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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X2章 異次元迷宮イグドラジル
57/116

x2-7.アニエちゃんのグッジョブがとどまるところを知らない

 案内された席は店の奥まったところにある、他の人達に聞かれたくない話をするのに良さそうな場所だった。


「さて、じゃあご注文は?」

「え?」


 まさかそんな普通に接客されるとも思っていなかったため、つい疑問の言葉が口に出てしまった。


「いやいやいや、ここ食堂だよ。まずは食事しようよ。話ならその後聞いてあげるから」


 ……ごもっともです。と言うか、僕も元々はそのつもりで来ていたというのに、色々と想定外の出来事がありすぎて気が急いていたようだ。

 当初の予定通り、まずは腹ごしらえをしようか。食堂に来ておいて食事をしないなんてありえないからね。

 僕達はそれぞれ好きな料理を注文し、食事を堪能することにした。






 食事も済み、一息ついたところでユノちゃんがやって来た。


「どう?美味しかった?」

「ああ、うん、美味しかったよ」

「はい、とても美味しかったです」

「ちょーおいしかったよー」


 僕達がそれぞれの言葉で美味しかったことを伝えると、ユノちゃんは顔をほころばせる。


「ふふっ、それじゃ、これもどうぞ」


 そう言ってユノちゃんは、皿の上に乗せられた白くてプルプルとした物体を僕達の前に差し出した。

 これは、まさか……。


「ご所望の杏仁豆腐よ」


 おおっ、やっぱり。今回はこれが目当てってわけじゃなかったんだけど、食べられるのならばそれはそれで嬉しい。

 僕は早速スプーンで杏仁豆腐をすくい、口へと運ぶ。

 ……あぁ、そうそう、確かこんな味だった。僕はプリンが好きすぎてそれほど杏仁豆腐を口にする機会は多くはなかったけど、それでもこうやって、久しぶりに食べた味を懐かしむくらいには食べたことはある。


「プリンとは違った甘さですけど、これはこれで美味しいですね」


 ノーティもそれなりに気に入ったようだ。


「甘いけど、なんか変な味ー」


 ラエルについては何と言うか……うん、ある意味予想通りの感想だな。ユノちゃんもラエルの反応には苦笑いしている。


「さて、それじゃあお兄さんの話を聞きましょうか」


 僕達が食後のデザートを思い思いに堪能していると、ユノちゃんから話を振られた。あぁ……うん、そうだよ。杏仁豆腐に夢中になってる場合じゃないよ。聞きたいことは昨日のうちに一通り考えてきたから、とりあえずは順番に確認していこうか。


「えぇと、ユノちゃんは……あっ、ごめん。……君のことはなんて呼んだらいいだろうか」


 アニエちゃんがユノちゃんと呼んでいたため、僕も心の中でユノちゃんと呼んでいたらそれが口に出てしまった。さすがに初対面でちゃん付けはないよな……。


「別にどう呼んでもらってもいいですよ。ちゃん付けでも呼び捨てでもお好きなようにどうぞ。……ああ、でも、さん付けはできればやめて欲しいかな。年上の人からさん付けで呼ばれるのはさすがに抵抗があるんですよね」


 ユノちゃんは僕がちゃん付けで呼んだことを気にした様子もなく、そう答える。


「じゃあ、お言葉に甘えてユノちゃんと呼ばせてもらうね」

「えぇ、どうぞ。それじゃあ私はイツキさん、ノーティさん、ラエルちゃんとでも呼ばせてもらおうかしら」


 ……え?

 あれ?そう言えば僕達、自己紹介した記憶がないぞ?なんでユノちゃんは僕達の名前を知っているんだ?

