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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
2章 新しい生活
28/116

2-17.きぃちゃんからは逃げられない…!!!

 ……。

 え?どういうこと?

 あまりにも唐突すぎる質問に一瞬固まってしまった。

 質問の意図がよくわからないけど、とりあえずは平静を装って答えを返す。


「一応名前くらいは聞いたことがあるけど」

「ふむ、そうか」


 うわぁ、なに?もしかして私怪しまれてるの?てか、わざわざ人払いをしてまでそんなことを聞くということは怪しまれてるんだよね?仮面の断罪者だと思われてる?いや、でも変身してると見た目が全然違うしな……もしかして仮面の断罪者とつながりがあるとか思われてるのかな?

 私なにか怪しい行動とったっけ?


「実は私はね、彼女に助けてもらったのだよ」

「えっ?」


 あれ?どういうこと?

 私、貴族を殺した記憶ならたくさんあるけど、貴族を助けた記憶なんて全くないんだけど。あ、今回以外でね。


「とは言っても、直接助けてもらったわけではなく、間接的になのだがね」


 話を聞くと、アンリさんは半年くらい前に王都を追いやられたそうな。ある貴族たちに、王都での仕事を外され、地方へと行かなくてはならない仕事を押し付けられたのだとか。

 王都での付き合いもあるため、家族を王都へ置いていかなければならず、泣く泣く一人で地方へと向かったそうだ。なにより娘に会えないことが一番つらかったと力説していた。ブレないなこのおっさん……。


 そしてアンリさんを王都から追いやったという貴族たちが、ダーウニック公爵家を筆頭とするクズ貴族どもだった。ってお前かよ。

 奴らは税金の横領、物資の横流し、文書の偽造、その他にも様々な悪事に手を出していたらしいのだ。まあ、今になって確定したっていう話らしいけどね。

 当時はまだ怪しいというくらいの段階で、自分に繋がる証拠を残すことはしなかったようなんだけど、悪事に関わっているであろう疑わしい存在ではあったという。

 しかし、いくら疑わしいとはいっても、相手は公爵家。それだけで糾弾するわけにはいかない。それなのに、アンリさんは我慢ができず糾弾してしまったのだとか。

 確たる証拠もないのに公爵家を糾弾するとか、蛮勇にも程があるよアンリさん……。

 アンリさん曰く「確信があった」らしいんだけど、さすがにそれはないわ―。


 当然、証拠もないのだから罪に問うことはできなかった。むしろ糾弾された貴族側は公爵家を筆頭に、無実の罪を着せられたと逆にアンリさんを糾弾し、王都から追い出したというわけだ。

 ……それ、半分くらいは自業自得じゃない?いや、クズ貴族の味方をするわけじゃないんだけどさ、もうちょっとやりようがあったんじゃないかと思うんだけど。


 しかし、つい先日にダーウニック公爵が仮面の断罪者に殺害されたという話がアンリさんの耳に入った。

 そしてそれを皮切りに、公爵家及び取り巻き貴族たちの犯罪の証拠がそれぞれの家からわさわさと見つかり、次々と処分を受けているということらしい。

 そうなると、王都の方でも人手が足りなくなり、アンリさんも呼び戻されましたとさ。めでたしめでたし。


「これでやっと、やっと娘に会える!!」


 まずそこですか……。いや、アンリさんらしいけどさ。


「だから私は仮面の断罪者には感謝しているんだよ」


 まあ確かに間接的に仮面の断罪者に助けられたという話はわかった。

 話はわかったんだけど、なんでこんな話を私にしたんだろう。やっぱり関係者だと疑われているとか?


「実は私はな、ユノ、お前が仮面の断罪者の関係者だと疑っておった」


 ……マジか。

 そうかなーとは薄々考えてはいたけどさ、さすがに本気で疑われているとは思わなかった。

 しかしなんで疑われていたんだ?なにか怪しい行動でもしたっけ?全然心当たりがないんだけど。まあ「疑っておった」っていうくらいだから疑いは晴れたんだろうけど……。


「しかし私は確信した。ユノ、お前が仮面の断罪者だな?」


 え?


