3-7.第3章完と言ったな。あれは嘘だ。
亀の魔物を倒してから三日が経ち、今私は自分の作り出した亜空間の中にいる。
私の手の平の上には黒っぽい大きな丸い玉、直径30cmもあるというのにそれはなぜか重さを感じず、ぱっと見は真っ黒な球体のようだが、じっくりとよく見てみると虹色に輝いている。はっきり言って意味がわからない。
そしてその意味のわからない謎の物体が、きぃちゃんに作ってもらった迷宮核だったりする。
この迷宮核をこの空間で使うことによって、ついに私好みの迷宮を生み出すことが可能となるのだ。
亀の魔物を倒したあの後、私は疲れ果てて部屋に戻ってすぐ寝てしまった。
いや、疲れ果ててっていうのは正確じゃないな。なにせ私には常人ではありえないほどの体力と魔力が備わっており、さらにはきぃちゃんの機能でそれらが減ったそばからどんどん回復していってしまう。
体力とは言わば持久力で、これがたくさんあれば長時間活動していても疲れることはなく、魔力という言わば気力的なものがたくさんあれば精神的に疲れるということもほとんどない。
レベルを上げまくって強くなった結果、私は本当の意味で疲労することはほぼありえなくなったのだ。
では、私がすぐに寝てしまった理由は何なのか。きぃちゃんが言うには格上の魔物と長時間戦い続けたため、魂が疲弊しているのだということだった。
なんぞそれと思い聞いてみると、生物は過酷な状況に直面した場合、少しずつ魂を消耗していくのだそうな。「魂を消耗?なにそれ怖っ」って思わず言ったら、ちゃんと時間が経てば回復するから問題ないときぃちゃんに言われた。それならちょっと安心だね。
しかし今回のように魂を消耗し続け、魂の総量が少なくなってしまうと生命活動に支障が発生し、休息をとらなくてはまともな活動が出来なくなってしまうのだという。やっぱり怖い。
そして魂の容量は生まれた時に決まっており、その生物の生き方によって多少の増減はあるが、レベル等での増減はしないらしい。
興味本位で魂を消耗しつくしてしまったらどうなるのかと聞いてみたら、魂を全て消耗してしまえば以後回復することはなく、肉体は魂を失ったただの器となり、生ける屍となるだろうとの事だった。
なにそれものすごく怖いんですけど……。え?ていうか、もしかして私結構やばかった?実際に休息をとらなくてはならないという段階まで進んでいたわけだし、あの亀を倒すのにもっと時間がかかっていたらもしかして私、魂全部消耗してた?うわっ、怖っ。さすがにこの年で生ける屍になんてなりたくないよ。いや、この年じゃなくたって嫌だよ。
そんな風にもしかしたらそうなっていたかもしれないという事実におののいていると、それを察したのかきぃちゃんからの『この私がナハブを生ける屍なんてものにさせるわけがないでしょう?ナハブが魂を消耗しきる前にちゃんと強制的に休息をとらせますから安心なさい』と言うお言葉が。ふぅ、それなら安心だね。ん?安心なのか?強制的に休息を取らせるというセリフにそこはかとない恐怖を感じるのだけれど気のせいだろうか……。
まあそんなわけで魂を大量に消耗してしまった私は、亀の魔物を倒して喜んでいた途中、体の不調に気づき、これはやばいと思って慌てて亀の魔物をそのまま収納魔法に放り込み、自分の部屋へと転移魔法で移動し、変身をといたところで気絶するように倒れこみ、丸一日以上寝ていたらしいです。これってさ、やっぱり結構やばかったよね?魂の消耗怖ぇー。
そして目が覚め、私が倒れた理由なんかをきぃちゃんが説明してくれ、落ち着いたところでいよいよ亀の魔物の魔石を取り出すことに。
人気のないところへ転移魔法で飛び、亀の魔物を収納魔法から取り出し、きぃちゃんの機能で分解。いやー、きぃちゃんがいてくれて本当に良かったよね。あの亀の巨体を自力で解体なんてことになっていたら、正直いって私はどうしたらいいかわからなかったよ……。
そして出てきました巨大な魔石。直径30cm程の、正に巨大ともいえる程のサイズの魔石。きぃちゃん曰く『五千年以上は生きていたのは確実ですね』とのことだった。おぉー、五千年かぁー。しかし、さすがに万年まではいかなかったか。いや、別にいいんだけどね。
他にも甲羅だとかの素材も手に入ったんだけど、これも死蔵決定だよね。正直言って、竜の素材以上に世に出せないよね、これ。そんじょそこらの竜ごときが束になったって敵わない魔物の素材なんだもん……。
まあ、魔物の素材を死蔵しているのは今に始まったことじゃないし、気にしないでおこう。
それよりも、これほどの魔石があれば素晴らしい迷宮核が作れるよね?うはー、今から楽しみだ。
とりあえず亀の魔物から目当てだった魔石も取り出したことだし、部屋へ戻ってきぃちゃんに迷宮核の作成をお願いする。
しかし、この魔石のサイズは予想外だったらしく『このサイズであればもっと沢山の機能が組み込めますね。術式を構築し直すので一日もらえないでしょうか』なんてことをきぃちゃんに言われた。
そんなのむしろ大歓迎ですよ。より高性能なものが出来るというのならば、私から否定の言葉が出るなんてことはありえない。というか、私がやったら一生かかったって出来そうもない作業をたった一日でやってくれるというのだ。文句を言う筋合いなどあるわけがない。
さて、これで一日後には私の迷宮核が完成しているとして、それまでの間はなにして過ごそうか。
魔物狩りはさすがにやりたくないしなぁ、ってか、きぃちゃんにも消耗された魂がまだ回復しきってないから戦闘は控えろって言われてるしね。
そうなると……やっぱりアレですよね?私の大好きなアレですよね?
