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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X2章 異次元迷宮イグドラジル
59/116

x2-9.美人さんの名前

「ああ、これはね、きぃちゃんと言って、私の相ぼ――」

「保護者です」

「ちょっときぃちゃん!今私がしゃべっているところでしょ!しかもなにしれっと私の保護者だなんて言っちゃってるのさ」

「おや?不服ですか?では、これからは身の回りの世話は必要ないと?時間に起こす必要も、その日に着る服の準備も、食事の用意も、家の管理も必要ないというのですね?」

「ごめんなさい。きぃちゃんは私の保護者です。今後ともよろしくお願いします」


 ……ナニコレ?とてもレベルの低い言葉の応酬を聞かされた。そしてとても迅速な手のひら返しを見せられた。もう一度言うけど、ナニコレ?

 しかも、絵面が酷い。ユノちゃんと同じ顔をした長身の美女に、どう見ても小学生、かろうじて中学生に見えなくもないかな?というくらいには幼いユノちゃんが土下座で懇願している場面が眼前にて繰り広げられている。もう一度言おう。絵面が酷い。


「えっと……お二人は姉妹で?」


 二人のやり取りを唖然として見ていた僕が、やっと我に返って絞り出した言葉がこれだったりする。色々と想定外過ぎてろくに考えることも出来なかったが、眼前の酷い絵面を解消するという意味では効果があったので良しとしよう。まあ、実際に聞きたいことでもあったしね。


「いや?きぃちゃんはそんなんじゃないよ」

「そうです。私はナハブの保護者です」

「じゃあ、お母さんとか?」

「違います。私はただの保護者です」


 えぇー、保護者だというのに姉でも母でもないとか、じゃあ、一体何なんだ?


「ああ、うん、まあ、きぃちゃんはね、家族よりも大切な存在ではあるんだけど、血縁関係があるというわけじゃないんだよね」


 いやいや、血縁関係がないのにこんなにそっくりってどういうことよ?と言うか、そうなるとどういう関係なの?この二人。


「まあ、詳しいことは今は教えることは出来ないからあきらめてね。で、話は戻るけど、私も残念ながらチートは持ってなかったよ。とは言っても、きぃちゃんが一緒にいてくれたおかげでチートなんて目じゃないほどの恩恵は受けてるけどね」


 二人の関係は気になるところだけど、教えてもらえないというのならば諦めるしかないか。

 しかし、チートなんて目じゃないほどの恩恵って何だろう?あのきぃちゃんって言う女の人が一緒にいると受けられる恩恵とやらが全く想像できない。

 いや、もしかしてきぃちゃんという女性が何かしらの特殊なチートでも持っているのだろうか?

 でも、自分のことをチート扱いするなとユノちゃんに言っていたしなぁ……。なんてどうせ考えたってわからないんだ、だったらいっそ聞いてしまおう。答えてもらえないという可能性もあるだろうけど、どの道こうやって一人で考えていたってわからないんだし、駄目元で聞くだけ聞いてみて、それでもわからなければ悩めばいいんだ。うん、そうしよう。


「チートなんて目じゃないほどの恩恵っていうのは何なのか聞いてもいいのかな?」

「お?聞いちゃう?それ聞いちゃう?ならば答えましょう。すかさず答えましょう。聞いて驚くがいい。なんと、きぃちゃんは全知全能の神だったのだ!あ痛っ!」


 ユノちゃんがセリフを言い終わった瞬間、美人さんがユノちゃんの後頭部をベシッと叩いていた。


「相変わらず何馬鹿なことを言っているのですか」

「えー、だって同じようなものでしょ。なんでも知ってるしなんでも出来るし」

「私にだって知らないこともありますし、出来ないことだってあります。そもそも私は神などという存在になった覚えはありません」

「私にとってはそのくらいすごい存在なんだよ、きぃちゃんは。むしろ私の中では神なんて余裕で超えてるね。超えちゃってるね。さすがだよきぃちゃん。ぁ痛っ」


 またもや美人さんがユノちゃんの頭をいい音を立てながら叩く。何なんだろうか、このやり取りは……。


「馬鹿なことばかり言ってないで真面目にやりなさい」

「えぇー、私はいつだって真面目だよ。自分で言うのもなんだけど、これほど真面目な人はなかなかいないね。キングオブ真面目と言っても過言じゃないね」

「そうですか。ならば満月堂への出勤日数を増やしても問題ありませんね?大層真面目な人物らしいので文句など出るはずありませんよね?むしろ喜んで仕事に励むはずですよね?思う存分真面目に働いてください」

「申し訳ございませんでした!調子に乗って嘘をつきました!お願いします、私の自由時間を減らさないでください」


 ユノちゃんがまたもや土下座をしながら謝っている。ねえ、何なのこれ?いつまで続くの?


