オトナノ息抜キ
─Bar─
俺は客が居ない間、学校の仕事をしている。
次回の授業の準備やら、テストの答案用紙の採点やら……
昨日、シゲさんから聞いた話だと……
来年にはなるが、非常勤講師から正式に教師として採用するとかどうとか……
正直、嬉しい反面……非常勤のままでも良いかなぁと思っている自分が居る。
一応…Bar店員では、ほぼ毎日入って期間も長い。
それに……今は別にこれといって、やりたいことも無い。
「はぁ…どうすっかな……」
カラン……
「いらっしゃいま…」
「やぁ、蓮たん♪来ちゃった☆」
て・め・ぇ・か・よっ!!!
「今日は何しに来たんだよ」
「やだなぁ、怖い顔しちゃってサ♪」
「うぜぇんだよ、帰れ」
「今日は颯斗くんも一緒なのだ☆」
「ど、どうも……」
「颯斗来てんなら、先言えよ!稔夜」
「だって、先に言ったら面白くないじゃな~い。だから、普段通りに言ってみただけ~」
「こ、こんばんは!蓮利さん」
「よう!よく来たな、颯斗」
「俺には?」
「てめぇは“昔の稔夜”に戻ったら、普通に接してやんよ」
「“昔の俺”ねぇ……」
「まぁ、ここ座れや。今日はあまり客、来てねぇからな」
「はい!有り難うございます!」
「俺、いつもの~」
「ねーよ」
「冷たいな~」
「颯斗はまだ未成年だから……オレンジジュースで良いか?」
「あ、はい!」
「あれ?ノンアルのやつ、駄目なの?」
「あ?ノンアルコールでも、未成年だから駄目に決まってんだろ」
「わぁ、非常勤講師は厳し~なぁ!」
「お前なぁ……非常勤、非常勤うるせぇんだよ!稔夜」
「ま、颯斗くんがオトナになったら、改めてここでお酒デビューしようか♪」
「え、良いんですか!?」
「ああ!勿論、蓮たんの奢りでね?」
「ああ?てめぇの奢りだろ?」
「やだなぁ、そこは蓮たんの優しさでサ・ー・ビ・ス・し・て・よ☆」
「やけに☆が見えて、イライラするのは気のせいかなぁ?稔夜くん」
「気のせいじゃないかな~?蓮利くん☆」
「気持ち悪ぃぞ、稔夜……」
「まぁ、キモくてウザイのが俺だからね~☆」
「稔夜さん……(苦笑)」
「ま、自分で認めたからサービスしてやるよ」
「え、ホントに!?」
「嘘だよ、バーカ(笑)」
「うわ、蓮たんウザ~イ!」
「てめぇほどじゃねぇよ!」
「あははは(笑)」
なんだかんだ言って、仲良いんだな……この二人。
祓賢 稔夜だって、きっと……“アノ頃”に戻りたいハズ──
僕は改めて、そう思った。
「颯斗くん……?」
「颯斗、どうした?」
「すみません(笑)お二人の会話が楽しくて、面白くて……つい!」
「え~、つまんないよ?コレ」
「ああ。実にくだらん」
「でも、僕にとっては楽しくて、面白いんですよ!」
「颯斗くん……」
「そうだったのか……たまには来いよ!」
「はい、勿論!」
「蓮たんとこに行く時は、俺も一緒に行くよ」
「ああ、頼む」
「いやぁ、楽しかったね~!」
伸びをしながら、祓賢稔夜は僕に言った。
「はい、とても!」
「でも、ごめんね~?こんなに遅くまで、連れ回しちゃって」
「いえいえ!また来たいです!」
「ああ、颯斗くん……」
「はい!」
「何かあった時、蓮たんとこに行けよ?蓮たんなら、守ってくれるだろうからさ」──
「稔夜さんは……?」
「俺かい?俺は……」
「守ってはくれないんですか……?」
「いや……」
「稔夜さん……?」
「俺は父と同じように誰かに付け狙われたり、恨まれたり……いつ、何処で、何が起きるか分からないからね……」
「はい……」
「蓮たんにはそういうのはないから、何か身に危険が及ぶようなら、蓮たんのところへ行けば良い」
「分かりました……!」
「キミは物分かりが良くて助かるよ♪」
「いえいえ、そんな…(笑)」
「本当に今日は遅くまでごめんね、じゃあまたね~!」
そう言って、祓賢 稔夜は自分の探偵事務所へ帰って行った。
そして、僕も学生寮へ戻った。