 いや、それよりも自己紹介をしていないという事実に今気づいてしまった。これから話を聞こうと言う相手に対して、なんて失礼なことをしているんだ僕達は……。

 僕が衝撃の事実に自己嫌悪に陥っていると、ラエルがユノちゃんに抗議し始めた。


「なんでご主人様とお姉ちゃんは「さん」なのに、ラエルだけ「ちゃん」なの?ラエルのことも「さん」で呼ぶべきだと思うのよ?」

「えぇー、でも、ラエルちゃんだけ私より年下だしなー」

「む?今、ラエルのことを年下だといいましたか?ラエル、こう見えて13歳なんですけど?」

「うん、知ってる。私ね、こう見えて14歳なんだ。ラエルちゃんよりお姉さんなのよー」

「なっ!?」


 えっ?14歳?

 ……え?マジで?

 どう見ても10歳くらい……いや、日本人なんだと考えれば12歳くらいには見えなくもないか?


 そんなことを考えていると、ユノちゃんはカードのようなものをこちらへ差し出してきた。

 ええと、ああ、これはギルドカードか。差し出されたカードには名前と年齢のみが表示されている。へぇー、ギルドカードってこういう風に特定の情報だけを表示することもできるのか。今初めて知ったよ。

 って、違う違う。今はそんなことに感心している場合じゃない。確かにギルドカードには「ユノ・ナハブ」「14歳」と記載されている。

 ギルドカードは基本的に改ざんが出来ないはずなので、ユノちゃんが14歳というのは本当のことらしい。


 しかし……ギルドカードを持っているということは、ユノちゃんも冒険者だったのか。そして、ユノちゃんのフルネームを知ってしまったことで不安が生まれてしまった。「なはぶ」なんて名字聞いたことないぞ?どう漢字を当てたらいいのか思いつかない。ユノちゃんが日本人だという僕の予想は外れているのだろうか?

 そんなことを考えている間にも話は続いていく。


「そういうわけで、あなたはラエルちゃん。オーケー?」

「むぅ……しょうがない。今日のところはそういうことにしておいてやる」


 と思ったら話は終わっていた。しかしラエルよ、それただの負け惜しみだからね。


「さて、それじゃあ話を戻して。イツキさん、私に何を聞きたいのかな?」


 おおっと、そう言えばまた話が脱線してしまっていたか。正直言うとなぜ僕達の名前を知っているのかということも気になるところだが、まずはやっぱりこれを聞かなくちゃ話が進まないよね。


「ユノちゃんはさ、やっぱり日本人なの?」

「ああ、やっぱり最初はそれですよね。ご想像通り私は日本人ですよ」

「ああよかった、日本人なんだ。ギルドカードに書いてあった名前を見てちょっと不安だったんだよね」

「あー、名前についてはこっちに来てから改名してるんで。理由だとかは聞かないでもらえると助かります」


 なるほど、改名か。そんなこともできるんだな。なんで改名したのかは少し気になるが、聞かないで欲しいというのならば聞かないでおこう。


「この食堂の料理はユノちゃんが?」

「あー、……本当はね、向こうのものをこっちで広めるつもりはなかったんですよね……」


 僕が料理についてユノちゃんに確認をすると、少し気まずそうな様子で返事を返してくる。


「アニエにね、向こうの料理を食べさせたら見事にハマッちゃってね。そうしたら、アニエが食堂のみんなに言いふらすわけですよ。私に食べさせてもらったご飯が美味しかったって。そうするとね、みんなも私がアニエに食べさせたご飯が気になるわけでね。で、みんなにも食べさせざるを得ない状況になって、最終的に作り方を教えろ、って話になっちゃったというわけなのよね」


 なるほど、アニエちゃんが言いふらしたせいだとユノちゃんは言いたいのかな。それに関してはグッジョブだアニエちゃん。おかげで懐かしい料理も食べられたし、なにより僕の愛するプリンに再会することが出来た。

