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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
1章 プロローグ的なもの
5/116

1-5.チートですか?いいえ、仕様です

 目を覚ますとあたりは薄暗かった。

 早朝だろうか、どこか凛とした涼やかな空気が私の肺を満たす。

 体を動かそうにも動かず、持久走を全力で走りきったような疲労感がある。

 ……とりあえず、無事生きててよかった。


『目が覚めましたか。気分はどうですか?』

「最悪。冗談抜きで死ぬかと思った。てか体中痛いし、頭もズキズキする……」

『しばらくすれば治まるでしょう。まだ少し寝ていてはどうですか?』

「うん、ごめんね、そうさせてもらうよ。おやすみきぃちゃん」




 次に目が覚めた時、日は既に高く昇っていた。


「おはよう、きぃちゃん」

『気分はどうですか?』

「うーん、まだちょっと体痛いけど、なんとか。それよりも頭痛い……」

『頭が痛いのは恐らくおまけの所為ですね』

「おまけってなによ」

『この星で使用されている言語全てと、フラス=パモンの魔法技術を習得させました。どちらも情報が膨大なので脳に負担がかかりすぎているようですね』

「は?なによそれ。ただでさえ体痛いのになにしてくれちゃってるのよ」

『どうせ激痛で気絶していたのだから頭痛が増えたところで大したことないでしょう?それに、今後絶対に必要になります』


 確かに痛いのが1回で済むのなら、それはそれで悪くない。悪くないんだけど、やる前に一言欲しかった……。

 しかし、言語と魔法技術の習得か。


「言語の習得ということは、この星の人たちと会話できるようになったの?」

『会話どころか読み書きだって出来ますよ。既に完全に習得されているはずなので使おうと思えば使えるはずです』

「うーん、あ、本当だ。普通に言葉が出てくる。すごいねこれ。言語の習得でこれなら魔法技術の習得は……」


 試しに転移魔法で10m程移動してみる。


「うわっ、すごい。変身してないのに魔法使えたよ。てか普通に使い方が理解できた。これすごいね、きぃちゃん!」


 そして元の位置へ戻ろうと一歩踏み出す。……が、体がおかしい?踏み出した一歩がうまく地面を捉えず、体勢を崩し転んでしまう。


「っつ、痛たたたた。ってあれ?思ったより痛くない?」


 転んだままの体勢でしばし固まる。


『それは能力が上昇した結果、体が丈夫になり、痛みを感じにくくなったのでしょう。それと、急に能力が大幅に上昇したため、身体の制御が難しくなっているかと思われます。慣れるまでは少し大変かもしれません』


