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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
3章 迷宮って楽しいよね
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3-1.イザユケ! ボウケンシャー!

 私の名前はユノ。ギルド「Odyssey」に所属するボウケンシャーだ。私たちのギルドは今、とある街の近くにそびえ立つ大樹の麓にある迷宮を攻略するため、日々活動をしている。

 私たちの他にもたくさんのギルドが迷宮へと挑んではいるが、未だ全ての階層を踏破したギルドはいない。迷宮の中はかなり過酷な環境で、迷宮に足を踏み入れたまま戻ってこないギルドなんかも数えきれないほどいるという話だ。

 私たちも最初の頃はお約束として鹿に蹴り殺されたりなんかもしたが、その後は順調に迷宮攻略も進んでいる。

 そして探索も佳境に入り、出現する魔物もどんどん凶悪になってきていた。攻撃力はさほどでもないはずのアルマジロっぽい魔物にやられてhageたり、花びらに眠らされてhageたりなんかもしたけど、私は元気です。




 え?なんの話だって?そりゃぁ当然、私が今プレイしているゲームの話ですよ。迷宮を探索しながら自らの手で地図を描いていくという、某有名DRPGです。

 ん?hageってどういう意味だって?簡単にいえば全滅するってことですよ。詳細が知りたかったらネットで検索でもしてくださいな。


 このゲーム、今までの私だったらちょっと手が出せなかったんですけど、日本円を稼ぐ手段を手に入れた今の私なら、シリーズをまとめ買いするなんてことだって出来ちゃったりするのです。ずっと興味があった作品なのですが、ゲーム機を合わせて買うとなると、小中学生のお小遣いではなかなか手が出せない金額だったんですよね。

 しかし今の私は小金持ち。魔法の力で日本円を大量にゲット(不正なことはしてないよ)し、新作のゲームだって、ゲーム機と一緒に買い漁ることすら余裕で出来ちゃうのです。


 事の発端は『最近涼しくなってきたから、タイツを買いに日本に行きますよ』ときぃちゃんにせがまれて日本で買い物をしていた際、ついでだからなにか買っていこうかなと思いゲーム屋さんに足を運んだ時のこと。

 適当にゲームを物色していると、以前からやってみたいと思ってはいたものの、金銭的な理由で諦めていたゲームのシリーズが全て揃っているじゃありませんか。しかしお金がなかったというのは以前の私だった時のことで、今の私には金銭的な理由で諦める必要はない。それを認識してしまった瞬間、どうしてもそのゲームがやりたくなり、気がついたらゲーム機ごとレジに持って行っていたというわけなのです。


 そして念願のゲームを手に入れた私は、ちょっと前まで頑張っていた自分のレベル上げを中断し、ゲームに没頭することになった。え?ゲームばっかりやっててきぃちゃんに怒られないのかって?それが大丈夫なんですよ。

 ゲームばっかりやっていると言っても、別に引きこもってるわけじゃないですからね。ちゃんとアルバイトもしているし、たまに運動がてらに適当な魔物を狩ったりもしているんで。またリハビリとか称して、何時間も魔物と戦い続けるなんてごめんだからね。


 ついでに言うと、黒タイツをはいているときぃちゃんが少し私に優しい気がする。黒タイツ効果がすごい。これなら常にはき続けていてもいいんじゃないかなんてことも思ってしまう。

 はっ!まさかこれは私に黒タイツをはき続けさせるためのきぃちゃんの策略なのだろうか?

 しかしたとえそうだったとしても、こんなことできぃちゃんが懐柔出来るのなら安いものじゃないかと思ってしまっている私がいる。自分で言うのもなんだけど、チョロいな私……。


 そしてさらに、ゲームに夢中になる前に魔物を倒しまくってレベル上げを頑張っていたというのも、きぃちゃんがゲームを容認してくれる要因になっているのではないかと思っている。

 今の私のレベルはなんと226。実は私、気づいちゃったんですよ。

 魔大陸の魔物が倒せないのなら、変身して戦えばいいじゃない。ってことに。

 変身して戦うと確かに得られる経験は少なくなってしまうんだけど、それでも魔大陸の魔物たちは私に多くの経験を与えてくれる。なんてったって、あいつら最低でもレベル100はあるわけだしね。変身した時の能力値の補正を、戦う魔物に合わせてきぃちゃんに丁度良い感じに調整してもらい、黙々と戦い続けていたらガンガンレベルが上がっていったんですよね。


