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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X1章 勇者召喚
40/116

x1-12.さらなる理不尽、そして再会

「あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああっっっっっっっっ!!!!」


 気が付くと俺は叫びを上げ、魔王に斬りかかっていた。


 許せない。許せるわけがない。何で白井さんが死ななくちゃならない。何で白井さんが殺されなくちゃならないんだ。

 たとえ敵だとしても、俺達は言葉を交わすことが出来るというのに。話し合いをすることが出来るというのに。相手を殺す必要なんてなかったというのに。

 なのに白井さんを殺した。コイツは駄目だ。生かしといちゃ駄目なんだ。


 俺は怒りに任せ、手に持った剣を渾身の力で振り下ろす。

 こんなことで魔王を殺せるなんて思っちゃいない。この程度で殺せるというのなら、そもそも俺達はこの世界へ呼ばれてなんていなかっただろう。でも、だからといって、ここで魔王に挑まないなんていう選択肢は俺にはない。

 白井さんを、俺の大事な人を、殺す必要なんてなかったその命を奪ったのだから。倒せないまでも、せめて一矢報いてやる。


 そんな思いで放った一撃ではあったが、しかし次の瞬間、俺は更なる絶望を味わうことになった。

 渾身の力で放った斬撃は、魔王の指一本で止められていたのだ。

 そう、指二本で挟んで止めるとかではなく、たった指一本。右手人差し指の腹で俺の剣を受け止めていた。

 しかも、そんな無茶苦茶な受け止め方をしたにもかかわらず、魔王には傷一つついていやしない。なんだよこれ。想像以上の化物じゃねーか。力いっぱい斬りつけても無傷だとか、どうやって倒せって言うんだよ。


 そこへコノと望もやって来て、それぞれ魔王に力いっぱいの一撃を繰り出す。

 今度は指一本すら使わず無防備に攻撃を受けているが、それでも魔王にはダメージどころか、傷一つ出来た様子は見られない。俺も二人に混ざって攻撃を繰り返すが、魔王は無防備のまま動くことすらせず、ただただ俺達の攻撃を受け続けている。当然というべきか、それでもやはり魔王は無傷だった。俺達の攻撃は防御する必要すらないってことかよ。


 あまりにも理不尽な状況に俺は脱力してしまい、剣を手放し、その場にへたり込んでしまった。

 精一杯頑張っても傷一つつけられない。そんな現実に怒りは既にどこかへといってしまい、白井さんの仇を取ることすら出来ないという悲しみと、絶望だけが俺に残った。悔しくて、悔しくて、いつの間にか俺の目からは涙が溢れていた。何か現状を打破出来るものはないかと周囲を見回してみるが、コノと望が床に座り込み、力なくうなだれているのが目に入る。

 ああ、俺達はここで死ぬのか……。生きるのを諦めかけた時、魔王が話しかけてきた。


「なぜ君たちは私を殺そうとする?」


 はぁ?なぜ?なぜだって?そんなの決まってるだろう!


「お前が白井さんを殺したからだ!」


 何処かへいってしまったはずの怒りが甦り、俺は魔王に怒鳴りつける。


「しかし、私は君たちの仲間である彼女を、ただそこにいたからという理由で殺してみただけよ。君たちが私を殺す理由にはならないと思うけど」

「ふざけるな!そんな理由ですらない理由で人を殺しといて……ふざけたこと言ってんじゃねぇよ!」

「そう言われてもね、私は君たちが殺すなと言っていた、貴族たちと同じことをしただけよ。ただ理由もなく、そこにいた人間を殺しただけ。同じことをしただけだというのに、貴族は殺しちゃ駄目で私はいいの?」


 その言葉に俺は何も言い返すことが出来なかった。確かに、言われてみればやっていることは同じなんだろう。貴族の側としては魔王を殺したつもりなんだろうけど、殺された側としては勘違いも甚だしい。何の理由もなく殺されたのと同じようなものだ。

 しかも俺達は、どんな悪人でも殺さずに更生させるべきだと言って、魔王を説得しようとしていた。ならば魔王のことも、殺せる殺せないの問題は別として、殺していい理由にはならないだろう。それなのに、俺の感情がそれを認めない。白井さんを殺した魔王が、何の罪悪感も持たずただ生きているという事実が、どうしても納得することが出来ないんだ。


「でも、それでも、白井さんを殺したお前を許すことは出来ない」

「そう。では君たちは、自分が出来もしないことを相手に強要していたというのね。相手には殺すことは良くないなんて説きながら、いざ自分が同じ立場になったら殺すために行動する。ずいぶんと都合の良い考え方だわ」


