似て非なる海人くんたちの話5(こんなのも書けるのか)
爽やか妖怪恋愛射撃(作者も意味がわかってないけど違う)
はっきり言えばホモ回なんで、無理な人は読まなくても大丈夫だったりする。(短編集だしな)
舞台を移して、ここは妖怪町。さまざまな怪異たちが暮らしているのどかな町だ。妖怪や怪異専門の寺子屋がある。狐こと紅 海人はそこへ通っているまだまだ若い九尾の狐である。一話での通り頭が良い、運動神経も抜群で、顔面偏差値もかなり高い。学校にファンクラブができるほどだった。
「キャー!!海人くぅーん!!」
「カッコイイ!!」
「抱いて!!」
等々、女子には大人気。男子からは
「性格悪いしな」
「氏ね!!」
「成仏!!」
と嫌われていた。そんな人気の彼にもライバルがいる。
「こ、こないでぇ!!」
女子にも男子にも人気のある男子、江戸巻 琉奇だ。アホ毛は一匹の蛇、ツインテールに二匹づつ四匹の蛇、腰には尻尾みたいに二匹の蛇と蛇だらけである。顔は女の子のように可愛らしく、若草の髪は短く前髪は中央でクロスしている。桃色の瞳は大きく、笑顔がとても綺麗な子だ。彼はヤマタノオロチという妖怪だ。テストは毎回海人より一点下、運動もあまり変わらないというハイスペックに海人は妬いていた。いつ抜かされるかわからない。それだけを便りに頑張っている。
そんな海人の気づかない。裏のお話。
「ほら、しっかりしろや、そんなんじゃあ相手にもされないぜ?」
赤い髪に、深緑の瞳。黒い猫の耳に二つに別れた尻尾。猫又の少年、茨が琉奇に言う。彼もなかなか格好いい見た目だった。
「む、無理だよぅ…狐くんに話しかけるなんて…」
顔を真っ赤にしてブンブンと顔を振る琉奇、そんな引っ込み思案で臆病な彼に茨は呆れていた。
「…ったく、だからお前は…」
「うぅっ…」
茨が海人を確認する。彼は気づいていないようだった。目の前で泣かれちゃなにも言えない。幼馴染みで自分を見つけてくれる彼は茨にとって大切な人だった。
「よし、教室で作戦会議だ!」
「うん!」
「その元気を行動に使ってくれ…」
アタックが失敗して戻っていく二人。海人は見えていて、聞こえていた。
「またあいつらか…毎回毎回ついてきやがって」
普段は可愛らしい言動で支持を得ている彼の本性がよくわかる。自分のなかでの要注意妖怪二匹が影で待っているのだ。もし、自分の弱味を握られたらたまったもんじゃない。「常にトップでエリートでないと」が死んだ父親の口癖だった。彼も意識して、誰にも弱いところを見せないようにしている。
「早く潰しておかないと…いや、駄目だ。自分の手駒に……」
そう言って教室へ急いだ。「なんでやれないんだよ!?」
「ほら、見た目変だし…すぐ逃げ出しちゃうし…とか…あの……避けられてるから」
「狐に?」
「うん…」
それはおかしいと茨は言っておいた。海人は誰もがわかる好意を無視するような男ではないはずだ。
「やあ、皆おはよう!」
噂をすれば、例の彼の登場である。人懐っこそうで、優しい雰囲気の彼がどうして人を分けるのか茨には意味がわからなかった。
「お、おはよう」
琉奇が初めて言えたあいさつ。海人はあいさつの主をちらりと見てはすぐに目を離した。完全に無視である。その態度は茨をイラつかせた。
「無視かよ…おい」
気にせず海人は自分の席に来た女の子たちと話始めた。
「今度やったらタダじゃ済ませねえ……」
ぼそっと茨が呟いた。海人には聴こえなかったが、彼を恨んでいる男共は「ぶん殴れ!」だの「さすが!俺達のジャンヌダルク!!」など熱い声援を贈る。茨はこの学年で唯一、海人を完全に(物理で)潰せると呼ばれる人材だ。
「別に、ジャンヌダルク関係ねえじゃん」
笑い混じりに茨が言った。しかし、男共の真の英雄は彼ではなく、琉奇なのだ。
「俺達には大天使がついてる!!」
無視をされて呆然と廊下に立っていた琉奇が動き出す。
「姫!わたくしめがお鞄運ばせていただきます」
「王女!今日も美しい!」
「あ!琉奇くん!!今度買い物行かない?」
「駄目よ!!アタシが映画を観に行くの!!」
海人のまわりにいた女子の数人が琉奇の方に行ってしまう。
どうしてあんなやつが……と海人は思う。ますます琉奇を敵視する。やはり、潰すほうが早いとまで考えた。
「はーい!ダメダメ、琉奇は俺と遊ぶんですぅ」
押し寄せる人の間をすり抜けて茨が言った。まるで姫を守る騎士<ナイト>の様だった。
「くだらないな…」
午前の授業が始まった。
放課後になると皆思い思いの場所に行く。小学生のような見た目とは裏腹に、100歳はとうの昔に超えている。妖怪なのだ。海人は回りの友達に誘われてカラオケに行ってしまった。
