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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X2章 異次元迷宮イグドラジル
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x2-5.幼女乱入

「あの、すみません」

「はい、何でしょうか?」

「えーとですね、この料理を作った人と――――」

「あー、ごめんなさい。料理のレシピなんかは一切お教えしていないんです」

「あ、いや、違……」


 店員のお姉さんは僕の言葉にかぶせ気味にそう答えると、足早に去っていった。

 僕の「違う」という弁解の言葉は耳に届いていないようだった。余程レシピを聞かれることが多いのだろうか、ものすごく対応慣れしているような感じだ。

 僕はただ、料理を作った人と話をしてみたかっただけなんだけどなぁ……。




 僕達が王都へと到着してからすでに3日が経った。

 迷宮を目指して王都まで来たというのに、未だ迷宮へとは向かっていない。何故かって?そんなの決まっている。僕達みんな「満月堂」の料理に魅了されてしまったからだ。

 僕の元いた世界の料理もとても美味しかったわけなのだが、それ以外の料理、こちらの世界の料理や、満月堂オリジナルメニューなんかも非常に美味しかった。

 特にこの満月堂オリジナルメニューが凶悪だ。日本の料理とこっちの世界の料理のノウハウを駆使した、全くの新しい料理が生み出されているわけなのだが、これが非常に美味い。と言うか、二つの世界のいいとこ取りをした料理が不味いわけがない。

 そんなわけで、毎食、どころか小腹が空くたびに満月堂で食事を堪能していたら、いつの間にか3日経っていたというわけだ。

 今までは美味しいものを食べることに夢中になっていたわけだけど、今になってやっと他のことにも目を向ける余裕が出てきた。これはまぁ、初めてメニューを見た時からわかっていたわけだが、どう考えてもこの店には日本人が関わっている。と言うか、これだけ日本の料理が再現されているというのに、日本人が関わっていないとしたら「どんな偶然だよ」と叫びだしたくなってしまう。


 もう、日本に帰りたいだとか日本が恋しいだとかいうのはここ数年考えもしなかったし、今更日本に帰りたいだとかは思わないけど、近くに同郷の人がいるというのならば会ってみたいとは思う。しかも僕がこの世界へとやって来てから、泣く泣く諦めていたプリンを作り出してくれた人だというのならばなおさらだ。この店で料理を作っている人が日本人だとは限らないけど、それでも何らかの関わりがあるのは間違いないと思う。そう考え、意を決して尋ねてみようとした結果が、先程の会話だ……。


 うん、そりゃぁこんなに美味しい料理ならレシピを聞きたくなるのはしょうがないと思う。店員さんも今までで数多く同じような質問をされてきたのだろう。でも、だからと言って、話を最後まで聞かずに拒否するなんてあんまりじゃないか。そもそも僕にはレシピが分かったからといって、これらの料理を作ることができるとは全く思えないというのに。……自分の言葉に切なくなってきた。


 僕はしょんぼりとしながら、デザートにと注文していたプリンを口に運ぶ。うん、ちゃんと美味しいんだけど、素直に味を楽しめない。はぁ、どうにかして日本人の手がかりがつかめないものか。

 そんな気持ちとは裏腹に軽快な動きでプリンを食していると、ふと視線を感じた。

 あー、また二人には心配させちゃったかな?顔を上げて二人の様子を見てみると、どうやら視線はノーティとラエルのものではない模様。あれ?じゃあどこから……。


 視線を探しキョロキョロとしていると、ふと少し離れた位置にいる小さな少女と目が合う。

 見た感じ10歳に満たないくらいだろうか、銀髪の、愛嬌のある顔の可愛らしい少女が僕を見ている。この店の制服を身に着けているみたいだけど、こんな小さな子も店員なんだろうか?さっき感じた視線はこの子なのかな?