 俺はまたしても言葉に詰まってしまう。

 確かにそうだ。実際に俺は、魔王のことが殺したいほど憎い。自分達で「簡単に人を殺すなんて良くない」なんてことを散々言っていたにもかかわらずだ。自分の今の言動を省みて、どの口がそんな綺麗事をほざいてんだよって話だよな。自嘲気味にそんなことを考えていると、更に魔王が語り出す。


「ミサリナにはね、アニエというまだ8歳の妹がいるの。親はすでにいない、たった二人だけの肉親。だというのに、くだらない理由で姉は殺され、妹はずっと泣き続けている。あげくあのクズは死んだミサリナを見て笑っていたというのよ。それでもあのクズを殺すべきではなかったと言える?生かして罪を償わせるべきだったと君たちは言えるの?」


 ああ、無理だ。もう無理だ。そんな話を聞かされてしまったら、殺さずに罪を償わせろなんて言えるわけがないじゃないか。そもそも、俺自身にもうそんなことを言う資格なんてない。

 アニエって子もきっと俺と同じ気持ちだったのかも知れない。大事な人を亡くして、悲しくて悲しくてどうしようもなくて、大事な人を殺した相手が憎くて仕方がない。なのに、アニエの姉を殺した貴族を殺すのは駄目で、白井さんを殺した魔王は殺してもいいなんて道理が通るわけがない。


 人を簡単に殺すべきではないという意見は変える気はない。でも、人の命を何とも思わないクズがいるということがわかった。人の命を奪っておきながら、それを笑っていられるような救いようのないクズがいるということがわかった。大した理由もなく、人の命が奪われるという理不尽がこの世界には溢れているということを、今になってやっと理解したのだ。

 しかし、それを理解するための代償はあまりにも大きすぎた。そんなことを理解するだけのために大切な人を喪うだなんて、あんまりじゃないか。


 俺にはもう、魔王がディポネ男爵を殺したことについてを咎める気持ちはなかった。それは、魔王が貴族を殺している理由が理解できてしまったから。きっと、今まで魔王が殺してきたこの国の権力者達だって、ろくでもない奴等ばかりだったんだろう。正直言って、ディポネ男爵に関しては死んで当然だと思ってしまう俺がいる。悔しいが魔王の言うとおり、人を殺して笑っているようなやつが、罰を与えたとして改心するとは俺にも思うことは出来なかったのだから。


 でも、白井さんを殺したことだけはどうしても許すことは出来ない。俺達にこの世界の理不尽を知らしめるためだということはわかる。しかし、そんなことのために奪われても良い命なんかじゃなかった。どうあっても納得できるわけがないじゃないか。白井さんは殺されてもしょうがないようなことをしたわけではないのだから。ただこの場にいただけという、それだけの理由で命を奪われてしまったのだから。

 魔王に対する恨めしい感情、しかし俺には何をすることも出来ず諦めにも近い感情、そして深い悲しみの感情の中でそんなことを考えていると、魔王が話しかけてくる。


「さて、自分たちの言葉がどれほど薄っぺらい、傍観者であるがゆえの綺麗事だったということが理解できたかな?」


 俺達は誰も言葉を発しない。確かに理解した。否が応でも理解させられた。そして白井さんの命を奪った、殺したいほどに憎い魔王の言葉に、納得させられている自分がとても悔しかった。

 魔王にせめて一矢報いることすら出来ず、ただ憎しみのこもった目で睨みつけることが、今の俺にできることの全てだった。


「じゃあ、君たちの仲間を返してあげようか」


 ……は?

 魔王がそう言った瞬間、俺の隣に白井さんが現れた。ちゃんと首の繋がっている、生きている白井さんだ。

 魔王を睨みつけていたはずの俺の目は驚きに見開かれ、呆然と白井さんを見つめてしまう。


 ……え?どういうことだ?これは。


「私は最初から彼女を殺してなんかいないよ。そんなことをしてあの害虫どもと同じ所まで落ちるなんて、まっぴらごめんだからね」


 え?生きてる?白井さんが生きてる?死んでない?


「彼女のことは別空間に隔離させてもらっていただけ。死んだように見せたのはただの幻術。だいたい、理不尽に人を殺すようなゴミ共を処分し回っている私が、理不尽に人を殺すわけがないじゃない」


 白井さんが生きてる。死んでない。夢じゃないよな?幻じゃないよな?

 恐る恐る白井さんに手を伸ばす。白井さんの手に触れると、ちゃんと感触がある。体温を感じる。

 そして白井さんが伸ばした俺の手を握り、微笑む。


「良かった!本当に良かった!」


 俺は決壊した涙も気にすること無く、白井さんに抱きつく。


「ん、大丈夫。ちゃんと、私は、生きてるから」


 コノと望も慌ててやって来て、しばらくの間みんなで抱き合い、泣き続けた。

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