初対面談
夜の渋谷は、一段と不気味だ。
嫌な雰囲気がすごくする。
でも、俺は嫌いじゃない。寧ろ、この不気味な雰囲気が好きなのかも知れない。
だって、“非日常”の世界に足を踏み入れた気がするからだ──
簡単に言えば、自分たちの秘密基地に足を踏み入れるのと一緒さ。
ドキドキ、ワクワクするだろう?
しかし、今日は何だか嫌な空気&嫌な予感がしてならない。
“非日常”は有り難いけど、嫌なことなら願い下げだ。
ゆっくりと、渋谷の街を歩いて行く。
探偵事務所からはさほど離れてはいない。
しかし、街を外れただけで雰囲気がこうも変わるのは、本当に面白い──
散歩がてらに来たは良いが、こうも気持ち悪い気分になったのは初めてかも知れない。
そして俺は、見つけてしまった。
《狂変乙女》とやらを──
なるほど。あれが、《狂変乙女》なのか。
全身黒ずくめの、あの女の子……
俺は取り敢えず、《狂変乙女》の人間観察を始めた。
と、その時
「何やってんだ、お前」
うわ、タイミング悪過ぎ。
これだから、無神経で単細胞は困るよ。
「今、良いとこだから邪魔しないでくれる?」
「あ?良いとこって何処が…」
「良いから黙って!」
俺は、小声で蓮たんの言葉を遮り、《狂変乙女》の行動を見ていた。
直に蓮たんも“あの噂”の《伝説人間》だと、分かったようだ。
しかし、こんな時間に彼女は一体、何をしに夜の渋谷をさまよっているのだろう。
「俺、行ってこようかな」
「はぁ?馬鹿なこと言わないでよ、下手にすると殺されるよ?良いの、蓮たん?」
「俺は早々、簡単には殺られないし、一応、教師だからな…」
「《非常勤》ね」
「うっせ。じゃあな」
そう言って、無神経の単細胞馬鹿は《狂変乙女》に近付いた。
「おい、学生は早く家帰れ…」
うわぁ…
相変わらず、物の言い方が怖いな~と思っていると
「は?私、学生じゃないんですけど」
おお?まさかの反撃&成人なの?
見るからにして、失礼だけど……未成年にしか見えない。
「成人なら、身分証見せろ。」
「え?……これで良い?」
彼女が見せたのは……学生証。
高校生ではないが、大学生らしい。
「大学生だからって、女なんだから気を付けろよ。じゃあな」
蓮たん無事に帰って来……
まさかだとは思った。
流石は《狂変乙女》だ。
初対面の蓮たんにいきなり殺しにかかるなんて。
といっても、寸前で蓮たんに阻止された。
無駄に五感は鋭いからね、蓮たんは。
そして、いよいよ。
俺も華麗に登場させていただきますよ。
やぁやぁ、《狂変乙女》さん──




