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第五話

 太陽の光がさんさんとハダルビーチの砂浜に降り注ぐ。ハダルビーチに訪れた人々は雲一つないこの空の下で、至高の時を謳歌(おうか)していた。

 きめ細かい白い砂がどこまでも続くこのビーチは人で溢れかえっている。カップルと、友人と、家族と。遊びに、観光しに。

 キュッキュッと、砂を踏みしめる度になる可愛げな音は、人々の心を和ませる。

 太陽の位置は天頂までもう数時間。気温はぐんぐんと上がり、海へ飛び込む人の数は気温上昇とともにどんどん増える。

 それに混ざるように、二人の女性がハダルビーチへと来ていた。

 一人はお色気ホルモンを辺りに撒き散らし、男という男を悩殺するパーフェクトボディを持つ絶世の美女。もう一人は誰もが将来有望と確信する、そんな容姿を持つ絶世の美少女――人によっては美幼女――。

 彼女らの名はヒルダとイザベラ。

 二日前にイザベラの一言で急遽ハダルビーチ行きが決まったため、急いで水着を買い揃えた。そして本日、近場のここ――ハダルビーチへ遊びに来たのだ。

「うんー……はぁ~……。気っ持ちいですね、イザベラちゃん!」

 ヒルダはまたもや露出過多な、スリングショットビキニを着ていた。生地の下から押し上げるのは、これでどうだと言わんばかりに自己主張するバスト。ひょうたんのようにきゅっと締まるウエスト。生地からはみ出さんばかりに溢れるヒップ。

 独りはもちろん、妻や彼女がいる男たちの視線すらヒルダの身体に集中した。

「……うん、けど……複雑なの……」

 ヒルダの隣にいるイザベラは心中複雑だった。

 ヒルダとはさほど年齢が違わないはずなのに、自分の身体はいつまでたっても子供のまま。自分もヒルダのようなグラマラスなボディで、周りからの注目を浴びたいと思い続けている。毎日泥沼にはまるような思考に陥るイザベラだが、子供姿からの脱却は一生かかっても叶わない。イザベラの現実は非常に悲しきものなのだ。

 ただし、イザベラの容姿もそうだが、普段の行動や言動からも子供らしさが見られるのは、本人には知り得ぬところだろう。

 因みにイザベラが着ている水着は、フリルが付いたワンピースタイプだ。

「さて、どの辺りにパラソルを建てましょうか」

「……あっちの方なんか良さそうなの」

 イザベラとヒルダの共同作業により、パラソルはあっという間に組み上がる。

 人で溢れかえる中、イザベラとヒルダは入念に準備運動をこなした。万が一にでも海中で足がつったりしたならば、英雄と呼ばれる二人であっても危険に変わりないだろう。

「……では、行きましょうか、イザベラちゃん」

「……水上歩行なのー」

 準備運動を終えた二人は、自分たちのパラソルを中心に結界を張り、波が立つ海へと駆けて行った。



◇◇◇



「少し休憩しましょうか」

「……そろそろご飯にしたいの」

「そうですね。時間も時間ですし、お昼ごはんにしましょう」

 時刻はお昼すぎ。大抵の人は海水浴を中断して昼食に入る時間帯だ。

 それはイザベラとヒルダも同様だ。遊び疲れたことと、お腹が減ってきたことがちょうど重なり、休憩がてら昼食を取ることにした。

 ハダルビーチには幾つもの食事処がある。店外にもパラソル付きのテーブルが並び、ハダルビーチへ訪れる多くのお客さんたちに対応している。

 この長いハダルビーチに並ぶ店舗すべてを見て回ることは出来ないので、二人は今いるこの場所から比較的近い場所にしようと相談する。それは自然な流れだったが、長年付き合っていても、互いの意見をしっかり聞くのは大事なことだろう。

 二人の現在地からは数店舗のお店が見える。あまり重い食べ物は午後の海水浴に響く。軽い料理でも、しっかりとエネルギー補給出来る食べ物が理想だ。

 そんな相談中の二人の背後から、不意に幼い子の声があがる。

「あ――っ! この前のお姉ちゃん!」

 聞き覚えのある声に二人は振り返る。するとそこにいたのは、二日前に一人迷子になっていたところを、二人が助けた幼い男の子――レグルスだった。

 二人の元へ駆けてくるレグルスの背後には、母親と父親と思わしき男性。そしてレグルスの姉と思われる六歳ほどの少女がいた。

「あらぁ、二日ぶりですね、レグルスくん。あれから迷子にはなってませんか?」

「もうならないよ!」

「……レーくんやっほーなの」

「やっほー!」

 レグルスは変わらず元気だった。これだけ混んだ場所にレグルスがいると、二人はどうしても二日前の出来事を思い出してしまう。だが今は目の前に両親もいる。前回の事もあって、より息子を注視していることだろう、と二人は考えた。

「ヒルダ様、イザベラ様。先日は息子がお世話になりました。改めてお礼を言わせてください。ありがとうございました」

「お気になさらないでください。困っている子供を助けるのは、大人として当然の義務ですから」

 レグルスの母親であるアトリアは、再度ヒルダたちに礼を言う。平和な街であろうとも、幼い子が一人で迷子という事実に、親として非常に心配していたのだろう。レグルスを見つけたヒルダたちには、感謝してもし足りない心情に違いない。

「私からも礼を言わせてください。レグルスを見つけてくれてありがとうございました」

 背の高いがっしりとした体躯の男性――レグルスの父親であるアンタレスも、レグルスを見つけてくれた二人に感謝を述べる。

「弟がお世話になりました」

 続いて姉のシャウラも礼を続ける。ヒルダはよく躾けられてる子だと思った。

 改まってこの家族を見ると、容姿がとてもいい。ヒルダたちがこの場にいなければ、ここにいる多くの人の視線は、この家族に集まるに違いない。

「お二人は今から昼食ですか?」

 アトリアは先程までのヒルダとイザベラの行動を思い出して聞いてきたのだろう。

 店舗が並ぶ前でそれぞれの店を見比べてキョロキョロしていれば、誰でも昼食を食べる店に迷っているのが分かる。

「はい、これから二人で食べようと思っていたところです」

「だったらお姉ちゃんたちも一緒に食べようよー!」

「息子も言うように、お昼、ご一緒にいかがですか? ちゃんとしたお礼も兼ねて、私たちがお昼はごちそうしますので」

「お礼って……そんな、大したことをしたつもりでは」

「……ヒルヒル、ここは素直に受け取っておくのが一番なの。……なのでお昼、ごちそうになりますの」

「……そう、ですね。ではお言葉に甘えて、ごちそうになります」

 二人はレグルスたちと一緒に昼食を取ることになり、六人会話を弾ませながら目の前の店へと入っていく。

 そして彼女たちの後ろからは、イザベラとヒルダにとって見覚えのある影が、静かに付いて来ていた。


 読んで下さりありがとうございました。

 出来れば一話ごとに作品評価や感想をしてくださると嬉しいです。次作に向けて、作者はどこがダメなのか、読者はこれを読んでどう感じたのかなど、文章作成スキルを上げるためにも評価してもらいたいと思ってます。よろしくお願いします。

 第六話は明日の十二時に投稿予定です。

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