きぃちゃんからも今日は大人しくしていろと言われているし、ずっとアレやってても怒られないよね?
よっしゃ、やっちゃうよー。思う存分やっちゃうよー。
迷宮探索の続きに出発だーーーー。ひゃっほーーーーぅ。
結果、きぃちゃんに怒られました。
『ゲームに夢中になりすぎて食事も取らないとはどういうことですか』
うん、私もこれはまずかったと思う。亀との激戦の後の楽しいゲームの時間だったため、ちょっと集中しすぎちゃったみたいだね。
『ちょっとどころではないでしょう?あなたは昔っから自制する力が足りないのです』
私の心の声にツッコミ入れてくるのはやめて欲しい。
しかし、せっかく迷宮核が出来上がったというのに、なぜ私はお説教を受けなければならないのか。確かに食事を抜いたのは私が悪いとは思うけど、そんなことは今までだって何度もあったし、こんなに怒る程のことじゃないと思うんだけどなぁ……。それよりも、早くあの迷宮核をいじくり倒したい。
『私だって怒りたくて怒っているわけじゃないのです。あなたがいつになってもだらしのないままだから、こんな言いたくもないことを言わなくてはならないのです。そもそも、あなたは先日魂を大量に消耗して倒れたばかりなのです。食事も取らないような不摂生な生活では回復するものも回復しないではありませんか』
あー、そういうことか。目が覚めてから特に体に異常を感じなかったから気にしてなかったなぁ。言われてみれば確かに、極限状態ですり減っていくという魂が不健康な生活でまともに回復するとは思えないよね。これはさすがに反省しなくちゃなぁ。しょうがない、きぃちゃんからの説教を甘んじて受け入れよう。でもね、説教する時間を短くしてくれてもいいんだよ、きぃちゃん。なんてったって、私はもう、今回のことは反省したからね。十分に反省したからね。だからお願いします、お説教の時間を短くしてください。
一時間後、私はやっときぃちゃんのお説教から解放された。一時間というのが短かったのか長かったのかはなんとも微妙なラインだ。まぁ、この前のお説教に比べれば全然短かったけどね。え?この前は何時間かかったんだって?黙秘します。
しかし、これでやっと迷宮作成を開始できるぞ。
迷宮核の起動の仕方はすでにきぃちゃんから聞いている。
私はきぃちゃんから教わったとおり、私の手にある迷宮核へと魔力を流し込んでいった。一定の魔力を流し終わると、迷宮核は淡く輝き、空中へと固定される。すると、脳内へと様々な情報が直接流れ込み、私がこの迷宮核の迷宮の主となったことが理解できた。
おぉーー、だんだんテンション上がってきたぞ。脳内へと流れてくる情報を次々と確認していく。そうやって情報を確認しながら期待に胸を高鳴らせていると、私へと流れこんできていた情報が途切れる。
え?なに?どうなったの?
突然のことに戸惑っていると、今度は脳内に直接映像が浮かび上がる。
それは軽快な音楽とともに迷宮の設定方法、設定された迷宮がどう出来上がるのか、出来上がった迷宮を冒険者らしきパーティーが探索している映像のデモンストレーションだった。
そしてそれが終わると、迷宮への入り口らしき巨大な門と、そこへ挑もうとする冒険者たちの姿が描かれた画像が表示され、その画像の中心にゆっくりと表示されていく「SIMMAZE」の大きな文字。
……もしかしてこれ、ゲームですか?
え?もしかしてきぃちゃんが言ってた私好みってこういうこと?




