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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
2章 新しい生活
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2-6.見せ場が消失…だと…

 しばらく通路を歩き、たくさんある扉の内の一つを開け、その中へと入っていく。

 中は特に何の変哲もない応接室のような部屋だった。

 豚二匹が向かい合わせに座っており、契約を交わしているようだ。

 私の分だけかと思ったら、他の7人の分も一緒に契約しているらしい。

 まあ、効率考えたらそうなるよね。


 そんなことを考えつつも奴隷商人の後ろに立って、下っ端に囲まれながらもぼけーっと様子を眺めていると、部屋の外から下っ端の一人が首輪のようなものを持って入ってきた。

 ああ、《隷属の首輪》か。

 そう、あれは隷属の首輪。あれを首にはめられると、登録されている主人の命令に逆らえなくなるという魔道具。さらには主人を害することができなくなり、命令以外では自分を害することもできなくなる。そして何より、無理に外そうとすると最悪死に至るというゲスな効果の詰まった最低な魔道具だ。

 正直言って、この世に存在することすら許せないくらいに大嫌いな魔道具ではあるが、世の中には犯罪奴隷という、重犯罪を犯した者に厳しい労役を課するという制度もあるわけで、そんな者たちに言うことを聞かせるために必要という面もあるため、納得せざるを得ない。これだけはしょうがないとは私も思う。

 確かに犯罪者に対してつける首輪としてはこの上なく優秀だしね。

 でも、さらってきた少女たちの首にはめるというのは許容できるはずがない。


 普通の奴隷であればまだしょうがないとは思える。借金にしろ何にしろ、ちゃんとした契約に基づいて奴隷となっているわけだから。

 でも、さらってきた人たちは違うでしょ?ある時不意にさらわれて、逆らえないように首輪をはめられる。そんなことが許せるわけがないじゃない。何の罪もない人が、クズの利己的な理由で人生をだいなしにさせられるなんて、許していいわけがないじゃない。


 だから私はクズどもには容赦はしない。クズを排除するためなら人殺しだって喜んでするよ。

 だってさ、こんなろくでもないことばかりするクズなんだよ?生かしておいたら絶対にまたろくでもないことをするに決まっている。クズどもの辞書には反省という二文字は記載されていないみたいだからね。

 そんなクズどもを生かしておいて、また誰かが被害にあったとしたら、私は絶対に自分を許せない。あの時に殺しておけば、なんていう思いをするのはもう二度とゴメンだから。


 ご飯はおあずけされるし、ショックをうけるような出来事も色々あった。……主に私の成長面で。

 でも、この件に関わらなければよかったとは思わない。

 この件に関わらなければ、あの子たちを助けることができないのだから。

 この件に関わったからこそ、クズを確実に葬ることが出来るのだから。


 別に、正義の味方をやりたいというわけなんかじゃない。

 理不尽な目にあっている人がいるのが許せないだけ。

 自分の利益のために周りに害を振りまくヤツが許せないだけ。

 私やその周りに害をなそうとするヤツが許せないだけ。

 ただ単に、クズがのうのうと生きているのが許せないだけなんだよ。


 偽善だと言うのならば言えばいい。殺人を犯しているのだから悪人だと言うのならば言えばいい。

 私はただ「許せない」という自分勝手な理由で行動しているだけなのだから。

 周りから正義だと言われようが、偽善だと言われようが、悪だと言われようが、私のやることは変わらない。

 私は自分のやりたいように、好きなように、自分が好む好まないという自分勝手な理由で行動するだけだから。

 私は、それを実現させるために必要な力を手に入れた。どれだけ周りに非難されようと屈しない力を、行く手を阻まれようとねじ伏せるための力を手に入れたんだ。

 善だとか、悪だとか、ルールだとか、法律だとか、そんな事で行動しているわけじゃないんだよ。

 私の行動する理由なんて、私の気持ち一つ、それだけ。そうじゃないと私は楽しく生活できないから。自分の意志に反して行動し、あの時やっぱり……なんて思いながら生活するなんてまっぴらごめんだから。

 私が楽しく生きるために、気に入らないことを潰しているだけなんだよ。

 私の近くを飛び回る害虫どもに、絶望を味わって欲しいだけなんだよ。


 だからね、お前ら、安らかに死ねるとは思うなよ?