 しかし、そもそもユノちゃんがアニエちゃんに食べさせなければ、アニエちゃんが日本の料理にハマることもなかったし言いふらすこともなかったと思うのだがどうだろうか。

 そんなことを考えながらユノちゃんに視線を向けると、僕の考えていることを読み取ったかのようにユノちゃんが弁解してくる。


「待った待った待った。そんなお前が餌を与えるのが悪いんだろ的な目で見ないでよ。言い訳を、言い訳をさせてください」


 何やら必死にユノちゃんが言ってきたので、とりあえず言い訳とやらを聞いてみる。


「別にね、わざわざ私の方からアニエに食べさせたわけじゃないのよ。ええとね、この世界の料理も美味しいんだけどさ、ほら、やっぱり私って日本人なわけだからさ、日本の料理が恋しくなることもあるわけですよ」


 まあ、それはわかる。僕だって実際恋しくなったりしたわけだしね。しかし、いきなり話が飛んだな。ちゃんと話繋がるのか?


「でね、どうしても食べたくなっちゃって自分の部屋でこっそりラーメン食べてたらさ、アニエが部屋に突入してきて何食べてるの?って……」

「隠れて食べていたのに見つかっちゃったのか」

「そうなのよ。アニエには他にも美味しいものはないのかって迫られるし、食堂のみんなにも私にも食べさせろって詰問されるし、きぃちゃんには食事中だからって気配の察知を怠った私が悪いって責められるし、散々だよ」


 またもや謎の人物きぃちゃんが登場したな。これも気にはなるんだけど、他にも気になることはたくさんある。とりあえず、きぃちゃんという人については今すぐどうしても聞きたいという程の内容ではないので、一通り疑問が解消したら聞いてみようかと心に留めておくことにする。


 ユノちゃんは日本の物をこっちの世界に広めることに罪悪感を覚えているようで、僕に対しても料理を狭い範囲とはいえ周知させてしまったことに言い訳をしてきたわけだが、僕としてはなぜユノちゃんがそんなことを気にするのかがわからない。

 むしろおかげで諦めていたプリンを再び食べることが出来たし、こうやって同郷の人に出会うことが出来たわけだから、僕としては感謝しかない。

 少し気になったので、そこら辺を聞いてみる。


「だってさ、日本には日本の文化、こっちの世界にはこっちの世界の文化があるわけじゃない?それをさ、よその世界から持ちだしたものでぶち壊したくないじゃない。幸い、私が持ってきた料理の影響はそれほど大きくはならなかったけどさ、万が一、それのせいでこっちの世界の料理が淘汰されるなんてことになっちゃったら、私はもうこの世界での生活を楽しむことは出来ないわ」


 うん、言いたいことは何となく分かる。しかし、今時の14歳ってこんなにしっかりした考えを持っているのか。正直言って僕よりもしっかりしているような気がするんだけど……。異世界への影響なんて、僕は考えたことすらないよ……。


「とは言っても、異世界人である私がこの世界で生活している以上、どうしても影響は与えてしまうだろうからただの自己満足なんだけどね。開き直って思いっきり影響を与えまくってみたこともある私が言うセリフじゃないと思うけど」


 ユノちゃんは笑顔でそんなことを言うが、最後に凄く気になるセリフを言い放った。一体どんな影響を与えたのだろうか。気にはなるけど、聞くのは少し怖い気がする。うん、これは機会があったら聞いてみることにしよう。機会があったらね。決してユノちゃんが影響を与えまくったなんて笑顔で言っているからビビったというわけではないのであしからず。


 それよりもそろそろ次の質問をしようか。ただユノちゃんが日本人なのかを確認する質問をしただけのはずなのに、色々と脱線しまくっている。話をするたびに聞きたいことが増えていくような気がして少し怖い。


「じゃあユノちゃん、次の質問いいかな?」

「えぇ、どうぞ」

「なんでユノちゃんは僕達の名前がわかったんだ?僕達まだ自己紹介もしていなかったと思うんだけど」

「ああ、それね。私は能力確認の魔法が使えるから、イツキさん達のステータスをちょっとのぞかせてもらったの」


 ……は?

 能力確認の魔法?そんな魔法聞いたことないんだけど……。

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