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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
5章 きぃちゃん無双
115/116

5-10x.魔法少女B(仮)視点

「アスティ、どうしてるかなぁ」


 執務室にて、書類仕事が一段落ついた瞬間、そんな言葉が口をついて出た。

 私の部下であり、親友でもあるアステティア・ユーストライア。仲間達にはアスティと愛称で呼ばれている、我等『魔法少女部隊』の副隊長のことを思う。

 アスティは単身にて、奪われた『神を騙る繁栄(デウスエクスマキナ)』の奪還任務に就いており、目的地(ミスレティア)へ向かってから早半年が過ぎていた。アスティは『魔法少女部隊』の隊員の中で随一の戦闘能力を持ってはいるし、任務地もさほど危険はないと言われている。しかし、それでも親友としては、心配してしまうのだ。


「いくら探索魔法が使えると言ったって、無茶にも程があるわよね……」


 アスティは探索魔法が使えるからと今回の作戦の先鋒として抜擢(ばってき)されたが、流石にたった一人で、それも星一つが索敵範囲という、明らかに個人の能力ででどうにかなるような任務ではない。

 当然、上の者達(奪還作戦の上層部)もそんな簡単に見つかるとは思ってはいないし、見つかることなどは想定していない。アスティをかの星に送り出したのは、あくまでも後に増員される予定の部隊員が活動しやすいよう、現地での下地作りという意味合いが大きい。

 まあ、それでも短期で任務が完了するというのならばそれに越したことはなく、増員前に見つかれば儲けものということで、アスティが適任だったということらしいが。


「あの子、ちゃんとご飯食べてるかしら?」


 アスティは少し猪突猛進なところがあり、何かに夢中になると、自分のことが(おろそ)かになるという悪癖がある。『神を騙る繁栄』の探索に夢中になり、食事を忘れるなどということは大いにあり得る話なのだ。無理に見つける必要はないと言って送り出しはしたものの、あの子の性格上、寝食を削って探しているという可能性だってないわけではない。


「やっぱり、心配だわ……」


 あの子の親友だからこそ、あの子の戦闘能力は知っている。そこは心配していない。

 ただ、あの子の親友だからこそ、あの子の性格もよく知っている。あの子は自分のことをしっかりしていると思っているようだが、どこか抜けているところがあるのだ。

 ついでに言うと、少し思い込みが激しいところがある。一度思い込んでしまうと、周りの声など聞かず一直線になってしまうことが多々あった。一応、頭を冷やして一度冷静になってくれれば、ちゃんと論理的な思考はできるのだが、今回の任務では単独行動のため、止めてくれる仲間がいない。熱くなったまま変な勘違いをして、周りの人に迷惑をかけているなんてことはないでしょうね……。


「いえ、流石にそこまで愚かなことはしていないと思うけれど……」


 今回の任務は長期戦が覚悟される。いくら戦闘能力的な意味で、現地民が我等を害することはできないと言っても、戦闘能力のみで生活ができるというわけではないのだ。食事だって必要だし、安心して休める寝床だって必要だ。武力で脅してそれらを得ることは可能ではあるが、長期の任務で周囲に敵を作るというのは得策ではない。現地民を圧迫し、長期間に渡り不満を溜め込みすぎると、いつどこで足を引っ張られるのかわかったものではないのだ。

 足を引っ張るのに、武力が必要であるとは限らない。ほんの少しの知恵と、断固たる行動力さえあれば、嫌がらせ程度のことであれば簡単にできてしまうのだ。もちろん、それを防ぐことはできる。ただし、そんなことに労力をかけるのは馬鹿らしいし、だからといって足を引っ張られるのも馬鹿らしい。

 結局の所、不要な軋轢(あつれき)を生まないということが望ましいのである。そういった意味では、アスティは今回の任務に不適格であると言えるかもしれない。まあ、上からの指名であったし、本人もやる気満々であったため、異を唱えることすらできなかったわけなのだけれど。私にできることは、アスティが余計なことをしていないことを願うのみね。


「……まだ、増員はされないのかしら?」


 本当は私が行きたいところだけど、この際誰でもいい。アスティのストッパーになってくれる人員であれば誰でもいいから、早く増員を決定して欲しい。あの子を一人にしておくと、本当に何をするかわからないのよね……。

 そういえば、今日は『神を騙る繁栄奪還作戦』についての会議があるとか言っていたかしら?増員についても話し合いがされていると良いのだ――――




 ――――ドッッッッガアアアアアアアアアアアアアァァァァン――――




「っ!!!何?何が起こったの?」


 どこからか轟音が響く。

 思考を中断し、椅子から立ち上がり窓の外を見渡す、が、特に異常は見当たらない。異常らしい異常といえば、未だに鳴り響く轟音と、この部屋まで伝わってくるわずかな振動くらい。