 さっき体がおかしいと思ったのはそれか。

 しかし、変身した時のほうが上昇量多いはずなのに大丈夫なのはどういうことだろう。


「ねぇきぃちゃん、変身してる時はどうして転んだりしなかったの?」

『変身している間は私の身体制御補助機能が働いているからです。あまりに能力の上昇が大きすぎると対応しきれませんが、所持者の能力に応じてある程度までは制御可能です』


 身体制御補助機能!そういうのもあるのか。

 しかし、変身している時しか使えないんじゃ現状はどうにもならないな。

 私はゆっくりと体を起こし立ち上がる。さらにはゆっくりと体を捻ったり、腕を回したりしてみる。


「うん、なんとかなりそうかな。なんとなく体の動かし方がわかるような気がする。慣れるのにもそんなにかからなそうだよ」

『そうですか、それは良かったです』

「そういえば能力上がったんだよね?ちょっと確認してみるね」




 名前:ユノ・ナハブ

 種族:人族

 年齢:13

 レベル:23

 体力:1,832

 魔力:34,133

 筋力:41

 耐久:38

 精神:64

 抵抗:58

 敏捷:38

 器用:45

 幸運:21


 称号:魔法少女、異世界人


 スキル:全武器適正、全魔法適正、精神耐性、苦痛耐性




「ねぇ、きぃちゃん」

『何ですかナハブ』

「能力上がりすぎじゃない?」

『そうですか?』

「だって、この星の同レベルの人よりも全然能力高いよ」

『私がいるのですから当然です』

「あ、そうですか……」


 結論、やっぱりきぃちゃんはすげぇ。

 しかも苦痛耐性取得してるよ……。確かにあれを体験しちゃうと、大抵のことはなんとかなりそうな気がする。


『さて、一通りの状況確認、準備は終わりましたね』

「うん、たぶんね」

『それではまず街を目指して歩きましょう』

「お、街!ついに異世界人との交流だね。街、近いの?」

『今のあなたの足で4時間程度といったところでしょうか』


 思ったよりも近かった。3日かかりますとか言われたらどうしようかと思ったよ。


『私たちはこの国の通貨を持っていませんので、道中で魔物を倒しながら進みましょう。魔物の素材を買い取ってもらえれば通貨が獲得できるはずです』

「あー、そういえばお金ないね、お金がないとなにもできないよね。ちなみにこの国のお金ってどんなの?」

『この星、及び現在私たちのいる国を含めほとんどの国の通貨単位はエンです』

「円?」

『日本円ではありませんよ。全く関係のないこの星独自の通貨です。種類は、鉛貨一エン、鉄貨十エン、銅貨百エン、銀貨千エン、金貨一万エン、白金貨十万エン、といったところです。まぁ、この国の事情等も含め、詳しい話は道中でしましょう。それでは出発しましょうか』

「ちょっと待った」

『どうしました?』

「きぃちゃん、私ね、お腹へった……」

『そういえば丸一日何も食べてなかったですね』

「そうなんだよ、お腹へったんだよ」

『我慢して下さい』

「え?」

『街へ辿り着くまで我慢して下さい』

「まじすか?」

『そもそも私達は何も持っていません。当然食料なんて持っているはずがありません。必然、街へ辿り着くまで食事はできません』

「うあー、まじかー、いや、食べ物ないのはわかってはいたんだけどさ、こうやって事実を突きつけられるとそれはそれでつらい……」

『ほら、食事を取るためにもさっさと行きますよ』

「はーーーーーい……」


 私は肩を落としトボトボと歩き出した。はやくご飯食べたい……。






 ただ黙って歩くのもしんどいもので、きぃちゃんと言葉を交わしながら歩いて行く。


「ねぇきぃちゃん。あとどれくらい?」

『そろそろ半分というところですね』

「うあー、まじかー、まだ半分あるのかー。てか魔物でないね」

『そうですね。出てきませんね』

「このままでてこないと街についてもご飯食べられないんだよね?」

『通貨が獲得できませんのでそうなりますね』

「うがー、それは困る。薬草とか生えてたりしないの?薬草採取してお金にしようよ」

『残念ながらこの辺りには無いようですね。レベルを上げるためにも魔物に襲ってもらえることを期待しましょう。それに、せっかく能力が上がったのですから戦ってみたくありませんか?レベル上げ大好きでしょう?』

「それはそうなんだけどさぁ、それよりも確実にお腹を満たすことが今は何よりも重要なんだよ。お金になるものを手に入れられずに街へ到着するのだけは避けたい」


 確かにレベル上げは大好きだ。可能であるなら戦って戦って戦いまくってレベル上げをしたい。

 しかし、それは万全な状態であればだ。

 どうして気づかなかった間は全然平気なのに、気にしてしまった瞬間こんなにしんどくなるのだろう。

 これが病は気からってやつか。病じゃなくて空腹だけど。


「そいえばさ、全然話変わるんだけどさ」

『何ですか?』

「異世界物のお話ってさ、神様にチートもらったり、召喚された時にチート手に入れたりするじゃない?」

『そのようですね』

「でも私って、転移した時そんなことってなかったわけじゃん?」

『まぁ、空想上のお話だったと言うことじゃないですか』

「でもさ、今になってすっごく思うんだけどさ、きぃちゃん自体がチートだよね。私、地球にいた時からすでにチート手に入れていたよ」

『何ですかその失礼な評価は。チートの意味を理解して言っているのでしょうか』

「え?失礼なの?チートってすっごく強いって意味じゃないの?」

『チートとは本来ズルや不正等のネガティブな意味を持ちます。あなたの読んでいる本に出てくるチートという言葉は比較的ポジティブな意味合いも含まれているようですが、それでも、ずるいほど強い、不正しているかのように凄い等、ネガティブな要素は取り除けません。そのような言葉を私に対する正当な評価として受け取ることは出来ません。私の能力はチートではなく仕様です』

