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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X1章 勇者召喚
30/116

x1-2.異世界人はろくでもない

 あの後俺達は会議室のような部屋へと通された。

 席には俺、コノ、望、そしてあの時教室に一緒に残っていた、俺のクラスの委員長である白井(しらい)小夜子(さよこ)さんの順に座っており、机を挟んで対面には、先程俺達のことを勇者と呼んだ威厳のある男が座っている。その男の後ろには何人もの人間が控えており、それがこの男がかなりの立場の人間だろうということを物語っている。


 因みに、白井さんのことは正直良く知らない。出会ってからまだ四ヶ月も経っていないし、そもそもあまり接する機会がない。とりあえずわかっていることといえば、成績優秀、物静かであまり感情を出すタイプではなく、よく本を読んでいるということくらいだ。

 あ、それと、かなりの美少女でもある。当然男子に人気があり、入学してから一学期の終わりまでの間に、すでに何人かが告白をして玉砕をしているらしい。フラれる言葉は決まって「今は本を読むこと以上に大切だと思えることがない」だそうだ。なんか似たようなセリフを聞いたことがあるな。つーか、これコノの本バージョンじゃないか?

 そして言葉に違わず暇さえあれば本を読んでいるらしく、男達がいうには「集中して本を読んでいる時、たまに髪をかきあげる仕草がたまらない」のだそうだ。俺も何度か見たことがあるが、確かにアレは良いものだ。艶のある美しいショートの黒髪を無造作にかきあげ、サラサラと髪が元の位置へと戻っていく情景。うむ、いとあはれなり。

 ……まあなんだ、男なんて生き物は美少女を観賞しているだけで幸せになれるものなんだよ。


 それと、ついでと言ってはなんなのだが、実は望も白井さんに負けず劣らずの美少女らしい。何故「らしい」なのかというと、俺にはそう見えないからだ。やっぱり小さい頃からずっと一緒にいたからなのかな?まあ、普通に可愛いとは思うが、白井さんと同等かと言われると首を傾げたくなる。

 因みに、望の方は特に告白はされていないらしい。まあ、すでにコノと付き合っているということは周知の事実なわけなので、そんな相手に告白するなんてのは無謀もいいところだよな。


 そんなことをぼんやりと考えていると、コノが小さな声で話しかけてきた。


「なあ、社、これってさ、アレだよな?」

「ああ、多分アレだろう」


 お互いに「アレ」だろうと予測をつける。

 それは随分前に望から「面白いから絶対読め」と言われ押し付けられた小説。ライトノベルって言うんだっけ?それに今の俺達の置かれた状況と同じようなことが書かれていたのだ。

 余談だが、その小説の結末がどうなったのかだとかは俺は知らない。数ページで投げ出したからな。漫画やゲームならいいんだが、どうにも文字だけというのは苦痛でしょうがない。それを望に伝えたら「こんな面白い本を読まないなんて、社くんは人生の半分は損してるよ」などと言われた。んなわけねーよ。小説を読まないくらいで人生の半分も損してたまるか。


「しかし、こんなことが現実に起こりえるんだな」

「俺は未だに夢かなんかだと思いたいがな。普通に考えてありえないだろう?異世界への勇者召喚なんて」


 望から渡された本は、主人公が異世界へと召喚されて勇者となり魔王を討ちに行く、というような話だった。まあ俺は早々に投げたから出発する場面にすら辿り着かなかったけどな。しかし、あんなもんはフィクションだろう?こんな訳のわからんことが現実であってたまるか。ゲーム大会でも何でも喜んで参加してやるから、夢ならさっさと覚めて欲しいよ。


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、対面に座っている男が口を開く。


「勇者様方には突然のことで戸惑っていることと思う。そこで私が今から状況の説明をさせてもらいたい」


 今の状況は確かに知りたいとは思っていたし、説明してくれるというのなら願ってもないことだ。

 俺達はそれぞれの顔を見合わせ無言でうなずき、代表してコノが答えを返す。


「はい、お願いします」

「うむ、まず私はウィルヘルム・リィエ・サレム。人族の国サレムの王だ」


 ああ、なんか聞きたくない単語が聞こえてしまった……。

 サレムなんて国聞いたことないぞ。それと、人族って言ったよなこの人、いや、国王様か。人族って単語があるということは、他にも人間とは違う種族がいるってことだよな?やっぱりもう認めるしかないのか……。


「勇者様方も感づいておられるかと思うが、ここはそなたらのいた世界とは別の世界、ミスレティアという名の世界だ」


 うん、認めるしかないよな。つーか何だよ異世界って。異世界なんてものはフィクションの産物だろうが。フィクションはフィクションだから面白いのであって、現実になっても戸惑いしかねぇっつーの。


 とりあえず目の前にいる王様が言うには、魔王が現れたが自分達ではどうすることもできない。過去の文献では勇者を召喚し危機を乗り越えたとあったから自分達もやってみた。そしたら俺達が現れて、やったぜ、勇者召喚成功だ!ってなわけらしい。それ、俺達にとってはいい迷惑なんですけど。

