買ってきたのは部長の兄です。
カッカッカッカッ……。
彼女、眼鏡の似合う彼女は憂欝そうにしている。彼女は演劇部の部長だ。その部長が黙している。私はそれだけで威圧されてしまう。
それだけの迫力を、彼女は持っている。部長というだけではなく、一演劇人としての迫力だ。演劇をする、ということにもはや迷いが無く、戸惑いも無い。あるのは演劇をするというただそれだけの、シンプルな、ゆえに迫力が出ている。
カッカッカッカッ……。
彼女が口を開く。
「それだけか」
一言だが、怒気をはらんでいるのはすぐに分かる。こうやっている時の彼女は活き活きしているのだが、それを言うと本人は否定するだろう。しかし、追い込みをかけている時の迫力は、活性化されていないと出ない類のものだ。それぐらいのパワーを誇る、といった方がいいだろう。
カッカッカッカッ……。
その怒気を和らげるように、私は言う。
「限界です」
こちらも端的に返す。だが、それが彼女の怒りの琴線に触れた。
「大人のおもちゃを使う程度で何を勝手に限界決めてんだよ! それくらい出来るだろ! やれるだろ!」
口角唾飛ばしてそういう部長に対して、私は言い募る。
「いや、そもそもなんでこの大人のおもちゃを使うんですか? 台本読んでもいまいち必然性が」
「必然性なんて後からついてくるんだよ! いいから使えってんだ!」
カッカッカッカッ……。
私はどうしても納得がいかない。なんで大人のおもちゃなんて小道具としてあるんだ。いやそれよりも。そもそもの所をぶっちゃける。
「使うったって、どう使えばいいのか。というか普通の意味で使うんですか? 特殊な意味で使うんですか?」
「そんなことも言われなきゃ分かんないのかい! このヘボ役者!」
「いやでも」
「ああもういい! 分かった! 使い方をちょっと見せてやるよ!」
部長は、私の所にやってくると、私の握る大人のおもちゃを分捕り、スイッチを入れる。
カッカッカッカッ……。
ウィンウィンウィンウィン……。
「こんなものね! つっこみゃいいんだよ、つっこみゃ!」
そう言って、部長は私の口めがけて、大人のおもちゃを、って!
「あぶなっ!」
「避けんな!」
「避けますよ! というか絶対使い方間違ってますよ!」
「そんなこと分かってる! あたしだって使ったこと無いんだから!」
カッカッカッカッ……。
ウィンウィンウィンウィン……。
静寂の中、聞こえるのはメトロノームのテンポと大人のおもちゃの駆動音だ。凄く間抜けな取り合わせである。
それを破るように、私が口を開く。
「え、部長の?」
カッカッカッカッ……。
ウィンウィンウィンウィン……。
途端に部長が憂鬱そうな表情になる。
「なんだい、あたしがそういうの持っているのが、そんなに面白いかい」
「いや、あの」
「なら、使い方見せてやるってんだよお!」
「逆ギレ!? むしろこっちが怒りたいんですけど!」
襲いかかってくる部長の動きを、私は冷静に見る。思いのほか冷静でいられるのは、やはり大人のおもちゃを部長が持っているという事実に対する、得も言われぬ違和感からだろう。
「隙あり!」
部長が、まだ動いている大人のおもちゃをまた口めがけて突っ込んできた。って!
「あぶなっ!」
「避けんな!」
「だから避けますって!」
今度の部長は執拗に口に大人のおもちゃを入れようと隙を窺っている。距離を取るにも部屋は狭い。回避するのも上半身だけなので、状況が改善しない!
「隙あり!」
部長がまた口めがけて! だから!
「あぶなっ!」
「隙あり!」
「あぶなっ!」
「隙あり!」
「だから無いです!」
私は、部長の手の動きを見て、掴む。部長の体格はいいとはいえ、女性の力は当然止められるだけの力はこちらにはある。ぐっと掴み、押しとどめる。
「いい加減にしてください部長! やる気空回りしてますよ!」
「……、分かったよ。ただ、使い方はこれで分かったね?」
カッカッカッカッ……。
ウィンウィンウィンウィン……。
「……、口は無理ですよー!」
私の叫びに、部長は一喝を返してきた。
「下に入れろってんじゃないんだから、すぐにやれ!」
「でも……」
カッカッカッカッ……。
ウィンウィンウィンウィン……。
僕は逡巡する。というか、これが部長の持ち物だとすると、つまり。
「そいつは未使用品だよ」
「え」
「今回の脚本の為に買ってきただけだ。……何を想像した?」
「えと」
部長は憂欝そうに溜息。
「まあいいけどね、男の子の考えることだし」
「よくないですよー!」
カッカッカッカッ……。
僕の言葉は、部長には届かなかった。
三題噺メーカーのお題で書こう回の第7回。お題は「おもちゃ」「メトロノーム」「憂鬱なメガネ」。ジャンルは「ギャグコメ」。ギャグになってたか不安がある。が、何事も、やってやれだ!




