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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X1章 勇者召喚
41/116

x1-13.驚愕の事実が次から次へと出てくるのですが……

「さて、そろそろ話をしたいと思うんだけど、いいかな?」


 白井さんの無事を喜び合っている俺達に、魔王が声をかけてくる。

 どうやら俺達の事を黙って待っていてくれたようだ。抱き合って泣いているところをずっと見られていたのかと思うと少し恥ずかしくはあったが、よくよく考えてみると散々魔王の前で無様を晒していたんだから今更だよな。


「君たちは何のために私を倒そうとするのかな?」


 俺達が話を聞く態勢になったことを確認してから魔王が問いかけ、それにコノが答える。


「元の世界へ帰るためです」


 まあ、魔王を倒したからといって帰れるという保証はないんだけどな。現時点でまだ帰還方法は見つかっていないようだし。しかももう、魔王を倒せない以前の問題として、魔王を倒す気すらなくなってしまった。マジでこれからどうしようか……。

 とりあえず俺達は、こっちの世界へと召喚されてから今に至るまでの事情を一通り魔王に説明してみた。


「はぁー、なるほどねー。何で貴族ってこうろくでもない奴が多いんだろ」


 魔王が呆れた様子を見せながらそう言うが、その意見には俺も全面同意だ。俺達が出会った貴族もろくでもない奴が多かったしな。


「私も聞いた話なんだけどね、国王は勇者召喚に乗り気じゃなかったみたいよ」

「え?そうなんですか?」

「どうも裏でろくでもないことをやっている貴族どもが私のことを怖がっちゃってね、なんとかしろと国王に詰め寄ったという話らしいのよね。で、なんとか出来ないならなんとか出来るやつを召喚して対処させろって。それでやむを得ず君たちを召喚することになったってことらしいわ」


 俺達が召喚されたのは貴族どものせいかよ。それでいて俺達が王宮を出歩きするのを快く思っていないだとか、あいつらの頭はどうなってんだ?召喚はしたいけど近くをうろつかれたくないだとか、子供のわがままレベルじゃねーか。


「あのー、すみません」

「なにかしら?」

「自分達の要求を通すために王様に詰め寄ったりして、不敬罪とかにはならなかったんですか?」


 望がそんな質問をしていた。言われてみれば確かにそうだよな。王様って国で一番偉いんだろ?貴族が王様に対して、自分たちの要求を強引に通しているという状況はいくらか不自然にも感じる。


「ああ、この国はね、貴族の力が強いのよ。不正を繰り返して私腹を肥やしている貴族がたくさんいてね、ろくでもない奴ほどお金もってるのよね。でね、その貴族を下手に罰すると、その財力でもって王家に反旗を翻される恐れがある。そして王家はそれに対抗出来るだけの力はなく、貴族に対して強く出ることが出来ないってわけ」


 うわぁ、貴族マジでろくでもねぇ。冗談抜きで魔王に滅ぼされてしまったほうがいいんじゃないのか?この国。


「ところで、君たちがその腕につけてるやつ、術式を見た感じだとアイテムボックスの魔道具だと思うんだけど、それどこで手に入れた?」

「強制的にこの世界へ召喚したお詫びとして王様からもらったんですけど」

「あー、そう……うん、そんな気はしてたんだよね……」


 コノがそう答えると、またもや魔王が呆れた様子を見せる。

 なにかおかしいところでもあっただろうか?


「その腕輪、自分の意志で外せないでしょ」

「ええ、でもアイテムボックスの魔道具ってそういうものなんじゃないんですか?盗難防止のためにそうなってると聞きましたけど」

「いやいや、盗難防止だったとしても、自分で外せないなんておかしいでしょ」


 言われてみればそうか。盗難防止なら他者が勝手に外すことを防げばいいわけで、自分から外せないようにする必要はないよな。異世界の便利アイテムをもらったことに浮かれていて、そんなことすら考えつかなかった。


「そのアイテムボックスの魔道具だけどね、隷属の魔道具が組み込まれてるわよ」


 ……え?