「まさか、敵襲!?」


 いえ、それはありえないわね。

 私は思わず口から出た言葉を、すぐに脳内で否定する。ここは『魔導帝国イクトゥス』の中枢部。ここまで敵の侵入を許すはずがないし、仮に攻撃を受けたのだとして、防御障壁に阻まれて攻撃は通らないはずだ。なにせ、重要施設に張り巡らされている防御障壁は、一切の攻撃を無効化してしまうのだから。たとえ古龍のブレスであろうと破ることのできない、強力な障壁なのだ。だから、このように轟音が鳴り響くことなど、ありえない。

 ならば一体、何が起こったというのだ……。


 状況を把握するために行動しようとしたその時、不意に私の心が警鐘を鳴らす。

 その瞬間、あたりには濃密な死の気配が漂い、私は身体の動かし方を忘れてしまったかのように、指一本動かすことができなくなった。かと思えば、私の意思に反して身体が小刻みに震えだす。

 ほんの少し気を抜いただけで生きるのをあきらめてしまいそうになるほどの、圧倒的な死が身近にあるような不思議な感覚。ああ、これは駄目だ。何と対峙(たいじ)してしまっているのかは全くわからないが、抗うことすら許されぬほどの、圧倒的な存在がいるということだけは理解できる。この死の気配を振りまいている主がその気になるだけで、私の命などいともたやすく刈り取られることだろう。




『魔導帝国イクトゥスに住まう人民、及び、強欲なる統治者に()ぐ』


 一体どれほどの時間が経っただろうか。恐らく、それほどの時間は経っていないのだろう。しかし、気の遠くなるほどの長い時間が経ったような感覚が私を支配する。死を身近に感じるということは、()くも過酷なことなのだろうか。そんな永遠とも思える時間を終わらせたのは、脳内に響く凛とした女性の声だった。

 思念通話。これは恐らく、国民全てに届けられているのだろう。普段であればそんなことはありえないと切り捨てるようなことではあるが、あの圧倒的な存在感を理解させられた今では、それが正しいのだと思わされてしまう。


『私の名前はキザイアメイスン。貴様達が私を探しているということを聞き、わざわざ来てあげました』


 まさか我等の探している『神を騙る繁栄』自身がお出ましとは……。確かにこの個体のみは意思を有していると聞いてはいたが、まさかこんなものが我等の探しものだというのだろうか。こんなものを我等が(ぎょ)することができるとでも?これを御することができるのだとしたら、それはもう、化物としか言えないのではないのだろうか。


『私が賊に奪われたなどと吹聴(ふいちょう)しているようですが、そもそも私を創ったのは、貴様達が滅ぼした『パリス連合国』であり、貴様達は開発に一切関与していないということを事実として述べます』


 ……おかしいとは思っていたのだ。我が国がアレを創ったというのであれば、もう一度同様のものを創れても良いはずだ。我等の持つ『神を騙る繁栄』の開発者達が揃って「本来の性能はこんなものではない。こんなものはアレの足元にも及ばない」と言っているのを聞いてしまったことがあったのだ。なるほど、本来の開発者が別にいたのだとすれば、納得の話だ。


『私としましても、過去のことを持ち出して報復しようなどという気持ちはなかったのですが、今後も私達を(わずら)わせるというのであれば、それらを潰さざるを得ません』


 ……これは明らかに、我等『魔法少女部隊』のことだろう。まさか、アスティは探し当ててしまったのだろうか。この、死を振りまく絶望を。もしそうであるのならば、アスティの安否が気になるところではあるが……。このような存在と対峙してしまったのであれば、無事である可能性は限りなく低いだろうな。


『警告します。今後私達に面倒を持ち込まぬよう心しなさい。次はありません。それでも私達に干渉しようというのであれば、魔導帝国イクトゥスの滅亡という結果を持って、報復とさせていただきます。弁明等は一切聞きません。問答無用です』


 これほどの恐怖を植え付けられ、それでも手を出そうなどという愚か者はいないと思いたいが……愚か者はそれが理解できないから愚か者だと言われるのだ。我が国の上層部がこれであきらめてくれれば問題はないのだが……。その愚か者に何人か心当たりがあるのがなんとも言えんところだな……。最悪、国を捨てる決意をすべきだろうか。


『ああ、そうそう。今回の件はほんの数名の命だけで見逃しましょう。過去にも散々煩わされてきましたので、一切の咎めなしとはいきませんので悪しからず。私を欲した愚者共よ、苦しみながら死になさい』


 私の命もこれまでか。……これから来るはずの苦痛に身構えたが、いつまで経っても苦しみはやってこなかった。私は、見逃されたのだろうか……。


『それでは、私の用件は済ませましたので、これにてお(いとま)させていただきます。二度とお会いすることの無いよう、お祈り申し上げます』


 その言葉を最後に、周囲に漂っていた死の気配は霧散した。身体も動くようにはなったが、私はそのままへたり込み、しばらく呆然とするのみであった。

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