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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X2章 異次元迷宮イグドラジル
51/116

x2-1.アマテラス

「ああ、やっと着いた……」


 遠目に見える王都アルクハムの街並みを確認し、つい言葉をこぼしてしまう。

 ここまで実に遠かった。思わずそんなことを口に出してしまうほどに。


「はい、ようやく辿り着きましたね」

「ラエルもう疲れたー」


 そしてそんな僕の呟きに、同行者の二人が返事をする。


「以前拠点にしていたとはいえ、五年も経ってしまうと意外と覚えていないものですね」


 彼女の名前はノーティ・フルル。歳は確か17歳くらいだったかな。

 青い髪に青い目をした、白いワンピースなんかがよく似合いそうな清純派美少女だ。残念ながら、今身に着けているものは年季の入った軽鎧だったりするので、彼女の魅力も二割減といったところだろうか。まあ、そうは言っても容姿で一番目につく部分は当然顔なわけで、その整った美しい顔を見てしまえば、服装なんて目に入らないかもしれないけどね。


 そんなノーティとは、魔物から逃げている彼女を助けたことがきっかけで一緒に行動するようになった。

 元々彼女は母親と一緒に小さい頃から冒険者として活動していたようで、魔物から受けた傷が原因で母親が亡くなってからも一人で頑張っていたんだという。しかし、幼い少女が一人でやっていけるほど冒険者という職業は甘くはなく、採取依頼で王都の外へ出ていた時、比較的安全な場所で依頼の品を探していた際に、運悪く自分では敵わない魔物と出会ってしまい、必死に逃げていたところで僕と出会ったということらしい。

 僕もただ助けただけで一緒に行動するつもりはなかったんだけど、彼女に色々と事情を聞いていたら、身寄りがいないという事を知ってしまい、彼女を放っておくことが出来なくなってしまった。だって、僕と出会った時の彼女の年齢は11歳だったんだ。そんな幼い子供に、一人で頑張って生きろなんてとてもじゃないけど言えないじゃないか。

 当時は僕も駆け出し冒険者でちょうど仲間が欲しいと思っていた時だったため、これも何かの縁かと思い、彼女とパーティを組むことにした。とは言ってもさすがに幼い少女に無茶はさせられないので、しばらくは魔物の相手は僕の担当だったけどね。


「ラエル、あんまり王都にいいイメージないんだよね―」


 そしてもう一人の彼女はラエル・ティティリア。歳は確か13歳だったはず。

 少し白っぽい金髪、プラチナブロンドってやつだっけ?そんな輝くような綺麗な髪と、紫色の目を持った低身長な美幼女だ。ついでに言うと耳がちょっと長くて尖っている。そう、彼女の種族は人族ではなく亜族。僕の認識でいうところのエルフというやつだった。


 因みに、今僕達のいる人大陸には亜族はほとんど住んでいない。つまりエルフは非常に珍しく、種族がバレると面倒事に巻き込まれる可能性がとても高いため、ラエルは緑色のローブを常に身に纏い、人のいる場所ではフードをかぶって耳を隠している。

 ラエルには不便を強いてしまっているが、人大陸で亜族が生活していくためには必要なことなので、我慢してもらっている。


 そんな彼女との出会は、魔物に襲われ、全滅していた集団の馬車の中だった。それでなぜ彼女だけ生き残れたのかというと、それは彼女が馬車の中に、更には鉄格子の檻の中に囚われていたため、魔物も手を出せなかったのだろう。そう、魔物に襲われた馬車の主は奴隷商人だったのだ。しかも、これは後から知ったことなのだけど、違法な奴隷を扱う闇商人だったらしい。ラエルは「隷属の首輪」という、主の命令に服従しなくてはならないという魔道具をつけられ、一切の攻撃行動、逃走、魔法の使用等を禁止されており、本来であれば無抵抗に魔物に殺されるはずだったのだが、幸いと言っていいのか、彼女を囚えるための鉄格子の檻は思いの外頑丈だったようで、この鉄の檻をどうにかできる程の魔物はいなかったらしく、散々暴れまくった挙句、彼女を襲うのをあきらめて帰っていったのだという。


 そんな話を聞いた後、奴隷商人の持ち物から檻の鍵を探し出し、彼女を檻から出してあげたのはいいんだけど、まだ彼女の首には隷属の首輪がはめられている。僕には隷属の首輪を解除するなんていう手段を持ち合わせているわけはないので、とりあえず近くにある街、当時僕が拠点としていた王都アルクハムの役所に相談しに行くことにした。

 結果、ラエルはあっさりと隷属の首輪から解放された。

 それはなぜか。基本的には奴隷商人とは国からの認可制で、扱っている奴隷、販売した奴隷は全て国に報告する義務がある。そうなると、違法奴隷を扱っている闇商人なんかには当然認可が下りるわけがないし、国に報告もされているわけがない。つまり、ラエルは国に奴隷としての登録がされていなかったため、違法奴隷と判断され、簡単に隷属の首輪を解除してもらうことが出来たのだ。


