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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X2章 異次元迷宮イグドラジル
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x2-6.迷惑な客

 翌日、当然の事ながら僕達は満月堂にいた。

 はやる気持ちを抑えきれず開店時間にやって来、そして店内へと入る。

 キョロキョロと辺りを見回すが、ユノちゃんらしき人物は見当たらない。いや、そもそもユノちゃんがどんな人なのかすら僕は知らない。更に言うと、ユノちゃんがいつ頃やって来て、どのくらいここに滞在するのかなんて情報も聞いていない。

 日本人らしき人物の情報を手に入れられたことが嬉しすぎて、今日ここにやって来るらしいという情報以外何の情報も手に入れていないのだ。何をやっているんだ僕は……。


 現状どうすることも出来ないわけで、とりあえずせっかくだからと食事をしていると、不意に聞き覚えのある声が耳に届いた。


「あー、きのうのおねぇちゃんたちだー」


 声のした方へ顔を向けると、アニエちゃんが手をパタパタさせながら僕の方へと走ってくる。


「おはようございます!」

「ああ、おはよう、アニエちゃん」


 僕が挨拶を返すと、アニエちゃんは「えへへぇー」と言いながらニコニコとしている。ちょっとこの子マジで可愛すぎるんだがどうしてくれよう。僕はアニエちゃんの頭を撫で回したくなる気持ちを抑えながらも、確認しておくべきことがあるのを思い出し、アニエちゃんに質問をする。


「ねえ、アニエちゃん。ユノちゃんってもう来ていたりする?」


 僕の言葉を聞いたアニエちゃんは、一瞬何のことかわからないかのようにきょとんとした表情を見せたが、すぐに言葉の意味を理解したのか、答えを返してくれる。


「うんとね、ユノちゃんはね、いつもいっつも、くるのおそいんだよ」

「じゃあ、まだ来てない?」

「うん!いつもくるのはおひるすぎてから、いっぱいじかんがすぎてからだから、たぶんきょうもいっぱいいっぱいじかんがすぎないと、こないんじゃないかなー」


 なるほど、昼過ぎじゃないと来ないのか。……まだまだ時間があるな。これは一旦出直したほうがいいかな。


「アニエちゃん、ユノちゃんは来てからすぐに帰っちゃったりしないよね?」

「ん?ユノちゃん?きょうはおみせおわるまでいるっていってた!」


 それなら行き違いになることもないかな?とりあえず食事が済んだらお店を出ようか。さすがにずっと居座っては店の迷惑になるだろうからね。

 同行者の二人にそう伝えると、ノーティは了承してくれ、ラエルは一心不乱にハンバーグを食べていた。……ハンバーグが好きなのはわかったから、人の話はちゃんと聞こうよ。




 昼も過ぎ、お店の混雑も落ち着いてきた頃、僕達は再度満月堂へと足を運ぶ。

 今度こそ同郷の人に会えるだろうか。ちょっとドキドキしてきた。

 店内に入ると、いつも通り店員さんが迎えてくれる。


「いらっしゃいませー」


 ……いや、いつも通りじゃない。なんかものすっごい美少女がそこにいた。

 普段の店員さんもすごい美人なんだけど、この少女はそれを凌駕しているのが素人目にもわかる。……いや、何の素人だよ。

 歳は10歳くらいだろうか、黒髪黒目のとても愛らしい少女だ。って、黒髪黒目?もしかしてこの子が……。


「あー、おねぇちゃんたちいらっしゃーい」


 するとそこへアニエちゃんが登場。そして僕の欲しかった答えをくれた。


「あれ?ユノちゃんいつきたのー?」

「アニエおはよう。さっき来たばっかりよ」


 やはりこの子がユノちゃんだったか。しかし何だろう、日本人の特徴を数多く持っているというのに、日本人とは認めたくないこの気持ち。ちょっと冗談抜きで日本人離れした美少女っぷりなんですけど。


「うんとね、このおねぇちゃんがね、ユノちゃんのあんにんどーふたべたいんだって」


 あー、そう言えばきっかけは杏仁豆腐だったなぁ。今の今まで杏仁豆腐のことなんてすっかり忘れてたよ。てか、なんかその言い方だと僕がユノちゃんの持っている杏仁豆腐を奪って食べたいって言ってるように聞こえない?


