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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
2章 新しい生活
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2-8.死ぬがよい

 さて、私は今、奴隷商人の館の応接室のような部屋にいる。

 豚同士が契約を交わしていたあの部屋だ。

 今この部屋の中にいるのは、私、ワイルブとかいう貴族、その親であるダーウニック公爵家当主、奴隷商人、館の中にいた従業員と思しき下っ端が23人の、計27人だ。さすがに広い部屋だとはいえ、この人数が集まっていると少し狭く感じる。

 てか、下っ端の人数多いな。これだけの人数が雇えるということは、余程儲けているのだろう。何と言っても、商品の仕入れは人さらいという人件費のみなので、売れば売るほど利益が出るのだろうし。


 ちなみに私は今変身しています。

 変身する必要性はないといえばないのですが、なんといいますか……様式美?

 一応、私、魔法少女ですし、敵と戦うときは変身するべきかなと。いや、戦いませんけどね。てか、戦うまでもないんですけどね。あとはもう駆除するだけですし。

 まあ意味はないのですが、ずっとこうやって害虫駆除をしてきたわけですので、変身しておかないとしっくりこないというかなんというか。……習慣って怖いですよね。

 あ、当然のことながら、隷属の首輪も外してありますよ。あんなものつけておく必要なんてありませんからね。


 それよりも、そんなどうでもいいことは置いといて、さっさと駆除を済ませてしまいましょうか。

 もう準備は済んでいるので、あとは実行するだけなんですよね。


 まず、この部屋にいる私以外の26名。全員眠ったまま立っています。

 なんで眠っているのに立っているのかって?

 人が一人立っていられる程度の狭い空間を隔離し、閉じ込めているからですよ。

 なので倒れようにも倒れることができないのです。あ、ちなみに空気は通り抜けられるようにしてありますよ。ここまでやっておいてそんなつまらないことで死なれても困りますし。