 つーか、望から渡された小説まんまの展開じゃねーか。すげーな作者。まさか現実に自分の書いた話と同じようなことがおきるなんて夢にも思っていないだろうな。


「それで、俺達にその魔王ってのを倒せというわけですか?」


 俺が心の中で望に渡された本の作者を褒め称えていたら、コノがそんな質問をしていた。

 いかんいかん、ちゃんと話聞かなくちゃな。


「ああ、お願いできるだろうか」

「とは言われましても、俺達はただの一般人です。お役に立てるとは思えません」


 だよなー。だって魔王だろ?魔王っつったら無茶苦茶強いんだよな?そこへ何の変哲もない高校生を連れて来て、戦えなんていうのは無茶にも程がある。せめて格闘技やってるだとか武術を修めているだとかならまだしも、……いや、それでも無理だな。とにかく、こちとら正真正銘の一般人だ。魔王なんてものと戦えるわけがない。


「それについては恐らく問題はない。過去の文献にも召喚された勇者は一般人だったとあるが、あっという間に誰よりも強くなり、見事魔王を討ち果たしたと記録されている」


 いや、問題あるよ。ありすぎだよ。それってあれだろ?一般人でも魔王と戦えるだろうから行って来いってことだろ?何の力もない高校生を引っ張り出してきて、勇者だから大丈夫、きっと倒せるよ、とか無責任なことを言って魔王と戦わせるつもりなんだろ?勇者だから魔王を倒せるだなんて思考停止してんじゃねーよ。俺達の姿を見て「これなら魔王も楽勝だぜ!」とか思えるのなら、お前らの頭はもう手遅れだ。どう見たって俺達よりもそこにいる兵士の方が強そうだろうが。


 俺が心の中で文句を言っていると、王様の隣に控えていた身なりの良い小太りの男が、俺達の目の前に黒い石のような物を置き、それの説明を始めた。


「こちらは『鑑定石』という、使用対象の能力を確認できる魔道具になります。石に触れ、自身を対象に「鑑定」と念じてみてください」


 言われたとおり石に触れ、鑑定と念じてみると頭の中に情報が流れてきた。




 名前:ヤシロ・タカバネ

 種族:人族

 年齢:15

 レベル:5

 体力:415

 魔力:300

 筋力:19

 耐久:17

 精神:15

 抵抗:15

 敏捷:17

 器用:18

 幸運:15


 称号:異世界人、勇者


 スキル:言語理解、鑑定




 うぉっ、何だこれ。これはあれか?ゲームで言うステータスってやつか?

 正直そんなに強いようには見えないんだが、本当に魔王なんかと戦えるのだろうか。

 あ、称号に勇者ってあった。つーことはやっぱり魔王と戦わなくてはならんのだろうか。

 これさえなければ「俺、勇者なんかじゃねーし、魔王なんかと戦えるわけねーだろ」とか言えただろうに。


 そしてスキル欄にあった『言語理解』という文字を見てふと思った。

 あれ?そういえば俺、この世界の言葉わかるな。つーか、さっきコノも喋ってたよな?

 あまりにも当たり前に言葉が理解できていたため、そんなことにも今まで気づかなかった。

 意味不明なことの連続で頭が混乱していたとはいえ、こんなあからさまにおかしな状況に気づかないとか……。馬鹿じゃねーの、俺。


 まあ、過ぎたことはしょうがない。今は自分のステータスをちゃんと確認しよう。

 とは言っても、自分のステータスが強いのか弱いのかなんてわからないので、俺達は皆さっきの小太りの男に自分のステータスの数値を伝えた。

 どうやら他の三人も俺と大して変わらない数値らしい。そして俺達のステータスはこの世界でのレベル15の冒険者並みの数値だそうだ。うーん、強いといえば強いんだろうが、なんか微妙だな。


「あの、質問いいでしょうか」


 俺がステータスについて考えていると、そんな声が聞こえてきた。

 望だ。さすがに知らない場所で知らない人達が大勢いる部屋のためか、今は俺達と話す時の気安い感じではなく、大人しいバージョンのようだ。


「なんだろうか」

「あの、アタシ達は元の世界へ帰れますか?」


 ああ、確かにそれは重要だよな。あの小説でもそれは聞いてたもんな。

 あー、でも、あの小説って……。


「申し訳ないが、現時点ではできないとしか言えない」


 やっぱりか。あの小説でもできないって言われてたもんな。魔王が帰り方を知っているだとか、魔王を倒せば女神様が元の世界へ帰してくれるだとか、なにそのご都合主義っていうくらいの不確かな情報しかなかったもんなぁ。まあ、現実にはその不確かな情報すら提示してもらえないという、より絶望的な状況ではあるんだが……。

 つーか、何あの小説?何でここまで同じような展開になるんだよ。予言書か!


「しかし必ず、そなたらが魔王を倒すまでの間には必ず、元の世界へと帰る方法を見つけておくと約束しよう」


 なんかこの王様の中では俺達が魔王と戦うことが確定事項になっている気がするんですが俺の気のせいですかね?

