2-9.……え?リハビリ?これで?
こんにちは、ユノです。
ただいま絶賛戦闘中です。
一応、レベル上げ中……なのかな?相手弱いけど。
私の手には魔力の塊を剣の形へと作り変えた、魔力剣が一本。
そして一切の魔法が使用禁止というハンデ戦の最中です。
え?魔力剣は魔法じゃないのかって?
実は違うのですよ。
簡単に言うと、魔法というものは魔力を媒介として術式を構築し、様々な現象を操作するわけなのですが、魔力剣の場合は魔力そのものを操作し、使用するのです。
魔力を扱うという点では同じなのですが、その後の過程が全く違うのですよ。
ちなみに、どんなプロセスを辿るのかというとこんな感じ。
魔力を操作→術式の構築→魔力を注ぐ→術式の完成→魔法の発動
魔力を操作→魔力を剣の形に固定→魔力剣の完成
簡単に説明するとこんなところでしょうか。
厳密に言うともっとたくさんのプロセスがあるわけなのですが、面倒なので説明はパス。
プロセスを見るとさ、魔力剣のほうが工程が少なくて簡単そうに見えるじゃない?
でもね、魔力剣を作るための魔力操作って、ものすっごく難易度が高いんだよ。
魔法を使う時の魔力操作はね、実はそれほど難しくないんだよね。
術式を構築するときにね、魔力を操作するための術式を一緒に組み込むから。
だからね、最低限の術式を構築するための魔力が操作できれば一応魔法は使えるわけ。
魔法を使うときに難しいのは術式の構築の方だから。
でも、魔力剣を作るときは術式で補助することが出来ないから、全部自分の力。
しかも魔力なんて形のないものを操って固めてってやるわけで、ものすごく大変なのですよ。
その上、作ったら終わりなんかじゃありませんからね。
魔法みたいに術式を使用して現象を操作しているなんていうわけじゃなく、魔力そのものを操作しているわけなので、使用している間はずっと魔力を操作し続けなければならないのです。
あまりにも難易度が高すぎるので、こんなことをしているのはきっと私だけでしょう。
じゃあ、なぜ魔力剣なんてものを使うのか?
普通に考えたら、魔法で武器を作り出した方が楽ですよね。作ったら後は使うだけなので。
でも、魔法で作り出した武器って使い勝手があまり良くないんですよ。
作り出した時点で形や切れ味が固定されてしまいますし、使用時間もあまり長くはないですし。
魔法は、魔力を媒介に術式でもって現象を操作するわけで、現象を操作している間はずっと魔力を消費してしまうのですよ。術式が魔力を使用し現象を操作するわけですので。
そのため、術式に込められた魔力が全て消費されてしまうと、発動した魔法は消えてしまうということになるわけです。
その点、魔力剣ならば魔力操作をし続ければ時間を気にせず使用し続けることは可能ですし、形が気に入らなければ魔力操作で変形させればいいだけですし、切れ味が悪ければ魔力を注ぐことで切れ味を良くすることも可能なわけですし、かゆいところに手が届くわけなのですよ。
魔力操作の技術さえ一定以上のレベルに達していれば、使い勝手の良い武器なわけです。
戦闘中も魔力を操作して武器を維持し続けなくてはならないため、本当に魔力操作技術に長けていないと使い物にすらならないという高いハードルはありますが。
今の説明を聞いて、別に魔法で作った武器で良くね?と思われる方がほとんどであろうことは理解しています。
魔法で作った武器も、使用時間を長くしたければ魔力をたくさん注いで作ればいいわけですし、形や切れ味が気に入らなければ、気に入るように作りなおせばいいだけですし。
幸い、魔力は使い切れないほどあるわけなので。
労力を考えても、それが正解なんだと思います。
でもね、なんかそれじゃ嫌なんだよ。
ゲームでさ、最強の武器ってあるじゃん?
あれってさ、大抵がラスボスよりも強い敵が持っていたりするじゃん?
つまりさ、最強の武器を手に入れた時には、最強の武器がなくてもラスボスを倒せる力があるわけじゃん?
ラスボスを倒すという目的からするとさ、明らかに労力に見合っていない武器なわけですよね?
でも、最強の武器なんてものは欲しいに決まってるじゃないですか。
労力に見合っていなくても、手に入れて使いたいに決まってるじゃないですか。
効率がどうとかそういう問題じゃないんですよ。
これさえあればどんな敵とでも戦える、だとか、この一本で何でもできる、だとか、装備することによって秘められた力が解放される、だとか、強力な能力が封印されている、だとか、ロマンじゃないですか。
どんな大変な思いをしても欲しいに決まっているじゃないですか。最強の武器にはそんなロマンが詰まっているのですから。そりゃ殺してでもうばいとりますよ。
そして、そんな最強の武器が今私の手にあるわけです。
そう、それは私の相棒、きぃちゃん。
え?魔力剣の話なんじゃないのかって?
いや、だってさ、最強の武器って言ったらどう考えてもきぃちゃんじゃん?