 だけど、問題はこれからだったのだ。奴隷扱いから解放された彼女を家に帰してあげようと思い、どこから連れてこられたのかと聞いてみれば、返ってきた答えは「亜大陸から」という一言。闇商人ってそこまでするのか……。

 しかし、これは困った。人大陸が亜族には生きづらい大陸であるということは、亜大陸が人族には生きづらい大陸であるという可能性が非常に高い。駆け出し冒険者に毛が生えた程度の僕達が亜大陸に渡ったとして、無事にラエルの家族を見つけ出せる可能性は低いだろう。困り果ててしまった僕は、結局本人にどうしたいかを聞いてみることにした。


「できれば家へ帰りたいけど、それが無理ならご主人様と一緒にいさせてください」


 良く出来たお子様だった。とても当時7歳だった子供の言葉とは思えない。僕だったら家へ帰りたいと泣きわめき、駄々をこねていただろう。エルフってみんなこうなのだろうか?

 しかしご主人様って誰だ?そう思って彼女に聞いてみると、じーっと僕のことを見つめる紫色の二つの目。……え?もしかしてご主人様って僕?


「はい、ご主人様」


 まさかと思って確認してみると、とても良い笑顔で返事が返ってきた。

 なんで僕がご主人様?こんな幼い少女にご主人様とか呼ばれるのはさすがにものすごい背徳感があるんだけど……。とりあえずその呼び方はやめてもらおうと思い、名前で呼んでくれないかと提案した所、何故か泣かれてしまった。

 え?何で泣くの?ラエルは泣きながら「捨てないで」と僕にしがみついてくる。もしかしてご主人様じゃなければ捨てられるとか思ってる?いやいや、捨てるわけがないじゃないか。こんな周りに頼れる人のいない幼い子供を捨てるだなんて、そんな鬼畜なことができるわけがない。しかし、いくら捨てないよとなだめてみても一向に泣き止んでくれない。結局僕はあきらめて、甘んじてご主人様呼びを受け入れることにした。うん、泣く子にはさすがに勝てないよ。

 後日、ノーティのことをお姉ちゃんと呼んでいるラエルを見て、僕のこともお兄ちゃんでいいんじゃないかと言ってみれば「ダメ」の一言。どうやら彼女の中では兄よりもご主人様のほうが上位の存在だということらしい。わけがわからない。まあ、それでラエルが満足するのなら、それでいいさ。うん、そう思わなくちゃ、とてもじゃないけどいたたまれない。そのことはなるべく気にしないようにしよう……。


 そして最後は僕。イツキ・タチバナ。22歳だ。

 誰にも言ったことはないが、実は日本人だったりする。僕の名前は立花伊月。あれは忘れもしない高1の時の9月の……あれ?9月の何日だっけ?……まあ、忘れてしまったものはしょうがない。9月某日、放課後に本屋で立ち読みをしていたら帰りが遅くなってしまい、慌てて家へと向かっていたら、目の前から暴走したトラックが一台。気付いた時にはすでに遅く「あ、死んだな」と思ったところで意識は途切れる。

 気が付くと僕は草原の中で倒れていた。そう、知らない天井ならぬ知らない草原だ。まあ、そもそも日本から出たことのない僕が、一面見渡すかぎりの草原なんて知っているわけがないんだけどね。


 まあ、幸いにも近くに村があったようで、僕はひとまずの命の危機を乗り越えることが出来た。だって、気付いた時には荷物も何も持っておらず、最悪餓死の可能性だって頭をよぎっていたのだ。村の親切な人が、自分の体を労働力として提供するという条件で泊めてくれたので、非常に助かった。

 そして、その村でお世話になる内に、一つの結論が出た。


 あ、これ異世界だ。


 なぜそんな結論が出たのかというと、答えは簡単だ。

 魔物の存在と魔法の存在。明らかに地球に存在しない物を目にしてしまっては、そう結論を出さざるをえない。ついでに言うと、聞いたこともないはずの言語を、何故か理解できてしまったということも、そう結論づけた原因の一つだ。だって、自動翻訳や言語理解なんてものは、異世界転移のお約束でしょ?

 幸いなことに、こういった異世界物の小説を好んで読んでいた僕は、元の世界への未練より、この見知らぬ世界への期待感の方が強く、異世界へ来てしまったものはしょうがないと、現状をあっさりと受け入れることが出来た。そして、この世界でお金を稼ぐ手段として冒険者となり、今に至るというわけだ。


 ただ、ひとつ残念だったのは、異世界小説によくあるチートなんかは全くなかったということだ。特に最初は尋常じゃなく弱く、親切な人にレベリングを手伝ってもらえなかったら、完全に詰んでいたと思う。

 その上、何故かレベルを上げてもステータスが全然伸びず、これはもう駄目かもしれないと思ったりもしたけど、根気よくレベルを上げていったら、10を超えた辺りからやっとステータスが伸び始め、15くらいになってやっとまともに戦えるようになってきた。


