3-3.迷宮のつくりかた
『まず初めに、大きくて質の良い魔石が必要になります』
魔石か……。
魔石とは、魔物等の一部の生物の体内に自然と生み出される、魔力を蓄積する能力のある物質のことだ。
きぃちゃんから聞いた話によると、魔石を持つ生物の生きた年数で大きさが決まり、レベルで質が決まるらしい。まあ、大雑把な目安とは言っていたけどね。
この世界の基準では、直径5cm以上の魔石が大きく、レベル50程度の魔物からとれる魔石が高品質なものだと言われているそうだ。ちなみに直径5cm程度の魔石とは、30年以上生き続けた生物から生み出されるという話だった。ついでに言うと、60年生きたから直径10cmの魔石がとれるという単純な話ではないらしく、せいぜい7cm程度の大きさにしかならないということだ。なんか難しそうな計算式を教えてもらったけど、そんなの教えられても計算できる気がしない。だって、私中学生だもん。もう中学校なんて行ってないけどね。
『最低限、直径10cm以上のサイズで、レベル100以上の魔物の魔石が欲しいですね』
おっ、それならすでに持ってるじゃん。なんてったって、魔大陸の魔物からとれる魔石は大きくて質がいいからね。レベルが高くて長期間生きているヤツがうじゃうじゃいるわけだし。
とりあえず、最初の条件はクリアかな。
『とは言っても、より大きく、質の高い魔石があればそれに越したことはありません。先程言ったのは、あくまでも迷宮核として使用するための最低限のものであり、それ以上のものであれば、それだけ高性能な迷宮核を作成することが可能になります。特に質に関しては高ければ高いほど良いですね』
そんなことを言われたら「今持っている魔石で」なんてことは言えなくなっちゃったじゃん。だって、より高品質な迷宮核を作れるというのなら、そっちの方がいいに決まっている。私が、現時点でより高品質なものを作る環境があるのなら、妥協をすることが出来ない性格だとわかっていてそんな説明をしますか。
くそぅ、きぃちゃんめ。こうなることがわかっていたな。私が迷宮核を作るのに必要な魔石を持っているのを知っているはずなのに、魔石を手に入れろなんて言うからおかしいとは思ったんだよ。
今持っている魔石だと、レベル300程度の魔物から手に入れた、直径12cm程の魔石が一番大きくて質が高いんだよね。
でも、魔大陸にはもっとレベルの高い魔物がいる。きぃちゃんの力を借りれば、レベル500の魔物だって倒せるはずだ。ならばより上を目指したくなるのが冒険者ってやつじゃないですか。
いやごめんうそです。そんな崇高な思いなんて持ってません。単純に、どうせ迷宮核を作るのなら、現時点で最高品質のものを作りたいという、物欲全開な気持ちがあるだけです。
でも「より大きくて質の高い魔石なら、高性能な迷宮核が作れる」とか言われたら、そっちの方が欲しくなるのが普通だよね?
あ、そうそう、せっかくだから魔石の大きさと質についての説明をしておこう。
まあ、魔石ってのは主に魔道具を作るのに必要になるんだけど、まず魔石の大きさでどれだけの規模の術式回路を刻めるのかが決まる。要するに紙なんかと同じだね。紙が大きければ大きいほど、たくさんの情報を書き込むことが出来るでしょ。それと同じで、大きな魔石であれば、それだけたくさんの術式回路を刻み込むことが出来るってわけ。
大きな魔石ならば、大きい術式回路を刻むことも、小さな術式回路を複数刻むことだってできるけど、小さな魔石には、小さい術式回路を一つや二つ刻むので精一杯だったりする。さらに小さすぎると、小さな術式回路すら刻むことが出来ないなんてこともある。
当然、大きな魔石の方が汎用性があるため貴重ではあるんだけど、必要以上に大きな魔石を使う必要はない。
だって、小さな術式回路を一つ刻むために、大きな魔石を使ってしまってはもったいないでしょ?
