x1-6.俺は望係じゃないんだが……
「社、こっちは終わったぞ」
「アタシも終わったよー。フッフーン、このアタシの神の手にかかれば、解体など造作もないことよ」
「私も、終わった」
三人とも俺の近くまでやって来ると、そう声をかけてきた。
「ああ、俺も終わりだ」
ちょうど俺も終わったところだったのでそう言い、解体が終わったものを、俺の左腕に装着されたアイテムボックスを使って収納していく。
この世界にはアイテムボックスという魔道具がある。今いる空間と、魔法によって作られた特殊な空間を限定的につなぎ、物を出し入れすることが出来るという、とても便利な魔道具だ。
それを俺達四人全員が持っている。俺達のことを自分達の都合で呼び出し、魔王を倒すという役目を押し付けたことへのせめてものお詫びということで、俺達全員が国から譲り受けたものだ。
なんだよ、今度はもので釣る気かよ、などと思う反面、異世界の素敵グッズに惹かれ、少し許してもいいかな、なんて思ってしまう現金な自分がそこにいた。他のみんなも俺と似たような気持ちだったようで、特に望のはしゃぎようはすごかった。「ふぉおーーーーー、アイテムボックスきたーーーーーーー」などと奇声を発し、不思議な踊りを踊っていた。微妙に鬱陶しかったので、アレなんとかしろよという意志を込めてコノに視線を送ったら、目を逸らしやがった。いや、俺も長い付き合いだからさ、アレがそう簡単に落ち着くわけがないということは知っているが、せめて挑戦くらいはしてほしかった。あ?そんなこというなら自分でやれ?いやいや、だってそこに彼氏がいるんだから、俺の出る幕じゃないだろ?
結局、浮かれて踊っている奴は放っておいて、アイテムボックスの使い方などの説明を受けることにした。
色々と説明を聞いて知ったのだが、アイテムボックスはそれなりに高価なものらしく、その中でも高級品を俺達に渡してくれたらしい。気になったので値段を聞いたらマジでビビった。これ一個で大きな屋敷が幾つか建つらしい。
流石に安いものならそこまではしないらしいのだが、それでも庶民の収入の何年か分くらいはするという。安物でも高ぇ。
んで、高いものと安いものとで何が違うのかというと、これは単純に収納力が違う。
安いものだと、木箱一つ分くらいの容量らしい。庶民の収入の数年分で木箱一つ分か。あ、因みにこの世界での木箱一つ分ってのは、俺達でいうところのみかん箱を二つ重ねたくらいの大きさだろうか。
俺の感覚で言えば割にあわないような気がするんだが、この世界では流通経路が日本みたいに整備されていないため、たったそれだけの容量でも、物を運ぶ仕事をしている人なんかには無くてはならないものらしい。当然冒険者達も、近場のみで仕事をしているだけではなく、依頼によっては遠くへと出向かなくてはならない場合もある。そんな時アイテムボックスがあれば、回復アイテムや食料品など、必要だけど持って歩くには邪魔なものが収納できるため、例え安物でもいつかは手に入れたい憧れの魔道具となっているんだそうだ。
そして俺達の持つアイテムボックスの高級品。今俺達が寝泊まりしている、王城の客室くらいの容量があるらしい。部屋の広さ的には30畳くらいだろうか。目測なので、一般家庭で生まれ育った俺にはそれであっているのかは自信がないがな。いや、部屋が広すぎるんだよ。こんな広い部屋なんて住んだことがないんだから、わからなくてもしょうがないじゃないか。
しかし、流石高級品。とんでもない容量だ。しかもそれが四個。きっと容量いっぱいまで使い切ることはないんだろうな。
そんなとてつもない能力がこんなちっぽけな玉にあるなんて、異世界の技術ってすげぇよな。いや、技術っつーよりも魔法か?