「ほら、ナハブ、いい加減にしなさい。あちらの方達がどうしたらいいのか困っているじゃないですか」


 僕が二人のやり取りに口を挟めずに少し遠い目をしていたら、不意にきぃちゃんと呼ばれる美人さんから話を振られた。あ、僕達のこと忘れてなかったんですね。二人の世界に入っておられるようでしたので、すっかり忘れられているのかと思ってましたよ。


「あー、ごめんごめん。ちょっと話が横道にそれちゃったね。でも、これできぃちゃんの偉大さがわかってもらえたと思う。すごいでしょ、きぃちゃんは」


 は?……え?今のできぃちゃんという女性のものすごい恩恵とやらの説明終わり?今のどこにチートなんて目じゃないほどの恩恵の説明あったの?

 まさかボケたらツッコミを返してくれるというのが恩恵だとでもいうのだろうか?今の会話から読み取れることなんてそのくらいだよね?さっぱり意味がわからない。

 ユノちゃんは何故か満足気にドヤ顔をしている。ここは僕、文句を言ってもいい場面だよね?許される場面だよね?しかし……くそぅ、美少女はドヤ顔していても無茶苦茶可愛いなぁ。許してしまってもいいような気分にさせられる。


「あなたは今の会話で何を説明した気になっているのですか?今の会話からはあなたがお馬鹿であるということくらいしかわかることなんてありませんよ」


 だが、僕が許したとしても美人さんは許さなかった。しかもなかなかに辛辣だ。


「さすがにお馬鹿はいくらきぃちゃんでも言いすぎじゃないのかなぁ?あんまりそうやって私の心をえぐると、泣くよ?泣くからね?」

「何をみっともない脅し文句を堂々と口にしているのですか。はいはい、わかりましたよ。あなたはお馬鹿じゃありませんので機嫌を直してください」


 相変わらず二人は酷い会話をしていたが、その後ちゃんと説明もしてもらえた。一体どこまで話が脱線するんだろうかと不安になっていたので、ちゃんと本題に戻ってこれて本当に良かった。


 そして、説明を聞いてみると本当にきぃちゃんと呼ばれる美人さんは凄かった。

 この世界のほぼ全ての知識を網羅し、あらゆる魔法を操り、あらゆる武術をも修めている。何をやらせてもそつなくこなし、挙げ句の果てにはユノちゃんの能力を一時的に大幅に上昇させることが出来るのだとか。

 それらが本当ならば、確かにこれはチートなんて目じゃないほどの恩恵かもしれない。


 何故なら、知識があればこの世界のことを理解するための情報収集をする必要がないし、魔法や武術に長けているのならば訓練してもらうことだって出来る。その上、能力値を一時的にでも上昇させることが出来るのであれば、本来では格上である魔物と戦って、経験を積むなんてことだって可能なのだ。

 正直言えばすっごい羨ましい。僕がこの世界にやって来たばかりの時に苦労してきたことが、このきぃちゃんという女性がいることで全て解決出来てしまうのだ。まあ、今更ないものねだりはしないけどさ。僕にはチートやそれに準ずるものには縁がなかったけど、その代わり、ノーティやラエルという仲間が出来た。それで満足しておかないと罰が当たるよね。


 さて、話は変わるのだけど、いい加減あの美人さんの名前を聞きたい。いや、下心があるとかそういう話じゃないんだよ。さすがに僕があの美人さんに向かって「きぃちゃん」なんて呼ぶわけにも行かないし、今のままじゃなんて呼んだらいいのかがわからない。

 今更感はあるけど、さすがにそろそろ聞いてみようかと思い意を決して聞いてみたが、現実は非情であった。


「私のことでしたら、親しみを込めてきぃちゃんとお呼びください」


 これが僕が美人さんに対して、なんて呼んだらいいのかと尋ねたことへの答えだ。

 いやいやいや、小さな子をちゃん付けするのは別に抵抗はないけど、さすがに良い年をした、しかも美人さん相手にちゃん付けは僕にはハードルが高すぎる。


「仕方がありません、それでは私のことはメイとお呼びください」


 僕が他の呼び方はないのかと聞いてみると、渋々と他の呼び名を教えてくれた。本当に渋々だった。そんなにきぃちゃんという呼ばれ方を気に入っているのだろうか。

 しかし、とりあえず呼び名が決まったのは良かったんだけど、なにゆえ愛称がきぃちゃんなのにメイなのでしょうか……。

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