 それにしても、空間を隔離したり、転移したり、空飛んだり、亜空間と接続できたり、その他にも色々と出来てしまう時空魔法の便利さがヤバ過ぎる。

 てかさ、時空魔法と精神魔法をある程度のレベルで使いこなせれば、攻撃魔法なんてなくたって余裕で世界を制圧できるような気がする……。いや、やらないけどさ。

 幸いなのはどちらも難易度が高すぎて使いこなせる人がいないことか。

 ちなみに私でも使いこなせてはいないよ。ありあまる魔力で強引に使用しているだけだから。

 魔法に関しては最高峰とも言えるフラス=パモンの魔法技術ですら使いこなすには至らないとか、どんだけ難易度高いんだよ。

 強いて言うなら、人じゃないけどきぃちゃんが使いこなせるらしい。

 フラス=パモンの魔法技術超えちゃいましたか。さすがきぃちゃん。マジパネェッス。


 いや、話それたね。

 それじゃあ、いい加減、害虫駆除のお仕事を始めようか。


 私が覚醒の魔法を使用すると、全員が目を覚ます。

 まだ寝起きのせいか、意識がハッキリしていないようだ。

 が、すぐに自分の置かれた状況がおかしいことに気づき、どよめきが起きる。

 そりゃそうだよね。いつの間にか一つの部屋に大勢が集められているわけだし、見えない壁のようなもので囲まれていて移動することもできないわけだし。

 そしてそんな中、大声でわめきだす豚が一匹。


「何だここは!何があった!どうして私はここにいる!」


 ダーウニック公爵家のご当主様がお怒りのようです。せっかくなので火に油でも注いでおきましょうか。


「うるさいのでわめくのやめてもらえませんかね。それとも、豚だからわめいていないといられないのでしょうか」

「何だ貴さ、ま、――――――貴様、仮面の断罪者とやらか?」


 おや?私のことを知っていましたか。

 まあ、こいつらみたいなのにはそれなりに有名でしょうからね。悪い意味で。

 油注いだつもりだったんですが、どうやら鎮火してしまった模様。少し怯えている様子がうかがえる。


「そう呼ぶ人もいるようですね。私のことを知っているのならば、何故私がここにいるのかはわかりますよね」

「知らん!知らない!私は何もしていない!帰してくれ!」


 ダーウニック公爵家当主は顔面蒼白になりながらもしらを切る。

 いやいやいや、そんな表情で知らないとか言われても説得力ありませんよ?どう見ても心当たりのある人の顔じゃないですか。


「どうしたんだいパパ?これはそこにいる変な奴がやったの?仮面の断罪者って、少し前から聞くようになった犯罪者の名前だよね?そんなやつパパの力でやっつけちゃってよ」


 仮面の断罪者という名前が出た瞬間、他の者が恐怖に表情をこわばらせている中、一人呑気にそんなことをのたまう豚が一匹。名前は聞いたことがあるけど、どうして名前を聞くようになったのかまでは知らないのだろうか?情報はちゃんと中身まで理解してこそ意味があるんだよ?まあ、豚に理解しろという方が無理があるか。


「うるさい!お前は黙っていろ!」


 親豚はちゃんと現状を理解しているようで、余計なことを言われないよう子豚を黙らせる。

 うわっ、子豚がシュンってなった。その図体でそういうしぐさをするのやめてもらえます?ものすごく気持ち悪いんですけど。


「この面子を見てもしらを切るのかしら?あなたが今まで何をやってきたのかを」


 そう言いながら私は子豚、奴隷商人、下っ端たちへと順番に視線を向ける。


「知らない!私は何も知らない!私は関係ない!関係ないんだ!」


 親豚必死だな。そして子豚がポカーンとしている。だから気持ち悪いんでやめてもらえます?そういうの。

 まあ、公爵なんて地位を持っているくらいだから、常に根拠のない自信に満ち溢れていたんだろうな。

 それが必死になって弁解している姿を初めて見て、普段のパパとの違いに驚いているのだろう。しかも相手が私みたいな小娘だ。余計にびっくりだろう。


「まあ、あなたがどれだけしらを切ろうと私には関係ないの。もう私の中ではあなたの罪は確定しているのだから」

「そんなっ!私は何もやってない。本当だ!信じてくれ!」

「信じろと言われてもねぇ?そこにいるあなたの息子が何をした?そこにいる奴隷商人が何をした?そんな二人のためにあなたは何をしたのかしら?」

「違う!私じゃない!私は関係ない!あいつらが、あいつらが勝手にやったんだ!私は何も知らなかった!本当だ、嘘じゃない!私は無関係なんだ!全部あいつらがやったんだ!」

「そんな!」

「パパ!」


 うわー、あっさり見捨てたよ。どんだけ必死なんだよ。てか、自分の言っていることが支離滅裂なの気づいてないのかな。自分で知らなかったって言ってるのにあいつらがやったとか。いやそれ知ってんじゃんとかツッコミ入れちゃ駄目だろうか。駄目だよね、今シリアスパートだし。私の頭の中はこんなだけど。


 そして、必死な公爵様に罪をなすりつけられた奴隷商人と息子豚は絶望の表情だ。

 奴隷商人は、言い逃れする機会も、しらを切る機会も公爵様に与えてもらうこともできず、お前が罪をかぶれと暗に言われたため。

 息子豚は、どんな時でも自分を助けてくれたパパが自分を見捨てる発言をしたため。

 まあ、どんな言い訳を並べたとしても、それで見逃すなんてことはあるわけがないけどね。


「大丈夫、あなた達3人には特等席を用意したの。そこからならよく見えるでしょ?他の人達がどんなことをされるのかが。あなた達には予習をする時間をあげるから、しっかりと見学していてね」

「ひぃっっ、助けて、助けてくれ、私は何もしていない、何もしていないんだ」


 まだ言ってるよ。お前が何もしていないなんてことがあるわけがないじゃないか。奴隷商人や息子豚が出来るわけがないだろう?人さらいの現場を目撃されているのに、それをもみ消すなんてことが。そんなことは余程の権力がなければできないよ。例えば、公爵家当主だとかね。


