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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X2章 異次元迷宮イグドラジル
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x2-10.仲間がふえるよ! やったねユノちゃん!

 それから色々な話をした。

 お互いにこの世界にやって来た時の話をしてみたり、懐かしい日本の話で盛り上がったりもした。

 しかし、結局どうやってユノちゃんが日本の料理を手に入れているのかはわからずじまいだった。残念。

 まあ、それでもここへ来れば日本の料理は食べられるのだから、今はそれで良しとしておこう。


 結構な時間話し込んでしまったし、そろそろお暇しようかと思った時、ユノちゃんが言っていた言葉をふと思い出した。「きぃちゃんはこの世界のことならなんでも知っている」という言葉を。

 それが本当であるならば、僕達の今後のためにも聞いておきたいことがある。王都へとやって来た本来の目的を脱線し寄り道してしまっている僕だけど、本来の目的を忘れたわけではない。詳しい情報が聞けるかもしれない情報源が目の前にあるというのに、聞かないなんて選択肢はないよね。


「あの、メイさんに聞きたいことがあるんですが」

「はい、何でしょうか?」

「メイさんは『異次元迷宮イグドラジル』って知ってますか?」

「え?イツキさん迷宮に挑戦するの?」


 僕がメイさんにダンジョンの情報を聞こうかと質問してみれば、ユノちゃんが食い気味に反応する。え?何でユノちゃんそんなに興奮してるの?


「う、うん、そのつもりだけど」

「じゃあさじゃあさ、私のこと連れてってみない?私むっちゃ役立つよ。めっさ役立つよ。空前絶後に役立つよ!!」


 えぇー……。何この猛アピール。とにかく自分が役立つということをものすごい勢いでアピールされているわけだけど、何がどう役立つのかなんていう説明なんかは一切ない。僕が戸惑っていると、メイさんが助け舟を出してくれた。


「ナハブ、落ち着きなさい。あまりの勢いにイツキさんが引いているじゃないですか」

「だってきぃちゃん、こんなチャンスは二度とないかもしれないんだよ!ここはなんとしても連れて行ってもらわないと。なんだったらおまけまで付けちゃうよ。今ならなんと、人数分の鑑定の魔道具をプレゼント!まぁ!なんてお買い得!!これはもう私を連れて行くしかないよね!!」


 メイさんがたしなめてくれてはいるが、ユノちゃんの勢いは止まらない。何故にそこまでして迷宮へ行きたいのだろうか?

 しかし、こんな幼い少女を迷宮に連れて行くというのもなぁ……。いや、ラエルと大して年齢が変わらないというのはわかってはいるんだけど、ラエルの場合は長年僕達と一緒に冒険しているわけで、その強さについても僕達は十分理解している。それに対して、ユノちゃんはこの世界に来てからまだ2年も経っていないらしいし、僕達がレベル上げをするような場所へ連れて行くというのははばかれる。メイさんという恩恵はあったのだろうけど、さすがにたった2年ではレベルもそれほど上がっていないだろうしなぁ。


 だが、だがしかし、鑑定の魔道具は非常に魅力的だ。しかも人数分だって?もしかしてユノちゃんってものすごいお金持ち?一応それなりに有名な冒険者パーティーであると思われる僕達ですら手の届かない魔道具をポンと出せるとか、どれだけお金持ってるんだろうか?そもそも、そんなにお金持ってるのなら食堂で働く必要なんてないんじゃないかなぁ。


 僕が鑑定の魔道具の魅力にグラつきながらも、幼い少女を危険な場所へと連れて行くことは出来ないよなぁ、と渋い表情で悩んでいると、ユノちゃんが更にアピールしてきた。


「もしかして、私が足を引っ張るとか考えてる?大丈夫、私強いよ。超強いよ。無茶苦茶強いよ。なんてったって、今の私のレベルは335だからね」


 ……。

 今さっき僕の耳にありえない数字が聞こえた気がするけど、聞き間違いだよね?気のせいだよね?