魔石の大きさは、必要な分があればそれでいいのです。だからきぃちゃんも、質は高ければ高いほど良いとは言ったけど、大きければ大きいほど良いとは言ってないんだよね。
そしてその質についてだけど、これはなんて説明したら良いかなぁ……。適切な言葉が思い浮かばない。あと少しってとこまでは出てきてるんだけど……。まあいいか。
まず、質が高ければなにが出来るのかってことなんだけど、大雑把に言えば、魔力消費の激しい術式回路を魔石に刻むことが出来るようになる。いや、厳密に言えば別に低品質な魔石にだって魔力消費の激しい術式回路を刻むこと自体は出来るんだけど、魔力効率が悪すぎて、刻んだところで運用が出来ないってことなんだけどね。
あぁ、そうそう、魔力効率だよ。魔石の質が高ければ高いほど、魔力効率が良くなるの。
魔石ってのはね、周囲の魔力を取り込み、蓄えるという性質があるんだけど、魔石の質でその効率が変わってくるんだよ。
低品質な魔石だと、周囲の魔力を取り込む速度も遅いし、その取り込んだ魔力を蓄えられる量も少ない。そしてなにより、魔石に刻まれた術式回路を稼働させるための魔力消費が、より多く必要となってしまうのだ。
当然、そんな低品質な魔石に魔力消費の大きい術式回路なんて刻んでしまえば、術式回路を稼働させるための魔力供給が追いつかずに常時使用出来なかったり、最悪の場合は魔石の蓄えることの出来る魔力量が必要量に届かず、そもそも使用すら出来ないなんてこともあったりする。
そんな魔道具を作る意味はなく、作ったところで欲しがる人はいないだろう。
魔石の質と、その魔石に刻む術式回路のバランスを取るということは、魔道具作りの基本中の基本なのだから。
そして質の高い魔石。周囲から魔力を取り込む速度、蓄えることのできる魔力量、術式回路の消費魔力のあらゆる効率が、魔石の質が高くなればなるほど良くなっていく。レベル30くらいの魔物からとれる魔石があれば、収納魔法くらいならなんとか運用できるかな。たぶんギリギリだろうから、収納できる量は少ないだろうけどね。
私の場合、魔力が異常にあるからあまり気にしないんだけど、時空魔法ってのは総じて魔力消費が大きい。だから、ある程度質の良い魔石がなくちゃ運用が出来ない。その上、時空魔法の術式回路を魔石に刻むことの出来る人もそれほど多くないという。
そんな理由もあり、さらには非常に有用な魔道具だということもあって、収納魔法の術式回路の刻まれた魔道具、いわゆる「アイテムボックス」は非常に高価だという話だ。まあ、私ならいくらでも作ることが出来るんだけどね。それなりに質の高い魔石くらいなら、使い切れないほど持っているし。
つまり、魔石が高品質になればなるほど、たくさんの術式回路を同時に稼働させることも出来るし、魔力消費の大きい術式回路を常時稼働させるなんてことも可能になるってことなのですよ。
迷宮核を作るために大きくて質の高い魔石が必要だということは、それだけの術式回路を刻む必要があるのだということだろうし、それに伴って魔力の消費も大きくなるのだろうということが予想される。
となれば、魔石の質が高くなればなるほど魔力の運用効率が上がるわけだし、それだけ出来上がった迷宮核で色々なことが出来るようになるのだということよね?
ほら、やっぱりもっと良い魔石を取りに行くしか選択肢ないじゃん。こうやっていつもきぃちゃんの手の平の上で転がされてるんだよ、私は。
『――――と、こうやって迷宮を作成するというわけです』
え?
あれ?説明終わり?
ヤバイ、途中から余計なこと考えてて全然聞いてなかった……。
『では、早速とりかかりましょうか。どうせあなたのことですから、今持っている魔石よりも質の良い魔石を手に入れに行くのでしょう?』
さすがきぃちゃん、私のこと良くわかってるよね。って、今はそんなことに感心してる場合じゃないよ。
うぅ……切り出しづらい……。
「あのー……きぃちゃん」
『何ですか、ナハブ』
「えーと、ですね……先程の説明をですね、もう一度、お願いしたいのですが……」
『どこか解りにくい所でもありましたか?』
きぃちゃんがさっきの説明でわからないことがあったのかと優しく問いかけてくる。
違うんだよ。わかるわからない以前に、聞いてなかったんだよ。うわー、これ言いたくないなぁ……。
とは言っても、ちゃんと説明を聞かないことにはどうすることも出来ないので、覚悟を決めて言葉を発する。
「ごめんなさい!さっきの説明、途中から聞いてませんでした!!」
土下座をしつつ謝る。
きぃちゃんは私の指にはまっているため、誰に対して土下座してんだよって話だけど、とりあえず私の気持ちを形にしてみた。
『はぁ?』
うわっ、怖ぁ。
いつものきぃちゃんの声よりも、明らかに低い声が私の頭の中に響く。
低い声で怒られるとか、マジで怖いんで勘弁して下さい。いや、私が悪いのは重々承知してるんですけど、それでも怖いものは怖いんです。
『ふぅ……、どうせあなたのことですから、余計なことを考えていたらそっちの方に夢中になってしまった、というところでしょうか』
さすがきぃちゃん、良くわかっていらっしゃる。マジでその通りです。ごめんなさい。あまり怒らないでもらえると助かります。
『しょうがないので、もう一度説明をしましょう。次はありませんので真面目に聞いてくださいね』
はいっ!二度と聞き逃しません!
良かった―。怒られないですんだぞ。
次はちゃんと聞かなくちゃね。今度聞き逃したりなんかしちゃったら、なにされるかわからないし。
『あ、そうそう。ちゃんと後で罰を受けてもらいますからね』
……怒られないですんでなかった。
なにを言われるのかがものすごく怖い……。
自業自得とはわかっているけど、お手柔らかにしてもらえると、私としては非常にありがたいです……。