ああ、そうそう。アイテムボックスの魔道具、……って言うか、基本的に魔道具ってやつは、小さな玉なんだとよ。魔石というらしい。
で、この小さな魔石に、緻密な術式回路とかいうやつが刻まれているとか言ってたな。俺には説明を受けてもさっぱり理解ができなかったんだが、まあ別に使えればいいから問題はない。一応、魔石の大きさと質で価値が大きく変わり、特に質が重要だということだけは理解できた。因みに、俺達の持っているアイテムボックスのサイズは直径3cmくらいで、高純度の魔石だという話だ。
で、小さな玉のままだとなくしてしまうかも知れないので、大抵は身に付けるアクセサリーなんかへと加工するものらしい。まあ、物によっては専用の道具に組み込んで使用するものもあるということだが。
そして、俺達のアイテムボックスは腕輪型で、みんな同じデザインだ。
もらってから早速身につけたわけなんだが、そんな時に白井さんが「みんな、お揃い、嬉しい」なんてはにかみながら言うんだよ。何だよそれ、可愛すぎだろオイ。速攻で望が抱きついていたが、正直その役目変わって欲しい。羨ましいぞこのやろう。
まあとにかく、そんな便利なアイテムがあるので、倒した魔物なんかを持ち帰るのがすごく楽なんだよな。
なんで倒した魔物を持ち帰るのかってのは、それが金になるからだ。魔物を解体し、毛皮や肉、骨や牙等、様々な部位が冒険者ギルドで換金できるのだ。そしてこれらは、武器や防具の素材になったり、薬の材料になったり、家庭の食卓に並んだりするらしい。
そんなわけで、これが結構、冒険者の大事な収入源になるわけだ。アイテムボックスはそんな倒した魔物も収納できるわけで、冒険者が欲しがる気持ちもよくわかる。
そして俺達も冒険者なわけで、倒した魔物を換金してお金を得ているわけなんだが、正直言うと、お金を得る必要はあまりないんだよな。なんでかっつーと、俺達は国に衣食住を保障されているので、あまりお金を使う機会がないのだ。とは言っても、お金はあって困るものでもないし、やはり冒険者なんてものをやっているんだから、魔物を倒して報酬を得るということが素直に楽しいということもあって、魔物の解体をみんなで覚えた。まあ、アイテムボックスがなかったら諦めていただろうけどな。
「結構遠くまで来ちまったよな」
俺が解体した魔物を全てアイテムボックスに収納し終わったのを見計らって、コノが話しかけてきた。
「ああ、予定よりも遠出になっちまったな。この辺りの魔物も多少は強かったが、今までも安全重視で余裕をもって戦っていたわけだし、問題はなかったけどな」
「そうだよねー、初めて見る魔物もいたけど思ったよりも楽勝だったし。まあ、アタシがいるのに魔物なんかに負けるわけがないんだけどねー」
「私達、強い」
俺がコノへと返事をすると、望と白井さんも会話に混ざってきた。
「しっかし、おかしいよな」
みんなが集まってきて気が緩んだのか、俺はつい無意識の内にそんな言葉をこぼしていた。
今俺達は王都からかなり離れた森の中にいるわけなんだが、本当はこんなに遠くへ来る予定ではなかった。
本来の予定では王都からそれほど離れていない草原でレベル上げをするはずだったのだが、それができない理由があったのだ。
「ああ、おかしいな。何で草原に魔物一匹いなかったんだ?」
俺のこぼした言葉にコノが反応する。
そう、何故かレベル上げを予定していた場所に、魔物が一匹もいなかったのだ。
いくら探しても魔物は見つからなかったのだが、レベル上げをしに来たというのに魔物と戦わずに帰るなんてことは、俺達にとっては面白くない。どこかに魔物がいないかと探し求めて移動した結果、やっとここまで来て魔物が現れたというわけだ。
「いつもならちょっと探せば見つかるのにねー。はっ!まさか……」
すると望がなにか気づいたようなので、問いかけてみる。
「何だ?なにか心当たりでもあるのか?」
「もしかしたら、アタシの強さに恐れをなして姿を消したんじゃ……」
……。
「……とりあえず帰って、ギルドでなにか最近異常がなかったか聞いてみるか?」
「ちょ、ちょっと待ってよー、無視しないでよ―、社くん、最近アタシに冷たくない?」
望に期待した俺が馬鹿だった。
くだらないことをぬかす望をさらっと無視して、王都へ帰ってギルドでなにか知っている人でもいないか探そうと提案したら、望は俺に詰め寄ってそんな言葉を口にした。
「いや、お前相手にすんのめんどくせーんだよ。かまって欲しいならコノにでも言えよ」
「それじゃ駄目なんだよ!近重くんじゃリアクションが薄いんだよ!社くんならアタシの望むリアクションをくれる。そう信じているんだよ!!」
「俺はお前にリアクションを返すためにここにいるわけじゃないんだが……」
気分が萎える。本当に萎える。つーかさ、何で俺が被害を受けてんのに、彼氏様は安全地帯でのうのうとしているんですかね?何か間違っていませんかね?もうため息しかでてこねーよ。
「……帰ろうぜ」
「おう……」
俺が憂鬱な気分でそう呟くと、コノが申し訳なさそうな顔をしてそう返事をする。
申し訳ないと思うのならもっと望をかまってやれよ。お前がかまってやらないから俺に被害が来るんだよ。
望はまだなにか文句を言っているが、知るか。無視だ無視。
俺達は望が一人で何か喋っているのをBGMにして、王都への帰路についた。