 ……。

 ……。

 ……。


 え?なんで?


「ふむ、どうしてわかったんだと言いたげだな。ならば最初から説明しよう」


 あまりの出来事に頭がうまく働かない。てか、なにいってんのこの人。なんでわかったのこの人。

 いや、クールになれ、クールになるんだ私。

 ……。

 ……。

 ……。

 よし、少し冷静になれた。とりあえず説明を聞いてみよう。


「まず最初はな、疑問とも言えないような、言わばただの勘だ」

「は?勘?」

「仮面の断罪者は国でも何度か捕縛しようと試みているが、大勢の兵士を相手にしても殺さずに全員を無力化させるなど、明らかに手加減をした上で逃げ切っておる」


 まあ、兵士たちは命令されて私を捕まえに来ただけであって、殺してもいい程の犯罪を犯しているわけではない。ていうか、むしろ逆に犯罪や外敵等から人々を守るのが仕事だ。私のことも殺人犯だから捕まえようとしただけだろうし。たくさん害虫(貴族)を殺しはしたけど、そんな人たちまで殺そうとするほど私は腐っているつもりはない。


 ついでに言うと、転移魔法で簡単に逃げ切ることは出来るんだけど、毎回毎回捕まえに来られても面倒だからいくらやっても無駄だということをわからせるために、兵士たちを完全に無力化させてから悠々と逃げ切ったことも何度かある。

 そして、やっていることが害虫駆除(クズ貴族の排除)なせいか、殺人犯で指名手配犯にも関わらず、私に好意的な態度の兵士たちも多いようです。余程クズどもにはうっぷんが溜まっていたんだろうか。おかげで先日なんてとてもスムーズに誘拐された女の子たちを確保してもらうことができて助かった。


「そしてそんなことが出来るということは、仮面の断罪者は国の兵士が束になってかかっても敵わないほどの圧倒的強者だということだ。そしてユノ、お前も飛竜(ワイバーン)の変異種をたった一人で殺すことのできる強者。国の兵士を相手にしても軽くあしらうことが出来るのだろうと、私は思ってしまった。そう、ただそれだけのことなんだよ」


 え?もしかして異常に強いという共通点だけでそう思ったってこと?さすがにそれは暴論じゃない?


「無論、私もそれはあまりにも突飛な話だということは理解している。強いというだけで疑っていたらどれだけの人を疑わなければならないのかわからないしな。しかし、ユノ、お前の強さをこの目で見て、飛竜を瞬く間に倒してしまったその強さを見て、仮面の断罪者に通じる圧倒的な強さをお前にも感じてしまったのだ」


 えぇー、それ説明になってなくない?確かに、まさに勘としか言いようがない。

 え?私ただの勘で正体バレたの?理不尽すぎる。


「とは言っても、仮面の断罪者とユノとでは容姿が明らかに違う。ならばユノは関係者、恐らく仮面の断罪者の妹なのではないのかと推測した。そして一度そう思ってしまうと確認しなくては気がすまないのが私の悪い癖でね。先程の話を聞いてもらったんだ」


 あまりにも推察が暴論すぎて理解したくもない……。

 てか、その悪い癖のせいで王都を追われたのに、何も反省していないのかこのおっさんは。

 しかし、なんで妹だと思われていたのが私が本人だという話になったの?


「ユノ、お前な、面白いほど気持ちが表情に出てるぞ」


 ……。

 は?


「考えていることが全部顔に書いてあるんだ」


 え?マジ?


『本当ですよ。ナハブは面白いほど表情に出ます』


 え?きぃちゃんまでそんなこと言っちゃうの?