 なんでこんな簡単なことに気づけなかったんだろうね、私。きっときぃちゃんが最初に「レベル上げをする時は変身しない」と言っていたことが私の中で常識になってしまっていたんだろうなぁ。あの時は圧倒的に格上の魔物と戦うことなんて想定していなかったし。

 ちなみに「変身して魔大陸の魔物と戦えばいいじゃん」ってことに気づき、得意気にきぃちゃんに言ってみたら『やっと気付いたんですか』と呆れ気味に言われてしまった。なによそれ、知ってたんなら言ってくれてもいいじゃん。なんで教えてくれなかったのよと問い詰めてみたら『何でもかんでも教えてしまったらあなたのためになりません。自分で考える力を養ってください』と言われた……。ぐうの音も出ないとはこのことか。

 まあそんなわけで、レベル上げを頑張っていたからきぃちゃんもあまりうるさく言わないでいてくれるのかな、なんて思っているわけなのです。


 そんなわけで私は、ゲームに魔物狩り、アルバイトなんかをして充実した日々を過ごしている。

 あ、そうそう、アルバイトなんだけどね、正直言ってお金ならたくさん持ってるから、する必要は特にないんだよね。じゃあ、なんでやってるのかって言うと、きぃちゃんにはめられたと言うか陥れられたと言うか……。


 始まりはちょっとした口論だったんですよ。はいそこ!私がきぃちゃんに口論で勝てるわけないだろとか言わない!私だって馬鹿なことをしたって思ってるんだから。

 で、売り言葉に買い言葉で「きぃちゃんがそこまで言うのならやってやろうじゃないか」ってことになり、見事失敗。確かあれは、きぃちゃんに規則正しく生活をしろと小言を言われて、何故か私一人で南にある森の中の魔物を一日で全滅させるって話になったんだよね。えっと……どういう流れでそんなことになったんだっけ?なんかきぃちゃんの話に乗せられていたらいつの間にかそんな話になっていたのよ。さすがきぃちゃん、話を誘導するのも思うがままってことですね。相棒が優秀すぎて手の平で踊っている感がすごい。


 そしていざ始めてみると、何故か魔物が私に寄り付かない。どう考えたって原因はきぃちゃんなんだろうし、なにかしているのかと聞いてみたら『魔物をナハブから遠ざけています』なんて答えが返ってくる。なによそれ。さすがにそれは反則じゃないのかと意見してみると『妨害をしないなんて私は一言も言ってませんよ』なんてしれっと言ってきた。ちょっときぃちゃん、それ汚くない?


 結局、魔物を全滅させるどころか遭遇することすらほぼ出来なかった。そりゃぁきぃちゃんに本気で妨害されたら、私にはどうすることも出来ないよ。きぃちゃんのほうが圧倒的に魔力の操作が上手なんだからね。どうやっているのかは知らないけど、魔法で魔物を寄せ付けないようにしているきぃちゃんに対して、私ができることなんてなにもあるはずがないんだから。

 ならば索敵範囲を広げて遠距離から魔法で攻撃しようかと試したんだけど、きぃちゃんに魔法の軌道をそらされるし、転移で魔物の近くへ飛んで撃破しようとすれば、きぃちゃんに転移座標をずらされるしで、ことごとく私の考えは失敗に終わる。相棒が優秀すぎてつらい。


 しかし、これは非常にまずいことになった。なんてったって「出来なかったらきぃちゃんの言うことなんでも聞こうじゃないか」なんて啖呵を切っちゃっていたからね。その時に戻って「馬鹿じゃないの?相手考えて物言いなさいよ」って自分に言ってやりたい。なにやらされるんだろうとものすごく怖い思いをしたのを覚えている。だって、きぃちゃんが汚い手を使ってまで私にやらせたいことがあるんだよ?怖いに決まってるじゃない。


 そんな私の恐怖をよそに、きぃちゃんから出てきた言葉は拍子抜けするようなことだった。


『満月堂で働きなさい』


 どんな無茶なことをやらされるのかと身構えていたら、容易に実現可能な命令が出されていたのだ。

 満月堂とは、私のよく行く食堂のことだ。メニューも豊富でどれもなかなか美味しいため、お気に入りだったりする。そこで働くだけでいいの?少し面倒だと思う気持ちもあるけど、突拍子もない事を言われるよりは良かったと胸をなでおろす。

 いや、まだそうと決まったわけではない。なにか裏があるんじゃないかと思い、理由を聞いてみる。


『ずっと、ナハブに満月堂の制服を着せてみたいと思っていたんです』


 え?そんな理由?