 確認のためもう一度ユノちゃんに聞いてみる。


「ごめん、レベルが良く聞こえなかった。もう一度いいかな?」

「ん?レベル?335だよ」

「335?」

「うん、335」

「335かー」

「そう、335なのです」

「……マジで?」

「マジですよ?」


 僕がユノちゃんのありえないレベルに唖然としていると、ユノちゃんがまたまたギルドカードを僕へと差し出してくる。今度は情報フルオープンだった。


 名前:ユノ・ナハブ、種族:人族、年齢:14、レベル:335、犯罪歴:無、経過:1年。


 マジでした……。え?何このレベル。本当に人類?いや、種族が人族ってなってるし人類なんだろうけどさ。まじかー、メイさんの恩恵ってのはそこまでなのか。

 しかし、ユノちゃんがここまで強いとなると、足手まといは僕達の方じゃないか?僕達と一緒に迷宮へと挑戦するメリットは何だ?


「それだけの力があるのなら、わざわざ僕達と一緒に行く必要はないんじゃない?何でそんなに必死なの?」


 どう考えたって、僕達と行くよりも一人で行ったほうが迷宮探索は捗るよね?僕達としては強い人が仲間になってくれるのは非情に助かることではあるが、これだけ強い人が仲間になってくれる理由がわからない。

 しかし、ユノちゃんから返ってきた言葉は、何と言ったらいいか……あまりにもあんまりな言葉だった。


「私だって仲間と一緒に迷宮探索したいんだよ!ソロプレイはいい加減飽きたんだよ!私もパーティープレイしたいんだよーーーー」


 この言葉である。

 つまりは、一人で迷宮探索するのは寂しいから仲間と一緒に探索したいということなのかな?


「でも、それならメイさんと一緒に行ったら――」

「きぃちゃんと一緒に行っても虚しいだけなんだよ!きぃちゃんがなんでも出来過ぎちゃうから、私なんっにもすることないし!」

「なら、ユノちゃんくらい強ければ他にも誘ってくれる冒険者も――」

「誘ってもらえてもきぃちゃんが駄目って言うから行けないんだよ!唯一一緒に行ってもいいと許可の出たディレスさんには『一緒のパーティーなんかで戦ったりしたら、本格的に自信をなくしそうだから勘弁してくれ』って断られるし。ここまで言ってもきぃちゃんが駄目って言わないイツキさんに断られたら、きっともう私と一緒に行ってくれる人は見つからないんだよ!」


 僕が言葉を言い終わる前に反論された。何と言うか……ご愁傷様です。

 まあ、そういうことなら一緒に行くということもやぶさかではない。ただ、一つ懸念があるとすれば、僕達が迷宮へ行く理由がレベル上げだということだ。あまりにも強い人が仲間にいると、全然経験が積めない可能性がある。


「一応、僕達が迷宮へ挑むのはレベル上げのためなんだけど――」

「ダイジョブダイジョブ、私レベル上げの邪魔しないよ。一緒に探索ができれば満足だから」


 が、僕の心配は全く必要なかったようだ。さすがに僕達とのレベル差を知っているためか、その辺のことはわきまえてくれているようだ。本当によく出来たお子様だ。

 それなら一緒に連れて行っても大丈夫かな、なんて思っているところへ、ユノちゃんから更なる爆弾が投下される。


「しかも、レベル上げが目的なら私いると有利だよ。なんてったってあの迷宮に一番詳しいの私だからね。第一発見者だからね。最短距離で狩場へ到着なんてことも可能だよ!」


 マジっすか、第一発見者ですか。しかも、最短距離で狩場へ行くことが出来るということは、僕達のレベルにちょうどいい狩場を知っていることだよね?と言うことは……。


「ユノちゃんは迷宮探索どこまで進んでるの?」

「うーん、確か50層くらいだったかな?そこまで行って、虚しくなって帰ってきた……」


 ……まあ、ユノちゃん程のレベルがあれば、そのくらい楽勝で行けるんだろうね。たとえソロでも。そしてソロだとやっぱり、寂しいよね……。


「え?でも、街で聞いた最高到達階層はそんなに行ってなかったような……」

「あー、今20層くらいだったっけ?」

「16層です」


 ユノちゃんがうろ覚えだったらしい到達階層を口にすると、すぐにメイさんが訂正する。あれ?でも僕が聞いたのは14層だったような気が……。


「あれ?まだそんなとこだったっけ?」

「先日ディレス達のパーティーが16層へ到達したところです。あなたと違って仲間達と一緒に堅実に進んでいるようですので」

「ちょっっ!私に仲間がいないのはきぃちゃんのせいじゃないかーーー。私だって仲間と一緒にキャッキャウフフしながら迷宮探索したいのに、きぃちゃんが許可出さないんじゃないのさ!」