「うわぁ、ごめんね。きぃちゃんのことを馬鹿にしたわけじゃないんだよ」

『別に構いません。言葉の意味も理解せずに使っているであろうことはわかっていましたので』

「むっ、それは私に失礼じゃないかな?」

『失礼なのではなく、事実です』

「むっきーーーーー、きぃちゃんのいじわる!」


 そんな感じで進むこと更に数分、ふと何かに見られているような気配を感じる。


『ナハブ、戦闘準備を』

「魔物?きた?おっ、きた!」

『先日の犬型の魔物ですね。ロアーウルフ、8体、レベルは平均11です』

「え?なんでわかるの?」

『……ナハブ、何のためにあなたに魔法技術を習得させたと思っているのですか。敵に遭遇したら能力確認の魔法を使う癖をつけなさい』

「……はい、ごめんなさい」

『相手は8体いますがレベルもあなたより低いですし、いけますね?』

「あ、ちょっとまった、きぃちゃん、私、武器ない」

『だから何のためにあなたに魔法技術を習得させたと思っているのですか』

「あ、そっか、魔法使えばいいのか」


 なんかきぃちゃんにものすごいため息を吐かれた。念話でため息って……やるなきぃちゃん。


 さて、どんな魔法使おうかなー。あ、やば、襲ってきた。早くしなくちゃ。

 魔法を構築し魔力を放出すると、宙に透き通った氷の槍が8本出現する。


「いっけーーーーーー、アイスジャベリン!!」


 適当に名前をつけて叫んだ。

 勢い良く8本の氷の槍が射出され、魔物1体につき1本の氷の槍が向かっていく。

 氷の槍は魔物を貫き、たった一撃でその命を奪っていった。

 そしてその場にあるのは6体の魔物の死体と、こちらを警戒する2体の魔物。


「ありゃ?2本はずれたか。やっぱりまだ習得したばかりだからかうまく扱えないや」


 てか、変身してなくても一撃なんですね。むしろその事実にびっくりですよ。

 魔法はもうちょっと練習しなくちゃ駄目かな。うまく使えるようになりたいし。お腹いっぱい食べて落ち着いたら頑張ろう。


 そんな風に反省しつつ、残りの魔物を片付ける。

 私も時空魔法が得意らしいので、試しに魔物の頭の位置にある空間を削ってみた。

 結果、首から上が消失し、魔物はその生命活動を停止した。

 時空魔法すげぇ。


「きぃちゃん、魔物倒したけど、ここからどうすればいいの?」

『私を魔物に向けて、分解と念じてみてください』

「こう?」


 指輪型のきぃちゃんを魔物の死体に向け分解と念じてみる。

 すると、魔物の死体は強い光に包まれ、毛皮や肉、牙等がそこに残った。


「おおー、すごいねきぃちゃん。これが売れる魔物の素材ってやつ?」

『その通りです。これを街まで持って行き、通貨へと交換するのです』

「でもさ、骨とか内臓だとか、此処に残っていないやつはどこへいったの?」

『完全に分解して土に返しました』

「そんなことまでできるんだ。ちなみにさ、このお肉食べられないの?」

『食べることは可能ですが、調理するための道具等何も持っていませんよ?』

「それは魔法で焼いたりとかしてさ」

『肉を地べたに置き、焼いて、そのままむさぼり食べると?』

「うぐっ、確かにそれは抵抗ある……」


 どうしても我慢できなくなった時の最終手段にしよう。


『それでは残りも分解して収納の魔法でしまっておいてください』

「はーーーーい……」


 収納魔法とは、今いる空間に亜空間を接続し、その中に物を保管しておくことができるという魔法だ。

 異世界物のお話でよく使われているアイテムボックスのようなものかな。

 地球にいた時はあまり必要性を感じなかったので全然使っていなかったんだよなぁ。

 食べ物でも入れておけばよかった……。

 そして、収納魔法って時空魔法なんですよ。

 亜空間の中の時間を止めておいたりすることもできるんですよ。

 食べ物入れておいても腐ったりしないんですよ。

 ……本当になんで食べ物入れておかなかったんだろう。


 そして魔物を狩りつつ歩くこと数時間、ついに街のようなものが見えてきた。

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