「えっ?杏仁豆腐?」


 ユノちゃんはそう呟くと、僕の方を観察するかのように眺めてくる。

 まあ、いきなり杏仁豆腐食わせろとか言われても何のことかわからないよなぁ。

 アニエちゃんは僕が杏仁豆腐が食べたいがためにユノちゃんを待っていたのだと思っているらしく、それを伝えられたユノちゃんは僕のことをどう思っただろうか。うん、普通に考えて食い意地の張った客だな。いやしかし、杏仁豆腐が食べたくて店で待ち伏せまでする客。下手したらストーカー扱いされる可能性だってあるよな。

 あれ?これ僕の第一印象最悪じゃないか?


「はぁー、なるほどなるほど。そう言うことね」


 考えれば考えるほど悪い方向へと向かっていってしまう僕の思考は、そんなユノちゃんの言葉に遮られた。


「まず、アニエ」

「なぁに?ユノちゃん」

「この人ね、お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだからね」

「え?」


 え?

 アニエちゃんの言葉と、僕の心の声が重なる。

 ここ数年、仲間の二人以外にはずっと女性扱いされ続けていた僕を、男だと言ったのか?この子は。自分でこれを言うのも悔しいが、なんでわかったんだ?

 少し見ただけで性別を当てられたことに驚愕していると、アニエちゃんと目が合った。


「おねぇちゃんは、おにぃちゃんなの?」


 なんか意味のわからない言葉になっているが、言いたいことはわかる。嘘をつく意味もないのでそうだと答えてあげれば、アニエちゃんがはしゃぎだした。


「ほわぁーーーー。ねぇねぇユノちゃんユノちゃん。おねぇちゃんはおにぃちゃんだったんだって。どうしてわかったの?ユノちゃんなんでわかったの?」


 アニエちゃんはぴょんぴょん飛び跳ねながらユノちゃんの周りを回っている。

 アニエちゃんのあまりの可愛さにユノちゃんも顔がほころんでいる。というか、僕やノーティもだ。ラエルだけは店内の客が食べているハンバーグに目が釘付けだ。……こいつは。

 再度アニエちゃんとユノちゃんの方へ視線を向けてみると、あまりの可愛さに我慢できなくなったのか、アニエちゃんの頭を両手でわしゃわしゃと撫で回すユノちゃんの姿があった。……ちょっと羨ましい。


「きぃちゃんが男の人だって言ってたからね。きぃちゃんが間違えるわけないし」

「えっ!きぃちゃんいるの!?わたしいってくる!!」


 アニエちゃんはそう言うが早く、ユノちゃんの撫で回しから抜けだして走り去っていった。

 あまりの早業に唖然としてしまったが、さっきの会話に気になる言葉があったため、思考回路が復活する。

 まず、きぃちゃんって誰だよ……。そもそも、今僕達の会話中に誰か近づいて来たか?いつユノちゃんはそのきぃちゃんって人に僕が男だと聞いたんだ?


「とりあえず、お兄さんは私に用があって来たのかな?」


 答えの出ない思考に没頭していると、ユノちゃんが話しかけてきた。

 そう言えばそうだよ、そんな考えても答えの出ないことを考え続けるよりも、本来の目的を遂行しなくちゃ。


「うん、そうなんだ。ちょっと君と話してみたいことがあるんだけど……いいかな?」

「まあなんとなくどんな話なのかは推測できるけど、そっちの二人に聞かれても問題ないの?」

「ああ、大丈夫だ」


 実は仲間の二人には、昨日のうちに僕が異世界からやって来たということは話しておいた。

 今日ユノちゃんと話をするとなると、日本の話をするということはほぼ間違いない。そこで長年連れ添った仲間に理解の出来ない話を僕とユノちゃんの二人だけでして、ノーティとラエルを除け者にするなんてことはしたくなかったのだ。

 最初は二人共驚いていたようだけど、結局のところ生まれた世界が違うというだけで、僕という人間に変わりはない。いずれ日本へ帰ってしまうというのならば色々と話しあわなくちゃならないこともたくさんあるだろうけど、そもそも僕は日本へ帰れるなんて思っていないし、帰りたいという気持ちも特にない。だったら何も問題ないだろうと言うのが、昨日の話し合いの結論だった。


「じゃぁ……まずは席に着こうか」


 ユノちゃんはそう言い、僕達を席に案内する。

 ……。

 そう言えば、ここは店に入ってすぐのところだった。

 店の入口付近で突っ立って話し込むとか、どう考えても邪魔だよな。

 店に入ってすぐに出会ったユノちゃんのあまりの美少女っぷりに、思考回路がいささか麻痺していたようだ。

 幸い、お客さんの出入りの少ない時間帯だったため他の人の迷惑にはなっていなかったようだけど、これは少し反省しなくちゃ……。

 僕は申し訳ない気持ちになりながらも、案内された席へと座ることにした。

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