 そんなことのために汚い手まで使って私に言うことを聞かせたかったの?


『そんなことではありません。可愛いナハブに可愛い制服を着せてみたいと思うのは当然のことです』


 いや、確かにあそこの制服可愛いと思うけどさぁ。満月堂の制服って浴衣っぽい感じなんだよね。この世界では和服っぽいものはあまり見ないので結構目立つ。さらに黒地に黄色の花模様が散りばめられていて、落ち着きがありつつも可愛らしさを表現しているなかなかに素敵なデザインだ。

 私もちょっと着てみたいなと思ったこともあるので、きぃちゃんからの言葉は私にとってもそれほど悪い話ではなかった。まあ、こんなことでもなかったら満月堂で働こうなんて絶対に思わなかっただろうけどね。だって、働く必要がないほどお金持ってるのに、わざわざ働くなんて面倒じゃん。


 そんなわけで始めた満月堂のアルバイトなんだけど、これが意外と楽しく、今でも続けている。とは言ってもそんなに多くは働いてないんだけどね。私の本業って、一応冒険者だし。

 そして何故か私が働くことになった満月堂に、アンリさんがたまにやって来る。伯爵様が庶民向けの食堂になんて来ないでよって思うんだけど、来るたびに娘話が炸裂するので今では私も楽しんでいたりする。そのたびに、娘に会わせるから家に来いと誘われるんだけど、毎回断っている。娘さんにはちょっと会ってみたい気もするけど、貴族の家に行くなんて面倒だしね。


 あ、そうそう。そういえば最近、満月堂に従業員が一人増えたんです。

 アニエっていう8歳の女の子なんだけど、少し前、私と同郷の勇者たちがこの世界へと召喚されていた時、唯一の肉親である姉、ミサリナをクズに殺されふさぎこんでいた。

 ミサリナは満月堂の従業員だったため、その妹であるアニエも満月堂のみんなとは顔見知りで、ミサリナの死後、満月堂の店長が引き取って養うことになったのだ。そしてやっと最近になって元気を取り戻してきたみたいで、満月堂の手伝いを始めたというわけ。

 周りのみんなはわざわざ働かなくてもいいんだよって言ったんだけど、なにもしていないほうがつらいから手伝わせて欲しい、とお願いされてしまってはそれを無視することは出来なかった。


 アニエはミサリナの妹なだけあって顔立ちは整っており、歳相応の愛嬌もあって可愛らしく、姉と同じ綺麗な銀髪をもった美少女だったりする。満月堂にやって来るお客さんからの受けも良く、すでに満月堂の看板娘と言って良いほどみんなから愛されている。まあ、満月堂の従業員全員が看板娘とも言えるほど容姿が整ってはいるのだけど。


 そしてそんなアニエは私にとてもなついていたりする。私の姿を見つけると「ユノちゃんユノちゃん」と言いながら私のところへ寄ってくる。すごく可愛い。

 やはり年が近いせいなのか、私に一番心を開いてくれているような気がするのよね。……まさか見た目が幼いせいでとかいう理由じゃないよね?もしそうだったとしたら少しショックなんだけど。まあ、仮にそうだったとしても、それでアニエになつかれているというのならばそれほど悪いことではないか。

 私も可愛い妹が出来たみたいで、アニエに会うのが楽しみでしょうがない。おかげで仕事でもないのに満月堂に出かけることも多くなった。というか毎日行っている。食事をしながらアニエを眺めたり、食事をしながらアニエと話したり、食事をしながらアニエにも食べさせたりするのが今の私の日課だ。


 アニエになつかれるようになって思うことがある。きぃちゃんが私に可愛い可愛い言うのは、きっとこんな気持ちなんじゃないかって。まあ、アニエの場合は私と違って正真正銘の美少女なんだけどね。

 正直言って、未だに自分のことを可愛いとか言われるのは慣れないけど、否定するのはもうやめよう。だって、私がアニエにそんなことをされたらとても悲しいもの。きぃちゃん、今までごめんね。今になってやっときぃちゃんの気持ちがわかった気がするよ。


 さて、明日はアニエとどんな話をしようかな。

 そんなことを思いつつもリラックスした格好でベッドの上に寝転がり、今日もまた電脳世界の迷宮へと旅立つ私なのであった。

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