「さて、そろそろ始めようか。君たち3人はまずは観客になってもらおう。その間に恐怖を募らせてくれればうれしいな」


 親豚、子豚、豚商人の3匹の豚に聞こえるように宣言する。

 ってなんだか豚商人って言うと豚を扱っている商人みたいだな。まあ、どうでもいいか。


 そして同時に、下っ端23人を隔離しているそれぞれの空間の中へ、魔法で温水を注いでいく。

 最初は意味がわからずどよめいていただけの下っ端たちだが、膝くらいの位置まで水かさが増したあたりでその意味に気づく者たちが出始める。

 人一人がギリギリ立てる程度の狭い空間なので、水かさが増えるのにはそれほど時間はかからない。

 つまり、今自分の立っている場所が温水で埋まってしまうのは時間の問題というわけだ。

 それに気づいた人間は恐慌状態に陥っていく。そう、このまま温水が止まらなければ、自分は溺れて死ぬしか未来がない。


 いくら叩いても見えない壁のようなものは壊れる気配がない。暴れようとしても、暴れることが出来るだけのスペースが存在しない。助かる方法を模索しようとも、こんな状態では頭を冷静にすることすら出来ない。まあ、仮に冷静に考えることが出来たとしても助かる方法は見つからないだろうが。

 そして出来ることは、泣きわめき、助けを懇願することだけだ。子供たちが泣いて助けを願っても踏みにじってきただろうに、虫のいい話だ。

 いよいよ首のあたりまで水かさが増した時、ついには発狂する者まで出始めた。

 言葉にならない、意味を成さない叫びだけが部屋に鳴り響く。

 部屋の中は叫び声で埋めつくされ、そして時間が経つごとにその声の数は減っていく。

 ようやく叫び声を発するものがいなくなった時には、苦悶の表情を浮かべ温水の中でゆらゆらとゆれる、生命活動を停止した人の体23体と、自分達の未来の姿を見せられ、恐怖におののく3匹の豚、そしてそれを愉快に眺める私がいた。


「お願いします、助けてください。これからは心を入れ替えます。悪いことはもうしません。お願い。助けて。許して。死にたくない。お願いします。助けて――――――」


 親豚が泣きながら必死に助けを懇願してくる。余程下っ端たちの死に様が恐怖だったのだろうか。

 それを皮切りに、子豚、豚商人も助けを懇願してくる。

 ひたすら「助けて」「死にたくない」のオンパレードだ。

 お前たちはそう言った子供たちに何をしたんだろうね。自分では助けてあげないのに、自分のことは助けてくれだなんてどの口が言うんだよ。

 そんな自分勝手な命乞いを一切無視して私は口を開く。


「溺死ってすっごい苦しいらしいですよ」


 ものすごい笑顔で言った。仮面で見えないだろうけど。

 瞬間、豚どもは絶望で固まった。

 だってそれは、事実上の死刑宣告だから。苦しんで死ねという自分たちへ向けられたメッセージだから。

 それでも豚どもは命乞いをするのをやめない。むしろより必死に懇願してくる。

 そして私は、そんな様子を眺めつつ、3匹の豚の隔離された空間内へと温水を注ぎ始めた。


 3匹の豚は、自分の足元へ温水が注がれているのを知ると、茫然自失となった。

 いやいやいやいや、こんな序盤であきらめないでくださいよ。そんな半ば意識を放棄したような状態じゃ私が楽しめないじゃないですか。もっと必死に生きあがいて、恐怖して、絶望してくれなくちゃここまでお膳立てした意味が無いじゃないですか。

 しょうがないので、私は意識をこちらへ向けてもらうために話しかける。


「ちなみに、なんで温水を注いでいるのかわかりますか?」


 そう問いかけると、3匹の意識がこちらへ向く。


「冷水なんて注いだらさ、体温が低下して体の動きが悪くなるじゃない?」


 豚たちは黙って私の言葉を聞いている。

 そして私は楽しそうに次の言葉を口にする。


「そうしたらさ、あっけなく死んじゃうかもしれないじゃん。もっとさ、苦しんで、恐怖して、絶望して、あがいて、もがいて、そうしてから死んでくれなくちゃ、面白く無いでしょう?」