 てか、知ってたんなら教えてよ。


『そんなところがまた可愛らしいのです』


 えー……。


「お前の顔がな、ダーウニック公爵の名前が出た時に、会ったことがあるという表情をしていたんだ。ああ、あいつか、ってな。それで思った。普通、ただの冒険者が公爵なんて身分の者に会えるわけがない。仮に会っていたとしても、ユノほどの容姿が公爵の目に止まらないわけがない。ならば権力、財力を使い自分のもとへと留めておくはずだ。最近では違法奴隷まで扱っていたようだしな」


 ああ、たしかにそれ私が潰しました。まあ、目に止まったのは公爵じゃなくて息子の方ですけどね。


「会ったことがあるはずなのに、今現在無事でいられる存在、それは誰かと考えると、一人しか思い浮かばない。そう、仮面の断罪者だ。事実、そうユノに確認した時にはなんでわかったんだとその表情が言っていた」


 ……ショックだ。

 私そんなに顔に出てる?

 正体がバレたということよりも、考えていることが顔に出てると言われたことのほうがショックなんですけど……。


 いや、だってさ、私アンリさんの話を聞いている時、平静を装って聞いていたんですよ。

 めっちゃポーカーフェイスで話を聞いていると思っていたんですよ。

 なのに顔に出てるとか……。


 ポーカーフェイスで話を聞いていると思っていた事実が恥ずかしい。恥ずかしすぎる。

 なに表情で語っちゃってるのよ私。

 てか、きぃちゃんもきぃちゃんだよ。よく私の考えていることがわかるなと思っていたらそういうことですか。


「容姿は違うが、お前なら変装するなり、そう見せかけるなり、いくらでもできそうだしな。以上が、私がユノが仮面の断罪者だと思った理由だ。まあ、理由にもなっていないがな」

「本当だよ。さすがに勘で正体がバレるとか理不尽すぎだよ」

「ということはやはりそういうことでいいんだな?」

「うん、そうだよ。確かに私は仮面の断罪者と呼ばれている」

「ずいぶんとあっさり認めるんだな」

「まあ、別にどうしても隠したいというわけでもないしね。正体が知られたからといって、私のことをどうにかできる人がいるわけでもないし。それよりもアンリさん、私のことが怖くない?」


 正体が知られてしまったのはもうしょうがないし、知られたからといって特に困ることもない。まあ、多少面倒になるかなとは思うけど。とは言え、無謀にもダーウニック公爵家と敵対するほどの正義感がアンリさんにあるのならば、私の正体を知ったとしても悪いようにはしないだろうという考えもある。

 それよりも、仮面の断罪者を目の前にしてアンリさんには怯えた様子もない。怖くないのだろうか?


「何故怖がる必要があるのかね?」

「だって私は仮面の断罪者と言われているんだよ?たくさんの貴族を殺してきた仮面の断罪者と」


 そんな存在と貴族であるアンリさんは対面している。

 殺人犯と対面すれば、たとえ相手に殺意を感じなくとも恐怖してしまうものだと思うんだけど。だって、相手は人を殺し慣れているんだ。なにをきっかけに自分が殺されてしまうのかなんてわかったもんじゃない。しかも相手が自分を歯牙にもかけないほどの強者であるのならばなおさらだ。


「確かに仮面の断罪者はたくさんの貴族を殺してきたのだろう。しかし、それはどいつもこいつも死んだほうが世のためだと言えるような奴等ばかりだ。別に無差別に殺しているわけではないのだろう?」

「そりゃあね。私は害虫を駆除していただけだよ」

「なるほど、害虫駆除か。流石に私も害虫なんぞに成り下がった覚えはない。そもそも娘に顔向けできないようなことなどしていないしな。ならば仮面の断罪者が私を殺す理由はないだろう?」