 ……。

 ……。

 ……。

 ……、あー、ごめん。ちょっと怒りで我を忘れていたわ。


 ちなみにね、隷属の首輪なんてものをなんで知っているのかってのはね、害虫駆除のお仕事をしていると、高確率で遭遇するわけですよ。理不尽な理由で首輪をはめられた人たちに。

 別にね、正規の理由でつけらているのならば、しょうがないとは思うんですよ。

 でもね、ゴミクズを掃除しに行くといるわけですよ。違法な手段で隷属させられている人たちが。しかも、助けることが出来るのならまだマシな方なのです。すでに手遅れな人もたくさんいるわけなんですよ。大抵がひどい状態でした。苦悶の末に死んでいった人たちはどれだけの絶望を与えられたのでしょうか。


 おかげであの首輪を見るだけで怒りがわいてくるようになりました。

 あんなものがあるから苦しむ人が増えるんだとも思いました。

 でも、犯罪者には必要なものだということも事実。それに、隷属の首輪が存在しなかったとしても、クズどもは別の方法で同じようなことをしたであろうことは想像に難しくありません。何と言っても、この国は権力があれば大抵のことはできちゃいますからね。

 結局のところ、道具が悪いのではなく、それを悪用する者が悪いのです。まあ、だからと言って、そう簡単に割り切れるものでもありませんけどね。


 ちなみに、この隷属の首輪、私は魔法で外すことができちゃったりします。

 魔法で隷属効果を解除できないかなぁって思って試しにやってみたら、できちゃったんですよね。

 あまりにもあっけなさすぎてびっくりしたのを覚えています。

 なので、今自分に首輪をはめられようとしているのに、冷静でいられるわけですよ。いや、ちょっとだけ怒りに心を支配されてもいましたが。


「こちらへ来なさい」


 私が隷属の首輪に対していきどおっている内に、全ての契約が完了したようだ。

 奴隷商人が下っ端から首輪を受け取り、私を呼びつけた。

 私に首輪をつけ、主人の登録をしようというのだろう。

 今までにこの首輪もたくさん見てきたけど、つけられるのは初めてだなぁ。

 そんなどうでもいいことを考えながら、私の首に隷属の首輪がはめられるのを待つ。


「それではワイルブ様、こちらを」


 そう言い、豚商人は豚貴族に首輪を手渡す。

 家畜が家畜に首輪を渡すとか……。

 そしてその家畜に首輪をはめられる私。……うわぁ、想像するだけでおぞましい。

 というか、本当に気持ち悪い。うーーー、でも、我慢しなくちゃ。早く終わらせてよ。


 私が必死に覚悟をしていると、キモ豚が私の後ろへと移動し、ついに私の首に隷属の首輪がはめられた。

 っ!!!

 あの豚、首輪はめるときに私の首筋なでやがったよ。泣きたい。

 危うく反射的に消し飛ばそうとしちゃった。よく我慢できた、私。

 自分の部屋まで我慢するって言ったじゃん。ちゃんと我慢しろよ。これだから我慢のきかない豚は。


 そしてキモ豚はそのまま首輪に触れ、魔力を首輪へと流していく。

 見ているわけじゃないのになんでそんなのがわかるのかって?その程度の魔力の流れなんて私くらいの実力があれば簡単にわかっちゃんですよ。っていうか、そのくらい把握できないときぃちゃんに怒られる上、お説教コース突入なんですよね。さすがきぃちゃん、スパルタですよ。

 すると、首輪の中を豚の魔力が駆け巡り、次の瞬間にはその魔力が霧散した。

 って、え?あれ?魔力が霧散しちゃったけどいいの?


「フヒッ、フヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、これでこの子は僕のものだ。フヒヒヒ、早く家に帰って色々してあげなくちゃ。楽しみだな。すごく楽しみだよ。フヒヒヒヒヒヒ」


 うわー、ついてけないわこのテンション。

 でも、特に問題はなかったのかな?あんなに喜んでるわけだし。


『ナハブ』

『ん?なに?きぃちゃん』

『隷属の首輪の効果がレジストされたようです』

『え?……もしかして、あの魔力が霧散したやつ?』

『そうです。本来ならばあのまま魔力は首輪にとどまり、首輪の効果を発揮していたはずなのですが、ナハブの抵抗力が高すぎたため、魔力が霧散し、ただの首輪となってしまっています』

『あー、やっぱりそうなんだ。魔力が霧散しちゃったからなんかおかしいなとは思ったんだよね。それにしても、隷属の首輪ってレジストできたんだ』

『想定外の現象かと思われます。ナハブほど抵抗力のある対象に使用したことなどなかったでしょうから』

『しかし、隷属させるのを失敗しちゃってるのにすっごいはしゃいでるよね、あの豚』

『まあ、魔力の流れを感じることのできない者には、失敗したことなどわからないでしょうからね』


 しかし、レジストしちゃったのか。

 ということは、私がカッコ良く魔法で隷属の首輪を解除するという見せ場がなくなってしまったということか。

 ちょっと残念……いや、余計な手間がはぶけて良かったんじゃん。そうだよ、良かったんだよ。

 うん、良かったんだよ……。


「フヒッ、フヒヒッ、何をしようか。どんなことさせて遊ぼうかな」


 人が見せ場の消失にしょんぼりしているところへ脳天気な声が聞こえてくる。

 キモい上にウザいなこの豚。

 豚は、私を隷属させることに失敗したなんてことを知るはずもなく、これからのことを考えて一人浮かれている。

 ずいぶんと楽しそうにこれからのことを考えているようだけれど、お前の未来にはむごたらしい死が待っているだけだよ。

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