、テンションの高いユノちゃんが戻ってきた。


「長期休暇、ゲットだぜ!」


 そんな言葉とともに謎のポーズを取るが、いつの間にかユノちゃんの背後に回ったメイさんがユノちゃんの後頭部をひっぱたく。


「いいから落ち着きなさい」


 このわずか短い時間の中で既に見慣れた光景となりつつある、ユノちゃんがメイさんに怒られているシーンを尻目に、僕は今さっきの光景を思い出していた。

 メイさんがユノちゃんの背後へと、いつの間に移動したのかが全くわからなかった。気がついたらユノちゃんの背後にメイさんがいた。僕がわかったのはそれだけだ。やっぱりユノちゃんだけでなく、メイさんも相当に強いのだろう。


「大丈夫、きぃちゃん。私は落ち着いてるよ。十分に落ち着いているからわざわざ叩かないで。で、イツキさん。いつ行く?すぐ行く?今すぐ行っちゃう?」

「どこが落ち着いているというのですか」


 メイさんはそう言うと同時に、再度ユノちゃんの頭をひっぱたく。


「ぐおぉぉぉ……ちょっときぃちゃん、私を叩く威力がちょっと本気すぎないかな?さすがの私も我慢できないレベルの痛さなんですけど」

「問題ありません。少し強めの痛みを感じる程度にちゃんと加減していますから」

「いや、そういう問題じゃないよね?」


 ユノちゃんが涙目でうずくまっている。今までの叩き方と変わっていたようには見えなかったんだけど、そんなに痛かったんだろうか。と言うか、レベル335のユノちゃんが我慢できない痛さって、相当だよね?あれ、あんな何気なく叩いたように見えて、必殺の威力を持ってるってことですよね?うわぁ、メイさん怖い。僕なんて叩かれただけで死ぬんじゃないだろうか。


「大体、今から迷宮へ向かうとしても、もう遅い時間じゃないですか。そもそも、イツキさん達にも準備というものがあるでしょう?あなたの考え無しな行動で迷惑をかけるんじゃありません」

「ぅぐっ、反論できない……」

「あなたは連れて行ってもらうという立場なんですから、ちゃんとイツキさんの言うことを聞いて、迷惑になるようなことはするんじゃありませんよ」

「もちろん、そのくらいは心得てるよ」

「その言葉に偽りがないことを祈っています」

「失礼だなきぃちゃんは。そんなに私が信用出来ないかね?」

「あなたの過去の行いを鑑みてから物を言いなさい」

「ぐぬぬ……」


 ユノちゃんが過去にどれほどのことをやらかしているのかは僕にはわからないけど、心当たりがあったのだろうか、ユノちゃんは悔しそうな顔をして黙ってしまった。


 さて、今までのやり取りをこうやって見ていて、どうしても思ってしまうことがある。ユノちゃんって、もしかして残念な子なんじゃないだろうか?

 メイさんとの会話を聞いていても、どうやら普段から色々とやらかしているようなので、ほぼ間違いないと思う。ものすごい美少女なのに、言動が残念だとか非常にもったいない。

 しかしそうなると、うちのラエルとどちらのほうが残念なんだろうか?うちのラエルも残念さでは負けていないからね。……そんなの負けていてもいいのに。

 いや、この話題は不毛だからもうやめておこう……。どちらに軍配が上がったとしても、結局、どちらも残念な子だという事実に変わりはないんだからね。

 そんなことを考えていると、不意にユノちゃんから話を振られた。


「イツキさん!出発はいつにします?明日?明日ですか?それとも明日?どうしてもというのなら明日でもいいですけど、やっぱり明日なんかがいいと思うんですよ。ちなみに、私のオススメは明日です!」


 うん、何と言うか……キミ、明日しか言ってないよね?余程早くに出発したいのだろうか。そんなに楽しみなの?


「いや、まあ、別に明日でも構わないけど……。二人はどう?」


 僕としては明日でも構わないんだけど、ノーティとラエルもそれで大丈夫なのかはわからないので、二人にも確認してみる。


「私は別に明日でも構いません」

「ラエルもオッケーだよ」


 二人も問題ないようなので、出発は明日に決定する。集合時間等の必要なことを決め、明日の準備をするために帰ろうとしたところで、ユノちゃんに呼び止められた。


「あ、そうだイツキさん。大事なこと聞き忘れてた」

「ん?大事なこと?」

「そうそう。とっても重要な事だよ」

「重要な事?何かあったっけ?」


 集合時間は決めたし、集合場所も決めた。移動手段も伝えたし、後は各々必要なものを用意してくるってことだったよね?他に何か重要なことってあったか?