 その言葉を聞いた瞬間、俺達全員が固まった。

 え?隷属の魔道具?ナニソレ?名前からしてものすっごく嫌な予感がするんですが……。


「あのー、それって、奴隷とかにいうことを聞かせたりする、命令に逆らえなくなるようなやつですか?」

「うん、そう。たぶん、君たちが逆らった時のための保険なんだろうね」

「アタシ達が魔王討伐を拒否していたら、これを使って王様に命令されていたということですか?」

「たぶんそうだろうね。とは言っても、命令するのは国王じゃないんだろうけど。恐らく、国王には知らされていないと思うよ。貴族がお詫びの品とか言って、国王から君たちに渡すよう仕向けたんだろうしね。この国の王は貴族の戯れ言を無視できない程度には立場が弱いけど、だまし討ちのように人を隷属させるような、腐った人間ではないって話だから」


 望が尋ねると、魔王はとんでもないことを話し始めた。

 確かに王様からアイテムボックスの魔道具を受け取った後、別室で使い方の説明を受けたが、その場に王様はいなかった。つーことは、あの部屋にいた奴等が俺達にこんなものをよこした元凶ってことか。

 あんのクソ貴族共が!マジでふざけんなよ!

 なんかもう、魔王と一緒にこの国を滅ぼすのもいいんじゃないかとか思い始めたよ。まあ、隷属の魔道具を身に着けている俺達にはそんなことは出来ないんだろうけどよ。


「とりあえずその隷属の魔道具、解除しちゃおうか」

「え?解除ですか?こういうのって無理やり外そうとすると、苦痛を伴ったり死んじゃったりするんじゃないんですか?」

「うん、そうだね。君たちに装着されている隷属の魔道具は、無理やり外すと脳に打撃を与えて死に至らしめる術式が組み込まれてるみたいだね」


 いやいやいや、そんな軽く言われても。

 望がなんか怖いことを言い出したと思ったら、魔王が当たり前のように肯定しやがる。

 え?隷属の魔道具ってそんななの?そんな効果あんの?無理やり外したら死とか、効果がえげつなさすぎるんだが……。異世界マジ怖ぇ。


「ああ、私ならちゃんと安全に外せるから安心していいよ。はい、解除完了。これで腕輪も外せるはずよ」


 え?そんな簡単に解除できんの?何かをしたのかすらわからなかったんだが。

 半信半疑で腕輪を外そうとしてみると、何の抵抗もなくするりと腕輪が外れてしまった。マジで外れたよ。外そうとしても外れなかったはずなのに。


「まあ、君たちの場合は腕輪だったからね、最悪私がいなかったとしても、腕でも切り落とせば隷属効果は解除できたんだけどね。普通はそんなことが出来ないよう、首輪に隷属効果を組み込むんだけど、用意した貴族が国王に疑問を持たれることを恐れて腕輪にでもしたのかな?」


 何でもなさそうに魔王は言うが、腕を切り落とす覚悟なんてそう簡単に出来ることじゃないだろ。

 しかし、言っていることには納得できる。確かに腕を切り落としても生きることは出来るだろうが、首なんて切り落としたら死ぬしかない。首輪であれば、解除手段を持つ者以外には事実上解除不可能なんだろうが、腕輪であれば、最悪腕一本の犠牲を覚悟すれば誰でも解除が出来るというわけか。まあ、だからと言ってそんな手段は選びたくはないがな。


 それからしばらく隷属の魔道具の話やこの国の貴族の話なんかをしていたんだが、魔王の話を聞けば聞くほど貴族のろくでもなさを思い知る。アルミテイグ伯爵が、魔王は有益な存在だと言っていた意味がよく分かった。むしろ害悪なのは貴族の方じゃねーか。魔王を討伐するなんてとんでもない。そんなことをしたらクズどもの思う壺だっただろう。