 しかも今現在、不明だという俺達の帰還方法を見つけるとか言っちゃってるんだが、どうせ魔王なんてすぐに倒せるわけないし、時間はたっぷりあるからその間に帰る方法を探しといてやるよ、ってことだよな?

 そして帰る方法を質にとられたら、俺達は魔王を倒さざるをえないというわけだ。ついでに言うと、約束するとは言ってるが、俺達がもし魔王を倒せたとしても、帰る方法が見つかっているという保証はない。

 うわー、異世界人ろくでもねー。


 しかし、現状この王様の頼みを聞くしかなさそうだ。

 当然のことながら、この世界に俺達の知り合いがいるわけがないし、お金も持っていない。現時点で元の世界へ帰ることができないということは、しばらく(もしくはずっとだが)この世界で生活をしなくてはならないということだ。

 だが、知り合いもお金もない俺達がこの世界で生活していくのは、かなり難しいだろう。

 これさ、召喚された時点で俺達詰んでるよな?王様の頼みを聞かざるをえない状況になってるよな?

 どう考えても、俺達の生活を保障してもらうかわりに、魔王を倒さなくちゃならない状況になってるよな?

 やっぱり異世界人ろくでもねー。


 うわー、なんだよこれ。ゲームだとかなら気にしないんだろうけど、現実になると笑えねぇ。

 とにかく俺達が生きるためには、魔王を倒すしかないようだ。魔王に殺される可能性も高そうだけどな。マジで笑えねぇ。

 まあ、さすがに今すぐ倒しに行けとか無茶なことは言われないだろうし、しょうがないから建設的な話でもしようか。

 とりあえず俺は魔王の情報を確認するため、王様に向けて質問をする。


「ところでその魔王ってどのくらいの強さなんですか?」


 そう、まず相手の強さがわからなければ話にならない。

 どれだけ強いのかがわからないのに挑んだところで、こちらがやられるだけだ。俺はまだ死にたくはない。どうしても戦わなければならないというのならば、この情報は俺達が生き残るために必須の情報だ。

 まあ、わざわざ異世界から勇者なんてものを召喚しようと考えるくらいだからかなり強いんだろうけどな。


「正直なところ、よくわからんのだ。かなり強いということは確かなのだが」


 まさかのわかりません宣言。せめて大体の指標くらいは提示してもらえないものだろうか。こっちは命かかってんだから、ちゃんと安全マージンをとってから挑みたいんだよ。


「なにか目安になるものとかはないですか?レベルとか」

「残念だがレベルもわからない。ただ、今までの戦闘経験から、魔王のレベルは80くらいではないかと推測している」

「因みにこの国の最高戦力は?」

「騎士団長のレベル55であるな」


 うわー、レベルの差がかなり開いてる。

 しかし、これくらいのレベル差なら物量で押せるような気もするがどうなんだ?


「そのくらいのレベル差なら軍で対処できないのですか?」

「レベルは高くなれば高くなるほど能力値の上昇量が多くてな。ここまで高レベルになってしまうと、レベル10の差でもかなりの実力差がついてしまうのだよ。それにレベル55というのはあくまでも最高戦力。騎士団の平均レベルは35程度しかないのだ」


 なるほど、レベルが高いほうが能力値の上昇量が多いのか。推定レベル80ということは、念の為もう少し上のレベルだと仮定して、安全マージンをとるとレベル100以上は欲しいよな。

 騎士団長ですらレベル55しかないのに、レベルを100まで上げるのにどれだけの時間がかかるんだろうか。

 なんか元の世界へ帰れる気がしないぞ……。

 まあ、そんなことを今考えていてもしょうがないか。とりあえず次の質問だ。


「魔王はどこにいるのでしょうか?」

「すまんがそれもわからん」


 おいおい、もしかして魔王に関することは全部俺達に丸投げか?

 この世界の人間がわからないのに、どうやって他の世界から来た俺達に探せってんだよ。


「奴は神出鬼没でな。何処からかやって来て、何処かへと去ってしまうのだ」

「ということは、何度かこの国へとやって来てるんですね?」

「ああ、そして我が国の内政を担う者が何人も殺されているのだ。このまま殺され続ければ、我が国は内部から崩壊してしまう」


 すでに被害も出ているのか。まあ、勇者を召喚しようなんて思うくらいだから当然か。

 しかし、内部から崩壊か。魔王は意外に知性派なのか?

 魔王なんて力に物を言わせて攻めてくるか、玉座にふんぞり返っているイメージしかなかったよ。


「ところでその魔王はどんな奴なんですか?あ、あと名前とかはわからないのでしょうか」

「そうだな……魔王の見た目は18歳くらいの女性と思われる」


 ……えぇ?


「身長は160cm程度。髪色は銀で、瞳の色は紅。顔には常に仮面を被っており、素顔を見たものはいないという」


 ……はぁ?


「名前についてはわからないのだが、その見た目から『仮面の魔王』と私達は呼んでいる」


 ……。

 ……。

 ……なんか俺の思ってた魔王のイメージと全然違うんですけど。

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