「先生!おやつは何エンまでですか。あと、バナナはおやつに入りますか」


 ユノちゃんが勢い良く手を上げてそんなことを聞いてくる。

 ……。

 あまりにもくだらない質問に僕が呆れていると、メイさんが大変良い音を響かせながらユノちゃんの頭を叩く。


「ふぐっ!ちょっ、きぃちゃん、今のはちょっと、シャレにならない……」


 ユノちゃんがうずくまったまま、涙目でメイさんに抗議する。


「あなたはまた、そうやってくだらないことばかり言って。イツキさんに迷惑をかけるなと今さっき言ったばかりですよね?」

「くだらなくなんてないよ!これは太古の昔から定められた、出先での無事を祈願するためのありがたい呪文なんだよ!これをちゃんと唱えておかないと、金額オーバーで周りのみんなから非難される可能性があるという、とても重要な儀式なんだよ!」

「もっともらしいことを言っていますけど、ただ言ってみたかっただけですよね?」

「……はい」


 相も変わらず、ユノちゃんはメイさんに完膚なきまでに叩きのめされていた。と言うか、勝てないことなんてわかりきっているんだから、口答えしなければいいのに。学習能力がないのだろうかこの子は。

 どうやらメイさんも本格的にお説教モードに入ったようだったので、僕達はお暇させてもらうことにした。なんかメイさんのお説教が長くなりそうな気がしたからね。ユノちゃんがすがりつくような目で僕の方を見ていたけど、残念ながら僕には何もしてあげることは出来ない。うかつに変なことを言って、僕の方に飛び火でもしたら大変だからね。まあ、自業自得としてお説教をちゃんと聞いておきなさいな。




 そんなこんなで翌日。

 僕達が集合場所へと向かうと、既にユノちゃんが待っていた。あれ?メイさんは?


「え?きぃちゃん?きぃちゃんなら食堂だよ?きぃちゃんになにか用でもあったの?」

「え、いや、メイさんも一緒に行くんじゃなかったの?」

「いや?きぃちゃんは私が食堂に出れない間の身代わりだから、一緒には行かないよ?」


 えぇー、マジで?メイさん来ないの?と言うことは、僕達でユノちゃんの相手しなくちゃならないの?僕ちょっと、ユノちゃんのテンションについていける自信ないんだけど……。

 僕が今後のことを考えて気が重くなっていると、ユノちゃんが心配するなとでも言うかのように話しかけてくる。


「大丈夫。私ときぃちゃんはいつも心でつながってるから。なんてったって、唯一無二の相棒だからね!」


 いや、そんな心で繋がっているだとかいう気休めはいらないから……。今は心よりも、メイさんの体の方が欲しかった。って、何かこう言うとちょっとエロいな。いや、そうじゃないそうじゃない、今はそんなことを考えている場合じゃないだろ。

 先日のユノちゃんとメイさんのやり取りを思い出すと、本当に僕がユノちゃんの相手が出来るのだろうかと、少し憂鬱になる。とは言っても、なるようにしかならないか。今からそんなことを考えていてもしょうがないし、もういっそ成り行きに任せてしまったほうが楽なような気がしないでもない。

 そんなことを考えていると、僕の気持ちなどお構いなしに、ユノちゃんが出発を促す。


「さあ、それじゃぁ『異次元迷宮イグドラジル』へ向けて出発だ―!」

「おー、出発だ―」

「迷宮までの道中に出て来る魔物はレベル上げにもならないから、サクッと殺っちゃってサクッと進もう」

「おー、サクサク行くぞー」


 何故かラエルがユノちゃんに追従して楽しそうにしている。何だ?残念な子同士で気が合うのだろうか?もしそうならユノちゃんの相手はラエルに任せちゃっても大丈夫かな?ちょっと僕の気持ちが軽くなったような気がする。


 道中は本当にサクサク進んだ。

 魔物が現れても、ユノちゃんがパパっと処理してしまう。正直言って、僕には何をやっているのかもわからなかった。

 魔物が出てきたと思ったら、次の瞬間には消えていなくなっているのだ。ラエルから魔法だと教えてもらっていなかったら、ユノちゃんがやったことだとすらわからなかっただろう。ラエルは普段は残念な子だけど、魔法のことだけは信用できる。そんなラエルが、ユノちゃんが魔法で魔物を倒していると言うのならば、それは真実なんだろう。

 しかし、そんなラエルでもユノちゃんがどんな魔法を使っているのかということまではわからないらしい。魔物が現れるたびに、ユノちゃんが魔法を使うところを興味深そうに眺めている。何度見ても理解は出来ないらしいけど。


 そうして迷宮までの道中は順調に進み、遂に迷宮の入り口の入り口と言われる、山の麓までやって来た。

 この洞窟を抜ければ『異次元迷宮イグドラジル』の入口があるという大樹がそびえ立っているのだという。


 さあ、遂に迷宮探索の始まりだ。

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