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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
2章 新しい生活
27/116

2-16.馬鹿な子ほど可愛い(キリッ え?お前が言うな?

「いやいや、済まんな。つい熱くなってしまった。どうも娘のことになると周りが見えなくなるらしい」

「いえ、大丈夫です」


 あれから伯爵さんからはいかに娘が可愛いのかという話を切々と語られた。

 本当ならばうんざりするところなんだろうけど、伯爵さんの話し方が上手いのか、意外とその話が面白くて聞き入ってしまった。


 え?きぃちゃんの話の方はどうしたのかって?そんなの右から左へ聞き流しましたよ。

 いや、だってさ、きぃちゃんって私の唯一の身内とも言えるべき存在なんだよ。そんなきぃちゃんから、どれだけ私が可愛いのかなんて話をされても、そんなの聞けるわけがないじゃないですか。てか、きぃちゃんからでなく他人からだったとしても、そんな話聞きたくないよ。延々と自分が可愛いという話を聞き続けるとか……恥ずかしすぎる。どんな羞恥プレイですかそれ。


 だから私はきぃちゃんの話を聞きたくないがために伯爵さんの方の話に集中していたら、いつの間にか聞き入ってしまったというわけなのです。

 いや、たしかに可愛いよ伯爵さんの娘さんは。庭で犬と戯れていたら夢中になりすぎて、持っていたぬいぐるみをどこかに置き忘れて涙目になっていた話なんかは、私も可愛すぎて悶えそうになってしまった。これがあれか?馬鹿な子ほど可愛いというやつなのだろうか。

 あ、ちなみにぬいぐるみはちゃんと侍女さんが確保していたらしいです。それを知った時のはしゃぎようがまた可愛かったと伯爵さんがとても嬉しそうに語っていました。


 まあそんな話を聞いてしまったせいか、私の伯爵さんに対する警戒心はなくなっていた。

 話を聞いていた感じでは他のクズ貴族どもとは違って、真っ当な神経をしているようだしね。

 ただ、この伯爵さんをまともな貴族かと言われれば首を傾げたくなるけど。重度の親馬鹿だし。娘限定で。


 そう、娘限定なんですよ。

 実はこの伯爵さん、子供が二人いるようで、娘さんの上に息子さんがいるらしいのです。

 息子さんにもちゃんと人並みには愛情を注いであげているようなのですが、娘さんへの愛情との差は歴然。せめて娘さんへの愛情の5分の1でも息子さんに注いであげてくださいよ。愛情はちゃんともらっているはずなのに、相対的に見て不憫に思えてしまう。よくグレなかったよねその息子さん。

 ていうか、息子さんて跡取りですよね?次期伯爵様ですよね?普通こっちの方を大切に育てませんか?やっぱり息子さんが不憫だ。


「ところでお嬢さんはこれからどうするのかな?あんなことのあった後だし、王都に辿り着くまでの間だけでも護衛として雇わせてもらえると私としては非常に助かるのだが」


 息子さんへの待遇を勝手に哀れんでいると、伯爵さんが護衛たちの様子を横目で確認しがら私に尋ねる。

 護衛たちは黙々と盗賊たちの遺体を処理しているが、顔にはさすがに疲れが見える。

 まあ、いくら優秀な護衛だとはいっても体力は有限だしね。雑魚とはいえ、大勢の盗賊と戦ったんだからそりゃ疲れただろう。それに、飛竜(ワイバーン)の変異種に襲われるなんていうアクシデントもあったわけだし、精神的にも疲労しているものと思われる。

 そんな状態でこの先の道中を進むのはさすがに不安があるんでしょうね。


 私としてもこの伯爵さんは嫌いじゃないし、助けることに抵抗はないので快諾する。

 とりあえずこの伯爵さんは明らかにクズ貴族たちと考え方が違うようなので、私の駆除対象になる可能性は低いだろう。まあ、さすがに完全に信用まではしていないけど、今のところは信じてみても問題ないと思う。

 というか、あんな話を聞いてしまったせいだとは思うけど、私の中で娘さんの評価がうなぎのぼりなんだよね。

 会ったこともないのに好感度マックスとかいっちゃう勢いですよ。そんな可愛い娘さんのお父さんなんだから、助けてあげたいと思ってしまってもしょうがないと思うんだ。


「ありがとう。それではお嬢さん、王都までの短い間だがよろしく頼むよ」

「はい、わかりました。ところでいまさらなんですが、そのお嬢さんってのはやめません?」


 なんかお嬢さんとか言われるのはものっすごく違和感があるんだよね。

 今までは話が終わったらさよならするつもりだったから我慢していたけど、この後も一緒に行動するのならばさすがに訂正して欲しい。


「ふむ、それではなんと呼んだら良いだろうか」

「名前でお願いします。ユノと呼んでください」

「ああ、わかった、ユノ。それでは私のこともアンリと呼んでくれ」

「え?」


 伯爵さんからの衝撃の発言で私は固まってしまった。

 やっぱりこの人貴族っぽくないよ。


「ん?どうしたのかね?」

「いや、貴族って庶民に名前を呼ばれるのを嫌がるんじゃないんですか?」

「何故かね?」

「私の知る貴族はそんなのばっかだったんで」


 高貴なる私の名前を下賤な貴様が口にするな、というようなことを何度か聞いたことがある。程度の差こそあれ、貴族なんていう身分の高い人はみんなそう思っているものだと思ったんだけど違うのだろうか。あれ?これもクズ貴族だけの特徴だったりするのかな?クズじゃない貴族のサンプルが少なすぎて(というより現状で一人しかいない)なにが当たり前なのかそうじゃないのかがわからない。