 そんな風に話をしていると、魔王が思い出したかのように俺達に言った。


「そういえばさ、私、君たちに自分のこと魔王だって言ったじゃない?でもね、私のことを魔王なんて言ってるのってクズ貴族どもだけなんだよね。そもそも私魔王なんかじゃないし」


 え?なにその今更なカミングアウト。確かに魔王っぽくないとは思ってたけど、マジで魔王じゃなかったのかよ。


「えーと、魔王じゃないというのなら、あなたは一体何者なんでしょうか?」

「ふっふっふー、君たち、鑑定のスキル持ってるよね。私のステータス見てみ?」


 コノが魔王(仮)の正体を尋ねると、得意気な様子で自分のステータスを確認しろと言ってくる。


「いや、俺達にはあなたのステータスを見ることが出来ないのですが」


 うん、何度やっても鑑定失敗したしな。見ろと言われても見れないというのにどうしろと。


「ああ、ダイジョブダイジョブ。私とのステータスに差がありすぎて君たちの鑑定を自動的にレジストしちゃっただけだから、私が許可すれば見れるよ」


 マジか。そんなことが出来るほどステータスに差があるってことなのか?

 言われたとおりに鑑定スキルを使用してみると、確かにステータスが確認できた。




 名前:ユノ・ナハブ

 種族:人族

 年齢:14

 レベル:137

 体力:239,227

 魔力:4,087,125

 筋力:551

 耐久:519

 精神:771

 抵抗:746

 敏捷:574

 器用:648

 幸運:39


 称号:魔法少女、異世界人、断罪者


 スキル:全武器適正、全魔法適正、精神耐性、苦痛耐性、探索術




 まず最初、明らかに異常な能力値に目を奪われる。なんだよこの出鱈目な数値は。化物ってレベルじゃねーぞ。

 能力値が俺の10倍以上ある。こりゃ勝てねーわ。勝てるわけねーよ。つーか、レベル137って……。推定80だとか見当違いもいいところじゃねーか。

 そして能力値を確認した後、名前を確認してみると……。


「え……ユノ、さん?」

「はいはーい、そうですよー、ユノさんですよー」


 思わず呟いてしまった俺の言葉に返事をすると、ユノさんであると鑑定された少女が光に包まれる。

 光がおさまると、黒髪黒目で背の低い美少女、俺達の知っているユノさんの姿がそこにあった。


「どう?びっくりした?」


 ユノさんはいたずらが成功したかのように得意気な表情で話しかけてくるが、俺達はあまりのことに呆然としてしまった。……とは言ってもいつまでも呆然としているわけにもいかないので、俺はなんとか確認のための言葉を発する。


「えーと、つまり、仮面の魔王の正体はユノさんだった?」

「そのとーり。まあ、魔王ってのは勝手に言われてるだけだけどね。称号見てみ?魔王なんて称号ないでしょ?」


 言われて称号を確認してみる。確かに魔王なんて称号はない。しかし、その中に見逃すことの出来ない称号を発見してしまう。


「異世界人?」


 俺が呟くよりも早く、コノが呟いていた。


「おや?見つけちゃった?見つけちゃったんだね、その称号。まあ、見つけるように誘導したんだけどさ」

「ユノさんもこの世界の人じゃないんですか?」

「うん、そだよ。君たちと同じ日本人」


 えっ?日本人?

 いや、確かに容姿は日本人っぽいけど……。

 でも、名字が日本人っぽくないよな?那覇部さんとかか?


「なんか君たちが変なこと考えてそうだから言っとくけど、私、この世界に来てから改名してるからね。改名前の名前なんて思い出したくもないくらい嫌いだから教えないけど。たぶん、そこにいるコノエさんなら私の気持ちをわかってくれると思う」


 あー、そういう系統のお名前だったんですね。コノも騎士と書いてナイトと呼ばせる名前を凄く嫌がってるしな。ふとコノを見てみると、仲間を見つけて嬉しいような、犠牲者が増えて悲しいような、何とも微妙な表情で深くうなずいていた。