琉奇は茨と帰る。家が近いので一緒に帰ることが多いのだ。
「寄りたいところがあるんだ~」
そう言った琉奇が向かったのはとある一族が治める都市だった。奥の奥の方に彼らの家がある。寝殿造の和風な邸ともうひとつはいかにも童話のお姫様がいそうな洋風の城だ。城の方に琉奇はためらいなく入った。
「良いのかよ?」
「良いの」
扉が閉まると同時に目の前には赤いお姫様のようなドレスに真っ白なマント、黒い髪を俗に尻尾頭と呼ばれるものにしている女の子がいた。ライオンとトラが混ざったような尻尾と獣耳がついていた。
「琉奇か…面白い話を聞かせてくれるのか?」
尊大な口調で女の子が言う。
「王女が望むのならば」
女の子は両頬をプクーッと膨らませて
「亜妄ちゃんだもん!!」
と訂正した。
「ところで、お主の隣の男はだれ?」
茨のことを言っているようだ。
「亜妄ちゃんのお兄さんのライバルの茨くん」
「海人のか…ハッ!立ち話が長くなってしまったな…レンー!!」
「お呼びですか?」
真後ろから急に女の子と同じ姿に昔の王宮召し使いの服を着た男の子が出てきた。彼女たちは双子のようだった。
「早っ…キモッ…」
「キモいは言ってはいけませんよ。亜妄」
「すまなかった。蓮。」
「許します」
微笑ましい双子の会話に場が和んだ。来ることが事前に伝わっていたらしく、既にお茶の準備がすんでいた。
「双子の兄弟か…」
何気なく茨が言った。亜妄はノンノンと指を振る。
「僕は王女であやつは召し使い。双子の兄弟なんて許さない。この家の主は僕なんだから」
なんと勝手な女の子だろうかと茨は思った。この家はこの世界で一番金を持ち、土地を持ち、権力もある紅の家だ。人間界でも、天上界でも、魔界でも、自分たちの住む妖怪町でも授業で習う一番の貴族。永遠の強さを求める家系だ。海人はこの家の人のはず。目の前の女の子が家の主などおかしい話だ。
「おや…客人がいたのか」
ドアを開けて部屋に顔を出してきたのはマリサだ。相変わらず赤いリボンが中心についた白いマントに青いドレス。下半身は相変わらず魚の尾びれ。人魚のままだ。
「母さま!!」
無論ありえないが、亜妄と蓮の錯覚である。双子は母親を産まれてすぐに亡くし、父親に教えてもらった姿に非常によく似ていたのだ。マリサは琉奇と茨を見る。
「琉奇が海人に関わるなんて珍しい時空ね」
「ご、ごごごご、ごめんなさい」
「謝ることじゃないし、むしろいいことだと思うよ」
私の時には関係なかったから。と彼は小さく呟いた。
「貴方は…?」
「マリサと名乗らせて貰うね。亜妄と蓮の相談役かな」
「母さま~」
亜妄にマリサは微笑んで頭を撫でてあげた。数秒後狼の遠吠えが聞こえた。
「ギンロウだ!!ギンロウだ!!」
「隠れて!!隠れて!!」
亜妄と蓮が焦りながら机の下に身を隠す。
「そろそろ帰らないとな…」
マリサは毎回狼の遠吠えが聞こえると帰ってしまうらしい。
「やだぁ母さま…」
蓮が泣き始めた。狼のことが怖いらしい。亜妄のドレスの袖をギュッと掴んでいる。
「蓮。大丈夫だよ…僕が守ってあげるからね」
亜妄の強さを感じた。守られるのでなく、守れる子なのだ。
「じゃあ、お二人さん。亜妄と蓮をよろしくね」
琉奇と茨に向かってマリサが言った。
「帰らなくてもいいんじゃない?」
不意に扉の向こうから声がした。開けて入ってきたのは海人だった。
「紅じゃないか早かったのね」
マリサはわざとらしく驚く。海人は見るからに不機嫌そうだった。
「皆煩かったから先に上がらしてもらった。」
と理由を教えてくれた。
「どうして、蛇と猫がいるんだ?」
「海人がいない間、話し相手になってもらっていたのだ。問題あるまい」
だから僕の客だ。と亜妄は言う。彼女は知っていた。海人がこの二人のことが嫌いなことを。幼い彼女でもわかるのだ。
「ウォーン」
遠吠えがまたきこえる。さっきよりも近くなっていた。
「狼に伝えてくるよ…今日は残るってね…」
マリサは困ったような嬉しいような顔で部屋を出ていった。
「俺は帰るぜ?琉奇はどうすんだ?」
「僕も…」
帰ろうかと言う前に琉奇の腕を海人は掴んだ。
「……」
無言で琉奇を見つめる。
「帰るね…」
「……」
「離してくれないかな?」
「……」
「あのー…」
「ここでのこと言ったらテメェを殺すかんな」
「わかった。約束ね」
花の綻びるような笑顔で琉奇は答えた。海人の素顔を見れたことがすごく嬉しかったらしい。
他の海人は何をしているのだろうか。
無事に二人は家に帰れたのだろうか。
邸に何人残るのだろうか。
まだまだ続く。
よく考えたら前回百合回だったからいいか。
狐が化けの皮被ってるー!