「私はそんなくだらないことで文句なんて言わないよ。遠慮無くアンリと呼んでくれ」

「わかりました、アンリさん」

「それと言葉も普通に話してくれて構わない。私も堅苦しいのはあまり好きじゃないのでね」

「あー、うん、わかったよ」


 つくづく私の知る貴族から離れてる人だよなぁ。

 まあ、私としてもそのほうが気楽でいいんだけどさ。


「ところでユノは何度か貴族と会ったことがあるのかな?」

「え?なんで?」

「貴族のことを話す時の顔がものすごく嫌そうだったんでな。余程嫌な思いをしているのかと思ってね」


 あー、まじかー。顔に出ちゃってたか。まあ確かに貴族にいい思い出なんてなかったもんな―。今は面白そうな人に出会えたけどさ。


「まあ、それなりにとだけ答えておく」

「無意識になのだろうが、相手の貴族本人を前にしてあまりああいう顔はしないほうがいいぞ。面倒なことになるからな。気持ちはわかるが」

「一応心には留めておくよ。まあ面倒になったらなったで対処はできるけどね。てか、アンリさんも貴族なのに気持ちわかっちゃうんだ」

「むしろ貴族だからこそだな。しょっちゅう貴族を相手にしているからこそ、あいつらが面倒な生き物だということをよく知っている」


 ああ、なるほど。そりゃ自分が貴族なら貴族を相手にすることも多いよね。アンリさんも私の知る貴族とはかなり違った考え方をしているようなので、あいつらを面倒に思うことも多いのだろう。


「話は変わるがユノ、あの飛竜はどうする?」

「ん?飛竜?私は別にいらないかな。欲しければあげるよ」

「いいのか?あれだけの個体ならばかなりの金額で売れるぞ?」

「別にお金には困ってないしね。っていうか使い切れないほど持ってるから」


 そもそも私の収納魔法には、火竜だとか地竜だとかの飛竜なんかよりも上位の竜の死体がまだたくさん入っている。まあ、私がレベル上げを頑張った成果ですよ。

 そしてたくさん入ってはいるのだが、さすがに竜の素材なんてものを巷にポンポン放出することはできない。騒ぎになる可能性が高いからね。てか、ほぼ確実に騒ぎになる。

 きぃちゃんが言うには、この国の人間が竜を倒そうなんて思ったら、軍を壊滅させる覚悟で挑まなくちゃならないらしい。それでも勝率はさほど高くないというのだから、私が竜の素材を持っているなんてことが知られたら、どうなるかなんてことは言うまでもないよね。


 そんなわけで、幸いお金には困っていないのでとりあえず収納魔法で保管しているのです。

 そこへ、いくら変異種だからといって飛竜なんかを収納したところで、死蔵されることは目に見えている。

 それよりも、有効活用してくれそうな人がいるのならば、その人に譲ってしまった方がもったいなくないじゃん?


 てか、正直なところ、収納魔法にあれこれ何でも入れているとさ、何を入れたのかを忘れて放置しちゃいそうで怖いんだよね。いや、ちゃんと収納してあるもののリストは確認できるんだから、完全に忘れるなんてことはないんだけどさ、常に把握しているというわけでもないし、私ってそういうのこまめに確認するような性格でもないし……。それに、時間は止まっているんだから中に入れたものが腐るとかいう心配はないんだけどさ、なんか気持ち的にね。すでに数えきれないほどの死体が入っている時点でいまさらなんだけどさ。


「本当にいいのか?もらってしまっても」

「うん、いいよ」

「それは助かる。正直今は何かと入用でね。エリック!いつまで呆けている。飛竜解体の指揮を取れ」

「は、はい!了解しました!」


 エリックさんは呆けていた頭をアンリさんの言葉で現実に戻し、あわてて飛竜の下へと向かっていった。

 というか、まだ放心していたんだ……。そんなに私のレベルがショックだったのか。


「さて、周りに人がいなくなったところで聞いておきたいことがあるのだが、いいかな?」


 アンリさんが真面目な顔をして言葉を口にする。

 わざわざ人払いをするということは余程聞かれたくない話なのか?

 とりあえず聞いてみないことにはわからないのでうなずいておく。

 いったいどんなことを聞かれるのやら。


「ユノは仮面の断罪者という者の存在を知っているか?」


 ……。

 ……。

 ……。


「……は?」

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