「まあ、そんなわけで私も日本人なのですよ。ちなみに、これはこの世界の人には誰にも教えてない私の秘密だからね。君たちが私と同じ日本人だったから教えたのよ」


 なるほど、俺達と同じ境遇だから教えてくれたのか。しかし、そうなると……。


「ユノさんほどの実力があっても、日本に帰る方法は見つかっていないということですか」


 ってことになるよな。現在、国に頼ることがほぼ絶望的になってしまったこの状況で、これほどの力を持つ人が未だ日本へと帰ることができていないという事実が俺達に重くのしかかる。


「え?帰れるよ。てか、私しょっちゅう日本行ってるし」


 と思ったら、ユノさんからのまさかの日本へ帰れる宣言。え?帰れるの?つーか、しょっちゅう日本行っちゃってるの?あまりにも軽すぎる告白に、頭の中が一瞬真っ白になりかけた。


「日本に……帰れるんですか?」

「うん、帰れるよ」

「じゃあ、何でユノさんはこの世界にいるんですか?」

「ん?どゆこと?」


 ユノさんに何で日本に戻らないのかを聞いてみたら、質問の意図を理解できなかったのか、聞き返されてしまった。説明が足りなかっただろうか……。


「えーと、ユノさんは日本に帰ることが出来るんですよね?」

「そうだよ」

「じゃあ、なぜ日本に戻らずに、こちらの世界に残っているんですか?」

「ああ、そういうことね。それは単純にこっちの世界のほうが楽しいからだね」

「楽しいから……ですか」


 それは俺にも少し理解できるな。この世界には人々の命を脅かす魔物というものが存在するが、俺達には力があり、余程無謀なことをしない限りは命の危険は少ない。そこにゲームのようにレベルなんてものがあり、レベルが上がれば自分が強くなったということを自覚できてしまう。これを楽しいと思ってしまうのは、それなりにゲームを嗜んでいる日本人なら理解せざるを得ないだろう。


「それに日本に居たい理由もないしね。日本での生活は、名前のせいで散々だったから」


 それは……本名を教えてもらってないからなんとも言えないが、かなり酷い名前だったんだろうな。余程日本には居づらかったんだろう。改名して異世界で楽しんでるくらいだし。


「まあ、私の話はこのくらいにしといて。それより、君たちは日本に帰りたいんでしょ?なんなら今すぐ帰れるけどどうする?」


 ユノさんのその言葉に、俺達は誰も言葉を発することが出来なかった。

 確かにそれは俺達の望んでいたことではあるのだが、いきなりそれが可能だと言われても戸惑ってしまうのはしょうがないことだと思う。

 そんな俺達の様子を見てかどうかは知らないが、更にユノさんが口を開く。


「この世界にまだ心残りがあるというのなら別に今すぐじゃなくてもいいけど、お別れの挨拶回りだとかはやめておいたほうがいいよ。それがクズ貴族どもの耳に入ったら面倒なことになるだろうからね」


 あー、確かにそうだな。俺達がお世話になった人達に別れの挨拶をしているのを聞きつけた貴族が、魔王退治はどうなったんだと詰め寄ってくる姿が容易に想像できてしまった。まあ、幸いお世話になった人はそれほどいないし、満月堂の人達にはユノさんにお願いしておけば問題無いだろう。冒険者ギルドについてはふらっといなくなったところで、そういうものだと判断するだろうし、そうなると特に心残りはないかな?

 まあ、もうちょっとだけレベル上げをしていたかった、なんてことを思ったりもしてしまうけど、そんなことのためにこの世界に残るわけにもいかないし、断腸の思いで俺のこの世界での心残りリストから削除する。

 他のみんなも俺と同じような気持ちらしいし、帰還を遅らせれば遅らせただけ未練が残りそうな気がしたので、サクッと日本へ帰してもらうことにした。帰りたい場所の住所はユノさんに教えたし、準備は万端だ。


「よーし、それじゃぁいっくよー」


 ユノさんの言葉に俺達全員が無言で頷く。

 その数秒後、俺達の長いようで短かった異世界生活は、あっけなく終わりを告げたのだった。

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