3-4.迷宮のつくりかた 1MORE
きぃちゃんは私のために、さっきと同じ説明をしてくれた。
今度はちゃんときぃちゃんの話を最後まで聞いたよ。さすがの私でも、ここでもう一度話を聞き逃すなんて馬鹿なことをするつもりはない。迷宮創りが楽しみだというのもあるけど、罰を増やされたりするのは怖いからね。……マジで怖いからね。
そして説明をちゃんと聞いた結果、迷宮の創り方はこんな感じだった。
まず、大きくて質の良い魔石を用意する。より高性能な迷宮核を作成するためには、できるだけ大きくて質の良い魔石を必要とするらしいので、私としては新しく用意する予定だ。
そして、ここまでがさっききぃちゃんが説明していた時に、私がちゃんと聞いていた話の内容。
改めて考えてみると、私、全然話聞いてなかったね……。
で、ここからが私が魔石についての考え事をしていて、聞いていなかった部分になる。
魔石を用意したら、迷宮核の役割を持たせるための術式回路を刻む作業だ。これはきぃちゃんがやってくれることになっている。
興味があったのできぃちゃんにどんな術式回路なのかを教えてもらったんだけど、様々な術式回路が複雑に絡み合うような、繊細で緻密な、術式回路群とでも言えるような膨大な情報を与えられた。……これ、教えてもらったからって、私に作れるとは到底思えない程の難度なんですけど。あげく、今教えてもらったものは最低限の機能しか持たず、魔石の大きさや質によって、さらに複数の術式回路を組み合わせて多機能な迷宮核を作るのだそうだ。
『あなたのことですから、レベル500以上の魔物の魔石を狙っているのでしょう?ちゃんとあなた好みな迷宮核を作ってあげますから、楽しみにしていなさい』
そんなことを言われてしまっては、私に言えることは一つだけだ。
きぃちゃんが私の相棒で本当に良かった。
あの複雑すぎてわけの分からない術式回路を魔石に刻んでくれるというだけでなく、私が手に入れてくる予定の魔石を、最高のパフォーマンスで、しかも私好みにカスタマイズして迷宮核を作ってくれるって言うんだよ。こんな最高の相棒、他にいないよ。
私が迷宮を創るなんていう楽しそうなことが出来るのも、全てきぃちゃんがいてくれるからこその話だしね。
だって、迷宮核なんてものは、到底人類が作成できるようなものじゃないんだよ。
私の場合、きぃちゃんから刻むべき術式回路を教えてもらって、それを正確に魔石に刻むだけという、いわゆる、迷宮核作成についての難易度はイージーモードなわけなんですよ。それでも、私は迷宮核を作り出すことが出来る気がしない。それは刻むべき術式回路の情報量があまりにも膨大すぎて、あまりにも緻密すぎて、あまりにも複雑すぎて、それらを確実に間違いなく、魔石へと刻むことが出来るとは思えないからだ。
正直言って、迷宮核も自分で作れなんて言われていたら、恐らくこの時点で私は挫折していただろう。
イージーモードな私ですらそんな状態だというのに、他の人たちは術式回路も自分たちで考えださなければならない。あの緻密で繊細な、たくさんの術式回路が複雑に絡み合う、わけの分からない術式回路をだ。どう考えたって、ハードモードなんて余裕で超えちゃってるよね。ルナティックモードだとか、インフェルノモードだとか、ナイトメアモードだとか、そういう難易度だよ。いや、それすらも超えているか……。
そんなものを、人類ごときが作り出せるなんて思うほうがどうかしている。
迷宮核なんてものは、きぃちゃんだからこそ作り出せるものなんだよ。なんてったって、きぃちゃんは最強だからね。
でも、きぃちゃんが迷宮核を作ることが出来るってことは、そのきぃちゃんを作ったフラス=パモンの人たちなら、やっぱり迷宮核だって作ることが出来るのだろうか?