「あのような下心が見え透いている者達に私の可愛いナハブを任せることなど出来ません」

「きぃちゃんがそんなことばっかり言ってるから、私は一人で迷宮探索をする羽目になるんじゃないのさ!」

「あのような『あわよくば……』等と考えているような者達にナハブを任せるくらいなら、一人で行かせたほうがマシです。」

「なにさ、その『あわよくば』って」

「ナハブのことを性的にどうこうしようと考えたり、近づいて利用しようなどと考えている下衆共のことですよ」

「はぁ?そんなやついるの?きぃちゃんが過剰に反応しすぎなんじゃないの?」

「いるからこそ私が却下しているのではないですか」

「ぐぬぬ……」


 またもや二人の言い合いが始まってしまった。しかし、話を聞いているとメイさんって結構親馬鹿?いや、親ではないとは聞いているけど、それしか適当な言葉が思いつかない。

 しかし、ユノちゃんを性的に見る人達か……。14歳の少女に、と思わないこともないけど、ユノちゃんの容姿を考えるとあながちないことでもないと思えてしまうんだよなぁ。


「ま、まぁ、それはともかく、私の場合は反則みたいなものだからね、到達階層は公表してないんだよ」


 どうやらユノちゃんはメイさんに口では勝てないと判断したのか、話を戻して僕達にそう言ってきた。うん、多分それ正解だよね。僕達がユノちゃんとメイさんに出会ってから僅かな時間しか経っていないけど、現時点でユノちゃんがメイさんにやり込められる場面しか見てないもんね……。どう考えたってメイさんの方が立場が強いよね。保護者らしいし。

 僕としてもまた話が脱線すると困るので、ユノちゃんの話にのっておく。


「ユノちゃんが50層まで行っているというのなら、僕達のレベル上げに良さそうなところってわかる?」

「うーん、そうだねぇ……30層くらいなら効率よくレベル上げられるんじゃないかな」

「え?30層?危なくない?」

「イツキさんたちだけなら危ないかもね。でも、私が一緒にいれば安全に狩れるよ。どうよ?今なら超お買い得ですぜ旦那」


 手を擦りながら微妙にゲス顔で僕に言ってくる。その顔は流石にやめたほうがいいと思うなぁ……。美少女のする顔じゃないよ。

 しかしなるほど。確かにユノちゃん程のレベルの人が一緒にいてくれるのなら、強敵と戦って経験を積むほうが効率がいいのか。最悪、僕達の手に負えない相手と対峙したとしても、ユノちゃんがなんとかしてくれるという安心感がある。まあ、ユノちゃんのレベルは知っていても、実際に戦っているところを見てみないことには完全に安心は出来ないだろうけどね。

 しかし、これで心は決まった。まあ、すでにそっち側へ傾いてはいたわけだけど、ここまで僕達にメリットしかないのではそれ以外の選択肢は選べないよね。


「じゃあ、よろしくお願いします」

「……本当に?」

「うん、本当に」

「ぉお……」

「ん?何?」

「イーーーーーーヤッホーーーーーーーーーーーゥ!!!!やった!ついにやった!迷宮探索の仲間ゲットだぜ!!私の冒険が今、始まる」


 ユノちゃんが飛び跳ねながら全身で喜びを表現する。更には謎の踊りを披露し、時たま不思議なポーズを取る。何だこりゃ?

 僕はと言えばユノちゃんの突然の大声にびっくりして固まってしまった。

 ノーティとラエルも固まっている。

 周囲をみると他のお客さん達も何事かとこちらの様子を伺っている。

 そんな状況でメイさんがユノちゃんの背後に立ったかと思うと、頭をスパーンと叩く。


「ちょっ、なにさ、きぃちゃん」

「落ち着きなさいナハブ。皆が不審な目であなたを見ているじゃないですか。奇行はなるべく控えなさいと普段から言っているでしょう。それよりも、迷宮探索に行くのならば、仕事を暫く休むことをちゃんと伝えてきなさい」

「あ、そうだ。仕事休みもらってくるね」


 そう言うが早く、ユノちゃんはさっさと走り去っていった。

 それを見送ったメイさんは、僕達に向き直り口を開く。


「あんな子ですけど、よろしくお願いしますね」

「いや、こちらこそよろしくお願いします」

「馬鹿なことをし始めたら遠慮なく頭をひっぱたいていただいて構いませんので」


 えぇー……。それはちょっと僕には難易度高いと思うなぁ……。

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