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本当に食べたいもの

時計を見ると18時37分。

携帯をチェックするけどLINEもメールも無い。けっこう寝ちゃったな…。


今日は2014年12月24日。

カレンダーは平日だから彼は仕事、おまけに年末で忙しい。

だから二人のクリスマスは祝日の昨日にした。

記念日なんかに使われる星付きフレンチの個室。

最低でも一ヶ月に一度は行くから特に目新しいこともないけど他に行きたいところが思いつかなかった。

いつものように二人では広い個室でサーブしてもらいゆっくりと一皿一皿を堪能した。

プレゼントは二ヶ月前にリクエストしておいた某ブランドの新作バッグ。

まだ日本での取り扱いがなく伊勢丹でポップアップストアが展開されるのを聞いてすかさずおねだりした通な逸品だ。


レストランを出た後はマンダリンオリエンタルホテルへ。

初めてきた時は窓の大きさと夜景の美しさに感動した。

今年は新しいホテルもオープンしたけど今回は特に行ってみたいと思わなかった。いつもなら真っ先にチェックするんだけど…。


私は今年で41歳、彼はもっともっと年上。

それ目的での泊まりではなく、ただ抱き合って眠った。

年の差のせいか彼にとっては私の多少のわがままはとるに足りないらしくわりと聞いてくれる。

食べ物の好みもお酒の好みもぴったりで、私の素の部分を見せられ、どんな相談もできる頼れる相手だ。

問題はかなりの年の差と、二人が愛人とヤ○ザにしか見えない点だ…。とにかく仕事で余裕の無い私を受けとめてくれ金銭的なわがままもかなえてくれ、尊敬できる稀有な存在だ。


朝、仕事の彼を送り出し私はチェックアウトまでゆっくりしてからタクシーで1700円ほどの都内の自分のマンションに帰った。

ソファーに座ったら寝不足でもないのに眠気が襲ってきてまた眠ってしまい夕方になってしまった。

夜ごはんどうしよう…。

あったかいもの食べたいけど今日はクリスマスイブ、ちょうどカップルやグループが街に繰り出している頃だ。冷蔵庫を覗いてみるけどマスタードと柚子胡椒の瓶にベルギーのお土産でもらった高級チョコ、冷えぴたシートにコラーゲンドリンクがあるだけ。

この歳まで結婚もせず都内のマンションに一人暮らしだ、つつましやかに自炊するキャラじゃない。そんなだったらとっくにいわゆる普通の結婚ができてるはずだ。

最近までクリスマスは誰かと過ごす余裕も無いほど働いていたけど一ヶ月前に突然電池が切れたみたいに辞めた。某ラグジュアリーブランドでのジュエリーの販売。売り上げが三本の指に入る店舗の店長でパリへの出張も時々あり端からはそれなりに充実して見られていたと思う。

芸能人や政治家、経営者の顧客を相手に額の大きい商談を決めるのは楽しかったし何よりも美しいジュエリーが大好きだった。でもある日ふと数字を追うあまりに何もかも犠牲にしている自分に気がついてしまった。顧客は皆忙しい人ばかり、彼等の来店に合わせて自分のスケジュールは二の次だ。ワンチャンスを逃せば何百、何千、ときには億単位の損失になりかねない。同時にスタッフのマネジメントもある。会社携帯にはオフィスからのメールにパリオフィスからのメールが入り顧客やスタッフからの電話もしばしばだ。会社携帯を離さず、遊びに行っても電話の通じないところには行かず、いつも数字のことが頭にあった。

そんな生活を続けるうちにプライベートの付き合いはどんどん少なくなくなり出会いも限られていく。特に土日休みの堅実なサラリーマンと付き合うのは不可能に近かかった。スケジュールを合わせるのが大変なだけでなく見た目と生活が派手だと思われ真っ先に嫁候補からは外されることばかりだ。自社ブランドのジュエリーを身に付けるのも話題のスポットにいち早く出かけるのも仕事のうちだ。顧客との接待で高級レストランに行ったりゴルフの相手をしたり、はては暇をもて余した奥様のエステにお供したり…。

売り上げの数字に踊らされ気がつけば40歳を越えていてこんなに消耗しているのに自分自身の中には何も積み重ねられていないと感じた。

結婚し子供が産まれ、スーパーのビニール袋を下げた友達のかさついた肌をみて、あんな風になるならちょっと高いクリームを誰にも文句を言われずに使い、ダイヤは1キャラ以上からダイヤだと言い、チェーン店の居酒屋に行くくらいなら奢るから行きつけのバーに行こうとタクシーをとめる女のままで生きて行こうと心底誓ったはずだった。

今年の41歳の誕生日を過ぎてからだんだんと虚しさが溜まっていくようになり気がつくと辞表を出していたのだ。


ますますお腹空いてきた…。ピザでも取ろうか、いやクリスマスイブに自宅に宅配のお兄さんを迎えるのは避けたい。近くにあるあの拘りの和食屋さんでごはんにしようか、それともお鮨でもつまむか…いやクッションに顔つけて寝てしまってメイクは崩れたしほっぺたにはあとがついてる。今から顔作り直すのも面倒だ。コンビニしかないか…。


コンタクトを入れず眼鏡をかけダウンコートを羽織って外にでる。あ、和食屋さん閉まってる今日はやってないのか、どっちにしても駄目だったか。横断歩道を渡ってコンビニに入る。店内にはクリスマスソングが鳴り響いている。クリスマスケーキも並んでいる。クリスマス仕様っぽいクリームの入りのパンも山盛り売られてる。うわぁお弁当の棚がガラガラだ。タイカレーに五目焼きそば、ミニサイズのオムライス。どれもイマイチだ…おにぎりでも買うか。なんと、おにぎりの棚もさびしい限りだ。チャーシューむすびにたらこマヨネーズ…なんだかキワモノしか残ってない。どうしようかなぁと迷ったがどれも食べる気がしない。もう一軒コンビニいってみるかぁ…。

そう思いながらお店のガラスに映った自分を見て愕然とした。髪の毛をひっつめにし眼鏡をかけた貧乏くさいパサパサのオバサンがそこにいる。

なにっ?これ?私、私年齢のわりにはイケテると完璧思いこんでた!!

これ…掛け値なく超オバサンじゃん!!


かなりショックを受けながら仕方なく外に出て横断歩道で信号が変わるのを待っているとスマホが震えた。彼だ。


「もしもし?」


「さつき?ご飯食べたか?どうせ何も食べてないんだろ?ちょっとだけ時間あいたんだ。おにぎり買ったから一緒に食べるか?今から行くよ」


「…ありがと、ありがと…待ってる」


ごめん、私、あなたより若いからっておごってた…

あなたのほうがずっと忙しいのに忙しいが口癖だった。いつも大切にしてもらってたのにどこかで若い娘と付き合えるんだから多少のわがままは当たり前ぐらいに思ってた。私、見事にオバサンだね。接待続きのあなたにたまには普通のごはん作ってあげるべきだね。仕事を言い訳に仕事しかしないで現実を見てなかったね。。自分も相手も労れなかったね。


間に合うかな…


スマホの画面をタッチする。


「もしもし?今どの辺?お味噌汁作って待ってる…」


この先どうしようか、何をするにしてもずっと保留にしてるプロポーズは受けたほうがいいかな…。






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