気になったのできぃちゃんに聞いてみたら、恐らく作ることは出来ないだろう、という回答をもらった。
理由を聞いてみると、迷宮核を作るための術式回路は、きぃちゃんに詰め込まれた知識を基に、きぃちゃんの処理能力を以って、きぃちゃん自身が作成したものだということらしい。さすがに人間にきぃちゃん程の処理能力があるわけもなく、知識だけではどうにもならないだろうということだった。やっぱりきぃちゃんはスゲェや。
さて、そんなきぃちゃんの凄さを再確認したところで、迷宮作成の説明の続きだ。
迷宮核が出来上がったらそれを設置するわけなんだけど、その設置する場所が亜空間だということだった。
私が設置に必要なだけの広さの亜空間を作り出し、そこに迷宮核を設置する。すると、徐々に迷宮核が亜空間を侵蝕していき、亜空間を迷宮へと置き換え、勝手に広がっていくという話だった。亜空間を侵蝕するだとか、勝手に広がるだとか、なんかものすごくヤバイもののような気がするんだけど、本当に大丈夫なのだろうか?いや、きぃちゃんが大丈夫だって言うのなら大丈夫なんだろうけどさ……。
で、ある程度の広さになったら、いよいよ迷宮作成の始まりだ。
迷宮核に魔力を流せば、迷宮を創るための様々な設定をすることが出来るようになるらしい。
それこそ迷宮内の環境から、出現する魔物、階層の広さ、罠の種類、その他にも様々な設定項目があるのだという。それら全てを自動的に設定してくれるオート設定なんていうのもあるのだそうだが、そんなもったいないことするわけがないよね。せっかくの迷宮作成なんだから、隅々まで設定をいじくり倒して楽しまなくちゃ。
そして設定が済んだら、後はしばらく時間をおけば勝手に設定通りに迷宮が出来ていくってことだそうだ。
ちなみに、せっかく設定をしたのに他の人に勝手に書き換えられたりしないのかときぃちゃんに確認してみれば、最初に魔力を流した者をその迷宮の「迷宮の主」として記憶するらしく、主以外の命令は一切受け付けないのだそうだ。
でもそれだと、設定がオートのまま主がいなくなってしまったりなんかしたら、迷宮が勝手に大きくなっていって困るんじゃないのかと聞いてみれば『最悪の場合、迷宮核を破壊してしまえば問題はありません』なんていう、非常に淡白な回答が返ってきた。うん、確かにそうだよね。壊せればの話だけど……。どんどん広がっていく迷宮の迷宮核を破壊するなんてのは、普通に考えれば難しいことだろうと私は思うけどね。まあ、迷宮核の能力以上に迷宮が広がることはないということが唯一の救いだろうか。いくら勝手に広がるとは言っても、さすがに迷宮核の性能を超えて広がることは出来ないということらしいからね。
これで、世界が迷宮に侵蝕されるなんていう恐ろしい未来が来ることはないとわかったので、とりあえずは一安心だ。いや、だってさ、亜空間を侵蝕だとか、勝手に広がるだとか、そんな話を聞いてしまったら、安心できる要素がないと不安で使えないじゃん?せめて、取り返しのつかないことにはならないっていう保証くらいは欲しいじゃん?さすがに、私が迷宮を創ったせいでこの星が滅びました、なんてことになったら、後悔してもしきれないしね。てか、後悔どころの話じゃないよね……。
さて、話を戻そう。迷宮の創り方もついにこれで最終章だ。迷宮が出来上がったら、迷宮の入り口と、こちらから迷宮へと出入りするための場所をつなげ、空間を固定すれば完成となる。
まあ、迷宮を創るだけで満足できるのなら、この作業は必要ないといえば必要ないんだけど、せっかく創ったんだから、やっぱり誰かに探索して欲しいよね。そのためには、入り口がないと誰にも見つけてもらえないので、やっぱりこの作業は必要だろう。
ともあれ、これできぃちゃんからの迷宮の創り方講座は終了した。
きぃちゃん曰く『簡単でしょう』だそうだが、何一つ簡単な要素が見当たらないと思うのは、私の気のせいなのだろうか……。




