仏蘭西丼屋
ここ、渋谷のとある飲食店には、珍しい人間が働いているという。
彼の名前は《プリンス・ブライアン》
フランスからやって来た外国人で、日本での生活も長く、この《仏蘭西丼屋》の従業員だ。
彼の作る丼物やうどん・そばには定評があり、外国人にも関わらず、日本人の口に合うように修行を重ねて、日本人好みの味を提供している。
そして、なかなかのイケメンなのである。
善遇神 颯斗くんたちの通う学校や街に近い為、または彼の味や彼を見に来る客で、いつも大賑わい。
俺もよく行くなぁ……
ここの丼やうどんは、どれを食べても絶品だからね~!
出前もしてくれるから、有り難いよ。
そして、あの単細胞のお馬鹿さんである、平穏田の蓮たんと互角の勝負が出来る、唯一の“化け物”だ──
日本での生活が長いのは長いのだが、いろんなところの言葉が混ざっていたり、日本語に違和感があったりして、なかなか面白い話し方をする。
そして、今日も俺はプリンスの働いている店へ……
「プリンス!やっほ~」
「ア、ジンヤ!」
「親子丼とぶっかけうどん、冷たいやつ、頂戴♪」
「アイヨ!ほな、今カラ作ルデ!」
「有り難う~♪」
「あ、プリンス」
「ナンヤ?ジンヤ」
「今日は関西弁なの?」
「イヤ?違ウデ、ナンデヤ?」
「いや、さっきからプリンス、関西弁だし……」
「ハッ!コレガ、関西弁か!!」
「じゃあ、今まで何弁だと思ったの?(笑)」
「大阪国ノ、言葉ヤト……」
「関西弁は大阪、つまり近畿地方で遣われるから、合ってるけど……大阪国じゃないね~?(笑)大阪府だよ、プリンス」
「ウケルカナ思テ、言ウテミタ!!」
「で、ウケた?」
「ジンヤカラ、注意サレタ!」
「あっははは!ごめん、ごめん!プリンス」
「デキタヨ!親子丼と冷やしぶっかけうどん!」
「おお!ありがと、ありがと~♪」
「ドウ?ウマイ?」
「相変わらずの安定感で、美味だよ♪親子丼の卵の良い半熟加減に鶏肉の程よい食感…!そして、冷やしぶっかけうどんの冷たさに、だし醤油が絡んで、うどんは冷たくてモチモチしているのに、コシも兼ね備えている……最高だよ!プリンス♪」
「毎回、毎回、感想アリガトウ!これからもガンバル!!」
「いいえ、どういたしまして♪」
ガラガラ……
「ちーっす」
「あ、単細胞!」
「うるせぇ、ちびっ子」
「ヨウ!レント!ラッシャイ!」
「え~っと……カツ丼とぶっかけうどん…稔夜と同じやつな」
「オウ!任せトケーキ!!」
「相変わらず、面白いな。プリンスは」
「ソーッスカ?」
「おう!面白いぜ、プリンス」
「Than kyou!」
「your welcome!」
「まさか、蓮たんが俺と同じもの頼むなんてね~」
「うどんは、冷やしぶっかけの気分なんだよ」
「へぇ~……ま、分かるけど」
「アイヨ!カツ丼・冷やしぶっかけうどん、お待チーズ!!」
「有り難う、プリンス!」
「ドウ?ウマイカ?」
「美味い美味い!何だか、プリンスの作る飯、食うと安心するんだよなぁ…」
「それは、右に同じく」
「なっ!分かるだろ?」
「プリンスが作るから、っていうのもあるけどね~」
「何だか、嬉しいナ…!!」
「カツもサクサクで、卵とだしも良く絡んでて、美味い!」
「アリガトウ!アリガトウ!ジンヤ!レント!!」
「じゃあ、お先~」
「あ、おい稔夜」
「何?蓮たん」
「《狂変乙女》って、あの……」
「さぁて、“郊外学習”と題して、颯斗くんでも呼んで、ちょっとした社会見学でもしようかなぁ…♪」
「おい、未成年を巻き込むなよ…」
「未成年だって、何時かは必ず、大人になるんだよ?蓮たん」
「はぁ……どうなっても知らねぇからな」
「ああ、お構いなく♪」
ガラガラ……
「何だか、騒がしくナリそうだナ」
「ああ、大変だよ」
「ま、稔夜のことだ。危険な目には遭わせないさ」
「俺も興味アルナー」
「ん?《狂変乙女》にか?」
「オウヨ!」
「まぁ…プリンスなら、簡単に殺られねぇから、大丈夫か…」
「え、怖い系?」
「ああ。用心しておかないとヤバい系だな」
「ヤダ~、俺怖い系、無理!!」
「知らねぇよ!(笑)つか、プリンス、怖い系…無理なの?」
「ウンウンウン!!」
「なら、やめといた方が良いな」
「良い子にして寝ル!」
「ああ(笑)そうした方が良いな」
「でも、知りたいからまた聞カセロヨ!」
「おう!美味かったぜ、じゃあな!」
「オウ!また、来いヨ!レント!!」
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稔夜のヤツ……
プリンスの前では、俺と普通に会話しやがる……
はぁ……
雲一つ無い、青空──
稔夜が変わってしまった、“アノ日”は……
雨……だったな──
ずぶ濡れのアイツは、今にも崩れ落ちそうなぐらいに、精神的に壊れていた……
そして、俺を睨み付けるや否や《アノ言葉》を発した──
まぁ、もう別人・稔夜にも慣れてきた訳だが……
俺としては……昔の稔夜に、戻って欲しい──
そう思いながら、Barの準備をしに、俺は店へ向かった──




