石嶺詩里
え……
た…た、立花 香里さん!?
「いや、彼女は立花 香里じゃない……石嶺 詩里だ。」
「石嶺……?」
「ああ。立花香里の《生き別れの姉》だ」
生き別れの……お姉さん……?
一瞬だけ、僕には一体、何のことなのか分からなかった。
立花香里には、知らない《過去》がある──
立花香里には、5つ離れた姉が居た。
そう、《狂変乙女》の正体──
それは……石嶺 詩里なのだ──
石嶺 詩里が5歳の頃に、立花 香里が生まれた。
石嶺 詩里(立花 詩里)・立花 香里の母親には姉が居た。
その姉がなかなか子どもを授かることが出来ず、長年の不妊に悩んでいた。
そこで姉は、妹に懇願して詩里を養子に出来ないかと頼んだ。
最初は自分の子どもなんて、姉でも渡したくないと断っていた、妹。
しかし、姉にはもう妊娠出来ない体だと医者に言われて、悔しさや悲しみに暮れている姿を見ているのも、妹として辛く、心苦しいものだった……
本当は、本当は……
自分がお腹を痛めて生んだ子どもだから、自分のこの手で詩里も香里も育てたい──
しかし、最終的には……詩里を姉に養子に出してしまった。
詩里だって、自分からすれば、可愛くて可愛くて仕方のない、大切な我が子──
手放すなんて、考えたことも無かったのに……
姉は妹に泣きながらも感謝し、詩里を養子として、娘として迎え入れた。
あれから、妹は実の我が子である詩里に罪悪感を抱きながら、生きていたに違いない。
それに、詩里のアルバムは姉に渡してしまったから、詩里の存在は形としては、無いことになっている。
そして、立花 香里は一人っ子として、今まで育って来た。
だから、姉の存在すら知らないのである──
「稔夜さん……」
「なんだい?颯斗くん」
「まさか…《狂変乙女》さんにそんな過去があったなんて……」
「人間嫌いの俺でも、驚愕だったな、この事実は」
人間には、実に様々な事実と物語が存在する──
表ではどんな境遇で育ったとか、事情も何もかも分からない。
でも、裏を見れば……真実を知ってしまえば、その人の全てが分かってしまう──
本当に人間って、複雑で分からない生き物だ──
《人は見掛けによらない》って言うし。
本当に人間って、よく見ないと分からない、難しい生き物だ──
だが、しかし……
真実を知った時、全てを受け入れる覚悟を持たなければならない──
それが、どんな結果や真実であっても──
俺もそうだった。
真実を受け入れたく無いと、これは夢だと言い聞かせて、思い込ませても……
“真実は、嘘をつかない”──
そして、いつかは否が応でも、真実を受け入れなくてはならない時が来る──
それが、嬉しい幸せな、喜びへの希望の光だとしても。
それが、苦しくて辛い、絶望へのカウントダウンだとしても──
どんな事実でも、目を背けてはいけない──