 私の言葉を聞き終えた瞬間、豚たちの顔は恐怖に歪む。

 今の自分の置かれている状況を、避けられない死を思い出してしまったのだ。

 ひとたび恐怖を、それも自分では抱えきれないほどの激しい恐怖を思い出してしまえば、後はもう決壊するのみ。

 命乞いをし、どこか抜け出せる場所がないか探しても見つからずに絶望し、言葉にならない絶叫を幾度と無くあげる。


 そうだよ、私はこのために今日はいろんなことを我慢したんだ。

 もっと恐怖しろ、絶望しろ、泣き叫べ、わめき散らせ。お前たちに人生を、命を奪われた者たちの絶望はこんなものじゃ足りないぞ。

 辛かっただろう、悲しかっただろう、苦しかっただろう、無念だっただろう。

 ごめんね。私にはあなた達にしてあげられることは何もないんだ。

 だからせめて、このクズどもに絶望に染まった死を与えよう。

 安らかな死なんかで終わらせられるものか。

 泣いて、叫んで、わめいて、むごたらしく無様に死んでくれ。




 声が止んでからどのくらい経っただろう。

 この部屋にはもう私以外に生きているものはいない。


「ふぅ、終わったね」

『ええ、終わりましたね』

「あとは……後始末だけかな?」

『そうですね。念の為、全員の首をはねておきましょう。万が一にでも蘇生なんてされたりしたら面白くありませんし』

「ああそうか、今のところ心停止しただけの状態だから蘇生できる可能性もなくはないのか」

『まぁほぼありえない確率ではありますけどね』

「りょーかい、他にやっておくことは……」

『女の子達のところへ張った隔離結界の解除と、衛兵を連れて来て子供を保護させることですかね』

「女の子達は起こしてあげなくていいの?」

『起こさなくてもそのうち起きるでしょう。それに、起こしてしまうと保護されるまでの間にいらぬ不安を募らせてしまうでしょうし、そのまま寝ていたほうが幸せでしょう』

「ああ、そうだね。じゃあ後始末始めますか」


 そして私は害虫駆除の後片付けに取り掛かった。






 後片付けを始めてからわずか10分程度。

 今私は奴隷商人の館の屋根の上にいる。

 残るお仕事は衛兵を呼び込み子供を保護してもらうことだけだ。

 それで何故こんな所にいるのかというと、わざわざ衛兵呼びに行くのって面倒くさいじゃん?なら、向こうから来てもらえばいいじゃん?

 ってことで。




 ――――ドッッッッガアアアアアアアアアアアアアァァァァン――――




 館の入口あたりを派手な音を立てて破壊しておけば、すぐに何があったのか確認しに来るでしょ。

 とにかく派手な音がするように調整した魔法を扉に放ち、衛兵が到着するまでしばし待つ。

 30分くらい経った頃だろうか、衛兵数人がやってきた。少ないな、先遣隊かなにかだろうか?まあどうでもいいや。

 衛兵は私の姿と、奴隷商人の館の破壊された扉を確認して、どこか腑に落ちたような顔をしていた。

 ですよねー。誘拐の目撃情報なんてたくさんあるわけですし、どこが怪しいのかなんて把握してますよね。

 その上私のことを知っているのなら、また害虫が駆除されたんだなとすぐに理解できるはずだ。

 とりあえずこっちに気づいているのならば話は早い。


「中にさらわれてきた子供がたくさんいますので、保護をお願いしますね」


 衛兵に向かってそう告げると、しっかりとうなずいてくれた。

 よしっ、これで私の仕事は終わりだ。

 自分の部屋へ帰ろう。

 そして私は転移の魔法を使用し、この場から去った。

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