 無謀なだけでなく、なかなか肝の座ったおっさんだ。

 確かに私はアンリさんを殺すつもりはない。それでも恐怖してしまうのが人間だとは思うんだけど、アンリさんは平気なようだ。


「まあ、怖くないならそれでいいけどね。いちいち怖がれるのも面倒だし」

「仮面の断罪者のおかげでこの国の悪人は確実に減っているんだ。感謝こそすれ怖がるなんてことはお門違いもいいところだ。それに、仮面の断罪者のおかげで私はまた愛する娘と一緒に生活をすることができる。感謝の気持ちしかないよ」

「そうですか……」


 やっぱり娘がこの人の中心なんですね。悪人が減っていることへの感謝よりも、娘と一緒の生活への感謝のほうが明らかに熱が入っていた。


「そうだ、ユノ、お前の正体については誰かに言いふらすつもりはないから安心してくれ」

「あー、そうしてくれると面倒が少なくて助かるよ」

「二度も助けられているんだ、恩を仇で返すようなことはしないさ。まあ、その恩がなかなか返せなさそうで心苦しくはあるのだが」

「別にそんなことは気にしなくていいんだけどね。アンリさんみたいな貴族がいてくれるだけでこっちは助かってるから。さすがにこの国の貴族を全部駆除しなくちゃならないなんて事態にならなくてよかったよ」

「はは……それは私も思うよ……」


 それから飛竜の解体が終わるまで私とアンリさんは雑談をかわした。

 まあ、案の定というかなんというか、ほぼアンリさんの娘さんの話だったけどね。いや、私的には全然オッケーですよ。楽しいし。いつか娘さんにも会ってみたいな。


 そしてやっとのことで全ての片付けが終わり、護衛たちの隊列を整え、王都を目指して出発する。

 それほど離れているわけではないし、今日中には辿り着くだろう。


 ぶっちゃけた話、転移魔法を使えば一瞬で王都まで行くことはできるんだけど、さすがにここで使う気はない。絶対に面倒なことになるからね。

 ただでさえ他の魔法と比べて難易度の高い時空魔法の中で、転移魔法は特に難しい部類に入る。

 きぃちゃんから、まともに転移魔法を使える人はこの星にはいないという話を聞いた。

 あらかじめ転移先に魔法陣やら魔道具やらを用いてマーキングをしておき、それを目印にしてなんとか転移ができるという人が多少いる程度らしい。しかも運べるのは自分を含めてせいぜい2~3人、さらには魔法の発動にかなりの時間がかかるというおまけ付きだったりする。

 そんなところへ、事前準備なし、一瞬での魔法発動、大量輸送のできる人間、それもどう見ても子供、が現れたら、どう考えたって面倒なことにしかならないでしょ。


 まあ、馬車で王都まで行くのも面倒といえば面倒なんだけど、転移魔法が使えると周りに知られるよりは面倒が少ないだろうしね。

 それに、たまには景色を眺めながら移動するなんてのも乙なものだ。普段は転移で出かけて転移で戻るなんていう情緒もへったくれもない移動方法なわけなので。

 そういえばせっかく異世界ともいえるべきところへ来たのだから、風景を楽しむなんてのもありだな。気が向いたら景色の良い所なんかを探してみようか。


 あ、そう言えば全然話は変わるんだけどさ、ちょっとアンリさんに能力確認の魔法を使ってみたんですよ。それで、スキル欄を見たら《直感》というスキルがあったんですね。

 もしかして、私の正体がバレたのってこれのせいですか?勘にせよ直感にせよ理不尽だと思うことには変わりないんだけどさ……。


 それはさておき、王都に戻ったらどうしようかな。

 多分部屋へ戻ったらきぃちゃんのお説教が待ってるだろうしなぁ。気配察知を怠ったことを忘れてくれているなんて都合のいいことがあるはずないしなぁ。

 いや、逆にさっさと部屋へ戻って寝てしまうというのはどうだろうか。

 そして眠いからとお説教を後回しにし、時間を置くことでお説教を回避するなんてことは……無理だよなぁ。

 どうあがいてもきぃちゃんのお説教を回避できるビジョンが見つからない……。

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