 そんなことを考えながら僕も少女を見ていると、ニコッと笑い、とてとてとこちらへ向かって来た。


「おねぇちゃん、ぷりんすき?」


 ああ、見知らぬ幼女にまでお姉ちゃん扱いされた……。うん、もういいや……。


「うん、大好きだよ」

「そうなんだ!わたしもね、ぷりんだいすきなの」


 僕が好きだと答えると、少女は満面の笑みで、手をパタパタさせながら自分もプリンが大好きだと主張する。

 何この可愛い生き物。


「でもね、ユノちゃんはね、あんにんどーふのほうがすきなんだって」

「ふーん、そうなんだ」


 唐突に登場したユノちゃんという名前に会話の繋がりがさっぱり理解できなかったが、まあ、このくらいの子供は脈絡のない会話をするもんだよなと思い、とりあえず返事を返す。

 ユノちゃんってのはこの子の友達かな?まあ、杏仁豆腐も美味しいよね。……って、え?杏仁豆腐?あれ?そんなのメニューにあったか?メニューは隅から隅まで見たはずだけど、そんなのはなかったはずだ。まさか裏メニューとかなのか?もしここで食べられるのならば、せっかくだから食べてみたい。


「ね、ねぇ、お嬢ちゃん」

「むー、わたし、おじょうちゃんてなまえじゃないよ。わたしにはアニエっていう、りっぱななまえがあるんだから!」

「あー、ごめんね。で、アニエちゃん。その、杏仁豆腐はこのお店で食べられるのかな?」

「それがね、つくりかたはわかるけど、ざいりょうがよくわからないからつくれないんだって」


 あぁ、作れないのか……。しかし、思わぬところからものすごい情報を手に入れてしまったぞ。

 杏仁豆腐がこの世界で作れないということは、杏仁豆腐を知っているユノちゃんって子が日本人である可能性は非常に高い。どうやって日本人の情報を手に入れようかと悩んでいたら、いともあっさりと有力な情報を手に入れてしまった。嬉しい誤算だ。


「あんにんどーふもおいしかったけど、ぷりんのほうがもっともーっと、おいしかったから、わがままいわないであきらめたの。わたしえらいでしょ!」


 アニエちゃんは得意げな顔でふんぞり返り、むふーっ、と鼻息を荒くする。

 やだ、何この可愛い生き物。

 って、え?杏仁豆腐が美味しかった?え?この子、杏仁豆腐食べたことあるの?まさかこの子も日本人?……いやいやいや、まさかそんなわけないよね?


「ねえ、アニエちゃん。杏仁豆腐食べたことあるの?」

「うん!あるよー。ぷりんがおいしいっていったら、これもおいしいからたべてみなって、ユノちゃんにたべさせてもらったの。あんにんどーふもおいしかったけど、ぷりんのほうがおいしいっていったら、ユノちゃんがっかりしてたの」


 なるほど。やっぱりユノちゃんって子が日本人なのはほぼ間違いなさそうだ。

 しかし、杏仁豆腐を作れないのに持っているっていうのはどういうことだ?

 ……まさか、日本の料理を手に入れることのできるチートでも持っているとでもいうのだろうか?そんなチートがあるのなら、僕も欲しかったよ。


 まあ、それはともかく、日本人の第一候補であるユノちゃんとはやっぱり会ってみたい。そして僕がこの世界に来てから諦めていたあれやこれやの料理達を食べさせてもらおう。……いや、それが目的ってわけじゃないですよ?ただ単に、同郷の人と会ってみたいという純粋な思いがですね……って、僕は誰に言い訳しているんだろう……。いや、それよりも今はユノちゃんて子の所在だ。


「ねえ、アニエちゃん。そのユノちゃんって子に会いたいんだけど、どうやったら会えるかな?」

「ん?ユノちゃん?えーと……たしかね、あしたくるって、いってたきがする」


 アニエちゃんは首をこてんと傾げながら、僕の問いに答えてくれた。

 ……あざといなさすが幼女あざとい。

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