 チートもないし、レベル15になってやっと戦えるようになるだとか、ちょっと僕弱すぎなんじゃないかなんてことも思ったけど、レベリングを手伝ってくれた人が言うには、僕のレベルの上昇速度は非常に早いということらしい。もしかしてレベルが上がるのが早いってのが僕のチートなのだろうか?しかし、その代わりレベル毎のステータス上昇幅が低いのではあまり意味がないんじゃないかと思うんだけど……。なんて思ったりもしたけど、その後レベルが上がるに連れて、ドンドンステータスの上昇幅も大きくなってきた。今ではその辺の冒険者には負けないくらい強いと自負している。

 そしてある程度の強さを手に入れた僕は、より強くなるために王都へと拠点を移し、ノーティとラエルと出会ったというわけだ。


 しかし、王都は非常に住みにくいところだった。いや、言い方が悪いな。王都アルクハムは王都というだけあって、とても良い街だ。だが、それは僕達にとっては住みづらいということになってしまう。

 王都は良い街であるため、人口が非常に多い。冒険者も腕の立つ者が多い。そうなると、ラエルが亜族であると気付く人もそれなりに出てくるのだ。

 まあ、気付くだけならまだいい。問題は亜族に対して良からぬ思いを抱く者が多いということだ。

 結局、様々なトラブルに遭遇し、色んなことが煩わしくなり、王都を出ることを決めた。


 僕達の目的はレベルを上げて強くなることだ。強くなって、いつかラエルを家族の元へと帰してあげたいと思っている。

 強い魔物と戦って経験を積むというのであれば、王都にいる方が都合がいいだろう。でも、色々なところを旅して経験を積むということだって、決して悪いことではないと思う。そう、レベルをあげるための経験は、魔物を倒すことが全てではないのだから。

 旅をしながら魔物も倒して色々な経験を積む。うん、決して悪くない。


 そうやって魔物を倒しながら各地を旅していたら、僕達はそれなりに有名になっていた。

 僕とノーティとラエルの三人で結成したパーティ『アマテラス』。名前に特に意味はない。ただ単に、日本的な名前を付けたいなと思っただけだ。

 そんな有名になった『アマテラス』の噂は僕達の耳にも入ってくる。ただ、一つ訂正したい。非常に訂正したい。「アマテラスは美人三姉妹のパーティ」って何?三姉妹じゃないですよ?僕男ですよ?

 なんでこんな噂が生まれたのか、心当たりは残念ながらある。


 非常に遺憾なことながら、どうやら僕は女顔らしい。日本で生活していた時も、何度も女性と間違われてナンパされたことがある。あのー、僕の服装、男子用の制服なんですけど……。

 更に言うと、声も中性的らしく、会話をしていても男だと気づかれないこと多数……。

 そんな悲しい現実があり、どうやらこの世界でも僕は女性と間違われたのではないかという可能性があるわけです。うん、まあ、可能性っていうか、ほぼ確定ですけどね……。

 20歳を超えた今でも女性に間違われるって、非常に泣けてくるんですけど……。しかも、僕は男ですと訂正しても信じてもらえない始末。最近はもう、訂正するのも諦めはじめました。だって、いくら言っても信じてもらえないんだから。


 まあ、そんな僕達のパーティ『アマテラス』が王都へと戻ってきたというのには理由がある。

 まず、最近僕達のレベルが上がらなくなってきたということだ。

 僕達はみんな、それなりにレベルが高い。ということは、余程の経験を積まないとレベルが上がらないのだ。

 時間さえかければいつかはレベルを上げられるだろうけど、それではラエルを家族の元へと帰してあげるのに時間がかかりすぎてしまう。ただでさえ出会ってから5年が過ぎてしまっているというのに、今のペースでレベル上げをしていたんじゃ、後何十年かかってしまうのかわからない。とは言っても、今以上のペースでレベル上げをする方法なんて思いつかない。


 そんな時に、僕達の耳に入ってきた噂があった。

 つい最近、王都アルクハムの近くにダンジョンが発見されたんだという。

 そのダンジョンは、先へ進むごとに出現する魔物が強くなっていくらしく、初心者から熟練の冒険者まで、効率よくレベルを上げることができるのだという話だった。


 そんな話を聞いてしまった僕達は、居ても立っても居られず、王都へと向けて出発したのだ。

 正直言うと、王都に行くというのには少しためらいがあった。が、本当にレベルが上げやすいというのであれば、行ってみる価値はある。まあ、どうしても駄目だったら、また王都を飛び出して旅をすればいい。

 そんなことを思いながら、馬車に揺られて一ヶ月。ようやく久しぶりの王都へと辿り着いたのだ。


 ここまでくればもう、ダンジョンは目と鼻の先。

 正直言うとこのままダンジョンへ突撃したい気持ちはあるけれど、まずは情報収集をしなくては。

 さて、どんなところなんだろうか『異次元迷宮イグドラジル』というダンジョンは。

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