普段は私の指にはまっているから邪魔にならないでしょ、必要になったら様々な武器へと変形できるので多彩な攻撃が可能でしょ、装備することで私の能力を底上げしてくれるでしょ、あげく、自分で思考し、魔法まで使いこなすことが出来る。そして当然の事ながら、武器としての性能もこの上なく優秀だ。
うん、まごうかたなくきぃちゃんが最強の武器だよね。
しかし、そんな最強の武器なきぃちゃんなわけだけど、さすがにレベル上げには使えない。
きぃちゃんが強すぎて、いくら戦ってもまともな経験にならないんだもん。
日本にいた時にフラスの魔術師とたくさん戦ったけど、レベルが23までしか上がっていなかったのはきぃちゃんが強すぎたのが原因なわけだし。てか、それでも私をレベル23まで上げてくれたフラスの魔術師はどれだけ強かったのかと……。多分レベル100は超えてたよね。今の私ときぃちゃん無しで戦ってくれないかなぁ。ちょうどいいレベル上げになりそうな気がするんだよなぁ……。
日本にいた時はフラスの魔術師が来るのを迷惑がっていたけど、今になってこんなにも恋しくなるなんて思ってもみなかったよ。とは言っても、きぃちゃんを奪いに来られるのはそれはそれで困るんですけどね。あいつら人の都合なんてお構いなしに襲ってくるし。
そんなわけで、レベル上げをするためには使いたくても使えないきぃちゃんの代替品が魔力剣ってわけなのですよ。
確かに魔法で作った武器の方が魔力剣よりも簡単に実現できるという事実はありますが、すでに魔力操作の技術を高め、魔力剣を使用することが出来る私からすれば、魔力剣の方が使い勝手がいいんですよね。
やはり時間を気にしないで使えるというのは大きいのですよ。
まあそれ以前に、より高性能な武器を求めてしまうのはゲーム好きとしてはしょうがないのです。
コストや労力を度外視すれば、明らかに魔法で作った武器よりも、魔力剣の方が高機能、高性能なわけですし。
……あれ?現状報告をしようとしたら、魔力剣の説明になってた。
まあとにかく、私は今、魔力剣を片手に持ち、魔法を一切使わず、魔物とのエンドレスバトルを繰り広げているわけです。
場所は王都より少し離れたところなので魔物自体はそれほど強くはないのですが、次から次へと私へ襲い掛かってくるため、切っても切っても終わらない。
どうやっているのかは知らないけれど、きぃちゃんが周辺の魔物を呼び寄せているらしいです。何でもできるなきぃちゃん。
で、なんでこんなことをしているのかというと、私の運動不足を解消するためらしいです。
ついこの間まで引きこもっていたのだから、リハビリがてらに体を動かしなさい、ときぃちゃんに言われました。リハビリで魔物とのエンドレスバトルですか。さすがきぃちゃんスパルタですね。個人的にはこれをリハビリとは認めたくないのですが……。
そして魔物が弱いという所に優しさを感じます。……もっと私に優しくしてくれてもいいんだよ?きぃちゃん。
魔法禁止な理由は、魔法を使うとろくに体を動かさないからとのこと。まあ確かに、魔法を使うのなら動かないでも敵を倒せちゃいますしね。
ついでに言うと、戦いの中で魔力剣を維持し続けること自体が魔力操作の訓練になり、ひいては魔法を扱う技術の向上にもなるため、一石二鳥とのこと。
魔法を使用するための魔力操作技術は最低限でもいいと説明はしましたが、高い技術が必要ないというわけではないのです。魔力操作の技術を高めれば、それだけ術式を構築するための自由度が増しますし、魔法を自在に操ることにもつながりますし。
つまり、より複雑な術式を構築することができるようになるのは当然として、逆に術式を簡略化したりできるようになるためには、それ相応の魔力操作技術を必要とするわけです。
そして、ある程度の魔力操作技術を身に着けていると、発動した魔法に干渉するなんてことも可能となります。
簡単に言うと、魔法の火の玉を相手に向けて放った後に、自分の魔法の魔力及びその周辺の魔力に干渉することにより、火の玉の軌道を修正するなんてことが可能になるわけです。これをさらに発展させることによって、相手の放った魔法の魔力に干渉して、魔力を霧散させたり、無理矢理軌道をそらすなんてことも出来ないことはないのです。まあ、魔法を放った相手よりも遥かに高い魔力操作技術が必要なため、実践的ではありませんけどね。そんなことをするなら普通に魔法で障壁を張って防いだほうが安全ですしお手軽です。
……あれ?現状報告をしていたら、魔力操作の説明になってた。
きっと私、疲れてるんだよ……。多分、現実逃避とかしたいんだよ……。なにか考えていないとやってられないんだよ……。
だって、ずっと魔物と戦いっぱなしなんだよ。休憩なんてとらせてくれないんだよ。かれこれ1時間くらいは戦い続けているんだよ。てか、よく魔物が尽きないよな。もう百体以上は余裕で倒してるよね?どんだけ周辺に魔物いたの?いやそれよりも、きぃちゃんの言う周辺とはいったい何十キロ先のことまでを言うんだろう……。
そろそろ本気でこのエンドレスバトルから抜け出したいです……。




